2016年03月13日

◆ AI とディープラーニング 3

 前項の続き。 AI には、何ができるか? AI の可能性を探る。 ──

 AI と囲碁の関係については、すでに前項で詳しく述べた。
 このあとは、囲碁を離れて、他の分野への応用について考えよう。
 その際、基本的なテーマはこうだ。
 「 AI は人間の思考能力を超えるか?」
 このテーマを常に心に留めた上で、いろいろと考察していこう。

 1. 思考と計算


 今回の囲碁の結果は、AI の圧勝と言えるものだった。第4局では人間が勝ったが、これは、人間が実力で勝ったというよりは、AI が勝手にこけて、勝手に自滅したものであるようだ。
  → 第4局速報・観戦記
  → 第4局・棋譜
 ざっと見たところ、人間の 78 を受けたあと、AI の 85,87,89 は暴走であり、勝手にこけて自滅していくようだ。97 はバグとしか見えない自殺行為らしい。
 ということは、この時点では、人間がアマチュアレベルであっても、「 AI の手はデタラメだな」と判定できるわけだ。これなら、人間がアマチュアレベルであっても AI に勝てる、という状況だったのだろう。
 というわけで、第4局は参考にならない。あくまで例外扱いだ。つまり、「 AI が圧倒的に上」という評価は変わらないことになる。

 こういう圧倒的な強さを見て、恐れおののく人が多い。
 「もはや AI は人間の思考能力を上回っている。このままでは AI は人間以上の知性をもつようになるだろう」
 というふうに。
 では、本当にそうか? 

 前項で述べたことを思い出そう。こう述べた。
 ここで注意すべきことがある。AI はこのとき、人間の調べる範囲を超えた範囲で好手を見出しているが、それは、AI が人間の思考力を越えた思考力を持っている、ということではない。では何か? AI は、思考によってパターン認識するのでなく、計算力によってパターン認識をする。人間が思考によって見出すことを、AI は計算力によって見出す。
 だから、結果的には同じような手を打つとしても、その過程は異なる。人間は思考し、AI は計算する。やっていることはまったく別だ。だから、見かけ上は AI は思考しているように見えても、実際には AI はまったく思考をしてない。単に計算しているだけだ。

 人間が思考によってなすことを、AI は計算によってなす。結果は同じだから、「 AI もまた思考しているのだろう」と人間は推測する。しかし、結果が同じだからといって、過程も同じであるということにはならない。人間が思考によってなすことを、AI は計算によってなすのだ。
 もっとはっきり言おう。あまりにも複雑な場合分けに対して、人間は「複雑さを単純化して整理する」という方法を取ることで、10の10億乗〜10の100億乗ぐらいの場合分けを、10の2乗ぐらいにまで整理する。その整理の過程が「思考」だ。一方、AI は似たようなことをやるが、10の2乗ぐらいにまで整理するかわりに、10の5乗ぐらいにまで整理する。その整理の過程が(ディープラーニングという)「計算」だ。
  ・ 人間は「思考」によって 10の2乗ぐらいにまで整理する
  ・ AI は「計算」によって 10の5乗ぐらいにまで整理する。

 ここでは、両者は同じような結果をもたらすが、やっていることはまったく別だ、ということに着目しよう。

 ここから、次の疑問に答えることができる。
 「今回の AI の成果を、人間は利用できるか? 機械の成果を自らの知識として取り入れて、人間自身の囲碁能力を高めることができるか?」

 これに対し、「できるだろう」と思う人が多いようだ。つまり、「 AI は思考力で人間を上回るから、お利口な AI が知った知識を利用することで、人間も AI の真似ができるだろう」と。
 しかし、それには「ノー」と答えることができる。なぜなら、人間は AI の真似ができないからだ。というのは、人間には AI の計算力がないからだ。AI が計算力によってなし遂げたことを、人間が真似しようとしても、人間には AI の計算力がないのだから、AI の真似をすることなど、できるはずがないのだ。
( ※ 仮に AI が「思考力」をもつのだとしたら、人間は AI の真似をすることができただろうが。)

 とはいえ、部分的には、AI の真似事もできる。それは、「部分勢力圏を高める」という方針を捨てて、「中央で勢力を少しずつ作る」という方針だ。つまり、「部分勢力圏の蓄積よりも、全体勝利をめざして、中央に勢力を少しずつ作る」という方針だ。
 実は、これに似たことをやった人がいる。武宮正樹 がそうだ。
 世界選手権設立当初に活躍したため、「世界最強の男」の異名を取った。
 中央に大模様を作る厚み重視の棋風は、「宇宙流」という愛称で知られる。
( → 武宮正樹 - Wikipedia

