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三菱自動車が燃費を偽装した。(各社報道)
株価も暴落した。860円から、733円の終値へ。(20日)
→ 三菱自動車が燃費試験で不正行為発覚 燃費数値を偽装
21日はストップ安で値が付かず。 583円の限度で、売買成立せず。
→ 三菱自株「ストップ安」 前日より150円安い583円
→ 三菱自動車(株):株価 - Yahoo!ファイナンス
さらにストップ安が続くかもしれない。このまま倒産するかもしれない。
そもそも、デタラメ経営はひどい。前回の事件もあった。
→ 三菱リコール隠し
あまりにもひどいので、企業としての存在価値がない、と言えそうだ。だったら倒産させるべきかもしれない。いったん倒産させてから、日産自動車あたりに買収してもらえばいいかもしれない。……と思った。(第一印象。)
しかし、調べると、そう単純でもないとわかった。
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実は、三菱自動車というのは、日本の他の自動車メーカーとは大幅に違う。富士通と同様で、日本よりも海外での販売比率が圧倒的に高い。また、中国ではエンジン供給で多大な生産をしている。その一方で、国内における軽自動車販売の比率は、会社全体ではかなり小さい。……そういう話が、下記にある。
→ 販売不振の三菱自動車はなぜ潰れない?
また、今回の偽装は、日本の燃費基準における偽装だが、同じことを海外でやっていたかどうかは判明していない。海外でやっていなかったとしたら、海外での影響は限定的だろう。その点では、フォルクスワーゲンの偽装が全世界的だった(1100万台になった)のとは違うようだ。(たぶん)
とすれば、このまま株価が暴落して、ゼロ寸前にまでなる……ということは考えられない。22日あたりに、半値ぐらいで値が付くかもしれない。半値ぐらいなら買ってもいいかも。
過去の不正への巨額の補償をしても、将来的には回復可能だろう。株価が紙屑になるということはあるまい。(シャープよりはずっとマシだろう。)
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ちなみに、フォルクスワーゲンは、かなり厳しい状況にある。
《 VW、不正車50万台を買い戻しへ 米当局と合意 》
ロイター通信は20日、同社が不正車を買い戻すことで米国の環境当局と大筋で合意したと伝えた。21日にも公表されるという。
報道によると、買い戻しの対象車は排気量2リットルの不正ディーゼル車で、計50万台程度になる見込み。同じく不正が明らかになった排気量3リットルの車は買い取りの対象に含まれない。
( → 朝日新聞 2016-04-21 )
《 VWが補償金支払い合意か 米顧客に55万円 》
ドイツ紙ウェルト(電子版)は20日、自動車大手フォルクスワーゲン(VW)の排ガス規制逃れ問題を巡って不正車両を所有する米顧客に対し、それぞれ5000ドル(約55万円)の補償金を支払うことで米当局と合意したもようだと報じた。
ただ、米国で手厚い補償金の支払いなどを提示した場合、世界の不正車両最大1100万台のうち約850万台を占める欧州でも顧客が同様の補償を求めるのは必至。欧州でのリコール(無料の回収・修理)などに伴う巨額費用の計上で財務基盤が悪化したVWは、補償金の支出などで経営が一段と圧迫されそうだ。
( → 日刊スポーツ )
これほどひどいのに、フォルクスワーゲンの株価は、偽装発覚前の7割ぐらいの水準を保っている。たったの3割しか下がっていない。株価収益率も、かなり高い。つまり、現在の利益に対して、将来はずっと成長が望めると見込まれている。不思議だ。将来の負担を考えたら、株価収益率は大幅に低くなるのが常識なのだが。
とにかく、フォルクスワーゲンの株価は、(事件を考えると)異常に高い水準にある。事件の影響はたいしてない、と言える。ドイツの株式投資家というのは、何を考えているのか、よくわからん。もしかしたら、「つぶすには巨大すぎる」「あまりにも巨大すぎてつぶせない」ということなのかも。政府が補助してくれるだろう、とでも見込んでいるのかな?
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より根源的に考えよう。そもそも今回の偽装は、どういうふうに起こったか?
