2016年03月21日

◆ 保育園の話:補足

 すでに述べた保育園の話について、補足的な情報を加える。
 ( ※ 保育所問題について詳しい話を知りたい人だけ、お読み下さい。) ──

 三つ前に、次の項目を書いた。
  → 保育園への補助金を廃止せよ
 これは非常に多くの反響を呼んだ。1日目は 7000、2日目は 1万、3日目は 5千のユニークユーザーが来た。特に twitter 経由で来る人が多かった。Yahoo や Gigazine で記事が紹介されたときでも 5000ぐらいのユーザーが来るだけだから、今回は際立って多くのユーザーが来たことになる。また、 twitter を見ても、「感心した」とか「賛同する」とか、多くの共感の言葉が見出された。

 ただ、いくらか情報不足の点もあったので、それを補うために、本項では補足的な情報を加筆する。
( ※ 細かな話題です。この話題について関心のある人以外は読まなくてもいいかも。)

 月 15万円の給付


 「月 15万円の給付」という提案をしたが、これは全面的に適用されるわけではない。1年目だけだ。つまり、0歳児だけだ。
 「えーっ、そんな! 二人の子供がいれば、毎月 30万円をもらえると思ったのに!」
 と嘆く人もいるかもしれないが、それは捕らぬタヌキの皮算用。そんなにうまい話があるわけがない。
 すでに 保育給付金の財源 という項目の最後に記したが、一応のメドは、次の額の給付金だ。
  ・ 0歳児への給付金 …… 15万円
  ・ 1歳児への給付金 …… 7万円
  ・ 3歳児への給付金 …… 5万円
  ・ 5歳児への給付金 …… 4万円

 ま、これが常識的というものだ。(二人育てる場合には、たとえば0歳児と3歳児ならば、合計 20万円。)

 「育休給付金は1年間しかもらえないぞ。なのに、15万円を数年間にわたって大盤振る舞いするのか」
 という批判もあった。だが、大盤振る舞いはしない。育休給付金に似た額を払うのは、育休給付金の期間と同様に、1年間だけだ。2年目(1歳児)以降は、額ががくんと下がる。

 そもそも、元の項目では、補助金の額として、「月 30万円〜50万円」という数字を示したが、この額は、0歳児にだけ当てはまる額だ。再掲しよう。
 東京都では、私立認可保育園で約30万円、公立では約50万円を、0歳児1人当たりの保育費用として毎月補助しています。
( → 認可外だからこそ充実の保育が実現
 0歳児では、園児1人にかかる費用が411,324円なのに対して、保護者は平均19,084円のみ支払えばよい。残りの392,240円は、板橋区が補助金として出している。
( → 保育士の給料はなぜ安いのか #保育士辞めたの私だ

 ここでは、「0歳児」と明示してある。1歳児や2歳児の数字は示していないが、1歳児や2歳児への補助金はがくんと下がる。
 だから、「30万円の補助金を払うぐらいなら、15万円を給付した方がいい」というのは、0歳児だけに当てはまることなのだ。1歳児以降では、給付額は下がるのだ。
 
 このことは、元の項目では示さなかったが、勘違いしないよう、留意してほしい。なお、元の項目には記さなかったが、その次の項目(財源の項目)では最後に示しておいた。だから、こっそり隠していたというわけではない。そもそも、普通に読めば、最初から誤解の余地はないはずだ。実際、次のように試算した人もいる。
  → はてなブックマーク・コメント
 ここでは、2年目以降の給付額が減るというモデルで試算している。これが常識的だ。(いちいち私が断らなくても。)

 そもそも、手間のかからない年長の幼児について、「何年間もずっと毎月 15万円をもらえる」なんて、そんな虫のいい話が成立するはずがない。「育児がすごく大変な0歳児に限って、1年間は多額の給付金をもらえる」というだけのことだ。

 月 30〜50万円の補助金


 月 30〜50万円の補助金というデータを示したが、これには反論が来た。





 そこで、解説しておこう。(私立認可保育園の話。公立や認可外は別。)

