2015年11月05日

◆ タカタのエアバッグと硝酸アンモニウム

 タカタのエアバッグが大騒ぎになっているので、事情を解説する。理由は何か? どこが問題か? 影響はどうか? ──

 タカタのエアバッグが大騒ぎになっている。ガス発生剤の硝酸アンモニウムが危険だというので、硝酸グアニジンに切り替えるそうだが、すぐには切り替えも進まないので、顧客がどんどん逃げ出している。
 まずはホンダが不採用を表明した。
  → ホンダ タカタ製部品のエアバッグ採用せず
 さらに他社も不採用で続いた。
  → マツダや富士重も「使わない」タカタ離れ広がる
 顧客がどんどん離れるので、会社存立の危機だ。
 いったいどうしてこうなった? 

 ──

 根源的には、ガス発生剤の硝酸アンモニウムに問題がある。他社は使わないのに、タカタだけは危険な硝酸アンモニウムを使った。そのせいで、問題が発生して、米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)に「使用禁止」を命じられた。
 では、硝酸アンモニウムのどこが問題か? 

 他者の使う硝酸グアニジンは安定的だが、タカタの使う硝酸アンモニウムは(高性能だが)不安定である。そこで、安定剤を使って、安定させる。(相安定化という。)
  → タカタがエアバッグに使う火薬は安全なのか
 このことによって、タカタは高性能な硝酸アンモニウムを使うことができて、おかげで、装置を小型・コンパクトにすることができた。これがタカタのエアバッグの売りだ。

 問題は、この相安定化がちゃんとなされているかだ。特に、「湿気に弱い」という難点があるので、湿気を避けるために、気密性が高いことが要請される。
 ところが今回、湿度の高い地域を中心に、不安定になって爆発する、という事件が続発した。このことから、「気密性が高い」という条件が満たされていないと推定された。
 
 その後、気密性が駄目だということが、実際にテストで判明した。
・本来インフレーターは密封されていて、その内部は気密を保っている作りになっている。
・インフレーターを、減圧調整可能な密閉容器に入れて減圧する。
・インフレーター外部が減圧しても、密封されている状態のインフレーター内部は減圧しないハズ。
・ところが予防措置で回収したインフレーターの一部に、インフレーター内部も減圧するモノを発見した。
・内部減圧したインフレーターを作動テストさせると、その中の数パーセントが異常燃焼する作動をした。
( → 廃車ドットコム

 このテストをしたのは、廃車業者だ。廃車業者は、廃車された車を分解するときに、エアバッグを爆発させる。そこでエアバッグをテストする能力が備わっている。そして実際にテストして、上記の結果を得たそうだ。つまり、気密性が不十分で異常燃焼を起こす例がかなりある。こうして、タカタ製品の問題が判明したわけだ。

 なお、ここでは、ちゃんとした性能を保っている製品が多数あることから、製造上の欠陥があったとは言えない。むしろ、機能不足・耐久性不足のせいで、長年使っていくうちに、劣化して、気密性が保てなくなるのだろう。
 これは、製造上の欠陥ではなく、設計上のミスだと言える。要するに、(容器の)機能不足のまま、硝酸アンモニウムを使うという設計がまずかった。
( ※ 比喩的に言えば、機能不足のまま、プルトニウムを使う高速増殖炉の「もんじゅ」を稼働させるようなものだ。もともと性能的に無理なものを使うという設計そのものが根源的に間違っているわけだ。)

 ──

 さて。硝酸アンモニウムを使うという設計そのものがまずかったわけだが、これは誰の責任か? 
 基本的には、「硝酸アンモニウムを使う」という方針を取った、タカタの技術者と経営者の見込み違いがあったことになる。特に誰かの責任ではなく、会社全体の責任だったと言えよう。
 ただ、見込み違いがあったことまでは仕方なかったが、見込み違いが発覚したあとに、材料を変更しないで、危険な材料を使い続けたことには、大きな経営判断のミスがある。このミスは、社長が全責任を負う。米国当局などでいろいろと危険性を指摘されたのに、あくまで「安全だ」と言い張った。ここでは、「安全のためのリスク管理」という発想が根源的に欠けている。
( ※ 原発事故を初め、たいていの事故では、「安全のためのリスク管理」という発想が根源的に欠けている。タカタもそうだ。)

