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初めは「本震と余震」だと思われたのだが、第二波は第一波の 16倍も規模が大きいので、「本震と余震」でなく、「前震と本震」というふうに認識が改められた。
→ 気象庁「熊本地震は『前震』 今回が本震か」 | NHKニュース
しかし、この認識は妥当ではない、と私は思う。なぜなら、この二つの地震は、直列でなく並列であるからだ。(親子でなく兄弟であるからだ。)
「本震・余震」または「前震・本震」というのは、同じ断層でズレが発生した場合の話だ。
「前震・本震」は、特に顕著で、同じ断層で微小なズレが発生したあとで、そのまま継続的に少しずつズレが続いて、あるとき突発的に、最大のズレが生じる。これが本震だ。
「本震・余震」は、それほど極端ではなくて、断層のズレが大規模に発生したあとで、その隣のあたりで小規模のズレが発生することだ。
今回はどうだったか? 震源の断層は、同じ断層ではなく、別の断層だった。
今回の地震は、おとといの地震でずれ動いたとみられる日奈久断層帯ではなく、その北東側に当たる布田川断層帯付近で発生した地震とみられる。今回の地震の規模は、おとといの熊本地震より極めて大きく、この地震がむしろ本震だと考えたほうがよい。
( → 専門家「誘発された地震 規模大きくむしろ本震か」 )
さらに、その後、震源は東にどんどん移動しているのだ。大幅な距離で。
→ 「震源、じわじわと東に」 別の活断層に影響の可能性
→ 地震の震源が東に移動か?熊本県「阿蘇地方」で震度5強が発生
→ 14日夜の震度7は「前震だった」 本震・余震との違いは?
いずれも画像があるが、特に3番目(すぐ上)のリンクでは、震源が大幅に東に移動しつつあることがわかる。
このことから、さらに東に移動して、中国地方でも地震が起こる可能性がありそうだ。
→ 震源域が移動 地震の連鎖懸念 - Yahoo!ニュース
→ 熊本地震は16日が最大だった 今後のために知っておくべき「前震・本震・余震」
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以上のことからして、このシリーズふうの地震は、「連発地震」というふうに認識するのが妥当だろう。玉突き状に、次から次へと、別々の地震が起こるわけだ。それは決して、「前震と本震」または「本震と余震」というような直列的な関係ではない。玉突き状に起こる並列的な関係なのだ。
そういうふうに認識するべきだろう。
「連発地震」と認識すれば、これらの地震はいずれも「本震」であったことになる。規模の大小はあっても、いずれも「本震」なのだ。
したがって、「本震・余震」という発想は不適切だろう。このような認識では、「大きな地震のあとには小さな地震が来るだけだ」と思い込む。そのせいで、次に来る大型地震を見失う。これは危険な認識だ。(そのせいで、今回の第二波ではかなりの死者が生じた。油断のせいで。)
また、「前震・本震」という認識も不適切だろう。この認識では、第二波のあとでは第三波は余震しか起こらないことになる。しかし、第三波がさらに大規模な地震であることもありそうなのだ。特に、離れた場所で第三波が起こる可能性もある。今回の震源よりも東の方で、大規模な第三波が起こる可能性はある。とすれば、注意を怠らないためにも、「前震・本震」という認識を捨てて、「連発地震」という認識をするべきなのだ。
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なお、「連発地震」という用語はないらしい。それというのも、今回のように連発する地震はこれまでなかったからだ、という話だ。
名古屋大の鷺谷威(さぎやたけし)教授(地殻変動学)は「今回のように、地震活動が飛び火して急激に拡大していく事態は、日本中の専門家にとっても未経験だ。本震、前震という通常の概念を定義として超えている」と話す。
( → 不意打ちの「本震」 別断層を刺激 玉突き地震:東京新聞 )
しかし、「これまで連発地震がなかった」というのは、専門家の不勉強だろう。連発地震は、過去にもあったのだ。それは、幕末の地震(安政の大地震)として名高い。
→ そりゃ幕府壊れるわ、幕末の巨大地震8連発が酷すぎる
→ 安政の大地震 - Wikipedia

出典:Wikimedia
図でわかるように、関東から九州北東部まで、かなり広い範囲で、地震が連発的に生じた。とすれば、今回もまた、九州から関東まで連発的に地震が起こったとしても、不思議ではないのだ。
そして、そのようなことは、「前震・本震」または「本震・余震」というような認識からは生じない。これらの地震は、「連発地震」として認識して初めて、正しく認識できる。
今の地震学には、「連発地震」という概念はないようだが、このような新しい概念で認識することもまた必要なのだ。
