2016年04月15日

◆ 高架の耐震工事の問題

 高速道路の高架は、東日本大震災のあとで、耐震工事がなされている。しかし、これは全然不足している。

 ──

 東日本大震災のあとで、あちこちで耐震工事の必要性が訴えられている。特に、高速道路の高架は、耐震工事が必要だとされて、実際に耐震工事がなされている。しかし、現状のものは、全然不足している。 

 具体的に言おう。首都高速では、次のように工事をしている。
 兵庫県南部地震の教訓を踏まえ、同レベルの地震にも耐えられるよう、コンクリート製の橋脚に対しては鋼板を外側から巻きつけて補強 ……
( → 地震防災|首都高の取り組み|首都高速道路株式会社[図あり])

 しかしながら、これでは、駄目だ。

 (1) 強度

 上記では「同レベルの地震にも耐えられる」と記しているが、これでは不足だ。これはつまり、「同レベルを上回る地震には耐えられない」と告白しているのも同然だ。ひどいね。
 東日本大震災の事例を思い出そう。「このくらいまでなら大丈夫」と想定して、防潮堤や原発耐震性を設定したが、現実には、想定を越えた大地震が来て、巨大な被災をもたらした。勝手に「このくらいまでなら大丈夫」と想定しても、現実がその想定に収まってくれる保証はないのだ。

 (2) 方向

 鋼板を外側から巻きつけて補強するのは、横方向の力には耐える力が増すが、上下方向の力には耐える力がない。
 現実には、上下方向の力に耐える補強が必要だ。そのことは、阪神大震災のときの写真を見ればわかる。
 → 写真1写真2写真3

 いずれも、上下方向の力が大きくて、上下方向に鉄筋がちぎれてしまっている。そういう形で、高架が破断した。
 こういう現実を無視して、鋼板の巻き付けなんかをやっても、全然足りないというしかない。つまり、現状の耐震工事は、全然不足している。



 [ 付記 ]
 では、どうすればいいか? たいていの場合、上下に引きちぎれるのは、一本柱だ。だから、一本柱の高架に対しては、横方向に揺れないように、何らかの補強工事をすることが必要だろう。
 どこもかしこもやる必要はないだろうが、50メートルおきでもいいから、横方向に倒れないように、補助的な柱みたいなものを追加するべきだ。一本柱は、あまりにも構造的に弱い。鋼板の巻き付けなんかで足りるはずがない。

 図で示すと、下記だ。


          Π

    1本柱     2本柱


 1本柱の方は、柱が1本しかないので、左右にぐらぐらと揺れたとき、柱の片側が伸びて、鉄筋が耐えきれずに破断する。たとえば、全体が右側に揺れたとき、1本柱の左側部分が伸びて、そこの鉄筋が破断する。(その部分に、局部的に大きな力がかかる。)

 2本柱の方は、柱が2本あるので、左右にぐらぐらと揺れても、変形の量は小さい。たとえば、全体が右側に揺れたとき、2本柱のうち、右側の柱に圧縮力がかかり、力の大部分を右側の柱のコンクリートが圧縮力として受け止める。(どちらの柱も、あまり大きな力はかからない。局部的に大きな力がかかる箇所はない。)

 だから、1本柱の方を補強するには、鋼板を外側から巻きつけるぐらいではだめで、別途、補助的な柱みたいなものを付けるべきだ。補助的な柱というのは、金属の棒やロープであってもいい。とにかく、倒れにくい形状にすることが大切だ。



 [ 余談 ]
 ついでだが、コストの心配をするのなら、三陸の防潮堤を建設する金を回せばいい。三陸では、地元民が「海が見えなくなるから、やめてくれ」とえっている防潮堤を、政府が強引に押しつける。そんなことのために、超巨額の金を投入する。無駄の極みだ。
 そもそも、地震の周期からして、次の地震が起こるのは、50年以上あとだろう。そのころに防潮堤ができればいいのであって、今すぐ防潮堤を建設する意義はないのだ。
 また、防潮堤は、内陸部に作れば、低コストで有効なものができる。海岸に作った防潮堤なんて、あっさり破壊されやすい。無駄なものを作るために超巨額を投入するくらいなら、首都圏の高速道路の高架について、倒壊対策をするべきだろう。
 
posted by 管理人 at 20:33| Comment(11) |  地震・自然災害 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
鉄筋コンクリートの要素では、
伸びに強いのが鉄筋で、
圧縮に強いのがコンクリートなので、
柱の片側が伸びたときに破断するのはコンクリートでしょう。