《 タイヤの「走行抵抗値」、不正に操作し審査通過 》
自動車会社は新車発売前、ガソリン1リットルあたりの走行距離にあたる燃費について、国土交通省の外郭団体「自動車技術総合機構」の審査を受ける必要がある。審査に基づいて国交省が認定し、メーカーはカタログに燃費の数字を記載して販売できるようになる。
測定の際は公道で車を走らせるのではなく、施設内の測定装置に車を固定し、エンジンを動かしたり、タイヤを回転させたりして、燃費を算出する。自動車が走る際、重量などに応じてタイヤに抵抗がかかる。この状況を表す「走行抵抗値」は、自動車メーカーがあらかじめ提出する。三菱自動車は今回、これを不正に操作し審査を通過した。通常、国交省は機構の審査結果を追認するため、結果的に不正を見抜けなかった。
( → 読売新聞 2016-04-21 )
紙の新聞の朝刊には、もっと詳しいことが書いてあるが、ネット上でも、上の記事が読める。
さらに詳しくは、次の記事もある。
《 不正は燃費性能を求めるための走行抵抗値を甘くする操作 》
燃費は台車の上に試験車両を乗せて走らせる台上試験で求める。その燃費に大きな影響を与えるのが走行抵抗だ。空気抵抗とタイヤなどの転がり抵抗をもとに走行抵抗を提出するのは、メーカーの責任で行われている。国内では惰行法を用いなければならないが、同社は2002年以降高速惰行法を用いることが多かった。高速惰行法の試験時間は惰行法より短く、燃費に与える数値は有利になる。さらに、高速惰行法で求めた走行抵抗も中央値ではなく、より有利な値を国土交通省に報告していた疑いがある。
( → レスポンス(Response.jp) )
また、非常にややこしいことに、「走行抵抗」の測定方法自体も、「高速惰行法」という米国向けの手法が採られていたことが今回明らかになった。国内向けでは「惰行法」という別の方法で走行抵抗を測定することになっているので、この行為自体が法令違反となる。
( → 日経ビジネスオンライン )
こうして見ると、問題の根源は、三菱が悪さをなしたというより、自主申告をそのまま信じる(別途チェックしない)という国の体制に問題があった、とわかる。
本来ならば、このような性善説を採るべきではなかった。その申告が正しいかどうかをチェックする制度が必要だった。なのに、その制度がなかった。ここに根本的な問題がある。
もちろん、メーカーの提出するすべての車種・モデルについて、漏れなくチェックすることは現実的ではない。それでも、抜き出しふうに、車種ごとに1〜2モデルぐらいは、抜き取りチェックをするべきだろう。その時期は、発売前でもいいし、発売後でもいい。いずれにしても、国がチェックして、そのチェックをパスしなかった場合には「販売停止」処分を下すべきだ。(販売許可の取り消し、という形。)
では、国にはチェックする能力はあるか? ある。今は一般財団法人になったが、もともとは経産省所管の財団法人であった日本自動車研究所がある。下記にテストコースの説明がある。
→ テストコース紹介|日本自動車研究所
ここで燃費の実測ぐらいは簡単にできるはずだ。
要するに、国がちゃんとテストしていれば、三菱の問題も起こらなかったのだが、国がいい加減なことをしているから、こういう問題が起こってしまう、というわけ。
やたらと「規制緩和」を唱える人が多いが、ろくに規制もチェックもしないと、悪党がのさばる結果となり、そのあとで、一挙に崩壊する……という悲惨な結果になるわけだ。
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なお、本項の話題は、「時事的な犯罪の話題」というよりは、「安全対策の見逃し」という観点からとらえる方がいい。たまたま燃費という経済上の損得が話題になっているが、現実には、「安全対策の手抜き」というのと同根だ。
三菱みたいな体制の会社では、コスト削減のために安全対策を手抜きすることも容易に起こると思える。安全対策というのは、普段は目には見えず、いざというときになってはっきりするものだからだ。
コスト重視と安全の手抜きは、裏腹の関係にある。今回はたまたま「偽装」という形になったが、安全の手抜きに類する企業体質だ、と言えるだろう。
その意味では、ただの詐欺事件よりは、スキーバス事故などと同類の問題だ。あれもコスト重視のせいで、安全が手抜きされて、結果的には大事故になった。企業体質としては、同根だろう。
[ 付記 ]
上で紹介したテストコースは、別のところから移転した。前身は、谷田部のテストコースだ。
中高年の自動車マニアなら覚えているだろうが、昔は自動車の高速テストというと、谷田部のテストコースを使ったものだ。1965年にニッサンR380(プリンスR380)が、1966年にトヨタ2000GTが、国際記録を打ち立てたことで名高い。
このテストコースが廃止されて、かわりに、現在地に新コースが作られた。
なお、谷田部のテストコースは、北半分は開発されて都市部になってしまったが、南半分は今も跡地として残っている。
それを訪れた人の探訪記もある。
→ 谷田部自動車高速試験場〜兵どもが夢の跡
……というような話は、自動車マニアには楽しい話題。
本文よりも、[ 付記 ] の方が面白かったりして。 (^^);