リサイクルで燃料を取り出すという方法については、原理として、エントロピーのことを考えるといい。 ──
前項 では、「廃棄されたモモから燃料を取り出す」というリサイクルについて批判した。
そこで述べたように、「廃棄された農産物から燃料を取り出す」という方法は、非効率である。
ではなぜ、多くの人々が、あえてこのような非効率な方法を選ぼうとするのか? その理由を言おう。
それは、多くの人々が、エントロピーという概念を知らないからだ。(特に生物系の人がそうだ。)
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エントロピーというのは、物理学の概念である。これを簡単に言えば、こうなる。
「整ったものはエントロピーが低く、乱雑なものはエントロピーが高い。気体などは、放置すると、エントロピーが高くなる。そして、エントロピーがいったん高くなったものについて、エントロピーを下げようとすると、エネルギーがかかる」
たとえば、即席コーヒーと粉ミルクがある。これをコップに入れて、スプーンでかき混ぜると、黒っぽいコーヒー粉と、白っぽい粉ミルクが、うまく混ざり合う。別に、スプーンでかき混ぜなくても、単にコップを振るだけでも、混ざり合う。
このあと、混ざり合ったコーヒー粉と粉ミルクを、別々の場所に分離するとなると、ものすごく手間がかかる。
つまり、混ぜるのは簡単だが、選り分けるのはすごく大変なのだ。エントロピーを上げるのは簡単だが、エントロピーを下げるのは困難なのだ。
リサイクルも同様である。
すでにあるものをごちゃ混ぜにするのは簡単だ。しかしながら、混ざり合ったもののなかから、特定の成分(ここでは燃料成分)だけを取り出すということは、エントロピーを下げるということだ。だから、そのためには、多大な手間がかかる。機械的にやるのであれば、多大なエネルギーが必要となる。
つまり、エネルギーを得るためには、多大なエネルギーが必要となるのだ。そして、その必要なエネルギーは、元の原料のエントロピーの程度に依存する。
廃棄された農産物というのは、ものすごくゴチャゴチャとしており、エントロピーが高い。ここから燃料を取り出すためには、エントロピーをすごく引き下げる必要があるので、多大なエネルギーが必要となる。
前項の試算では、得られるエネルギーに対して、そのエネルギーを取り出すためのエネルギーが5〜10倍になるだろう、と推定した。
一方、アラブの油田から原油を取り出すというのは、もともと油田には原油がまとまって存在しているので、穴を掘るだけであとは勝手に原油が自噴する。だから、エネルギーを取り出すために必要なエネルギーはきわめて小さい。
このように、エネルギーを得るためには、それを得るためのエネルギーがかかる。しかも、その必要となるエネルギーの量は、方法によって千差万別なのだ。アラブの油田ならば、必要となるエネルギーは少なく、モモのリサイクルならば、必要となるエネルギーは多い。
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以上からわかるだろう。
「廃棄された農産物から燃料を取り出す」
という方法は、
「捨てられたものから宝を取り出す」
というふうに見えるので、一見して、すごくお得であるように見える。無から有を生み出すように見える。素晴らしい名案であるように見える。
しかし、そこには、エントロピーという概念が欠けているのだ。無から有を生み出すことはできるとしても、その際に、取り出すためのエネルギーが莫大にかかってしまうのだ。なのに、そのことを見失っているから、そのことが名案に見えてしまうのだ。
こういうのは、一種の詐欺商法と同じである。たとえば、こういう詐欺商法がある。
「 10万円の価値のある iPhone を実質0円でプレゼントしますよ。通常の料金支払いを2年間続けるだけで、 10万円もお得なんですよ。だから、契約してね」
これをまともに受け止めて、ホイホイと契約してしまう人が多い。「 10万円も得して大儲け」と思い込む。たしかに、10万円も得をするのだが、その 10万円の得をするために、2年間で20万円ぐらいを払う必要があるのだ。なのに、そのことを見失っている。
無から有を得るときに、それを得るために必要なものを見失ってはならない。自分が払ったもののことを忘れて、単に「もらった、もらった」と喜ぶようでは、詐欺のカモになるだけだ。
そして、そういう愚かな思考に陥ることのないように、まずは、エントロピーという概念を理解しておこう。
2015年12月22日
過去ログ
http://washimo-web.jp/Report/Mag-Entropy1.htm
エントロピー…、数学の弱い学生は物理化学の単位を取るのが難しいですね。
https://www.youtube.com/watch?v=AI9EJaI_lWY
賞賛のコメント欄で笑えます
南堂さんて小泉元首相マンセーなんですね
生物系学部では、生化学を学び、生化学ではエントロピーはギブズの自由エネルギーとして単位を持った形で具体的に反応が自発的に進むか進まないか計算できるということを学びます。
生物は光のエネルギーを利用して、二酸化炭素というエントロピーの高い物質から糖などのエントロピーの低い物質を作りだしているかという仕組みについては大学で学び感嘆しました。
生物系は(生化学や生態学の授業を聞いていれば)エントロピーについて詳しい部類の学部だと思っています。
桃の廃棄物からバイオディーゼル(油分)を取り出すという反応については、炭素原子6個の糖やその他諸々から、より炭素原子の多い油分を合成する反応なので、吸熱反応となり、エネルギー収支的にマイナスの反応となるので、これを環境によいリサイクルともてはやすことが詐欺まがいだという主張には異論はありません。
そんなこと言っていませんよ。前項のような勘違いをする人はエントロピーの概念を知らない、と言っているだけです。
生物系の人にはそういう人が多い、とも述べていますが、別に、生物系の人がみんなそうだというわけじゃありません。そういうふうには書いていません。