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育児で日光浴は必要か? これについて誤解が広まっている。特に、5月5日のフジテレビの番組がそうだ。
「育児で祖父母が協力しているが、育児疲れをする」というような趣旨の番組が放映された。そのなかで、次のような話がなされた。
《 フジテレビ【とくダネ!】育自の常識変化に祖父母困惑 》
保育園不足で両親が仕事。面倒をみるのは祖父母。孫疲れの日々を送る祖父母たち。子育て世代間ギャップの検証。
さいたま市祖父母手帳によると、昔は日光浴をしないとビタミンD欠乏症になると言われていた。現在では紫外線量が増えたため、日光浴ではなく外気浴を勧めているという。
( → JCCテレビすべて )
「育児で日光浴は有害だ。日光浴をさせるな。昔と今では常識が異なる」
という話だ。
これを聞いて、私は「馬鹿な。日光浴をしないと、くる病になるぞ」と思った。
そこで、さっそく反論を書こうかと思ったのだが、思い直した。
「こんなことは、私がいちいち書くまでもない。医学的な常識だから、すでに指摘してされているはずだ」
こう思ったので、ネットで調べてみることにした。その結果を示す。
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まず、番組の一部を示そう。 日光浴でなく、単に外に出て風を浴びるぐらいの「外気浴」で十分だ、という。
俺ら世代的には日光浴!だが、昨今は外気浴らしいね。#子育て#子育て今昔 pic.twitter.com/U0K5dQ15c9
— はるまみ@原さち穂_風姿花伝0726〜 (@Harumami39) 2016年5月4日
さらに詳しい情報もある。( : この箇所、加筆した。)
日光浴をさせるのは一見体に良さそうに思えるが、さいたま市の祖父母手帳によると、強い日差しは避けた方が良いとの記載が。
近年、紫外線の量が増えたため、子供が幼いうちは直射日光をガンガン浴びる日光浴よりも、外の空気に当てる程度の「外気浴」が好ましいという。
( → Gunosy の番組紹介 )
さいたま市・祖父母手帳(PDF)については、PDF から画像を一部抜粋しよう。
昔 今

以上が実態だ。
次に、厚労省の見解を示そう。
かつて母子手帳には、ビタミンDを生成するために赤ちゃんの日光浴を積極的にすすめる項目がありました。しかし今では紫外線の害のほうが心配なので、その項目はなくなりました。
外遊びをすることが子どもさんには良い鍛錬ですが、できるだけ紫外線を避ける工夫が必要です。
( → 「子どもと紫外線」〜厚生労働省 紫外線保健指導マニュアルを中心に )
妊産婦の健康や乳幼児の発育に必要な情報が掲載された「母子健康手帳」。1998年に、母子健康手帳から「日光浴」の必要性に関する記述が消えたのをご存知だろうか。
以前は、赤ちゃんの健康のために日光浴が必要であると考えられていたが、紫外線の問題のほうが深刻であるため、直射日光に当てるのではなく、外気浴のみで十分であるという考え方に変わってきたのだ。
( → 「日光浴=健康」神話はもう古い! )
母子手帳から「日光浴」の項目が消えたのって知ってる?というアンケートを行いましたが、「もちろん知ってる」という方が約3割。4割以上の方が「知らないし、理由もわからない」というお答えでした。
以前は赤ちゃんの健康のためにも必要だとされていた日光浴ですが、母子手帳から、1998年「日光浴」をすすめる記述が消えました。
そもそも日光浴が健康にいいとされてきた理由は、ビタミンDの不足によって骨の病気のひとつであるクル病の発生を懸念してのこと。紫外線は体の中でビタミンDをつくるのを助ける働きがあるために、日光浴がすすめられてきたわけです。
ただし、最近では食生活から必要なビタミンDを摂取することができますし、1日に必要なビタミンDを作るためには、1日15分間紫外線を浴びれば十分とされています。
逆に紫外線による悪影響の方が心配であるということがわかってきました。
( → 赤ちゃんを「紫外線」から守ろう! [乳児育児] All About )
昭和の子育てにおいては、日光浴が欠かせなかったのです。
しかし、その後の医学研究により、晴れた日には日なたで15分程度、日陰で30分程度、服を着たままでも、顔や手足に日光が当たれば、血液中にビタミンDを形成するのに十分とわかってきました。
( → むかしはね! いまはね! どうする? 子育てギャップ )
しかし、以上の話(日光浴が不要だという話)を読めば、科学的にはおかしいことにすぐに気づくはずだ。なぜなら、ここには「季節の差」が考慮されていないからだ。
なるほど、夏の直射日光を浴びるのは皮膚に良くないだろう。一方、冬の直射日光を浴びるのは、有害であるどころか、有益であるはずだ。ビタミンDの形成を促すからだ。(大人だって冬季には日光浴が必要だ。さもないと健康を害する。)
このことを知るには、「北欧では夏に裸で日光浴をする」という風習を理解するといい。
→ 北欧の人々が夏を楽しみまくる理由
→ 北欧人から日光浴のススメ! 紫外線を極端に避けるのはNG
これらの記事では、公園で日光浴をする北欧人の姿が描写されている。裸の画像つき。(裸といっても、水着姿だが。)
北欧と日本では、緯度の違いがあるが、その差はどうか?
