2016年04月06日

◆ 保育士の給与を上げるな

 保育士が不足している。そこで、「保育士の給与を上げるべきだ」という意見が多い。だが、私はこれに反対する。

 ──

 「保育士の給与を上げるべきではない」
 というのが結論だ。ただし、これを誤解してはならない。私は別に、
 「保育士の給与を下げるべきだ」
 と述べているのではない。かわりに、
 「保育士の給与を操作するな」
 と述べる。つまり、こうだ。
 「保育士の給与を上げるべきではない。保育士の給与が(自律的に)上がるようにするべきだ」

 つまり、「上げる」と「上がる」とは違う。
 わかりにくいかもしれないので、比喩で言うと、こうだ。
 「身長が低いからといって、身長を強引に伸ばしてはいけない。身長は自律的に伸びるようにするべきだ」
 具体的には、こうだ。
 「身長が低いからといって、頭と足を引っ張って、身長を強引に伸ばしてはいけない。むしろ、栄養と運動によって、身長が自律的に伸びるようにするべきだ」

 強引に伸ばすことと、自律的に延びることとは、違う。保育士の給与も同様だ。政府が介入して、補助金を投入して、賃金を強引に上げるべきではない。(それは共産主義の発想だ。)むしろ、市場原理を導入して、市場の取引で給与が自律的に上がるようにするべきだ。

 では、そのためには、どうすればいいか? それは先に述べたとおり。
  → 保育園への補助金を廃止せよ
 つまり、補助金を廃止して、その金を親に直接給付する。そのあとは、市場原理で、保育所と親の需給調整に任せればいい。このとき、市場原理が働くから、保育料は高めの価格で自律的に決まる。と同時に、保育士の給与も自律的に高めの価格で決まる。
 これですべては自律的に解決する。

 ──

 これに対して、次の心配が生じるだろう。
 「補助金をなくしたら、保育料が高くなりすぎる。しかも、保育士に金が回るという保証はない。保育士の給与は低いままかもしれない」
 しかし、このような心配は、杞憂である。以下、(1)(2) で説明しよう。

 (1) 需要減少による需給均衡

 「補助金をなくしたら、保育料が高くなる」ということはある。しかしそのかわり、保育給付金が支給されるのだ。全体としては、現状よりもひどく悪化するということはないはずだ。
 それでも、価格水準そのものは、現状よりも高くなるだろう。しかしそれは、現状が「価格を低めに誘導する」という方針を取るせいだ。
  ・ 価格は低めである
  ・ 量的には供給不足になる

 この両方が成立するのは、市場原理では当たり前のことだ。価格が低すぎるからこそ、供給不足になる。ならば、価格を妥当な水準にまで引き上げればいい。それと同時に、量的には供給不足が解消する。
 おおまかな見通しとしては、価格が上昇した結果、次のようになる。
  ・ 高所得者は、現状よりも高めの保育料を払うことで、
   希望者の全入が可能となる。
  ・ 低所得者は、現状よりも高めの保育料を払えないので、
   保育給付金をもらって自宅保育する。

 こういう結果になるだろう。ともあれ、これで、「保育所不足」という問題は自動的に解決する。(保育所については、需要減少による需給均衡が実現する。) 詳細は下記。
  → 保育園への補助金を廃止せよ

 (2) 需給均衡による市場原理の成立

 「保育士の給与は低いままかもしれない」という心配は不要である。なぜなら、新方針は単に「市場原理に任せる」ということにすぎないからだ。
 仮に、「市場原理に任せたせいで、給与が低いままとなる」ということが成立するなら、そのことは、あらゆる産業で成立するはずだ。しかし、そんなことはありえない。
 つまり、「市場原理に任せると困ったことになる」なんていうのは、今では完全に時代遅れの共産主義の発想であるにすぎない。そんな心配をしたければ、昔のソ連にでも行けばいい。そこが理想郷だろうから。
 実は、昔のソ連は、配給制度のせいで、(低料金だが)慢性的な供給不足となっていた。現在の日本の保育所と同様だ。つまり、今の日本の保育所は、共産主義の配給制と同じだから、「低料金で供給不足」という問題(配給制度の問題)が発生するのだ。
 だから、配給制度をやめてしまえば、「低料金で供給不足」という問題もなくなる。それがつまり、「保育所を市場原理に任せる」ということだ。つまり、「保育所の補助金を廃止する」ということだ。これによって、供給不足の問題も、価格水準の問題も、労働者の低賃金の問題も、自動的に解決する。
 具体的には、労働者に適正賃金を払った企業だけが生き延びることができる。労働者に適正賃金を払えない企業は、労働者が来なくなって、事業を継続できなくなり、倒産する。
( ※ 現状では、そうならない。なぜか? 市場原理が成立していないので、慢性的な供給不足となり、悪徳保育園も楽々事業継続できるからだ。それというのも、補助金のおかげ。つまり、補助金のせいで、悪徳保育園が生き延びて、低賃金のままでも倒産しない。また、全員が悪徳ならば、全員が倒産しない。何もかも、補助金が悪い。)
 ともあれ、需給均衡のあとでは、市場原理が成立するようになるので、状況は正常化する。(歪まない。)

 ──

 結論。

 保育園への補助金を廃止して、親に金を直接給付するべきだ。その上で、保育園には市場原理を導入するべきだ。(誰が入園できるかをポイント制で決めるような、一種の配給制度は、廃止するべきだ。)
 こうして市場原理が成立すすれば、あとは他の産業と同様に、すべては正常化する。と同時に、保育士の給与も、労働者の給与全体の中で、自動的に適正水準になる。(他の産業と同様だ。)



