( ※ 本項の実際の掲載日は 2016-01-21 です。)
第9惑星が存在する……という説が報道された。
《 太陽系に第9惑星?地球の10倍質量…米で推定 》
太陽系の外縁部にこれまで観測されていない惑星とみられる天体が存在する可能性があるとする研究成果を、米カリフォルニア工科大の研究チームが20日にまとめ、米天文学会誌に発表した。
この天体はまだ見つかっていないが、ほかの小天体の軌道などから、計算で推定したという。地球の10倍の質量を持ち、1万〜2万年かけて太陽を周回しているとみられる。研究チームは、この天体を「第9惑星」と呼んでいる。
研究チームは、太陽系外縁部で見つかった六つの小天体の軌道が、いずれも1方向に大きく変形していることに着目した。別の大きな天体が、反対の方向に変形した軌道を持っていれば説明がつくことを、計算で確かめたという。
この天体と太陽の距離は、平均すると太陽―海王星間の20倍になるとみられる。この天体の存在を観測で確かめるには、ハワイにある日本のすばる望遠鏡など最高性能の望遠鏡が必要で、研究チームは米メディアの取材に「今後5年はかかる」と話した。
( → 読売新聞 )
米カリフォルニア工科大による図は下記。

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さて。このような説は、にわかには信じがたい。「地球の10倍の質量」なんて、そんな巨大な質量が、太陽系の外周部にあるはずがない。(太陽系の誕生時に惑星としてできたのだとすれば、だが。)
また、これが細長い楕円形であることからして、これは太陽系の誕生時にできた惑星ではなく、外部から紛れ込んだ準惑星であることになる。
つまり、このような天体は、仮に存在するとしても、惑星ではなく、準惑星であるにすぎない。
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さらに言えば、このような準惑星が存在するはずもない。
冥王星の由来を思い出そう。
→ 王星はどこから来たか?
つまり、エッジワース・カイパーベルト天体であれ、オールトの雲であれ、それらに由来するような天体は、たいして規模が大きくないし、氷が主体である。とうてい、「地球の10倍の質量」なんて、ありえない。
要するに、物理学的(天文学的)な常識からして、今回のような「第9惑星」などは、存在するはずがない。ほとんどトンデモだと言える。
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では、第9惑星が存在しないとしたら、今回の研究報告は何を意味するか?
このあとは、論理力の問題だ。論理的な思考能力によって、「思考の間違い探し」をすることで、冒頭の記事の論理的な誤りを指摘できる。その解答は……
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解答を述べよう。
まずは、図を再掲する。

ここでは、六つの小惑星(左側)とバランスを取る形で、第9惑星(右側)が存在することになっている。
ここで、第9惑星の存在は、左側とバランスを取ることについて、「十分条件」ではあるが、「必要条件」となっていない。
つまり、六つの小惑星(左側)とバランスを取るものは、第9惑星という「1個の惑星」である必要はないのだ。かわりに、「6個の小惑星」であってもいいのだ。
報道では、左側に6個の小惑星があり、右側に1個の惑星がある。この場合には、左側にある6個の小惑星とバランスを取るためにある惑星は、とても長大な楕円軌道を取る必要があるので、ものすごく莫大な質量をもっている必要がある。 …… (1)
一方、左側に6個の小惑星があり、右側に6個の小惑星があることも考えられる。この場合には、左側と同様の小惑星があればいいので、ごく普通のサイズの小惑星が6個あるだけで足りる。 …… (2)
上の (1)(2) という二通りの可能性がある。そのどちらが妥当であるか?
もし (1) ならば、これまでの天文学をすべて否定してしまうような、トンデモ学説が正しいことになる。まったくありえそうにないことが事実だったことになる。
もし (2) ならば、おかしいことはなにもない。単に細長い楕円軌道の小惑星がたくさんある、というだけのことだ。そして、そのことは、十分にありそうなことだ。
ここまで見れば、どちらが正しいかは、明らかだろう。つまり、巨大な第9惑星などは、あるはずがないのだ。かわりに、6個の小惑星があるだけなのだ。
[ 付記 ]
「6個の小惑星」と述べたが、これは話を簡略にしただけだ。個数は6個だとは限らない。5個でも7個でもいい。個数はおおまかである。つじつまが合うように、個数を設定すればいいだけだ。
ここでは、個数は本質的ではない。物事の考え方だけを理解すればいい。
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宇宙探査機パイオニア10号・11号、ボイジャー1号・2号によって、ローウェルが仮定した惑星Xの存在は二つの面から否定されている。第一に、これらの探査機が外惑星の近くを通過した際に惑星から受けた重力による加速度の値から、これらの惑星の質量が高精度で求まった。これによって、地上観測に基づく計算から得られていた外惑星の質量は最大約1%小さかったことが明らかになった。この修正された質量に基づいて外惑星の軌道を決定することで矛盾は解消した。
第二に、これらの宇宙探査機の軌道からは、太陽系内にある未発見の大きな惑星の重力を考えなくてはならないような誤差は検出されなかった。多くの天文学者はこの事実から、惑星X仮説は役割を終えたと考えた。
もっとも、天体の質量が小さい場合にはこの手法では検出できず、外惑星の軌道にも目に見えるような影響を与えないので、地球と同程度の質量を持つ天体が存在する可能性は依然として排除されていない。
→ http://j.mp/20ftsUj
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つまり、地球よりも大きな質量を持つ惑星が太陽系内に存在する可能性はない。そのことがすでに観測によって証明されているわけだ。