この説は、下記の本で主張されている。
ヒトとイヌがネアンデルタール人を絶滅させた
ここで唱えられた説は、簡単に言えば、こうだ。
- ネアンデルタール人と現世人類がともに過ごした期間は2600年〜5400年程度
- このあとで、ネアンデルタール人は急激に絶滅した。
- ならば、ネアンデルタール人の絶滅の理由は、現生人類だ。
- たぶん、食料の競合があったのだろう。
- 現生人類がネアンデルタール人の食料を奪ったので、ネアンデルタール人は食料がなくなった。
- 現生人類が食料を奪えたのは、犬で狩りをしたからだ。
詳しい書評は、下記にある。
→ 『ヒトとイヌがネアンデルタール人を絶滅させた』 - HONZ
→ (書評)『ヒトとイヌがネアンデルタール人を絶滅させた』 朝日新聞
→ わくわく:ネアンデルタール人の絶滅の謎に迫る (追加)
後者から一部抜粋すると、下記。
彼らは4万年前に、しかも短期間のうちに絶滅したという新説が有力となった。本書はそれにもとづいて、どうして彼らが絶滅したのかを問うものである。
彼らが短期間のうちに死に絶えたのは、人類によって殺戮(さつりく)されたからではない。それを示すような痕跡も残っていない。人類が彼らを滅ぼした原因は、同じ生態系に侵入したこと自体なのだ。
新たな頂点捕食者として、同様に大型動物を狩猟する人類が侵入したことが、ネアンデルタール人にとって大打撃であった。しかし、それでも、彼らが簡単に敗北した理由を説明できない。著者によれば、人間がオオカミを家畜化し、狩猟のパートナーとしたことが原因である。
──
このあと、私見を述べよう。(本項の趣旨は、書籍の紹介ではなくて、上記見解への批判である。)
上記の見解はまったく支持できない。なぜなら、当時の人口密度はきわめて低かったからだ。
人類の生きた最古の時代である旧石器時代の人口推定値が、研究者によって算定した基準の違いがあるが、発表されている。旧石器時代前期(400万〜20万年前)12万5千人、同中期(20万〜4万年前)100〜120万人、同後期(4万〜1万3千年前)220〜300万人。
( → 旧石器時代 - Wikipedia )
この時期(4万年前)の人口は、200万人ぐらいあるようだが、その大部分はアフリカにあった。ネアンデルタール人のいる地中海沿岸では、ネアンデルタール人も、現生人類も、人口の総数は多くなかった。人口密度も低くて、他の人類と出会うことは稀であっただろう。
それほどにも人口密度が低いのに、食料の競合などが、あるはずがない。また、人間が大型動物を狩猟して食い尽くしてしまったということもあるまい。
( ※ マンモスの絶滅は人類の狩猟だ、という説もある。 → Wikipedia 。しかし、マンモス以外の大型動物を人類が食い尽くした、ということはない。また、動物減少の時期と、ネアンデルタール人の絶滅の時期が、一致しているわけでもない。)
( ※ そもそも、人類の食物の基本は、もともと魚介類の採集である。縄文時代の日本人もそうだった。当然、ネアンデルタール人のかなり多くは海岸や河岸にいたと思えるので、大型動物はあまり関係ない。)
では、ネアンデルタール人の絶滅の理由は、何か? 私は前にこう推定した。
「病原菌の感染である。ネアンデルタール人と現生人類は、きわめて近縁の動物であるがゆえに、病原菌もまた共通する。ゆえに、現生人類の持ち込んだ病原菌のせいで、(それに感染した)ネアンデルタール人は絶滅してしまったのだ」
「同じ病原菌に感染しながら、現生人類とネアンデルタール人で、生死を分けたのは、衛生観念の差であった。手を洗うとか、火を使うとか。……それはつまりは、知能の差でもあった」
この件は、下記項目で詳しく論じた。そちらを参照。
→ ネアンデルタール人の絶滅 (2012年08月22日)
他にもある。
→ サイト内 検索
渡り鳥のインフルエンザとか、豚インフルエンザが流行して、生食だったネアンデルタール人のみが死亡したとかならまだわかりますが…。
ここでは免疫の有無が大きく影響したから、ネアンデルタール人との競合問題でも、「衛生概念」だけでなく、免疫が影響したのかもしれませんね。