保育園への補助金は私腹に入っている……という話を先に記した。
→ 保育園への補助金を廃止せよ
細かなデータは、ほとんどは明らかにされていないが、とりあえずは板橋区の補助金のデータだけはある、と前項で記した。
→ 保育園の話:補足
さらに調べたところ、次の情報が見つかった。
→ これじゃ待機児童ゼロなんて実現するわけがない!規制改革会議で見えた国民より社会福祉法人が大事な厚労官僚のホンネ
ここでは「保育所事業への株式会社参入が妥当だ」という趣旨で説明している。そして「株式会社は利益重視だからダメだ」という批判に対して、「社福こそ利益重視だ」と切り替えしている。
ここで論拠として上げた「社福こそ利益重視だ」という指摘が興味深い。引用しよう。
反対論は主に保育所を運営する社会福祉法人の関係者やその代弁者から出ている。たとえば「株式会社は利益優先」とか「失敗すれば、すぐ撤退する」といったものだ。ところが実態を見ると、むしろ社会福祉法人という存在のほうに問題が山積していた。
民主党政権時代の規制・制度改革委員会に提出された資料(リンク)によれば「社会福祉法人1施設(特別養護老人ホーム)当たり3億円の内部留保がある」という調査結果がある。これがなぜ問題かといえば、事実上、同族経営のような法人が相当数あって、利益の一部が不透明な形で個人の所得などに消えているのではないか、という疑惑が消えないからだ。
キャノングローバル戦略研究所の松山幸弘研究主幹が実施した約1200法人対象の調査(上記資料にある)によれば「設立の主目的が相続税対策と補助金獲得にある」「背後に営利目的事業体があり、社福からの資金流出が疑われる」法人が多数ある、という。
その利益の源泉はといえば、かなりの部分が非課税措置と補助金という税金投入から来ている。なんのことはない。「株式会社は利益優先だからだめだ」と言いながら、実は自分たちこそが優遇措置の特権であぐらをかいているのである。
同様のことは、私も前出項目で指摘したが、それと同趣旨のことが、民主党政権時代の政府でも指摘されていたわけだ。
ま、今は自民党政権だから、これを改革する気はないのかもしれない。ともあれ、現状の保育所(社福)では、利益が私腹に入ってしまっているという指摘があるわけだ。(私が個人的に言っているだけでなくて。)
──
なお、上記の話を書いた人は、「社福こそ利益の横流しをやっているぞ」と言って、株式会社を肯定している。下記項目にも続編がある。
→ 待機児童問題は深刻なのに10年経っても「保育所事業」へ株式会社の参入が進まない理由
ここでは、「社福がカルテルによって、株式会社の参入を拒んでいるからだ」という主張がある。
ま、それはそうかもしれないが、そこは本質ではない。問題は、次のことだ。
「株式会社では、投入された補助金を会社の利益のために横流しできる」
つまり、補助金の横領みたいなことが、株式会社では可能なわけだ。
それが法的に許されているかどうかは知らないが、こっそりやってもバレないのだから、勝手に補助金を横流しできるわけだ。
実際にそれをやった会社もある。ハッピースマイルという保育園事業をやっていた(株)エムケイグループだ。補助金を横流しして、勝手に別の部門に金を移して、利益を横取りしたあげく、倒産してしまった。
→ 保育園が「倒産」した日
つまり、莫大な補助金は企業の利益のために使われ、関係者の私腹に入ったあげく、「倒産」という形で回収不能にしてしまった。ひどいものだ。園児にとっては、まともな保育サービスを奪われてしまった。
( ※ この当事者が補助金横領で逮捕された、ということはない。)
結局、「社福は利益を私腹に入れている」というが、株式会社だって同様となる可能性は十分にあるわけだ。
また、別のデータによれば、補助金を保育士の給料に回す比率は、社福よりも株式会社の方が低い。ここでも株式会社の利益優先体質が見られる。 (出典は忘れた。)
──
結局、社福も株式会社も、どちらもダメだ。では、どうすればいいか?
簡単だ。先に述べたように、補助金を廃止すればいい。「私腹を肥やす」というのが問題なのは、保育所の経営形態の違いによってもたらされるのではなく、補助金を投入することによってもたらされる。莫大な補助金を投入するから、「社福が横取りする」「株式会社が横取りする」という弊害が生じる。
ここでは、「補助金があるから、横取りする」という問題が生じるのだ。「社福か株式会社か」という経営形態の差は関係ない。補助金そのものが問題なのだ。
だから、補助金を廃止すればいい。そのあとは、社福でも株式会社でも、どっちでもいい。補助金がなければ、補助金を横取りすることもできない。単にユーザーから料金を得て、保育サービスを提供するだけだ。ここで、保育サービスを手抜きすれば、利用者が離れるだけだから、保育サービスの手抜きはできなくなる。
ただしそれは、「需給が均衡する」という市場原理が働いていることが前提だ。そのためには「供給不足・需要過剰」という状況を解消することが必要となる。それには、次の二点が必要となる。
・ 価格の自由化 (= 価格の上昇)
・ 需要の減少 (= 自宅育児の優遇)
説明はそれぞれ、下記項目で。
前者については → 保育士不足の解決策
後者については → 自宅保育を優遇せよ
こういうふうにしてまともな市場原理が働くようになれば、あとは市場原理によって状況は最適化される。特に問題はなくなる。普通の当り前の状況になるだけだ。
換言すれば、現状は、「価格制限と補助金」という社会主義政策を取っているから、社会主義時代のソ連のように、物不足が起こって、配給みたいな状況になっているわけだ。これが保育所不足の本質だ。
( ※ 株式会社を参入させれば問題が解決する、というものではない。構造そのものを市場原理にする必要があるのだ。)
[ 付記 ]
今回の提言(補助金廃止と給付金)について、実現性を危ぶむ声もある。ごもっとも。
そこで、別項のコメント欄で、次のように記した。転載しておく。
本項は非常に多数のアクセスがあった。また、評判もとてもいい。母親の評判もいい。「これならまた産める」という声もあった。
与党も野党も、この方法を政策として訴えるといいですよ。それでたぶん、次の選挙で勝てそうだ。与党でも野党でも、この方法を公約した政党が、次の選挙で政権を取れそうだ。何しろ、国民の圧倒的な支持を得るからだ。
( ※ 実現可能性を深く考える必要はない。とにかく公約して、選挙に勝てばいいのだ。なお、財源について心配なら、次項を参照。財源について、うまい方法がある。)
Posted by 管理人 at 2016年03月20日 22:52
「この方法がいいことはわかったが、どうやって実現するかが問題だ」
という声があった。なるほど。ごもっとも。
そこで、提案しよう。次のようにすればいい。
「実現の方法についてはいちいち議論しない。単に実現することを、選挙の公約にする。絶対に実現します、と選挙で公約する」
これで政権を取った党は、何が何でもと思って必死に頑張るしかない。他の誰か(国民や評論家)が頑張る必要はないのだ。政府(与党と官僚)の全体が、頭を振り絞って、必死に考えればいいことだ。自分の公約なんだから。
で、それで公約通りに実現すれば、問題ない。実現しなければ、次の選挙で追い落とせばいい。公約を守れなかった民主党の二の舞だ。
Posted by 管理人 at 2016年03月21日 07:56
要するに、大事なのは原理であって、実行上の細かな施策や手順については、専門家である政治家と官僚が頭を振り絞ればいい、ということ。彼らはそのために給料をもらっているのだから。