洪水対策のために、堤防の一部をあえて低くするといい。そうすれば、決壊する場所はそこに限られるので、そこをコンクリ護岸にすることで、そこの決壊を避けることができる。また、他の場所では、溢水を避けることで、決壊を避けることができる。……以上のように、前に述べた。
→ 洪水防止の画期的な方法
これとまったく同じことが、すでに実現していると判明した。名称は「越流堤」というものだ。ネットにも見つかる。
《 越流堤 》
洪水調節の目的で、堤防の一部を低くした堤防です。越流堤の高さを超える洪水では、越流堤から洪水の一部分を調節池などに流し込む構造になっています。ですから、越流堤は流れの作用で壊れないよう表面をコンクリートなどで覆い、頑丈な構造となっています。
( → 最上川電子大辞典 )
《 越流堤 》
洪水調節のため、洪水が堤防を越えて流れる構造になっています。堤防の一部分を低くして洪水が越流堤の高さを超えた時、洪水の一部が越流堤を越えて遊水地や調節池に流れ込みます。
越流堤は水の流れで壊れないように、表面をコンクリートやアスファルト等で覆い、頑丈な構造とする必要があります。
( → 国総研 )
以上を見ると、あくまで治水(遊水地への水量調節)が目的であり、堤防決壊の防止は特に目的となっていないようだ。その意味で、私の提案とは、目的が異なる。
しかしながら、実態としては、次の二点で共通する。
・ 堤防の一部を低くする。
・ その部分をコンクリ護岸にする。
実質的・工事的には、まったく同じだと考えていいだろう。
そして、そのようなものは、すでに実現しているのである。
──
具体的な例は、新潟県見附市の刈谷田川の流域で見られる。
刈谷田川の上流域……にある田畑を土地所有者の協力を得て、遊水地として利用している。
これは、堤防の一部を切り下げて「越流堤」(写真参照)と呼ばれる低い部分をつくり(堤防高を2mほど低くしている)、増水時にはこの越流堤を通じて河川の水を遊水地に流すことにより、下流での堤防の決壊・越水を防ぐことを目的としてつくられたものである。
( → 見附市 - Wikipedia )
位置は、下記。
この写真の左上や右下のあたりに、堤防の一部が白色のコンクリ護岸になっている部分が見出される。
以上で三箇所の越流堤を示した。このうち最後の分については、ストリートビューもある。下記だ。
このような越流堤の働きがどのようなものであるかについては、模型もある。下記動画で模型が見られる。
この動画では、 4:55 のあたりから遊水地の動画が
始まり、5:20 のあたりから越水堤の動画が始まる。
この動画の模型が設置してある場所は、先の越流堤の西北西 5km あたりに位置する「パティオにいがた」という場所。
この場所は、蛇行する川を直進させる工事のあとにできた遊休地。
水害防止のため蛇行する川をまっすぐに改修した際に生まれた4.6ヘクタールの土地を整備。ヘリポートにもなる広場や農産物直売所、レストランなどを備え13年にオープンした。
新潟県見附市の道の駅「パティオにいがた」内にある展示施設「防災アーカイブ」。
地元を流れる刈谷田川の堤防が壊れ、洪水で大きな被害を出した2004年7月の水害を教訓に、当時の写真や記録、その後の対策内容などを展示している。
ボタンを押すと、模型の川からあふれた水が遊水池にたまっていく。
( → 朝日新聞 2016-01-09 )
──
ともあれ、私が先に提案した工事は、すでに実現している、と判明したわけだ。
ただし、目的はいくらか異なる。
私の提案の目的は、「堤防の決壊の防止」である。具体的には、鬼怒川の被災のような巨大な氾濫をもたらす「堤防の決壊」を防ぐことだ。そしてまた、「堤防の全面のコンクリ被覆」や「底簿の全体のかさ上げ」や「地下神殿」のような、超巨額の工事費を避ける(工費を節約する)ことだ。……要するに、少額の費用で、最大の効果を上げることだ。
一方、越流堤の目的は、その越流堤のすぐ下流にある市街地における氾濫を避けることだ。たとえば、パティオにいがた などのある新潟県見附市の市街地における氾濫を避けることだ。(そのために、市街地よりも少し上流にある田畑で氾濫させる。)
私の提案の目的は、非常に広範な地域で氾濫を防ぐことだ。
越流堤の目的は、氾濫の場所を変えることだ。(市街地の氾濫を防ぐために、上流側の田畑で氾濫させる。)
両者は、実際にやることは同じと言っていいが、目的はまったく異なる。……この点に留意するといいだろう。
[ 補足 ]
私の提案と、越流堤とは、違いもある。それは、次のことだ。
「氾濫させる箇所の数は、私の提案では多数になるが、(本項で紹介したような)越流堤では少数だけとなる」
たとえば、本項の事例では、越流堤の数は3箇所だけだ。また、その流域は1箇所だけと見なせる。(かなり広いが。)このことで、やや下流に当たる見附市の市街地では洪水を免れるが、越流堤のあたりの田畑では大幅な氾濫が起こるだろう。