 第1に、月 40万円という数字は、実際にある数字だ。もともと出典をリンクで示してあったが、明白に示すと、次のページだ。
  → 板橋区の補助金
 これは板橋区のページだ。ここには、「0歳児への補助金は 392,240円 」とはっきり示してある。だから板橋区では、実際にこの額の補助金を出しているのだ。
 なお、この数字は全体の平均だから、私立と公立が混じっているようだ。ならば、「私立認可が 30万円で、公立認可が 50万円」と示した私の数字と、ほぼ合致することになる。

 第2に、上の画像で示された数字には、二つの点で制限が加わっている。
  ・ 100人ぐらいの中規模の保育園である。
  ・ 東京都や 23区の独自補助金が加算されていない。

 現実には、次の加算が追加される。
  ・ 小規模の保育園では、金額が 23万円まで加算される。
  ・ 東京都や 23区の独自補助金が1〜1.5万円ぐらいある。

 というわけで、東京都では、20〜25万円ぐらいの補助金は普通に出ているわけだ。

 第3に、保育士給与以外の補助金がある。たとえば、園長給与とか、調理員給与とか。また、施設費への補助もたっぷりと出ている。たとえば、ミニ保育所では、下記だ。
 新たな支援制度では、ミニ保育所を始める事業者に建物の建築費を支援するものとなります。一定の上限額がありますが、国が建築費の50%、市区町村が25%を助成する方向で、事業者は建築費の25%を用意すれば保育園をつくれます。
( → ミニ保育所への補助金を解説

 こういうふうに施設費にもたっぷりと補助金が出る。結局、補助金としては、保育士給与のほかにも、他にいろいろとあるわけだ。
( ※ 上の駒崎という人は、自分でミニ保育所を経営していながら、補助金の経理のことをまったく理解できていない。こんなにも経理に無知で、まともに経営できるのだろうか。心配だ。)
( ※ ミニ保育所以外ではどうかというと、認可保育所の実例は下記にある。→ 市川市の施設補助金[PDF]

 なお、40万円という板橋区の数字は、平均よりは高めの数字であるようだ。それでも、私が示した数字は、30〜50万円という数字だから、特に話を盛っているというわけでもない。

 また、別の典拠では、かなり多めの数字も出ている。学習院大学教授の鈴木亘による試算で、「23区内では月額 50万円」という数値が出ている。
  → 園児一人当たりのコストは50万円?
  → 鈴木亘『財政危機と社会保障』(講談社現代新書)
  → 文藝春秋2010年11月号 鈴木亘の記事・要約

 なお、さまざまな加算分を加えない基礎的な部分の補助金は、国の公定価格として決まっている。その数字は、上の画像にもあるが、詳しい情報としては、下記がある。
  → 公定価格表 [PDF]
  → 自治体の加算分の情報

 p.s.
 「本当の数字はどれだけなんだ! 自治体加算を含めた公的な補助金の額は正確にはどうなんだ!」
 という疑問があるだろうが、公開されていないようだ。大学教授が独自研究で自分なりに試算しているぐらいだから、公開データがあるとは思えない。自治体はどうやらデータを隠しているようだ。ふざけた話だが。(公開しているのは板橋区だけ。)
 ただ、府中市と板橋区と八王子市の加算額を示した文書もある。(府中市の資料。)
  → 保育所運営にかかる費用 [PDF]
 ここでは、府中市と八王子市について、30〜50万円という数字より、いくらか低めの数字が出ている。その意味では、私が示した数字とは矛盾するように見える。ところが、どっこい。私が示したのは、23区内の数字だ。一方、府中市と八王子市は、23区内ではない。だから、府中市と八王子市では低めの数字だとしても、特に矛盾は生じていない。

 なお、下記に参考情報がある。
  → 公定価格〜加算要件が、少しずつ明らかに

 保育士の年収


 保育士の年収はどのくらいか? これを調べると、いろいろと面白いことがわかる。
 まずは、国の示す公定価格がある。
  → 公定価格表 [PDF]
 これによると、保育士の給与は 約340万円だ。これだけの給与をもらっていて当然なのだ。(それを前提として補助金が保育所に支給される。)