 ──

 では、「悪いのはタカタだ」と言って、それでおしまいになるか? いや、他にも責任者はいる。それは、タカタ製品を採用していた自動車メーカーだ。
 実は、タカタのエアバッグの問題は、2008年から始まっている。とっくに指摘されていたのだ。なのに、「リコールすると費用がかかる」と言って、ごねて、危険な硝酸アンモニウムをずっと使い続けてきた。
  → タカタのエアバッグ問題、解決遅れる5つの要因 - WSJ
 このことは当然、日本の自動車会社各社も知っていたはずだ。にもかかわらず、自動車会社各社は、危険な硝酸アンモニウムの入ったエアバッグをずっと使い続けた。今週になってようやく、ホンダや各社が「使用せず」という方針を出したが、実を言うと、ずっと前から各社が「使用せず」という方針を出すべきだったのだ。そうすれば、問題はこれほど拡大しなかっただろう。
 そして、そういう自動車会社の方針があれば、タカタも方針を改めざるを得なかったはずだ。つまり、
 「湿度の高い地域でのみリコールして、他の地域ではリコールしない。ただし今後の生産は、硝酸アンモニウムでなく硝酸グアニジンを使う商品のみにする」
 こういう方針を出せたはずだ。そうすれば、被害は最小限で済んだだろう。なのにタカタは、「おれの商品は安全だ」と強弁して、危険な製品をずっと発売し続けた。
 そして、そういうタカタから危険な製品を購入し続けた自動車会社にこそ、大きな責任があると言える。(危険だとわかっていて、危険なものを購入し続けたからだ。)
 結局、ここでは、タカタと自動車会社の共同責任があることになる。(一種の共犯関係。)

 ──

 で、その結果は? 早めに是正しないで、ぐだぐだと抵抗したことで、損害はかえって最大化することとなった。
 では、リコールの費用はどのくらいになるか? 

 すでに計上したリコール費用(交換部品代など)と、今後に起こりそうな追加費用を合わせて、全部で数百億〜1000億円弱という見通しがある。
  → タカタ、リコール問題での追加費用約20ー30億円の見通し

 しかしこの数値は甘いようだ。読売・朝刊 2015-11-05 によると、「米国だけで 2000億円」とのことだ。全世界で 3000億円程度になるだろうか。その一方で、純資産 1500億円だという。
 とすると、費用を自社だけでまかなうことはできなくなる。ただ、倒産かというと、そうでもないだろう。銀行から融資を受ける、という手があるからだ。これなら、一時的に借金が生じて赤字になっても、倒産することはない。

 とはいえ、「倒産しそうだ」という見方をする人もいる。
 「この会社に救いの手を差し伸べる意味はあるのか」−。BGCパートナーズの日本株セールス担当マネジャー、アミール・ アンバーザデ氏はタカタの存続に疑問を呈する。制裁金やリコール費用、訴訟費用など今後タカタが支払う費用は5000億円以上の見積もりで、株価急落前でさえ時価総額1500億円程度の家族経営の会社救済に関心を示す企業はないだろうとの見方を示した。
( → Bloomberg 2015-11-05

 では、本当に倒産するか? シミュレーションしてみよう。
 仮に倒産したら、そのあとはどうなる? タカタは消滅しても、自動車会社は消滅しない。とすると、自動車会社が自分でエアバッグの部品を交換しなくてはならないので、費用は巨額となる。
 とすれば、自動車会社が「タカタ倒産」を許容するはずがない。たとえ債務超過になったとしてもタカタが生き延びられるように、融資や援助などでタカタを支援するだろう。
 そして、自動車会社がある程度の負担をするのは、それなりに合理的なのだ。なぜなら、先に述べたように、タカタの勝手な方針を放置した責任があるからだ。「硝酸アンモニウムを使う限り買いません」と言うべきだったのに、そう言わなかったからだ。(今になって言い出したが、数年前にそう言うべきだった。そして、そうしなかった責任が、自動車会社にある。とすれば、自動車会社が、ある程度の負担をするとしても、合理的なのだ。)

