2016年02月24日

◆ 富の分布の法則

 富の分布には法則がある。それは、「べき分布」だ。 ──

 富の分布について、いくつかの話題の原理を探ろう。

 (1) 富の分布


 次のページが話題になった。
  → 「たった62人」の大富豪が全世界の半分の……

 タイトルが間違っているが、内容は、
 「世界の富豪トップ 62人のもつ富の総量は、世界の下位 半数のもつ富の総量に等しい」
 ということ。
( ※ 62人で世界の富の半数を握る、という意味ではない。)

 (2) 富のシステム


 次のページが話題になった。
  → 25人に1人の年収1000万以上の皆さんが日本の所得税の半分を負担している
  ( ※ 表示できないときには、テキストページ。)

 日本の所得税の税収の大部分は、高所得者が払っている、という話。以前からよく知られた話だ。

 ただし、ここでは、次の事実を指摘しておこう。
 「ワタミの社長は、 100億円以上の総資産をもつ。しかし別に、他人の 1.5万倍も能力があるわけじゃない。1.5万人(の従業員)から富を奪うシステムを構築しただけだ」


 上のページでは、著者は、「優秀な人が大金を稼いで納税しているから、大衆は金持ちに感謝しよう」という口調だが、それは根本的な勘違いだ。
 金持ちは、優秀だから金持ちなのではない。大衆の富を奪うから金持ちなのだ。そこをきちんと理解しよう。

 (3) 富の原理


 さて。上の二つの話は、ちょっと関連しているように見えるが、直接の関係はなさそうだ。前者は富の話であり、後者は負担の話だ。似てはいるが、別の話だと思える。
 ただしこの二つの話は、深いところで結びついている。その本質は、次のことだ。

 「富の分布は、べき分布で示される」


 この件は、前に下記項目で詳しく論じた。そちらを参照。
  → べき分布と正規分布

 ここから一部抜粋しよう。
 べき分布とは、平均値からハズれたものが、かなり長く延びている形だ。「1/x」という反比例の形にも似ている。下記の図を参照。


beki.png
( 出典 : Wikipedia 「べき乗則」


  ──

 まず、正規分布とは何か? それは、次のように言える。
 「ランダムな動きをなすものの統計的な分布」


 では、べき分布はどうか? おおむね、次のことが成立する。
 「どのような二つの階層を取っても、階層差が一定であれば、そのエネルギー比率は一定である」


 要するに、べき分布の本質は、それぞれの階層における「相似」という性質なのだ。

 では、「相似」という性質は、どこから生じたか?

 ここまで考えると、正解は推察される。次のことだ。
 「上から下へと、同一原理の力が働く」


 このあとで、具体的な例が示されている。
 (1) 経営力 
 「金持ちと貧乏人」という関係を見よう。ここでは、
 「金持ちは貧乏人の富を奪う力を持つ」
 という原理がある。金持ちは、社会システムをうまく利用しながら、自分と他者とで協力して生み出した富みのうちの、大部分を(自分だけが)奪い取る力をもつ。具体的に言うと、社長は部下の給料を決める力をもつ。その力によって、部下の給料を低めに抑えて、社長の給料を高めにすることができる。つまり、部下の富を奪う力をもつ。(富の配分を決定できる経営力をもつ。)

 ──

 こうして、物事の本質が理解できただろう。
 富の分布は、ごく少数の人の富の総計が、下位の莫大な人の富の総計に、等しくなる。これは、ちょっと理解しがたく観じられるが、「べき分布である」と理解すれば、うまく納得できる。(人は正規分布を基本に考えやすいので、べき分布の現象を見ると、納得しがたく感じる。)
 ではなぜ、べき分布になるか? それは、そこに「相似の力」が働いているからだ。そして、その「相似の力」とは、経営者が労働者の富を奪う力なのだ。この力が働いているがゆえに、富の分布はべき分布となり、かつ、少数の人の富の総計が多数の人の富の総計に等しくなる、という現象が生じる。

 かくて、(1)(2) の現象は、「べき分布」という概念で、統一的に説明されたことになる。こう知れば、物事の本質を理解できたことになる。



 [ 付記1 ]
 誤解があるようなので、解説しておく。
 本項では「所得の格差があること自体が悪い」と言っているわけではない。私は別に共産主義みたいな平等主義ではない。
 では何かというと、「過剰な格差がいけない」と言っている。この点では、ピケティやクルーグマンと同様だ。
 具体的に言おう。社長と労働者との格差の倍率は:
  ・ 1985年の日本では 13倍 ( → 出典
  ・ 1950年のアメリカは20倍で、2013年のアメリカは 204倍 ( → 出典
 このように、(特にアメリカでは)近年、急激に格差が拡大している。これはあまりにも過剰な格差となっている。
 そして、そのせいで、(需要不足となって)国全体の成長率が低下している。

 [ 付記2 ]
 経営者が労働者から「奪う」ということについて、「ただの格差だろ」と思う人もいるかもしれないが、違う。経営者(または資本家)が不当に「奪う」ことがある。
 その典型は、「サービス残業」だ。典型的な例は、ワタミに見られる。
  → ワタミのサービス残業 - Google 検索
 これは、違法行為をしているという点で、まさしく「犯罪」ないし「泥棒」に相当するものだ。これは決して正当なものではない。不当に「奪う」ものだ。
 仮に、これが正当であるとしたら、泥棒や強盗や殺人さえ正当であることになる。(殺人は命を「奪う」ことだ。)
 ワタミのように、「賃金を払います」と言って、実際には払わないでいることは、一種の詐欺であり、決して正当視されないのだ。(労働者が最初から低賃金を受け入れて応募した場合とは違う。)

 ※ 同様に、会社が「労働組合の結成」を妨害した場合も、これは違法行為なので、そこには「不当な」形で富を奪う原理が働いていることになる。直接的ではなく間接的な形で富を奪っている。今の日本ではびこっているのは、この形の搾取だ。特に、非正規社員は、労働組合の結成が妨げられているせいで、富を奪われる度合いがひどい。



 【 関連項目 】

 → べき分布と正規分布
 
  ※ 本文中で紹介した項目。
 


 【 参考書籍 】


歴史は「べき乗則」で動く


 ※ べき分布についての解説書。良書である。
 ※ ランダムな現象(確率的な現象)と、規則的な現象との中間に、
   「べき分布」(べき乗則)の現象がある。その中間的な領域の話。
 ※ 「べき乗則について、本書ほど丁寧に触れられているものは類書には無い」
   という読者批評がある。( Amazon )
posted by 管理人 at 22:19 | Comment(1) | 科学トピック | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
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Posted by 管理人 at 2016年02月24日 23:44
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