 ただし、これは囲碁の主流にはならなかった。使いこなせるのは、武宮正樹本人ぐらいしかいなかったようだ。他人が真似しても、うまく使いこなせなかったようだ。
 それもそのはず。これを十分に使いこなすには、圧倒的な計算量が必要だったからだ。AI ならば、それはできるが、人間には、それができない。ゆえに、人間には、宇宙流はうまく使いこなせないのが普通だ。(従来の定跡の方が上回る、ということ。)(武宮正樹は例外だった。彼は宇宙人みたいなものだった。)
 というわけで、形だけ AI の真似事をしても、結果がともなわない。人間が AI に学ぶことなど、何もないと言えるだろう。
 比喩的に言えば、人間は山頂をめざす登山家であり、AI は山頂をめざすヘリコプターである。人間が必死に苦労して山を登るのに対して、ヘリコプターは一挙に山頂をめざす。あまりにも人間を越えた能力を持つ。だからといって、人間がヘリコプターの真似をしようとして、空中にジャンプしても、落下して死んでしまうだけだ。
 
 AI が囲碁で勝てたのは、人間以上の思考能力を持つからではなく、事前に大量の対局を経て、大量のデータ処理をして、大量のパターンを取得したからだ。その意味では人間以上のことをやっている。また、人間にはない非常に多くのデータを持つ。
 このデータを人間が使えば、人間も強くなれるか? いや、まず、無理だろう。それほど大量のデータを処理するだけの計算能力がないからだ。いくらたくさんのデータを教えられたからといって、そのデータが頭に入るわけではない。
 比喩的に言えば、Wikipedia という大量のデータを人間は機械に教えてもらうことができるが、だからといって、Wikipedia のデータをすべて頭に詰め込むことはできない。「機械のデータを使うことができれば人間も機械並みの記憶力を備える」というようなことはないのだ。
 機械の計算力が人間の計算力を圧倒的に上回るように、機械の記憶力は人間を圧倒的に上回る。ここでは人間が張り合っても仕方がないのだ。

 ともあれ、人間の思考と、機械の計算(= 論理計算・データ処理・電子処理)とは、まったく別のことである。結果だけを見れば似ているが、やっていることはまったく別のことだ。
 結果だけを見て、「機械は人間を越える思考能力を持つ」というような認識は間違っている。それは、「ヘリコプターは人間を越える登山能力を持つ」というのと同様の、見当違いの認識だ。ヘリコプターは登山なんかしない。結果だけを見れば、似たようなことをしているが、やっていることはまったく別のことなのである。
 このことをきちんと理解しよう。

 2. AI の分野


 では、AI は人間の「思考」の代替ができないのか? いや、そんなことはない。過程はまったく別であるが、結果だけなら、いくらでも人間の「思考」の代替ができるだろう。

 最初は、ディープラーニングは、画像のパターン認識で成功した。
 次に、ディープラーニングは、囲碁の手のパターン認識で成功した。これは非常に重要な成果だ。ここでは、「特徴抽出」という過程において、語句単純な「特徴抽出」の方法(それは画像認識のときに用いられた)を越えて、かなり複雑な「特徴抽出」の方法を使ったと推定できる。それというのも、この開発者が、特別に優秀な天才的な頭脳をもつからだ。
 《 Googleの人工知能開発をリードするDeepMindの天才デミス・ハサビス氏とはどんな人物なのか? 》
 ハサビス氏は4歳でチェスをはじめるとすぐに神童と呼ばれ「史上最も優秀なチェスプレイヤー」と評されるほどチェスプレイヤーとして頭角を現しました。しかし、ハサビス氏は「脳はどのようにして複雑なタスクを学習するのだろう?」「コンピューターは脳と同じことをできるだろうか?」という疑問を抱き、チェスの道からコンピュータ学習・人工知能研究への道に転向しました。
 1994年に、17歳のハサビス氏は「Theme Park」というシミュレーションゲームを開発して、2年飛び級でケンブリッジ大学を卒業。
 脳神経学の分野でもすぐに頭角を現し、2007年には「海馬の損傷による記憶喪失の症状に苦しむ患者は将来の出来事をイメージするのにも苦労する」ということを明らかにした論文を発表。この論文は科学誌ScienceのBreakthrough of the Yearにも選ばれ、ハサビス氏は脳神経科学の分野でも高い評価を受けています。
 そして2011年に、ついに人工知能を研究・開発するべくベンチャー企業DeepMind Technologiesを創設。
 2013年12月にアメリカで開催されたDeep Learning Workshop NIPS 2013で、DeepMindはスペースインベーダーなどの古典ゲームをプレイしながら学習することでゲームスキルがぐんぐん向上していく機械学習技術を披露して世間をあっと驚かせます。カリフォルニア大学バークレー校で人工知能を研究するスチュアート・ラッセル教授によると「DeepMindの技術は当時、私たちが考えていた技術的レベルをはるかに上回る予想外のもので、大きなショックを受けました。私を含めて多くの人が思考停止に陥ったと思います」とそのときの様子を振り返っています。
 DeepMindが示した高度な学習システムは何十年にも渡って研究されてきた人工知能技術の中でも画期的なものでしたが、この技術が可能になったのは「『脳』を研究していたから」だとハサビス氏は語っています。ゲームをプレイしながら学習するコンピュータは、何をするべきかという適切な解答を導き出すために過去の経験を再生して振り返って最適解を見つけ出すというプロセスを経ており、これは人間の脳の持つメカニズムに他ならないとのこと。
( → GIGAZINE