コンクリートが破断すれば、次の瞬間に柱全体が圧縮され、鉄筋も押しつぶされます。

1本柱を2本柱にするのが最善なのでしょうが、
http://net.easy-estate.com/wp-content/uploads/2010/05/CA3A0237.jpg
敷地に余裕がないと不可能です。
上記写真では広い歩道がありますが、騒音対策に必要とされるスペースです。
(安全と騒音対策の天秤になりますね)

鉄板を巻く方法も、鉄は伸びに強いので、
鉄板が高架・地面と接する個所で固定されていれば、揺れを抑えることができるでしょう。
固定されていなければ、補強効果は限定的です。
そのあたりは、専門家の意見を聞きたいところです。
Posted by at 2016年04月15日 23:33
> 伸びに強いのが鉄筋で、
> 圧縮に強いのがコンクリートなので、
> 柱の片側が伸びたときに破断するのはコンクリートでしょう。

もちろんそうです。で、コンクリートが破断するのは前提とした上で、それでも鉄筋が頑張っていれば、鉄筋が少し伸びるだけで、倒壊は防げます。

ところがそうはならず、鉄筋が滅茶苦茶に伸びてしまったのが、写真です。写真をよく見てください。
Posted by 管理人 at 2016年04月16日 00:44
> 上下方向の力が大きくて

写真の橋脚の破壊形式は、
曲げ破壊、曲げ剪断破壊、剪断破壊の3種類なので、
曲げ応力、剪断応力に対抗するために鋼板を巻きつけるのは正解ではないでしょうか?

鋼成分を増やすことで、脆性破壊を緩和することもできますし。

もちろん、1本脚よりも2本脚がいいに決まっているのですけど。
Posted by けろ at 2016年04月16日 02:52
 もちろん効果はありますし、何もしないよりはずっといいでしょう。やるべきです。
 しかし、やったとしても十分ではない、というのが、本項の指摘です。その理由は、文中に書いてある通り。特に、(1)。
Posted by 管理人 at 2016年04月16日 06:54
 低コストでやるなら、鋼板を巻きつける(円周方向の成分を作る)より、鉄筋を大幅に増やす(上下方向の成分を作る)方がいいでしょう。
 具体的には、鋼板のかわりに、上下方向の鉄筋を付けて、その鉄筋で、橋桁と基部(地面下)とを連結する。そのあとはコンクリで被覆する。完成後は、柱が一回り太くなっている。
 鋼板を巻きつけるのに比べて、コストは3倍ぐらいかな。一本柱の箇所だけなので、超巨額にはならないだろう。防潮堤に比べれば、はるかに低い金額で済む。
Posted by 管理人 at 2016年04月16日 07:44
「巻きつける鋼板」は、断面積で言えば「大幅に増やす鉄筋」よりもずっと強力ですよ?(上下方向に一体化されていることが必須ですけど)

圧縮応力に対してはコンクリート断面積が足りているので、自重を無駄に増やして鉄筋コンクリートを太くするよりも、不足している耐力を補うために鋼材を被覆するほうが理に適っていると思うのですが。

「同レベルの地震にも耐えられる」という設計基準が甘いので、基準を上げて『鋼材の材質と厚み』『既存構造との接合方法』を適切に計画すれば良いのだと思います。
Posted by けろ at 2016年04月16日 19:41
> 上下方向に一体化されていることが必須

 これが満たされないのが難点です。
 そもそも、今さらやっても、表層のコンクリはボロボロなので、表層のコンクリと密着しても、表層のコンクリごとボロリと剥がれてしまいそうです。
 表層のコンクリがボロボロである状況では、柱との一体化は意味がありません。