東京の緯度は、ほぼ 35度。
地軸の傾きは、23.4度。夏と冬の最大差は、その2倍で、47度。
東京よりも 47度も北の場所は、北緯 82度だが、これはもはや北極圏に近い。(北緯 65度ぐらいの北欧よりもずっと北だ。)
つまり、北緯 82度の北極圏が夏である状態と、北緯35度の東京が冬である状態は、どちらも太陽の強さが同じだ。東京の冬における状態は、それほどにも太陽の強さが弱いのだ。(このことは実感されるはずだ。冬至のころの太陽は、位置がとても低くて、光も弱々しい。)
結局、冬季ならば、太陽はとても弱い。夏の北極圏と同程度に弱い。それほどにも太陽が弱いのに、「紫外線による皮膚癌が怖いから、太陽光を浴びない」というのは、明らかにおかしい。これは「あつものに懲りてなますを吹く」という たとえが、ぴったりだ。(間抜けすぎる。)
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以上が私の判断だ。とはいえ、これをいちいち私が指摘するまでもない、と思った。そこで、ネットを調べると、次の記述が見つかった。(日光浴をしないせいで、ビタミンD不足となり、くる病が多発している、という趣旨。)
過去の病気と思われてきた乳幼児の「くる病」が最近、増えています。原因はビタミンDの不足。背景には、アレルギーなどによる食事の偏りや日光浴不足など、現代的な子育て事情があるといいます。乳幼児の「くる病」の発見法や予防法とあわせてお伝えします。
( → 2013年 10月17日(木)|クローズアップ現代|NHK )
日光を浴びずに母乳栄養での育児を続けた影響からか、乳幼児がビタミンD欠乏性くる病になる事例が報告されている。小児科医らは「子供の成長には日光は不可欠。妊娠期から適度な日光浴とバランスの良い食事を取ってほしい」と呼び掛けている。
( → 外遊び減り、乳幼児にビタミンD欠乏性くる病 - 産経ニュース )
乳幼児に潜在的なビタミンD欠乏症が増えているという。ビタミンD欠乏症といえば、貧しかった時代の病気で、骨の変形や成長不全を起こす「くる病」だ。
「表面的には栄養がよいので分からないが、今の赤ちゃんはビタミンD欠乏症になる境目にいる子が多い。全乳幼児の3割ぐらいがそういう子ではないか」と岡山大大学院の田中弘之・助教授(小児科)は指摘する。
( → 増えるビタミンD欠乏症 )
くる病の原因が「ビタミンDの不足」である事からわかるように、現代ではビタミンD不足の子どもが多くなっているのです。
関東地方の健康な子どもの血中ビタミンD濃度を調べた結果、およそ4割の子どもがビタミンD不足であるというデータも出ています。では何故近年になってビタミンD不足の子どもが増加しているのか? 原因は大きくわけて3つ考えられます。
ビタミンDは食べ物から摂取する以外にも、太陽光に当たることで、体内で作られる事がわかっています。
しかし、最近では“紫外線は肌に悪影響”というイメージが強くなっているため、太陽の下で遊ばせる事を控えたり、子どもにも日焼け止めクリームをしっかり塗ったりというママが多くなっています。日焼け止めクリームを塗っているとビタミンDが生成されないので、知らず知らずのうちに子ども達は日光浴不足になっているのです。
( → 日光浴不足が原因?増える子どもの「くる病」に要注意! )
じいじばあばが「少しは日光浴をさせないと、子どもが元気に育たないから」と言って、室内の日当たりのよい場所で遊ばせようとするかもしれません。
「日光浴なんて、もう時代遅れ!」と言って、あわてて赤ちゃんを日陰に移動させようとするパパママ。
でも、じいじばあばの主張が必ずしも時代遅れとは言えない状況になっていることをご存じでしょうか……。
