事故から1カ月たったことで、メディアでもいろいろと報道が出ている。それらの情報を受けた上で、新たにまとめてみよう。
(1) 基本
基本的には、特に重大な事実は見つかっていない。事故の直後にいろいろと判明したことぐらいだ。根本原因は見つからないままだ。
→ 「なぜ」消えぬ1カ月 15人死亡、軽井沢・バス事故:朝日新聞デジタル
これまででわかった重要なことは、次のことぐらいだ。
・ ギアはニュートラルだった。
・ ギアは、はじかれる(入らない)ことがあるタイプだった。
・ ブレーキは正常だった。
・ ブレーキ痕はなく、タイヤ痕があった。(ブレーキ不作動。)
・ ブレーキランプは点灯していた(らしい)。
・ ゆえに、排気ブレーキはかかっていたらしい。
・ ハンドル操作は正常だった。
以上では、エンジンブレーキや排気ブレーキがかからなかったことはいくらか説明が付くが、ブレーキがかからなかったことについては十分に説明が付かない。「ブレーキとクラッチの踏み間違えではないか?」という可能性も考えられたが、どうも、構造上、そういうことはあり得ないらしい。かくて、ブレーキが作動しなかったことは、謎のままである。
(2) 新事実:時速 96キロ
新たな事実が判明した。脱線のときには時速 96キロで、これはブレーキがまったくかからなかったことを意味するそうだ。
警察が運行記録計の解析を進めた結果、バスのスピードは、転落直前、制限速度のおよそ2倍の時速 96キロに達していたということです。さらに運行記録計を詳しく調べたところ、バスは事故現場のおよそ1キロ手前で下り坂が始まってから転落するまで一度もスピードを落とさずに加速し続けていたとみられることが、警察への取材で分かりました。
( → バスは一度も速度落とさず加速し続けていたか NHKニュース )
これは非常に重要な新事実だ。対処にミスったのではなくて、対処そのものがなされなかったことになる。あわてふためいて一時的に失敗した、というようなことではなく、最初から最後までずっとブレーキ操作をなさずにいたのだ。
しかも、である。このとき、運転手は心神喪失状態であったわけではない。なぜなら、ハンドル操作はきちんとできていたからだ。うねる道筋をちゃんと左右に曲がることができていた。
(3) 原因の推定
以上からして、事故の直接の原因は「ブレーキをかけなかったことだ」とわかる。これは運転手自身が操作した( or 操作しなかった)ことだろう。
では、そのまた原因は? 次の二つが考えられる。
・ 肉体的能力喪失
・ 精神的能力喪失
肉体的能力喪失とは、「足が吊る」というような状態だ。こうなると、ブレーキをかけたくても、ブレーキをかけられなくなる。足が動かないからだ。アクセルは踏んでいなかっただろうが、下り道なので、アクセルを踏まなくても、どんどん加速していく。……ただ、この場合は、上半身が正常である限り、エンジンブレーキをかけることができたはずだ。「ギアをはじかれた」という可能性もあるが、常識的には、ここまで正常に運転してきたのだから、ギア操作をずっとミスったままだったとは思えない。長い距離のどこかで、エンジンブレーキをかけることができたはずだ。となると、「足が吊ったから」という理由は、理由としては十分ではない。(エンジンブレーキをかけなかったことの説明がうまく付かないからだ。)
精神的能力喪失については、次に述べる。
(4) 新事実:適性検査
新たな事実が判明した。運転手の適性検査で、この運転手は「不適格」であったそうだ。つまり、そもそも運転手として運転する能力がまったく不十分だった。
《 バス事故の運転手 1か月前の適性検査で最低評価 》
運転手が、事故の1か月前、前の会社にいたときに受けた運転適性検査で、5段階の評価で最も低い「特に注意」と診断されていたことが分かりました。
前のバス会社に在籍していたときに、任意の運転適性検査を受けていたことが分かり、NHKはその診断結果を入手しました。
それによりますと、土屋運転手は9つの検査項目のうち、状況変化への反応をみる「正確さ」や「速さ」など3つの項目で、5段階で最も低い「1」と評価されていたことが分かりました。
コメントでは「誤りの反応が多くありました。突発的な出来事に対する処置を間違いやすい傾向がある」などと警告されています。
また、注意力という検査項目でも「1」と評価され、「全体的に注意力が散漫」だと指摘されています。
結局、9つの検査項目のうち4項目が「1」で、総合的な評価でも5段階で最低の「特に注意」と診断されていました。
( → NHKニュース )
呆れた。あまりにもひどすぎる。
なお、上記のような能力不足は何かというと、たぶん、「老人性の運転能力喪失」であろう。前に NHK の番組でやっていたが、老人になると、まともな運転能力がなくなる。とっさの場合の判断ができなくなる。特に、危険時への対処がまったく遅れたり間違ったりする。そのせいで事故の危険性が著しく高まる。
