本日(26日)の朝刊は、「1票の格差の問題で、最高裁が違憲状態だと判決した」という記事がトップになるのが普通だ。たとえば、読売はそうだ。
ところが朝日は、これを押しのけて、自社の特ダネみたいな記事を1面トップに持ってきた。下記の記事だ。
→ 蛍光灯、実質製造禁止へ 20年度めど、LEDに置換
こんな小さな話題が、違憲判決を押しのけるというのだから、まったく、呆れてものが言えない、というありさまだ。
ま、朝日の人は、「これは大変だあ」と思ったのだろう。だが、よく考えれば、こんなことが起こるはずがないとわかる。(記事にする前に、理系の人に相談するべきだった。)
とりあえず、記事を引用しよう。
政府は、エネルギーを多く消費する白熱灯と蛍光灯について、国内での製造と国外からの輸入を、2020年度をめどに実質的に禁止する方針を固めた。
LED並みの省エネを達成するのが困難な白熱灯と蛍光灯は、事実上、製造や輸入ができなくなる見通しだ。
白熱灯と蛍光灯の製造と輸入ができなくなれば、国内市場で在庫がなくなった時点で、LEDへの置き換えが急速に進み、量産効果でコストが下がることも期待される。
蛍光灯が中心だった天井用照明でも、10年ごろからLEDが売り出されている。ただ、照明器具そのものをLED対応に切り替える必要がある。
「照明器具そのものをLED対応に切り替える必要がある」
とある。ここからもわかるように、「蛍光灯、実質製造禁止」というのは、現実的には不可能なことなのだ。なぜか? LED は蛍光灯と互換ではないからだ。
仮に、あるとき突然、蛍光灯の使用を禁止したら、家庭では、蛍光灯が LED に置き換わるのではなく、照明がなくなって真っ暗になってしまう。各家庭が「照明なし」になってしまうのだ。
したがって、「白熱灯と蛍光灯の製造と輸入ができなくなれば、……LEDへの置き換えが急速に進み」ということは成立しないのだ。置き換えたくても、置き換えはできないからだ。単に「照明なし」になってしまうのだ。
白熱電球ならば、そうではない。白熱電球と、LED 電球は、互換性がある。白熱電球がなくなっても、そのソケットに LED 電球を嵌めれば、そのまま利用できる。コスト的な問題はあったが、その問題も最近では解決されてきて、100円ショップでも LED 電球を売っている。
→ 安すぎです!ダイソーの電球型蛍光灯 (紹介記事)
→ Google 画像一覧
だが、白熱電球では互換性があるとしても、蛍光灯では互換性はないのだ。どうしても LED に付け替えたいのであれば、電気屋さんに頼んで、工事をするしかない。
→ 直管型LED蛍光ランプの器具工事とは?
で、もちろん、たいての人は工事なんか頼まない。また、たとえ頼んだとしても、1億3千万人の家庭でいっせいに工事するなんて、無理難題だ。おまけに、企業や学校の分まである。そのすべてを LED に付け替える工事なんて、不可能だ。
だから、「蛍光灯、実質製造禁止」というのは、現実的には不可能なことなのだ。そして、現実的に不可能なことを、政府が決めるわけがない。つまり、これは与太記事だ。ただの誤報だ。たぶん、政府の誰かが言ったのを、曲解したのだろう。
──
朝日の記事は、政府が発表する半日前の予報記事だった。
その後、半日たって、政府が正式発表した。その内容は、こうだ。
→ 「政府 “蛍光灯からLEDへ”促す、企業の省エネ対策強化へ
朝日の記事とは、次の二点で異なる。
・ 対象は企業であり、家庭は無関係。
・ 「促す」だけであり、「禁止」などはない。
要するに、ごく当たり前のことだ。これなら、何の混乱も起こらない。まともな人間が考えれば、こういうふうになる。
一方、朝日の記事の内容は、「日本中を真っ暗にする」という狂気の内容だ。こんな与太記事を、よくもまあ、書く気になったものだ。呆れるしかない。
私は朝日に向けて、「誤報を訂正する訂正記事を書け」と書いたのだが、朝日は本日の夕刊では何も記していない。知らんぷり。明日の朝刊で訂正されるかどうか、見てみたいものだ。
( ※ あまりにも恥ずかしくて、訂正できないかもね。)
なお、朝日の記事が間違いだということは、政府の言葉でも明らかだ。
甘利再生相は「省エネトップランナー制度は禁止政策でない」として、蛍光灯や白熱灯の使用・生産・輸入が突如なくなるわけではないと解説。
( → Reuters 2015-11-26 )
朝日の記事を明白に否定していますね。
[ 付記 ]
誤報に呆れてしまうのは、朝日の記事だけじゃない。下記にも誤報がある。
→ 朝日の記事への はてなブックマーク