 最後に書いてあるように、コンピュータが人間の思考能力を得ようとすれば、人間の脳の構造を模するしかない。つまり、パーセプトロンをさらに脳にそっくりにしていくしかない。……そのことは、私も前から理解していたが、ハサビス氏もまた同じ原理を理解していた。
 さらに、原理を理解する人だけなら多数いたが、ハサビス氏はそれを実行するだけの才能があった。「パーセプトロンをさらに脳にそっくりにしていくためのモデルの構築」をなすだけの才能が。
 この才能こそが、今回の AI の能力を飛躍的に高めたのだ。アルファ碁には大量の計算能力が備わっていたが、大量の計算能力だけでその囲碁能力ができるわけではない。大量の計算能力とともに、卓抜な(最適な)「脳構造のモデル」が必要なのだ。ハサビス氏はそれがあった。そのことが、今回の成功に結びついた。

 ついでだが、ここをまったく理解できないのが、ドワンゴだ。ドワンゴは、清水亮という人の作った AI 会社を買収した。「日本で一番の AI 会社だ」という額面を信じたからだ。しかしその会社の内実は、「日本一」という大ボラの看板のほかには、何一つなかった。もちろん、卓抜な(最適な)「脳構造のモデル」などは、これっぽっちもなかった。そもそも、脳科学の素養すらなかった。知性の点では何から何まで空っぽだった。それでも、金をかけて、計算量だけはそこそこ十分に備えようとした。
  → 最強の囲碁AI開発へ ドワンゴと日本棋院がタッグ , 参考
 この記事を見ると、既視感にとらわれる。つい先日の第1局の直後の見解だ。人間の側は、AI の出した手の意味をまったく理解できなかった。AI が何をやっているのかも見当が付かないまま、「人間だって同じぐらいの実力だよね」と思っていた。要するに、自分の実力をまったく理解できない愚か者となっていた。
 これはドワンゴにそっくりだ。アルファ碁の実力をまったく理解できていないから、「アルファ碁に勝てるだろう」と思い込む。自分に何が欠けているかも理解できないから、「計算力さえ十分なら、あとは何とかなるさ」と思い込む。「ディープラーニングを使わない方法なら世界最強のレベルだったから、ディープラーニングを使う方法でも世界最強になれるだろう」と思い込む。
 彼らは要するに、ディープラーニングというものをまったく理解できていない。だから、計算力のことばかりを考えて、脳科学の研究をまったく無視している。
 呆れるしかない。失敗確実のプロジェクトとは、このことだ。
 とにかく、ディープラーニングで必要なのは、脳構造を模したモデルを作ることだ。これが最も重要だ。ここをきちんとわきまえよう。

 ──

 話を戻す。ディープラーニングが成功したのは、画像認識の分野であり、次いで囲碁の分野だった。いずれも、パターン認識の能力を適用することで成功した。
 このことから、ディープラーニングの成功する分野は、おおまかに見当が付く。
 「特徴抽出によってパターン認識する」
 という分野だ。具体的には、次のような分野が考えられる。
  ・ ゲームの操作 (実現済み。上述)
  ・ 病気診断   (ディープラーニングなしでも実現済み)
  ・ 景気診断   (こちらを参照 → 別項
  ・ 株価予測   (一部で実現済み → 検索重要記事

  ・ 接客     (ロボットの「ペッパー」で実現済み)


 最後の「接客」については、次の記事がある。
 お店で客に声をかけるソフトバンクの人型ロボット「ペッパー」も、「学習するAI」を使った接客ロボットだ。今秋、マイクロソフトのシステムと組み合わせたサービスが始まり、客の年齢や性別を分析し、来店状況に応じた対応をするようになる。相手にあった商品を薦めたり、在庫がない商品の注文を受け付けたりできるようになる。相手にあった「おもてなし」ができるようになるといい、このところ人手不足に悩む比較的規模が小さい小売業などで活用が期待されそうだ。
( → 朝日新聞 2016年3月13日