 では実際にその額が支払われているか? 保育士の声は、ここでわかる。
  → 保育士の年収
 私立認可保育園の正社員で勤続 10年以上、というモデルでも、月収 18〜23万円ぐらいだ。10年目で年収 270万円前後が標準的だ。

 別の典拠もある。
  → 公立保育所で働く保育士の年収 全国平均の1.7倍
 公立保育所では、平均の 1.7倍の年収がある。
  公立  5,378,278円
  平均  3,167,000円
 これを勘案すると、私立の分だけなら、200〜250万円ぐらいにしかならないだろう。勤続年数が短めであることを勘案しても、私立の給与は安い。
 つまり、公定価格に比べて、ずっと低い。

 これを裏付ける話もある。
  → 認可保育園の運営費のについて
 ここでは、「認可保育園の経営がいかに大変か」という話が出ている。国や自治体から補助金が出るが、それから給料を払うと、ほとんど利益は残らない、という話。
 そういう趣旨なのだが、数字をよく見ると、次のように書いてある。
 平均勤務年数10年以上ですから、すべて35歳前後の保育士で構成されていると仮定します。35歳前後で職を問わず健全に生活できる額というのは個人的に月30万くらいだと思っています。手取りで26万くらいですね。すると、年収で言うと500万くらいです。

 この人の話に従えば、認可保育園の保育士の年収は 10年目で 500万円ということになる! 語るに落ちた、とはこのことだ。
 なぜか? 現実には、500万円ももらっていないからだ。270万円前後しかもらっていないからだ。
 要するに、補助金は「年収 500万円」になるほど、たっぷりともらえるのに、実際には「年収 270万円」しか、払っていない。とすれば、その差額に当たる 230万円分は、どこかに行ってしまったことになる。さあ、どこに行ったんでしょうねえ。 (^^);

 だから、認可保育園の保育士は、大々的に声を上げるべきだ。「10年目では年収 500万円を寄越せ! それだけの補助金をもらっているんだから、その金をきちんと保育士に渡せ!」
 現実にはそうなっていないとしたら、その金をがっぽり懐に入れている人がいるということだろう。

( ※ というわけで、補助金をどんどん増やしても、あまり意味はないわけだ。どうせ保育士の給与にはならないで、誰かの懐に入るんだから。)

 公営


 民間の保育所が私腹を肥やすのであれば、保育所をすべて公営にすればいいのでは……という意見があった。
 しかしこれは「社会主義」の発想だ。そんなことをすれば、経営が非効率化する。
 すでに述べたとおり、公営の保育所では保育士の給与は民間の 1.7倍だ。「これで保育士の給料が低すぎるという問題はなくなる」と思うだろうが、低すぎる問題はなくなるかわりに、高すぎるという問題が生じる。あまりにも高給なので、希望者が殺到する。そんなことは必要ないのだが。
 一方で、高給のコストと、非効率のコストが、いっしょに襲いかかってくる。ざっと見て、コストが 1.7倍になるなら、次のいずれかだ。
  ・ 増えた分を増税でまかなう。
  ・ 定員を 1.7 分の1に減らす。

 現実には、増税をするには法律改正が必要だから、まず無理。となると、定員を 1.7 分の1に減らすしかない。
 つまり、「保育所をすべて公営にする」というのは、高コストになるがゆえに、「定員を 1.7 分の1に減らす」という結果になるのだ。( 1.7 分の1 は、0.58 。ゆえに現状比で4割減。)
 結局、保育所を公営にすると、「私腹を肥やす」というはなくなるが、かわりに、「高コスト」という無駄が増えてしまう。3割ぐらいの額が悪によって食われるかわりに、4割ぐらいの額が無駄によって食われる。現状よりもかえってひどい状況になってしまう。
 「善意の無駄は、悪よりもひどい」ということが成立するわけだ。社会主義というのは、そういうものだ。
posted by 管理人 at 23:48| Comment(4) | 一般(雑学)3 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
最後に「公営」という小項目を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2016年03月22日 07:41
数日分を興味深く拝見。
ブログ主の議論の過程を、たいへん興味深く拝見した。
 