本項の事例では、刈谷田川という川が小さな川なので、氾濫の量はかなり少なめだ.しかし、鬼怒川のような大きな川であれば、1箇所だけで氾濫が起これば、その箇所ではかなり深い水深の浸水被害が生じるはずだ。(破堤の場合ほどひどくはないだろうが。)
私の提案では、氾濫する箇所は多数になる。その場合には、各箇所ごとに氾濫する量は少なめで済むから、各箇所での浸水被害も少なめで済む。
一方、越流堤の数が少ない場合には、その箇所での氾濫する量は多めとなり、その箇所での浸水被害は多大になる。
要するに、「流域全体で少しずつ小さな被害を分かちあうか、特定の一箇所で多大な被害が生じるか」という違いだ。
当然、前者の方が好ましい。なぜなら、前者の場合には、被害の大部分を水田が受け持つので、市街地の被害はほぼ皆無で済むからだ。
( ※ この件は、翌日の記事でも言及する予定。)
[ 付記 ]
参考記事もある。
実際にこの地域で大雨により氾濫したことがあって、そのとき、越流堤から田畑に洪水を流したこと(など)によって、市街地における被害を免れることができた……という報告だ。
一部抜粋しよう。
まずは遊水地の創設に乗り出した。刈谷田川の破堤を防ぐための外水対策である。平成16年の水害では、刈谷田川に1,750m3/sの水が流れ込み、被害を拡大させた。河川改修工事により、1,5503/sの流出ができる川になったが、2003/sの不足が生じる。そこで、総面積91ha、6個の遊水地を創設して、不足分を補おうという狙いであるネックとなるのは地権者との合意で、355人に説明し理解を得なくてはならない。「いざという時は、田んぼに水を入れさせていただきたい。土地の買収ではなく地役権を設定したい」と説明したという。平成16〜21年度にかけ、市では県とともに計80回ほどの住民説明会を開催した。「粘り強い交渉」と同時に、地権者には遊水地協議会をつくってもらい、意見を集約してもらうなど工夫した。平成22年度末に合意を得て整備することができた。そしてそれから間もない、平成23年の豪雨災害が発生した。創設された遊水地には水が入れられた。農家にとって田んぼは生活基盤であり糧だが、地権者の協力があったので見附市の安全が確保されたのである。
「遊水地を利用する事態になるのは、50年に1回の確率とされています。お年寄りの地権者には、まず経験することはないでしょう』と説明したこともあったのですが、地元への完成報告会の2週間後に事態発生です。当該地区は、川の上流域です。下流域の人のためにもと納得していただいた経緯があります。感謝しています」と振り返る。
( → 地域の減災力を高める・新潟県見附市(PDF) )
【 関連サイト 】
パティオにいがた については、いろいろと情報が見つかる。
→ 信濃川下流域 防災スタンプラリー
※ 周辺の地図
→ 見附 道の駅『パティオにいがた』へ行ってきました♪
※ もともとの蛇行の経路がわかる。
→ 刈谷田川 | 何かを感じる
※ 蛇行の修正の工事の「ビフォー & アフター」の画像。
→ 見附市・案内
※ パティオにいがた の構内図。
【 関連項目 】
→ 洪水防止の画期的な方法
※ 私の以前の提案。
タイムスタンプは 下記 ↓
各所毎の越流をどの様に制御して、均等に振り分けられるのか?
均等にする判断基準は、すでにできている。それは、堤防の高さだ。どこでも同じ程度に、氾濫しやすさ(しにくさ)が生じるように、堤防の高さがすでに決まっている。すでにきちんと設計されている。(さもなくば、特定の箇所で氾濫することになるので、大変だ。)
だから、それを基準に、「堤防に1メートルの切れ込みを作る」というような設計だけで、各箇所で自動的に均等になる。この「1メートル」というような数値を均等にするだけでいい。私の推奨は1メートルでなく 50cm だけどね。
──
ただし、必ずしも均等にする必要はない。
「遊水地が広大で、水をたくさん溜めることができる場所では、多めに氾濫させる」
というふうに、メリハリを付けることもできる。そのようなことは、設計しだいだ。
だから、均等にするかどうかは、二の次である。大事なのは、次の違いだ。
「流域全体で少しずつ小さな被害を分かちあうか、特定の一箇所で多大な被害が生じるか」
このことだけ、留意すればいい。
「総合治水対策」…千葉県市川市を流れる真間川の例
1.治水施設の整備
@河道改修
A堤防・高潮堤
B分水路・調整池・排水機場
2.保水・遊水機能の維持・拡大
@雨水貯留施設の整備…公園・学校・集合住宅・一般住宅
A透水性舗装、浸透ますの設置…歩道・駐車場・集合住宅・一般住宅
B遊水地…多目的遊水地・田
C下水道事業における配慮…管内貯留等
D盛土の抑制…地域の実態に応じて配慮、残土処分の確保
3.水害に対して安全な土地利用等
@土地利用規制…盛土規制・開発規制
A過去の主要洪水による浸水実績図の公表…適正な土地利用の誘導と水防機能の活用
B耐水性建築の奨励…高床式・二階建等
雨水浸透ますの設置と透水性舗装は、ヒートアイランド現象と乾燥、地盤沈下の予防にもなる。
国交省は、「総合治水対策」を拡大すると、ダム建設をする必要がなくなるから、やらないのかも知れない。