保育所不足が問題となっている。話の発端は、このページ。
→ 保育園落ちた日本死ね!!!
保育園に申し込んで、落ちてしまったため、仕事ができなくなってしまう……という人の叫び。切実ですね。職を失う恐怖。
これに対して、同感だという声がたくさん寄せられた。
→ はてなブックマーク
何と 1800人以上がブックマークしている。最近ではまれに見る人気だ。それだけ多くの人々が同様の考えをもっているということだろう。
──
問題はこれほど大きいが、しかしながら、この問題は容易に解決が可能である。
そもそも、人々はこの問題を「福祉」の問題だと思い込んでいる。だから、「福祉を拡大せよ」という主張になる。しかしながら、福祉のための財源は限られている。ゆえに「ない袖は振れない」というような形で、問題解決は遠のく。
( ※ 「福祉のための財源を増やせばいいだろ」という声も出るだろうが、国民が支持したのは自民党である。自民党は福祉を削って法人税減税をするのが目的の政党だ。その自民党を支持したのが国民なのだから、「福祉のための財源を増やせばいいだろ」という声は、自己矛盾であろう。つまり、その道は、取られない。取られないことを、国民が選択したからだ。)
この問題は、福祉の問題として見る限り、解決は不可能だ。(金がかかるのに金がないからだ。)……しかしながら、この問題は完全に解決可能な問題だ。
実は、この問題は、福祉の問題ではない。では何の問題かというと、経済学の問題だ。そもそも、
「保育所が不足する」
というのは、
「需要過剰で、供給不足だ」
という問題だ。そして、需要と供給のミスマッチを解決するというのは、経済学が長年研究してきた、経済学のど真ん中の問題だ。
したがって、この問題を解決するための理論は、経済学の中にいっぱいある。それらの理論のうち、有用なものをいくつか適切に取れば、この問題は解決する。
以下では、具体的な解決の方法を示そう。
──
(1) 市場原理
基本は、「市場原理」である。つまり、「供給側と需要側が価格調整で需給を一致させる」という原理だ。これによって、基本的には、需給は一致する。
最も簡単なのは、次の方法だ。
「それぞれの保育所で、オークションをして、高い値段を払った人から順に入所させる」
この方法なら、金さえ払えば、確実に入所できる。「入所できないから仕事を辞めなくてはならない」というような事態はなくなる。(少なくとも高所得者はそうだ。)
もっとも、こういう「完全な市場原理」というのは、あまりにも荒すぎる。「札束にものを言わせる」というような方針は、とうてい国民の同意を得られないだろう。「金持ちばかり優遇するのか」という批判も生じるだろう。だから、この方法がすぐに取られることはあるまい。
とはいっても、少なくとも上記の方法で、おおまかには解決できるのだ。具体的な手順はともかく、基本原理としては、「市場原理の発想で解決が付く」と理解しておこう。
※ つまり、経済学の基本原理を、この問題の解決の原理に据える、ということ。
ともあれ、(市場原理をそのまま導入することは困難だとしても)、原理的にはその原理を取り入れるといい。つまり、おおまかには、こうするといい。
「高い金を払う人が、優先的に入所できる」
これは、「高所得者を優遇する」というふうに見えるが、そうではない。むしろ、
「必要度が高い人ほど、高い金を払って、その商品を買う」
ということだ。つまり、市場原理そのものだ。当然ながら、貧乏人であっても、必要度が高ければ、高い金を払って、その商品を購入できる。
かくて、「必要度の高い人に優先して商品が行き渡る」というふうになる。つまり、最適配分ができることになる。
( ※ 「最適配分」は、経済学の概念。)
(2) 比較優位と財源
上記のような「高い金を払う人が商品を買える」という市場原理の方針は、
「必要度の高い人に商品が行き渡る」
という最適配分の効果のほかに
「高所得者ほど商品を購入しやすい」
という効果も生じる。これは一見、「金持ち優遇」というふうに見えるが、そうではない。むしろ、
「高い生産能力のある人ほど、休職しないで、働ける」
ということだ。これは「比較優位」の発想で理解できる。
モデル的に言うと、こうだ。
・ Aさんは年収 800万円
・ Bさんは年収 300万円
このとき、次の二通りを考える。
・ Aさんが働いて、Bさんは休職 (生産額は 800万円)
・ Bさんが働いて、Aさんは休職 (生産額は 300万円)
生産額(二人の合計額)は、前者が 800万円で、後者が 300万円。したがって、前者の方が生産額が大きい。ゆえに、生産額が大きい人が働いて、生産額が少ない人が休職した方がいい。
というわけで、「年収の多い人が優先的に保育所を利用できる」ということは、社会的には、有益なのである。
※ 比較優位は、経済学の概念。
もう一つ、財源の効果もある。
高所得者が高料金を払えば、保育所の収入が増える。このことで、保育所建設が促進される。(保育所も儲かるし、自治体の負担も減るからだ。)
自治体の負担が一定だとしても、高所得者が多くの料金を払えば、それだけ多くの保育園を供給できる。
つまり、高所得者がどんどん入所できて、高い金をどんどん払えば、保育所と自治体の収入がどんどん増えるので、保育所がどんどん増えるのだ。このことで、低所得者にも好影響が及ぶ。
(3) 段階制
さて。具体的に市場原理を適用するときには、どうすればいいか? オークションという方法は荒すぎるが、かわりにどうすればいいか?