3月生まれの場合は復帰のタイミングが
1年11ヶ月となり、ほぼ2年となる。
このように、ぴたり1年で復帰とはならないが、
ブログ主の計算に拠れば問題とはならないだろう。
 
厚労省の挙げているモデル人件費には雇用保険や
社会保険事業所負担分も含まれているために、
世間でいわれる保育士の年収よりも多めになって
いるトリッキーな点も、ブログ主の慧い提言に
おいて当然ながら吸収可能であろう。
 
この思考実験の過程は、記録に値する。賛同者が
多数いるこの状況と、賛同者が掲げるその根拠を、
反対者たちは、賛同者らの名とその社会的影響力の
強さとともに、胸に刻むべきであると考える。

あまりの賛否双方の大きな反響に、
ほかでもないブログ主が、一番驚いているのではない
か。さらなる思索の深化に期待する。
Posted by 思考実験の過程として興味深い at 2016年03月22日 12:51
>厚労省の挙げているモデル人件費には雇用保険や
社会保険事業所負担分も含まれているために、
世間でいわれる保育士の年収よりも多めになって
いる

 ご指摘ありがとうございました。
 ただ、その点は考慮済みです。補助金で年収 500万円になるというのは、雇用保険や社会保険事業所負担分を抜いた金額です。雇用保険や社会保険事業所負担分を含めると、年収 750万円になるような補助金が出ています。
 この件は、リンク先(認可保育園の運営費のについて)に示してあります。
Posted by 管理人 at 2016年03月22日 13:00
ブログ主も指摘の通り、少なからぬ数の民営保育所の
経営者が自身の懐に補助金を溜め込んでいるのであろう。
 
しかしブログ主の議論において、そのような根拠は
充分には示されていない。保育所は全国に幾つあり
どれだけの保育所が民営なのであろうか。
議論を精緻にするためにはぜひ知りたい情報と
言えよう。
 
悪徳な経営者の所得を把握することは、
マイナンバーにより、容易になると予想される。
憶測により保育所制度を語ると脱線しかねない。
まもなく社会福祉法人の財務状況の公開が義務化される。
内部留保の実態も詳細に明らかとなるであろう。
 
内部留保とは、まことに便利な言葉である。
しかし保育所の職員も、家庭を持つ労働者である。
入所児童は1年をかけて成長し、その都度、
保育単価が下がる。ある程度の手持ち資金を
確保しておかなければ、民営保育所の経営は
破綻する。
この季節的変動について、一般にはほとんど
知られていない。
 
また、保育所の「営業時間」が11時間あることを
知る人も多くはない。いわゆる識者に至っても。
しかも土曜日も開いている。
もちろん職員の労働時間は週5日で8時間だ。
 
よくある誤解で、必要な保育士の数を単純に
1歳児6人につき1人というような基準で考えて
いる人がいる。11時間6日間で考えると、
保育士数が足りないのだ。
 
なら11時間も営業しなければいいという人も
いるだろうが、11時間開かなければ認可保育所
としては不適格となるのだ。それが法律の定める
ところだ。
 
ブログ主の一連の考察により、内部留保の問題、
保育単価の問題についての、いわゆる識者の
浅い理解の程度が明らかとなった。率直に言って
深く感謝している。
 
前も述べたが、ブログ主には今後も、STAP細胞の際の
コメント・論考と同様、保育所問題についても、
メタレベルも含め、横方向だけでなく、
縦方向にも鋭い切り口で、ぜひ現実をふまえた、
読者をうならせるような論考の展開を期待したい。
めったにこのような提案は世に問われないのだから。
Posted by 思考実験の過程として興味深い at 2016年03月22日 15:56
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