 [ 付記 ]
 「保育士の給料を上げるために、国家が補助金を出せ」
 というのが、現在の主流の考え方だ。
 しかしながら、国家による価格調整というのは、これまで成功したためしがない。
 たとえば、「バターの価格を国家管理する」という方針は、大失敗だ。消費者は馬鹿高い価格でバターを買わされる上に、慢性的な品不足となる。
  → バター不足の理由
 これで、酪農家が恵まれるならまだしも、酪農家も恵まれない。というのは、バター用の牛乳の買い取り価格は、生乳の買い取り価格よりも、1割ぐらい低いからだ。バター用に売れば売るほど損をする。どうせなら生乳用に売る方がいい。
 というわけで、消費者も酪農家も、誰も得しない。国民のすべてが損をする。そんなありさまが、現在の「バター価格の国家管理」という制度だ。
 で、何のためにこんな馬鹿げた制度を維持しているかというと、農水省の天下り団体「農畜産業振興機構」の利権のためだ。上記項目から孫引きすれば、こうだ。
 農水省の天下り団体「農畜産業振興機構」によるバター輸入業務の独占。……実のところ「農畜産業振興機構」の仕事といえば、書類を右から左に流すだけ。それだけで巨額の収益を得ていることになる。

 こういう利権のために、バターの国家管理という制度が維持されている。

 保育所はどうか? やはり、同様だ。利権団体というより、利権業者のために、補助金制度が維持されている。補助金を受け取る保育園は、この補助金を私物化して、他の業者(新規参入者)には渡すまいとする。
 そして、これだけの利権や特権をやすやすと手放すわけがない。保育園業界は、団結して新規参入を阻止してきた。
 認可保育園の新設は地方自治体が判断し、株式会社の参入など規制緩和は政府が決定する。つまり、あらゆるレベルで政治がかかわってくる。そこで、保育園業界は強い政治力を備えるようになった。
 その代表格が保育3団体だ。日本保育協会、全国私立保育園連盟、全国保育園協議会連盟は強い政治力を持ち、厚生労働省の部会などにも参加している。
( → 新規参入は断固阻止!!保育園業界に巣くう利権の闇|ダイヤモンド・オンライン

 こういうふうにして、新規参入業者の許可権を持つ自治体を操作して、自治体に「新規参入不可」というふうにする。……これが、供給が増えないことの直接原因だ。

 バターであれ、保育所であれ、国や自治体が市場を管理している状況では、需給が最適化されるということはありえない。ここはどうしても、市場原理にするしかないのだ。(つまり、共産主義みたいな配給制度の廃止。)
 そのことを理解できないで、「補助金を増やせ」なんてことばかり言っているから、補助金を食い物にする保育園ばかりがウハウハと儲かって、保育士と親はひどい目に遭うわけだ。

 ──

 新規参入阻止の話は、上記のリンク先(ダイヤモンド・オンラインの記事)に記してあるが、もっと詳しい話は、下記に具体例が示してある。
  → 全国ワーストなのに株式会社を排除する世田谷 | 長谷川幸洋
 一部抜粋しよう。
 いっこうに参入は進まない。なぜか。その実態把握が規制改革会議で焦点になった。3月21日の会議では、株式会社として保育所を経営する最大手であるJPホールディングスの山口洋社長を呼んで意見を聞いた。
 山口「東京都町田市で当社が初めて株式会社立の保育園を始める。そのとき社会福祉法人の団体から『株式会社は質が低いからだめだ』という嘆願書が出た。実は町田市が募集した地域で応募したのは株式会社の2社だけで、社会福祉法人は一切、応募しなかった」
 「なぜかというと、彼らはカルテルを組んでいて、1法人2施設までしか作らせない。将来、子どもたちの取り合い競争を避けるために、保育園を作らせたくないのだ。自治体の後ろにいる社会福祉法人が株式会社に反対して、なかなか参入を認めるに至らないのが全国の実情」

 なお、このページでは、「参入資格が社福に限られ、株式会社が認められないのが、問題だ」と指摘されている。しかし、これは問題がズレている。株式会社という利益体質の団体が制限されるのは、やむを得ない。利益の横流しの危険があるからだ。前述の通り。
  → 保育園への補助金:補足
 だから、問題は、「株式会社の参入が制限されていること」ではない。では、何か? 「社福に応募者がないこと」つあまり「社福がカルテルを結んでいて、新規参入を阻止していること」である。
 とすれば、解決策は、こうだ。
 「株式会社も社福も含めて、すべての新規参入を許可する。完全に市場原理に任せる」
 このように市場原理に任せることだけが、需給問題を解決する唯一の策だ。一方、単に「株式会社の参入を認める」というだけでは、私腹を肥やすのが社福から株式会社に変わるだけで、意味がない。
 なお、この件に関して、「規制緩和をするべきだ」という見解もあるが、これでは目くそ耳くそだろう。規制は、緩和するのではなく、廃止するべきだ。そして、完全に市場原理に任せるべきだ。それのみが正解だということは、今の日本経済そのものを見ればわかるだろう。どの産業も、市場原理でちゃんとまともに機能している。
 例外があるとすれば、携帯電話業界ぐらいだろう。この例は、市場原理が不適切である例ではなくて、市場原理が(3社の寡占状態で実質カルテル状態にあるゆえ)まともに機能していない例だ。ここでも、補助金を出したり規制したりすればいいのではなく、(暗黙の)カルテルを解除させて、市場原理を貫徹させることが正解だ。



 【 関連項目 】

 スマホの「実質0円」の問題の解説。
  → スマホ「実質0円」の規制

  ※ 政府はスマホ「実質0円」を規制しようとするが、やることが
    逆だ。規制するべきことは、価格引き下げではなく、詐欺だ。


 
posted by 管理人 at 21:21| Comment(0) | 一般(雑学)4 | 更新情報をチェックする
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