「 2020年に水銀が禁止されるから、水銀の入っている蛍光灯も禁止されるのだ。LED は関係ない。朝日は情報不足だ」
という趣旨のコメントが大人気で、支持を集めた。(原文は「これ、省エネ云々より水銀条例の発効のせいなんだけど一言も書いてねえクソ記事だな」)
しかし、これも誤報だ。正しくは、下記だ。
→ 水銀条約 - 水銀に関する水俣条約について | 岩崎電気
つまり、禁止されるのは水銀灯だけだ。蛍光灯は、水銀含有量が微小なので、禁止の対象とならない。問題なし。
この情報を受けて、「水銀条約のせい」というコメントの文章は削除された。しかも、自分が間違えたという訂正文を掲載せずに、単に「クソ記事だな」という悪口だけを残している。(何の説明もなしで。私から教えてもらった、という経緯も記さずに。)
というわけで、訂正がなされなかったこともあって、「水銀条約のせい」という間違いを、まだ信じている人が多いようだ。
( ※ 元のコメントは、「水銀条約」を「水銀条例」と書き間違ったりして、レベルの低い意見。)
( ※ まあ、はてなブックマークなんて、こんなものだが。)
【 補説 】
LED の照明器具には「ランプ」という概念はない。つまり、「交換可能な照明部品」という概念はない。LED はとても長寿命なので、そのままずっと使い続けることが前提となる。したがって、もし LED が壊れたら、器具ごと交換する必要が生じる。
LEDの寿命とされる時期が来たら、原則として器具ごと取替える。
( → 知っておきたいLED照明の基礎知識 )
一方、LED は湿気に弱いので、風呂場に使うと1年ぐらいで切れてしまうことが多い。すると、どうなるか? 蛍光灯ならば、1日1〜3時間の使用なので、数年間の寿命があった。数年ごとに1回、蛍光灯を取り替えるだけで済んだ。ところが LED だと、1年おきぐらいに、器具本体を取り替える必要が生じる。
とんでもないことだ、とわかるだろう。したがって、風呂場のように湿気の多いところでは、LED は使わないことが賢明だ。
【 追記 】
朝日の続報。
安倍晋三首相は……省エネ性能が最も優れた製品の基準を満たさないと製造や輸入をできなくする「トップランナー制度」の対象に、来年度から白熱灯を加えると表明した。
甘利明経済再生相は……「効率の良いところに誘導していくと、生産、輸入が事実上なくなる結果になる」と説明。基準を満たせなければ勧告や罰金の対象となるとして「禁止ではないが、企業イメージにかかわる」と指摘し、「蛍光灯は圧倒的に効率を上げればついて来られるが、白熱灯はそこまで効率が上がる技術はない。結果としてなくなっていく」と述べた。
( → 朝日新聞 2015-11-27 )
つまり、蛍光灯はなくならない。また、そもそも禁止ではない。文中にそう示してある通り。
したがって「禁止」と大々的に報じた朝日は、誤報である。にもかかわらず、「お詫び」も「訂正」もない。
やっぱりね。ひどい体質だ。原発の誤報のときには大騒ぎされたが、あれは「解釈の違い」で済ますこともできた。今回のは 100%、完全な誤報だ。なのに、訂正がない。小さなベタ記事でこっそりと記しているだけだ。

こんな小さな記事(しかも目立たない面)でゴマ化そうというのだから、姑息というしかない。
[ 補足 ]
ちょっと上の引用文では、甘利明経済再生相の言葉として、
基準を満たせなければ勧告や罰金の対象となるとして「禁止ではないが、企業イメージにかかわる」
というのがある。これは、「企業イメージ」ということからして、対象が企業限定であることになる。家庭は別だ。
したがって、特に企業に限定せず、「家庭でも禁止」という趣旨で記してある朝日の元記事は、やはり誤報であったことになる。
【 関連項目 】
本項の続編
→ 蛍光灯から LED へ、は危険
※ 「蛍光灯から LED へ置き換えるべきだ」という朝日の報道があったが、これは危険なので、やってはいけない……という話。
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連続スペクトルが欲しい写真用電球や、暖房(加熱)を併せて行うヒヨコ電球などの規制はどうなのでしょうか?
(個人的には、イルミネーションが「LED色」ばかりになるのは避けたいなぁと思います。)
連続スペクトル用途ならメタハラ、キセノンランプ、プロジェクタ用の超高圧水銀灯が代替候補です。熱源は近赤外線を多く含むキセノンランプが代替候補となります。
近赤外線照射源として白熱電球やハロゲンランプなどのフィラメントタイプを使うのは少し無駄が多そうです。