※ 現時点では、連発地震は九州内部(およびせいぜい中国地方)までしか、確定していない。関西や関東がどうなるかは、不明である。
[ 付記1 ]
「連発地震」に似た概念で、「群発地震」という概念は、すでにある。しかしこの概念は、今回の地震には適用できない。
群発地震とは、比較的狭い震源域において断続的に地震が多発するもの。
( → Wikipedia )
この定義に従えば、今回の連発地震は、次の二点で当てはまらない。
・ 範囲が非常に広い
・ 同じ箇所で何度も生じることない。
(1箇所では1回だけだ。その1回の地震が、次々と移動する。)
このようなタイプは、「群発地震」ではない。だからこそ、「連発地震」というふうに、新概念で認識するべきだ。
群発地震は、比較的狭い範囲に収まるが、連発地震は、1回の範囲は狭くとも、その1回の場所が次々と移動するので、飛び石伝いで、すごく遠くまでも移動できる。かくて、九州から関東まで、というふうに広い範囲に及ぶこともあるのだ。
[ 付記2 ]
連発地震はなぜ起こるか? 地殻の断層が連動するというよりも、もっと大きくて深いプレートが連動するからだろう。
そして、プレートの連動があるとしたら、その直前に、巨大地震があったからだ。そういう巨大地震は、すでにあった。東日本大震災がそうだ。これが三陸沖で発生して、プレートを歪ませた。とすれば、そのあとで広範囲に連発地震が起こったとしても、不思議ではないのだ。
なお、私は前にプレートの観点から、「東海沖や南海沖のあたりで、2〜5年後ぐらいに大地震があってもおかしくない」と予測したことがあった。
→ 次の地震はどこ? (2015年05月31日)
約1年前の記事だ。今回の熊本の地震は、この予想には当てはまらない。上の予想は今でも有効なので、今から1〜4年後に、東海沖〜南海沖で大地震が起こっても不思議ではない。
[ 付記3 ]
阿蘇山はどうか? 阿蘇山が噴火したら、ものすごい大規模な噴火となって、日本が絶滅する恐れもあるが。また、その場合には、川内原発が影響を受ける恐れもあるが。
実は、この件は、前に言及した。
→ 川内原発と噴火の危険
簡単に言うと、あまり心配は要らない。以下で要約しよう。
まず、阿蘇山の大噴火だが、可能性はごく小さい。また、仮に大噴火があるとしても、事前に活発な活動があるはずなので、それがないうちは、安心していていい。要するに、地震の「予兆」はないが、大噴火の「予兆」は確実にあるから、当面は大騒ぎしなくていいのだ。
( ※ 水蒸気爆発の場合には、「予兆」はないが、推移蒸気爆発の場合は、被害は小規模であり、山頂部近辺に限られている。だから、水蒸気爆発の場合も、あまり心配しなくていい。心配するべきは、登山者だけだ。……この意味で、今回は、「阿蘇山への登山は控えた方がいい」とだけ述べておこう。)
次に、川内原発だが、阿蘇山が大噴火したら、九州一帯が絶滅するので、川内原発がどうのこうのなんていうのは、たいした問題ではなくなる。大火事のさなかでライターの火を心配するようなものだ。ほとんど無意味。
というわけで、阿蘇山の噴火については、あまり心配しなくていい。(登山者を除いて。)
[ 付記4 ]
幕末の連発地震のあとの為政者の対応については、井伊直弼の話として、下記にちょっとしたエピソードを記しておいた。(加筆した。)
→ 瓦の住宅を居住禁止にせよ の 【 追記 】
新たに加筆した面白い話(歴史の話)なので、興味があれば、お読みください。
ただし、実際には地震は教科書の記述以外に、ものにヒビが入るような破壊現象と見るべきであり、その観点から今回のような「連発地震」もふしぎではありません。
東京新聞にコメントした名大の研究者が知らないはずはないように思いますが、新聞記者の要約の仕方がおかしいのかもしれません。
ちなみに地震予知は不可能というべきと主張し、気象庁と東京大学地震研究所を批判する東大理学部地球惑星物理学科のゲラー氏は自らの所論の根拠としてこの破壊現象をあげています。
このあたりなかなか複雑ですが、学問としては地震研の研究社個人個人はゲラー氏の意見に反対はあまりないものの、地震研は気象庁と一体となって動く半分行政機関の側面をもっているため、組織としては旧来の教科書モデルを持ち出し、その不十分なモデルをもとに算出した(不適切な)予測を気象庁に提供しています。
その「知的不誠実さ」をゲラー氏は批判しているのでしょう。
読売新聞では「連鎖地震」という用語を使っている。しかし、2連発を「連鎖」「鎖状」と見なすのは苦しい。
なお、「誘発」という言葉も不適切だろう。別に、1発目が2発目を誘発したというわけじゃない。もともと大きな歪みがこの地域に溜まっていたので、それを解消する必要があった。1発目で解消しきれなかったから、2発目が(絶えきれずに)起こった。1発目で解消していたら、2発目は起こらなかった。
比喩的に言うと、ウンチをするとき、1本目で出し切れなかったら、2本目が続いて出る。これを「1本目が2本目を誘発した」と見なすのは正しくない。