これを普通の人でたとえると、「大量の飲酒をした状態」である。単に反応が鈍くなるだけでなくて、視野が狭まり、物体(標識など)をしばしば見落とす。しかも、自分の能力が落ちているということに(あまり)気づかない。自分が何を見失っているかを理解できていない。
つまり、老人になると、否応なく、飲酒運転状態みたいになるのだ。
今回の運転手も同様であったらしい。そのことが、上の適性検査からわかる。
そして、老人性の能力喪失で飲酒運転状態みたいになっていたことに加えて、深夜運転で眠くなっていたとすれば、精神的な意味での運転能力はまともにあったはずがない。操作ミスをして、あわてていれば、次にどうすれば解決できるかの判断能力もなくしていたはずだ。いや、その能力はもともと備わっていなかったはずだ。(それが適性検査からわかる。)
比喩的に言えば、このバスでは、運転手が運転を失敗したのではない。もともと運転手が乗っていなかったのだ。乗っていたのは、運転手ではなくて、「お猿の運転手」だったのである。お猿にはもともと運転能力がない。だから、まともに運転できなかったというだけのことだ。お猿にまともな運転を望むことが、もともとの間違いなのである。
(5) 事故の根源
ここまで見れば、事故の根源が何かもわかる。このような能力喪失した高齢者を、いい加減に雇用して、運転させたことである。比喩的に言えば、猿が猿であることを理解しないまま、猿に運転させたことである。そういうデタラメなことをした会社に根本的な責任がある。
( ※ 猿には責任はない。猿に運転させた会社に責任がある。)
(6) 規制緩和の影響
では、「会社のせいだ」ということで、すべて片付けていいか? いや、いけない。このような会社をのさばらせていた政府に責任がある。
・ 無能な猿に責任があるのでなく、無能な猿に運転させた会社に責任がある。
・ 馬鹿な会社に責任があるのでなく、馬鹿な会社に営業許可を与えた政府に責任がある。
後者は、規制緩和のことだ。「安ければいい」という旗の下で、デタラメな経営をする弱小の馬鹿会社を大量に参入させた。それが規制緩和だ。「ダメな会社は市場で淘汰されるから、市場に任せればいい」という理屈。
しかし、「ダメな会社は市場で淘汰されるから、市場に任せればいい」というのは、犯罪行為には適用されない。「自由放任にすれば自動的に最適化される」ということは、犯罪行為には適用されない。かわりに、「目先の利益を得るために、嘘八百で詐欺をすればいい。詐欺がバレたら、破綻すればいい」というエセ資本主義がはびこった。
結局、規制緩和とは、詐欺師の跋扈(ばっこ)するエセ資本主義を推進することだった。かくて、「安かろう、悪かろう」というゴミみたいな会社が雨後の竹の子のごとく湧き出して、粗製濫造状態となった。特に安全性については、「事故が起こらない限り、安全性のコストは徹底的に手抜きする。事故が起こったら、破綻して逃げる」という道が取られた。(ギャンブルのようなもので、確率的に事故が起こることは少ないから、たいていの場合は利益が出る、というわけ。)……こういうギャンブル主義による安全性の手抜き体質が、今回の事故を引き起こした。
初めと最後をつなげば、こうだ。規制緩和が、安全性無視の詐欺会社を跋扈(ばっこ)させた。
(7) 今後の対策
すぐ上のことから、今後の対策もわかる。
NHK の記事では、「適性検査をきちんとやれ」というようなことを言っているが、意味がない。現状のように粗製濫造の状態が続く限り、あちこちで手抜きが起こるに決まっている。法の網をかいくぐって、インチキをして、利益を出そう……という会社がはびこるに決まっている。
今回のバス会社は、適性検査を手抜きした。
一方、今回のバス会社に発注した旅行会社は、基準(法定?)のバス代金を支払わず、基準以下のバス代金しか払わなかった。実際には、金を払ったあとで、キックバックという形で一部返金を受けることで、法的な規制を骨抜きにしてしまった。
要するに、この業界は、特にこのバス会社が悪質だったというより、インチキをする詐欺師みたいな連中ばかりがはびこっているのだ。それというのも、信用よりも目先の利益ばかりを追う弱小のクズ会社ばかりがはびこっているからだ。
とすれば、対策は、新たな基準を導入することではない。「法を逸脱しよう」というようなクズ会社をこぞって排除することだ。具体的には、弱小の会社を排除して、まともな大会社だけにすることだ。要するに、規制緩和とは逆で、まともな基準に達しないような会社を排除する。あちこちからどんどん参入させて競争を激化させるのではなく、参入者を厳しく絞る。そして、そのためには、参入障壁をかなり高くするといい。その参入障壁は、安全性であるべきだ。
具体的な例は、こうだ。
「自転車がこの死角から飛び出すかもしれない。体を動かしてのぞき込めば死角がなくなりますよ」