これは、演劇や音楽会などのチケット販売と似た方式にすればいい。つまり、「S席、A席、B席、C席」というふうに、段階を付けて、料金を変えればいい。
・ S席 …… 第1期に販売。高価格。(売れ残りはA席にする。)
・ A席 …… 第2期に販売。中価格。(売れ残りはB席にする。)
・ B席 …… 第3期に販売。低価格。(売れ残りはC席にする。)
・ C席 …… 第4期に販売。超低価格。(売れ残りが生じないような価格にする。)
以上によって、8割ぐらいの人は、確実に保育園に入所できる。「仕事を辞めなくてはならない」というような不安からは解放される。
残りの2割ぐらいの人は、「入所できるか、できないか」という不安に怯えるが、そのかわり、料金は激安で済む。
(4) マッチング理論
S席、A席、B席については、「応募者の全員にチケットが行き渡る(保育所に入所できる)」という形で解決が付く。
C席については、「誰にチケットを渡すか(誰に入所の権利を与えるか)」という問題が残る。この問題をどう解決するか?
まず、C席を求めるのは、次のいずれかだろう。
・ よほどの低所得であって、超低価格の料金も払いにくい。
・ あまり必要性がないので、標準的な金を払いたくない。
このような人の中で、誰がC席のチケットを買えるか? それには、マッチング理論を使うといい。
→ 2012年ノーベル経済学賞:マッチング理論
具体的には、こうだ。
・ 応募者が、自分の行きたい保育園に応募する。
・ 保育園は、応募者の中から、好ましい順で選ぶ。
・ それで定員が埋まらなかったら、第2志望以下に回す。
上の話は簡略化しすぎているので、詳しくはリンク先を読んでほしい。ともあれ、各人の「第1志望」「第2志望」などを考慮して、可能な範囲で最適な組み合わせができるようにするのが、マッチング理論だ。この方法を使えばいい。
※ 「保育園は、応募者の中から、好ましい順で選ぶ」というのは、
すでに現在やっている「応募者への点数づけ」と同じことだ。
必要性の高い人ほど、高い点数が付いて、優先されるわけだ。
※ マッチング理論は、経済学の理論。
高校の入学者決定などでもすでに実用化されている。
これを保育所の入園者決定も適用できるわけだ。
(5) 給付金
以上の方法で、応募者の9割ぐらいは、どこかに入所できる。最後に、あぶれる人が1割ぐらい出るだろう。これは、「保育所の必要性が最も低い人」だ。これらの人には、保育所は提供されない。
では、どうする? 保育所入所の必要性が低いとはいえ、いくらかは必要性があるのだ。これらの人々について、無視してしまえ、ということにはならない。かわりに、何らかの救済措置をなすべきだろう。では、どんな?