 だからこそ、「橋桁と基部とを直接結ぶ鋼材」が必要なのです。

> 基準を上げて『鋼材の材質と厚み』『既存構造との接合方法』を適切に計画すれば

 コンクリの表層がボロボロの状況では、原理的に不可能でしょう。鋼板を厚くすればいいという問題ではない。コンクリと密着させるという方法そのものが不適切。

> 断面積で言えば

 断面積はあまり関係ありません。
 柱のうち、引っ張り張力に関係するのは、左右の端のあたりの部分だけです。柱の中央部のあたりには、いくら鋼材があっても、中央には引っ張り力が働かないので、そこの鋼材は意味がありません。中央の鋼材の断面積は、まったく意味がありません。

 最も効果があるのは、柱の中央からすごく遠いところに、棒またはロープで張力を働かせることです。ロープだと、断面積は小さくても、柱の中央から遠いので、小さな断面積で大きな効果を発揮できます。
Posted by 管理人 at 2016年04月16日 20:06
耐震補強工事そのものは、阪神淡路大震災後、急激に行われてきました。具体的には、関東題震災レベルに耐えられると思い、それまでの設計は橋脚の上の方の鉄筋量は少なくても良い…という考えを改め、かつ脆性破壊に耐えられるようにしようとしたものです。
 従って橋脚の耐震補強は、安いのではコンクリート巻き立て、それが不可能な箇所では炭素繊維等で巻きたてるという風になります。簡易な構造の橋梁では、少なくとも高速道路についてはほぼ100%完了しています。
 問題は、「変な構造形式」を取り入れた橋梁、および高速道路以外(国道、県道など)で、それが完成していないことです。
 阿蘇で橋梁が完全落橋しましたが、それは確か鋼アーチ橋であったため、耐震補強工事の設計や施工が難しく、ほったらかしになっていたためだと思われます。
 問題は、急激な揺れに対する脆性をどう確保するか?ということです。断面積云々はあまり関係がありません。
 もちろん、断面積が大きいほうが、脆性破壊に対しても有利に働きます、しかしそうすれば、橋脚の大きさがバカでかくなるので、用地買収その他で不利になります。
Posted by あるみさん at 2016年04月16日 21:09
工法云々については、ここで議論する話題でもないでしょうから、割愛します。
「コンクリと密着」なんて言うことは書いておりませんので、『誤読』と言って差し支えないかも。

> 断面積はあまり関係ありません。

ありますよ〜。
それで強度を設計するんですから。
柱の中心軸ではゼロでしょうけど、柱の両端面には力が生じます。
元施工の鉄筋量では、それに耐え切れなかったというだけのことです。それを増強すれば耐力は向上します。

いずれにせよ、1本脚という制約がどうしようもないなら、コンクリート巻立てにしても鋼板巻立てにしても、十分な曲げ・剪断耐力を確保するように補強する、ってことで問題は無いのでは。

他に選択肢があるなら、
Π字型の脚に作りなおすとか、
> 柱の中央からすごく遠いところに、棒またはロープで張力を働かせる
という方法とか、効果的な手法は考えられるでしょう。

1本脚で力技で強度を確保するよりも、構造的に安定度の高い形状で計画するのが良いに決まっています。(デザイナーは、それを嫌がりますが)
Posted by けろ at 2016年04月16日 21:15
 まあ、いろいろ議論があったということで、そろそろ、お開きにしましょう。
 読者としても、いろいろと細かい話を聞けて、ちょっと知識が増えたかもね。
Posted by 管理人 at 2016年04月16日 22:38
はい。
いろいろ、お付き合いありがとうございました。

管理人様の記事は、いつもとても参考になります。
特に、私がよく知らない分野について。

各所からいろいろ茶々も入りますが、今後とも臆せず(管理人様が臆するとは思えませんが)切れ味鋭く続けていただければと願います。
Posted by けろ at 2016年04月17日 21:52
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