2015年11月16日

◆ 難民を兵士にする、という案

 シリアからの難民を兵士にする、という案がある。 ──

 この案は、私も前から考えていたのだが、私が書く前に、ポーランドの提案があった。
 《 シリア難民を訓練して「祖国解放軍」に、ポーランド新外相が提案 》
 ポーランドのビトルド・バシュチコフスキ(Witold Waszczykowski)新外相は15日、公共テレビの番組で、欧州に殺到するシリア難民に訓練を施して軍隊として組織化し、帰国させて祖国を「解放」させることが可能だと発言した。
 この方法ならば、ドイツの首都ベルリン(Berlin)の目抜き通りをはじめ欧州の各都市でコーヒーをすすっているしかない難民たちが、給金の得られる仕事に就けるとも主張した。
 「われわれが支援することで、彼らは祖国を解放する戦いへ赴くことができる」と述べた。
 「われわれが自国の軍隊をシリアでの戦闘に派兵し、その一方で数十万人ものシリアの若者たちが(ベルリンの目抜き通り)ウンターデンリンデン(Unter den Linden)でコーヒーを飲んでいる」ような事態を避けるため努力していると語った。
( → AFP 2015年11月16日

 まあ、その通り。私もそう思っていた。つまり、「この方法で、大量の難民と、IS 打倒とが、同時にできる。一石二鳥。しかも、自国の軍人が死なずに済む。一石三鳥か。

 ──

 これに対して、次の批判もあった。
 それと同じことをアメリカがキューバ難民でやって大失敗したよ。
( → はてなブックマーク

 これは勘違いだ。
 アメリカがやったのは、「亡命キューバ人を軍事訓練して、キューバ政府軍を打倒するように仕向ける」ということだ。しかし、これは、亡命キューバ人が祖国を打倒するということだから、心情的に本気になるわけがない。亡命キューバ人は、やむを得ずキューバから逃れただけであって、祖国を恨んでいるわけじゃないのだから、本気で戦うはずがない。こんな作戦は最初から失敗するに決まっている。
 一方、今回の方針は、「シリア難民がシリア政府軍を打倒すること」ではなくて、「シリア難民が(祖国の敵である)IS を打倒すること」だ。これは、亡命キューバ人の場合とは、正反対だ。
 亡命キューバ人が課せられたのは、「(広い意味の)仲間を打倒すること」だった。だから、本気になるはずがなかった。
 シリア難民が課せられるのは、「敵を打倒すること」だ。だから、本気になるはずだ。

 ──

 次の批判もあった。
 しばらくするとめっちゃ訓練されたISの兵隊が増えてるっていうオチですか?
( → はてなブックマーク

 これを避けるには、次のようにするといい。
 「難民が IS 打倒軍に参加した場合、欧州への入国資格(在留資格)を与える。2年参加で本人分。以後、1年増えるたびに、家族1名を追加」

 これだと、たとえば4年間勤務すると、自分のほかに、家族2名を欧州に入国させることができる。これだけの権利を得るのだ。なのに、このあとで IS に参加したら、せっかくの権利を失う。自分が国外退去処分になるだけでなく、家族も国外退去処分になる。そんな馬鹿げたことをする動機がない。
 そもそも、フランス国内で不満を持つ若者が IS に勧誘されるというのは、自分たちがまともな職を与えられないからだ。ならば、きちんとした入国資格を与えたあとで、きちんとした職を与えれば、もはや IS に参加する動機がなくなる。……そこで、兵士を務めた全員に「雇用保証」も与えればいい。具体的には、土木工事の作業員としての職を与えればいい。屈強な兵士ならば、土木工事の作業員ぐらいはできるだろう。たとえ言葉がうまく通じなくても。(通訳できるアラブ系の移民だってたくさんいるから、多少の問題は克服できる。)

 なお、これでも「移民が多くなりすぎてあぶれてしまう」と心配する人もいるだろう。しかし、問題ない。理由は三つ。

 第1に、兵士の数はそれほど多くはならない。合計で 100万人にはならない。それよりずっと少ない人数で、IS を軍事的に圧倒できるから、5万人とか、その程度の規模で済む。なお、IS の規模は、下記だ。
 AP通信によると、米情報機関はイラク空爆開始から1年後の時点でIS戦闘員の規模を2万〜3万人と推計している。この人数は空爆前から実質的に減っていない。
( → 朝日新聞 2015年11月17日