次の救済措置を取ればいい。
「保育所には入れなかった人には、給付金を与える」
このあと、各人は次のいずれかを選ぶ。
・ 給付金によって、ベビーシッターを雇用する。
・ 給付金をもらって、自分で子育てをする。
つまり、ベビーシッターを雇用するか、自分自身がベビーシッターになるか、そのいずれかだ。
で、後者(自分自身がベビーシッターになる)というのは、現行の「育休給付金」というのと同様である。(政府はこれを大々的に推奨する。)
現行の「育休給付金」は、ベビーシッターを雇用する人(自分は働く人)には給付されない。その点が、上記の給付金とは違う。
本項で述べる給付金は、ベビーシッターを雇用する人(自分は働く人)にも給付される。その点が、現行の「育休給付金」とは異なる。
ともあれ、こういう給付金を出すことで、「保育所には入れなかった低所得者」への対策となる。保育所には入れなくても、そのかわりとなる救済措置(現金給付)があるからだ。
なお、下記項目を参照。
→ 育休給付金を廃止せよ
──
結論。
以上の (1)〜(5) の方法を取ることで、保育所不足の問題は完全解決する。金さえ払えば、必ず保育所には入れる。金を払わなかった人は、保育所には入れないが、かわりに、金をもらえる。
なお、このやり方だと、「高所得者は働いて、多額の生産活動をする。低所得者は働かないで、生産活動するかわりに、育児をして、金をもらう」というふうになるので、比較優位のやり方が成立していることになる。国家的にも、経済活動を活発にする効果がある。
( ※ 「一億総活躍」だ。)
[ 付記1 ]
次のページがある。
→ 認可保育園が不承諾な我が家に残された道が罰ゲームのようだ
認可保育園には入れなかった、という人の嘆き。
だが、この人は、文京区に住んでいる。文京区は土地が高い。土地が高いところでは、保育所を作りにくいのは、仕方ない。(自治体の負担が大きくなるからだ。)
一般的には、保育所の入りにくい地域からは出て、保育所の入りやすいところに行くといい。これが一番いい対策だ。たとえば、川崎市がお薦めだ。
→ マンション建設ラッシュでも待機児童ゼロの川崎市
また、他の地域でも、対処の仕方はある。こうだ。
「まずは保育所の空きを求めて、あちこちの保育所に応募する。保育所が決まったら、その地域に引っ越す」
住居を決めてから保育所を決めるのではなく、保育所を決めてから住居を決めるわけだ。この方法だと、入所できる可能性が圧倒的に高まる。
都心で子育てしてる友人は、保育園のめどが付いてから家を探すという順序の人ばかりだ
( → penguaholic のコメント / はてなブックマーク )
対処の仕方はいろいろとあるので、現状でも、できる限りのことはした方がいい。知恵の有無によって、進む道は大きく異なる。
[ 付記2 ]
本項の方針に対して、反論があるかもしれない。
「金のある人はそれでいいとしても、金のない人はどうするんだ。低所得であっても働きたいという人はどうするんだ」
それに答えよう。
その問題は、低所得者への対策だから、福祉の問題である。福祉の問題と、需給調整の問題は、別の問題であるとして、切り分ければいい。(切り捨てるのではない。無視するのではなく、別問題として扱う。)
ではどうするか? こうだ。
「低所得者には、児童手当を高額で支出する」
たとえば、普通の家庭には、児童手当が2万円。一方、低所得者には、児童手当が5万円。3万円の差が付く。それだけ優遇されるわけだ。
このあと、5万円の児童手当をどう使うかは、各人に任される。
・ B席のチケットを買って、保育所を利用する。
・ ベビーシッターを雇う。
・ 自分で育児する。(保育所不利用の給付金をもらう。)
以上のいずれでもいい。(なお、5万円で足りない分は自腹。)
ともあれ、低所得者には高額の児童手当が付くので、それを利用すればいい。これが「福祉」だ。
一方、保育所を利用するか、ベビーシッターを雇うか、自分で育児するかは、各人の判断に任せればいい。ここでは、市場原理が働く。(各人がどの商品を買うかは、各人の勝手だ。好きにすればいい。)
このように、福祉の問題と、需給の問題とを、切り分ければいい。そうすれば、自動的に最適配分がなされる。
( ※ 逆に言えば、福祉の問題と、需給の問題とを、いっしょくたにしているから、話がゴチャゴチャになって、需給の不一致という社会的問題が発生する。ここが問題の核心であると理解しよう。)
[ 付記3 ]
「高料金の S席チケットを買う人がいるのか?」
という疑問が生じるだろう。そこで答えよう。
買う人はいる。それは、買い手が高所得であるだけでなく、保育所が高品質である場合だ。特に、駅前は立地が良いので、人気が高くなる。こういうところは、すぐに席が埋まりそうなので、S席でも買う人がいる。
一方、駅から遠いと、人気薄なので、S席を買う人は少なくなり、B席を買う人が多くなる。
全体としては、人気の高い保育所は、高い金を払った人が第1志望で入所できる。人気の低い保育所は、第1志望が満員では入れなかった人が、第2志望か第3志望で入所するのだが、そのときは、料金は低めで済む。
こういう形で、最適配分が進む。
それと同時に、人気の高い保育所では、(高い料金を取るので)、保育士に高い給料を払うことができるようになる。こうして、保育士となる人数の総数を増やすことができるので、保育所不足は解決に向かう。
( ※ 「給料が安いから保育士をやめた」という人々が復帰するから。)
[ 付記4 ]
(5) では、最後にあぶれた人が、給付金をもらう。その額はどのくらいか?