栃木県佐野市のジェイアールバス関東安全研修センター。訓練専用車での運転を記録した自分の映像を前に、運転手が指導を受けていた。運転中の視線を画面に映す「アイマークレコーダー」を備え、アクセルやブレーキの操作、車体の揺れも記録できる。5カ月前に入社した神聖さん(34)は「前の会社でも大型バスを運転していたが、より正確な運転を心がけるようになった」と話す。
運転手は入社から1カ月間、同センターで研修を受け、大型車特有の車両感覚や操作を路上でたたき込まれる。バスの構造や事故の歴史も学ぶ。1人で客を乗せられるのは入社6〜7週間後。大井康裕・取締役総務部長は「鉄道や航空機と比べ、バスの安全は運転手の力量に大きく依存し、研修が不可欠」と強調する。
( → 朝日新聞 2016年2月14日 )
こういう十分な研修施設のある大会社のみが、バスの運行をできるようにすればいい。そういうふうに、安全性の面で、参入障壁を高めればいいのだ。そうすれば、クズ会社は自動的に排除される。
というわけで、「安全性重視の規制強化」というのが、私の最終結論となる。
[ 付記1 ]
実は、政府は、「安全性重視の規制強化」という方針をすでに取っている。
長野県軽井沢町のスキーツアーバス事故で、国土交通省は貸し切りバス事業者への監査や、事業への新規参入時の審査などを厳しくする方針を決めた。2000年の規制緩和に伴ってバス事業者が増えるなかで、安全管理体制を見直す考えだ。
具体的には @事業参入時の安全確保A安全監査の実効性B運転手の運転技術C安全コストを盛り込んだ運賃制度の順守D衝突被害軽減ブレーキなど車両面での対策――について、規制を強化する方向で具体的な再発防止策をつくる。
( → バス事業参入の審査厳格化 : 朝日新聞 2016年1月23日 )
では、その実効性は、というと、下記。
[ 付記2 ]
上の記事の @〜D を見ればわかるが、これらの措置は十分ではない。特に、「賃金水準の確保」ができていない。そのせいで、「安かろう悪かろう」の人材確保しかできない。結果的に、運転能力をなくした 65歳ぐらいの無能力者を雇用することになる。
この問題を解決するには、「賃金水準の確保」が必要だ。夜勤なら時給 2500円以上は必要だろう。なのに現実には、コンビニの深夜バイトの低賃金。
賃金について、時給を計算すると、たったの 1250円である。連続の深夜勤なのに!
( → スキーバス事故には事故調を )
これでは、事故が起こるのは当然だろう。(低賃金の無能な労働者が、コンビニの深夜店員みたいにのんびりして気を抜いた状態で仕事をしてれば、事故が起こるのは当り前だ。)
極端な低賃金では、無能な人材しか得られない、と理解するべきだ。そして、その結果が、今回の運転手による事故だろう。
なお、会社が適性検査をしなかったのは、サボりではなく、故意であったはずだ。「低賃金で雇用した人は、適性検査では弾かれるようなクズばかりだ」とわかっていたからこそ、適性検査を故意にやらなかったのだろう。……確信犯ですね。
悪い奴らばっかり。
それとも誤用は確信の上でしょうか?(笑)
私も言葉尻で恐縮ですが、この事象はエセ資本主義ではなくて、規制無き資本主義そのものではないかという疑問が生じております。
まあ、状況証拠や因果関係は明確になっているので再発防止策は立てられるとは思いますが、消化不良な感じ。
ググればわかります。
凍結だったら、他にもいっぱいスリップした人がいるでしょ。そもそも、自動車がいっぱい走っている道路が凍結するわけがないんだが。雪でもないのに。
現況は、SA が満車になるほど、道路はいっぱいだったそうです。
路面の凍結だったとしても、監視カメラに映ったようなハンドル操作はできっこないですしね。
最初にフットブレーキではなく、エンジンブレーキや排気ブレーキからかけはじめるというのはそれなりの熟練者だと思います。
今回の事故の場合、シフト操作の誤りでニュートラルになっていたのに気付かなかった可能性大ということで、エンジンブレーキは無効、排気ブレーキはかけたとしても無効ということになります。
謎なのはフットブレーキを踏まなかったことですが、ブレーキを踏んだけれども(検証のすべはないかもしれないが)、ブレーキのところに缶コーヒーの缶などがはさまっていてかかっていなかったという可能性はありそうです。(かなりお間抜けですが、アマチュアドライバーの事故原因としてそれなりの割合を占めている)
プロのドライバーはこのことを熟知していて運転席まわりの整理整頓に非常に気をつかいますが、アマチュアドライバーは案外に無頓着です。今回のドライバーがアマチュアに近いとすればありうる原因でしょうね。
今回の事故の場合、サイドブレーキをかけられれば多少なりとも減速できたのでしょうが、パニックでそこまで頭が回らなかったか、スリップを恐れた(サイドブレーキを引くのはドリフトの常套テクニックでもあるので)のかもしれません。