 このように、AI の適用が可能な分野は、いろいろとある。株価予測に応用すれば、能力の差が損得に直結する。
 ドワンゴが自らの能力に自信を持っているのであれば、株価予測の AI でも作った方がマシだったかも。
( ※ いや、その実力では損するに決まっているから、株には手を出さない方が賢明かもね。自惚れは大損に直結する。)



 【 関連サイト 】
 ディープラーニングが用いられるいろいろな分野について、次の記事で紹介ふうの解説がある。
  → 機械学習を行う人工知能が人類にもたらすインパクト




 ※ 次項に続きます。
posted by 管理人 at 23:53| Comment(4) | コンピュータ_04 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
高段者は、読みを打ち切ることをするらしい。
白78の割り込みにたいして、AIは、いろんな計算をしようとしたが、分からなくなったのでしょう。
ほとんどバグでしょうから、修正するとさらに強くなると思う。
次回は、半目勝負をしてほしいな。
(私の予想)黒番セルド9段がコミを意識して、積極的に攻めて勝つ。
Posted by senjyu at 2016年03月14日 17:47
AlphaGoのサーバ利用料金は、年間 30億円の2年間で、合計 60億円だ……という見積もりが出た。
  → http://fukuyuki.net/post-785/

 ドワンゴにそれだけの金を出す資金力があるか……というと、もちろん、ない。
  ※ 次項を参照。
Posted by 管理人 at 2016年03月15日 00:28
アルファ碁の指し手についての参考記事。以下、転載。

  ̄ ̄
 今回の五番勝負は、ディープラーニングの強みに加えて、ディープラーニングを実社会に応用する上での二つの弱点を露呈させた。
 一つは、AIが明らかに誤りと思える判断を出力した場合にも、その原因の解析が極めて困難であることだ。イ・セドル氏が勝利した第四局では、AlphaGoは明らかな悪手を繰り返した後に敗北したが、その原因は当のDeepMindメンバーにも分からなかった。通常のプログラムであればコードを追跡してデバッグできるが、ディープラーニングには人間が読める論理コードはなく、あるのは各ニューラルネットの接続の強さを表すパラメータだけ。アルゴリズムは人間にとってブラックボックスになっている。
 もう一つは、高度に訓練されたAIは、例え結果的に正しい判断であっても、人間にはまったく理解できない行動を取る場合があることだ。特にAlphaGoが勝利した第二局では、プロ棋士の解説者は「なぜAlphaGoの奇妙な打ち手が勝利につながったのか、理解できない」といった言葉を繰り返した。

 → http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/346926/031500477/

  ̄ ̄
 私の見解。

 (1) バグっぽいところの解析が困難だという。(上記)
 ふーん。だとしても、私は見当が付く。「意外な手を打たれて、それに対する予想ができていなかったので、対処する手を出すための思考時間が足りなかったこと」が一つ。もう一つは、「手の連続性にこだわりすぎて、急に離れたところに打たれると、手の連続性がわからなくなる」ということ。
 後者に対しては、「複数のマシンの合議制」という方式を取ると、うまく行きそうだ。特に、そのうちの一部は、従来方式のソフトを使うといいだろう。こうして合議制で後方を出したあとで、改めて手を持ち帰って、それぞれの AI が自分で考え直す。そのあとでふたたび合議制をすればいい。
 なお、複数マシンの合議制というのは、将棋でも見られた。

 (2) 人間にはまったく理解できない行動を取る場合があるという。(上記)
 これは、中央部分の評価のことだろう。別名、宇宙流。この件は、前項と本項で解説した。「人間にはまったく理解できない」ということはない。手の内容(読み筋)は理解できなくても、「どうしてそういう手を取ったか」は理解できる。
Posted by 管理人 at 2016年03月16日 21:30
第4局について、プロ棋士の解釈。以下、転載。

  ̄ ̄
 私はこの局面特有の状況が、コンピューターのキャパシティーを超えたのではないかと推測している。
 李九段のワリコミに正確に対応するには、左右にある弱点を考慮しながら正解手順を読み切ることが必要だ。トッププロにとっては十分に可能な作業だし、もし危なそうなら妥協すればよい。だが、アルファ碁にはどちらの着手も選択することができなかった。
 そして、現時点で不利な状況に陥っているとアルファ碁が判断した時から、別人のようになった。まるで初心者のような手を打ち出し、損を重ねていったのだ。

  ̄ ̄
 http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/031600283/?P=4&nextArw
Posted by 管理人 at 2016年03月19日 13:36
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