過去の病気と思われていた「くる病」が、20年ほど前から再び増えてきているのです。その原因となっているのが「完全母乳育児」、「アレルギー除去」、「赤ちゃんへのUV対策(日光浴不足)」。
( → むかしはね! いまはね! どうする? 子育てギャップ )
こういうふうに、日光浴不足のせいで、くる病が多発している。とすれば、少なくとも冬季には、日光浴をした方がいい。また、春と秋も同様だ。日光が強くない限りは、日光浴をした方がいいのだ。
( ※ 番組の家族の例では、日光の傾きはかなり斜めだったので、日光は強くないと推定される。冒頭のツイッター画像を参照。)
テレビは間違った情報を流すべきではあるまい。また、厚労省は、間違った情報で指導するべきではあるまい。さっさと訂正するべきだ。
これは「トンデモか」とも思ったが、トンデモよりもひどい。トンデモは、一部の変人が、世の中の隅の方で語るだけだ。その悪影響を受ける人は、世の中の一部に限られる。一方、厚労省が間違った方針を取れば、それは公式見解となり、世の中の大多数に影響を及ぼす。そして、正しい意見(日光浴は必要だという意見)は、異端の説として指弾される。つまり、正しい意見の方が、「公的見解に反するトンデモだ」と指弾されることになる。
( ※ トンデモマニアの主張に従えば、そうなる。トンデモマニアは、「公的見解が正しく、異端の見解は間違いだ」という発想なのだから、ここでも、間違った意見が是認され、科学的に正しい意見はトンデモ扱いされる。)
ともあれ、現状は、こういう滅茶苦茶な状態にある。留意しよう。
[ 付記1 ]
どうして厚労省は、こういう馬鹿げた方針を取るようになったのか? その計は、下記ページに記されている。
→ 子供のくる病が急増、その原因が母子健康手帳の改訂にあった!?
一部抜粋しよう。
こうしたビタミンD欠乏はどうして引き起こされたのか? 実は大雑把で、結論ありきの霞ヶ関のある委員会での議論にその始まりを見ることができる。
当時の母子保健部会の議論では、「一般的な日常生活、これはおよそ常識的な線があると思うが、赤ちゃんを真っ裸にして直接日光にさらすとか、朝から晩まで裸で外で遊ばせるとか、そういうことがなければ大きな問題を生まないのではないか」「コーカシアンと違って、皮膚がんの発生率が黄色人種において最近になってどのくらい増えたかどうか、はっきりとしたデータが欲しい」「皮膚科の議論は遺伝的な劣勢の遺伝子を持っている人たちのリスクが高い。そういうのを除けば、ほとんど問題にならないと考えられる」と参加した委員からの指摘が相次いだ。
会議の最後、厚労省サイドは、「母子健康手帳の改正の分については、一部事務局といいますか、厚生省に宿題を残させていただいてしまいましたけれども、基本的には原案どおり改正していくという方向で、この部会の御了承をいただいたということにさせていただきます。どうも長い間ありがとうございました」と強引に原案通りの改正で押し切った。
この会議でも厚労省が用意した資料となった『子どもの皮膚と太陽光線』(DHC、1996年4月出版)の著者 市橋正光氏は、当時神戸大学の教授であり日本皮膚科学会などで絶大な影響力を持っていた。また資生堂の元学術部長の佐藤悦久氏も『紫外線が私たちを狙っている』を1999年に出版した。
この会議と前後して、資生堂、ピジョン、花王、カネボウなどのメーカーが次々と乳幼児向け日焼け止めクリーム、UV化粧品などを発売している。
なぜ厚労省は結論を急いだのか? 今となってはわからぬままだが、……(略)
「なぜかはわからぬ」と書くが、すぐ上の話を読めば、自分でもわかるはずだ。ちなみに、ググってみる。
→ 市橋正光 資生堂 - Google 検索
1番目の検索結果は、これ。
→ 市橋 院長 ドクターのコラム