 第2に、兵士になれるのは、難民のうちの選抜された精鋭だけだ。腹の出た中年男が採用されることはなく、屈強の若者だけが採用される。(そうなるように高給を払う。)……こういう人なら、兵士期間が終わったあとで、欧州で雇用されたとしても、立派な労働者として働けるはずだ。

 第3に、IS が崩壊すれば、難民たちは(欧州から)故郷に戻る。実際、彼らは、「故郷が平和になれば、故郷に戻りたい」と夢見ている。当り前だ。誰だって故郷となる国に住みたいに決まっている。今、多くの難民があぶれているのは、故郷に住むことができないからだ。だからこそ、難民問題の根本解決には、故郷に平和を戻すことが必要なのだ。そして、そのためには、軍事的に IS を圧倒できるだけの兵士を揃えることが、一時的にはどうしても必要なのだ。

 ──

 というわけで、「難民を兵士に仕立てる」という案は悪くはない。ただし、そのためには、目の前にニンジンをぶら下げる必要がある。「高給と在留資格」というニンジンを。……ここが、私の独自の案だ。(ポーランドの提案には含まれていない。)

 なお、「難民を兵士に仕立てるのは非人道的だ」と思う人もいるかもしれない。そう思う人は、「自国民の兵士を出せ」と語るべきだ。たとえば、フランス軍が自国民の兵士を出す。また、自衛隊が自国民の兵士を出す。いずれにせよ、自国民の兵士に多大な死者が出る。……自分の国を守るためでもないのに。
 一方、シリア難民ならば、「自国を守るために命を賭ける」という意思がある。仮に、この意思がないとしたら、日本の自衛隊員もまたそのような意思がないことになる。……しかし、それはありえまい。どの国の兵士であっても、「自国を守るためであれば命を賭ける」という意思はあるのだ。それは決して非人道的なことではない。

 もう一つ。「シリア難民もフランス人も、兵士を出さない」という案もある。一種の平和主義だ。この場合には、IS をのさばらせておくことになる。それは「自国でテロが起こるのを放置する」ということだ。要するに、「戦うことは一切イヤだ」という平和主義は、テロ組織の前では、「テロへの屈服」でしかない。それはテロリストを増長させるだけだ。( → 前項 を参照。)
 
 本当を言えば、私だって、ドンパチやるのは好きじゃない。戦争ごっこが好きなわけじゃない。戦争をしないで済むのであれば、それに越したことはない。(フセインイラクをこちらから攻撃するような戦争はまったく歓迎しない。)
 しかしながら、IS の場合は違う。向こうからどんどん攻撃してくる。こういうふうに攻撃を受けている状況で、「戦うのがイヤだ」と言っていれば、一方的な屈服しかないのだ。
 これは一種の「自衛」である。自衛としての戦争は、「イヤだイヤだ」と言って避けることはできないのだ。避ければ、死があるのみ。(その例が、今回のフランスのテロだ。)



 【 関連項目 】
 「自然権」としての「自衛権」については、下記項目を参照。
   → nando ブログ : 集団的自衛権と戦術的自衛権
  の 「(1) 集団的自衛権の根拠 」の箇所。
posted by 管理人 at 23:55| Comment(3) |  戦争・軍備 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ISよりアサド政権のせいで難民になっている人が多いんだが。
Posted by 巫女の竜 at 2015年11月18日 18:26
↑ 本項の話題は、難民の救済ではなく、IS を打倒することなので、誰のせいで難民になったかはあまり関係ありません。

 アサド政権を打倒するために難民を兵士にすることは、本項では話題になっていません。実はこれに似たことは、アメリカが前からやっている政策。つまり、反アサド派に武器を供給すること。
 アサド政権は、西側にテロリストを送ってくるわけじゃないので、介入するかどうかは、別問題です。
 特に介入しないのがベストだ、という見解もあります。

> 「紛争は放置した方が平和になる」
  http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45139
Posted by 管理人 at 2015年11月18日 19:38
以前はアサド支配地域からの難民が大量に出ましたが、今ではアサド支配地域が大幅に縮小しています。
  → http://si.wsj.net/public/resources/images/WO-AY003_RUSIRA_9U_20150928190330.jpg
  → http://www.sankei.com/world/news/150727/wor1507270005-n1.html
  → http://blog.livedoor.jp/corez18c24-mili777/archives/44905089.html

 アサド支配地域で難民が発生しても、非支配地域で暮らせば大丈夫です。ただし、そこでは現在、IS が支配している。だから、IS を撲滅すれば、アサド支配地域から出た難民を収容できる。
Posted by 管理人 at 2015年11月18日 19:54
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