この件は、次項で計算した。16.5万円だ。
→ 保育行政を一元化せよ
ここで注意。この金額は、現状では、育休給付金の「平均額」である。高所得者ほど多くもらえるわけだ。一方、本項の給付金は、全員一律で同額にする。理由は下記。
→ 育休給付金を廃止せよ
したがって、16.5万円は、平均額ではなく、一律の額である。
なお、育休給付金は現在所得の 67%であるから、平均的には所得は現状の 33%減となる。
しかしながら、本項の提案では、給付金をもらうのは、低所得者だけだ。(なぜなら、まともな所得がある人は、B席以上のチケットをすでに買っているからだ。その席を買う気のなかった低所得者だけが残っているからだ。)
これらの低所得者にとって、一律の16.5万円(非課税)は、かなりの高額となる。これだけの金額をもらえるのであれば、現在所得の 67%ということもなく、現在所得と同程度の(または上回る)額となるだろう。だったら、これらの人々は、保育園からあぶれたからといって、悲観することはない。多額の給付金をもらって、自宅で育児した方が、かえって嬉しいだろう。
※ ここでも (2) の「比較優位」の原理が働いている。
給料の高い人より低い人が、仕事をしないで育児する方が、
社会的には人的資源を有効に利用したことになる。
※ 以下は細かな話。読まなくてもいい。
[ 補足1 ]
「保育所不足が完全解決したら、域外から新規住民が流入するので、需要が急増して、あぶれてしまうのでは? いたちごっこになるのでは?」
という懸念がありそうだ。
これを解決するには、域外からの応募者については、次のようにするといいだろう。
・ S席については、無条件で認める。
・ A席、B席、C席については、優先順位を下げる。
(席が余った場合のみ入所できる。)
・ 席が取れなかったときの給付金は減額される。
S席の購入者は、自治体の財政にデメリットをもたらさない。また、高額所得者ならば、高額の住民税を払うので、自治体にメリットがある。だから自治体は積極的に受け入れていい。
他の席については、優先順位を下げる程度の処遇だ。
なお、「域内居住者」の定義は、「域内に2年以上の継続居住」を条件とするといいだろう。妊娠してから転居するようなのは、域内居住者とは見なしがたい。
[ 補足2 ]
保育所の建設が進まないのは、自治体職員が自分かわいさの保身で、過剰な規制をするからだ、という指摘がある。
→ 保育園が増えない理由 | 駒崎弘樹公式サイト
→ 待機児童増加の、意外な犯人は | 駒崎弘樹公式サイト
ここでは、自治体の側の保身による規制がある。こういう規制こそ、規制緩和の対象とするべきだろう。
小泉行革では、「料金引き下げ」のための規制緩和がなされたが、その結果は「安全性の無視」だった。
それより、保育所の規制緩和は、「供給不足」を解消するためにやるべきだ。「料金引き下げ」のためでなく、「供給不足」を解消するためなら、規制緩和は必要だ。
というより、自治体の規制のせいで「供給不足」が起こっていた、というのでは、シャレにならない。呆れる。
【 関連項目 】
本項の方法で、財源不足を心配する人もいるだろうが、財源は下記の箇所からもってくればいい。
→ 育休給付金を廃止せよ
あと、本項で述べたチケット販売の方法でも、高額所得者が高料金を支払うので、それを財源として、保育所をどんどん増設できる。
なお、直接の関係はないが、保育所不足でなく保育士不足については、下記で論じた。
→ 保育士不足の解決策
→ 保育士不足の解決策 2
【 関連サイト 】
ベビーシッターを重視するべきだ、という意見は、ネット上にもある。
→ 「保育園落ちた日本死ね!!!」って言われたけど、むしろ東京都は保育園をつくるべきではない理由
このページの論理(ベビーシッター推進で保育所不要)には賛同できないが、それはそれとして、「ベビーシッター推進」という方針そのものは、柱の一つとしては成立する。
「フランスではベビーシッターが標準的だ」というような話は、ネット上にたくさんある。
→ Google 検索
一例は下記。
ヌヌさん。正式名称は、Assistante Meternelleと言います。個人で個人のお子さんを預かる、いわばベビーシッターです。
育児環境が整っているイメージのあるフランスですが、実際は、保育園に行っている子よりも、ヌヌさんに世話をしてもらっている子の方が圧倒的に多いんですね。だから、フランスの産んでも働くという現状を影で支えているのは、ほかでもない、このヌヌさん達なのです。
( → フランスのベビーシッター事情で気づくその質とは? [子育て] All About )
とはいえ、このベビーシッターは、実は外国からの移民である。日本では、ちょっと導入しづらい。
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「保育園落ちた日本死ね」と叫んだ人に伝えたい、保育園が増えない理由
http://www.komazaki.net/activity/2016/02/004774.html
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宮崎議員は嫌いになっても、男性育休は嫌いにならないでください
http://www.komazaki.net/activity/2016/02/004771.html
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