一部抜粋しよう。
私が医者になった頃は、美容というのは皮膚科の病気じゃないから、やってはいけない、と指導者から言われました。皮膚科の教科書にも一切、美容に関する内容は載っていない。美容というのは、化粧品会社に任せる。こんな具合だったのですが、それが大きく変わってきました。
その引き金となったのが1972年に資生堂が、日本で初めてアメリカやヨーロッパの学者や、日本のその頃光生物学をやっていた学者や皮膚科医師を集めて開催した「光と人間」という国際シンポジウムなんです。その時に初めて、紫外線というものはこんなに悪いんですよ、紫外線を浴びれば癌になるんですよ、ということが訴えられた。しかし日本の皮膚科医師の間では、それは白人だから皮膚がんになるのであってメラニン色素が多い日本人は紫外線で皮膚癌になることはほとんどないと言う意見が圧倒的に多かったんですが。でもだんだんね、日本人も寿命が延びてきて、87歳とか90歳まで延びてくると、癌になる人がどんどん増えてくるんですよ。
ここでは、皮膚科医と化粧品会社との親密な関係が窺われる。そして、その根拠は、次のことだ。
・ 肌の美容がとても大切だ。
・ そのためには紫外線は有害だ。癌にもなる。
・ 特に 90歳ぐらいの老人だと、癌になる人が増える。
これを理由として、赤ん坊に対して、「紫外線は危険」というキャンペーンがなされたのだ。赤ん坊には「皮膚の美容対策」および「老人の癌予防」という方針は、まったくお門違いなのだが。
比喩的に言えば、皺ができる中年女性や高齢者のための「皺取り薬」という薬品を、赤ん坊に無理やり塗りたくるようなものだ。百害あって一利なし。(ただし、赤ん坊にとってはそうだが、化粧品会社にとっては、一利なしどころか、暴利だらけかもしれない。)
こういう倒錯が、厚労省によってなされたのだ。(癒着のせいですかね。)
[ 付記2 ]
日光浴が不足すると、ビタミンDの不足で、くる病になる。
くる病というのは、致命的ではないが、正常な成長を妨げるので、永続的かつ不可逆的な異常を子供にもたらす。骨の形成がまともにできなくなるのだ。
具体的には、重度の O脚、X脚 や、鳩胸や、せむし など。
詳しい話を知りたければ、Wikipedia を見たり、ググったりするといい。ただし、気持ちのいい話ではないので、調べても仕方ない、という気がする。有益な情報が得られるわけではない。
むしろ、「日光浴は大切だ」という正しい情報だけを理解しておけばいい。
今日の教訓。
「子供を せむし にしたくなければ、日光浴させよう」
ま、それほどひどくはないとしても、O脚や X脚 という症例はかなり多いようだ。
( ※ ついでだが、昔と違って近年は、腰の曲がったおばあさんが、めっきり少なくなった。栄養状態の改善があったからだろう。 → 参考記事 )
それにしても、資生堂のせいで、くる病になって、「しせいはどう?」という問題が発生するわけだ。しせいどう。
【 追記 】
重要な情報を得たので、記す。
日本では発生数が増加傾向である。背景として紫外線による皮膚癌発症のリスク低減や美容を目的として、過度に紫外線を避ける生活習慣が広まった事が指摘されている。つまり、妊婦がビタミンD欠乏症であると、胎児にも欠乏症が起きる。
( → くる病 - Wikipedia )
くる病になる原因は、赤ん坊の日光浴不足だけではない。妊婦の日光浴不足もだ。これは大切なことなので、理解しておこう。
特に、熊本の被災者(妊婦)は、避難所の奥に閉じこもっていると、日光浴不足になるので、くる病になりやすい。自分が、ではなく、赤ん坊が。……だから、避難所にいる妊婦は、なるべく日光浴しよう。(夏は別だが。)
※ 顔は日光浴する必要はありません。足だけでも十分。
タイムスタンプは 下記 ↓