 では、自動車会社は、どう責任を分担するか? 
 当面は、「硝酸アンモニウムを使う限り買いません」と言うだけでいい。その後、「硝酸グアニジンの商品を発売しました」とタカタが言うので、そのときは硝酸グアニジンの商品を買えばいい。ただし、買うときには、正当な価格に上乗せして、高値で買う必要がある。実際、その動きはある。
  → タカタ、トヨタなどに製品の納入価格の値下げ見送りを要請−リコール追加負担に備え
 こうして、製品の値上げ(値下げ拒否)という形で、自動車会社に応分の負担を求めるわけだ。自動車会社としては、それに応じるしかない。(さもなくば、自社でリコール費用を負担しなくてはならず、莫大な無駄な費用の支払いを迫られる。)

 たぶん、以上のような形で、あちこちで負担を分担することになるだろう。社員は、賃金低下を受け入れる。株主は、配当低下(無配)を受け入れる。顧客(自動車会社)は、値上げを受け入れる。こうして、あちこちで負担を分担することで、数千億円の費用をまかなえるだろう。全部を清算するには長い年月がかかるだろうが、長くとも 20年ぐらいで費用の弁済は済むだろう。

 ──

 というわけで、タカタと自動車会社だけで、問題は片付く。タカタが自力で対処することは不可能だろうが、自動車会社の協力を受けて、タカタは生き延びられる。倒産はないだろう。
 国民にとっては、ほとんど影響はない。せいぜい、「今後に購入する自動車の値段が少し上がる」という形で費用分担をすることぐらいだ。それも、自動車を買わない人や、日本車でなく輸入車を買う人なら、費用分担を免れる。(せいぜいトラックやバスなどの物流費が微小に値上げする分の負担がかかるぐらいだが、そんなのは、原油の値上げに比べれば、九牛の一毛に過ぎず、無視できる。)
 だから、この問題は、タカタと自動車会社だけの問題として、国民は何も気にかけないでいい。自動車業界というコップのなかの嵐だ、と思っていればいい。



 [ 付記1 ]
 本当に国民にとって影響はないか? タカタが倒産しても、「影響なし」と言えるか?
 ま、仮にタカタが倒産しても、自動車会社が自力でリコールするだけだ。それによって自動車会社の損失がいくらか増えるだけだ。(例。タカタ存続ならトヨタの負担は 500億円。タカタ倒産ならトヨタの負担は 1000億円。タカタが 倒産するとトヨタが大損となる。とはいえ、トヨタはもともと超巨額の儲けがあるから、損失が 500円ぐらいあったところで、どうってことはない。)
 というわけで、タカタが倒産したって、国民にとってはどうってことはない。タカタの倒産は、VWの倒産ほどの、大規模な問題とはならない。
 だから国民はこれを放置していい。

 [ 付記2 ]
 最悪の場合、部品の交換では済まなくなるかもしれない。米国の訴訟で、懲罰的補償金を請求されるかもしれない。こうなると、兆円規模の補償金が必要となり、タカタは倒産する。
 とはいえ、タカタが倒産した場合には、タカタは債務負担を免れて、懲罰的補償金を払わない。ない袖は振れないからだ。タカタは莫大な補償金を払うのではなく、単に倒産するだけだ。
 その後、会社は倒産してから、再建される。つまり、債務負担を引き継がずに、事業だけを再建する。これで特に問題はない。
 それより、こんなこと(懲罰的補償金)になったら、VW の方が大変だ。タカタが倒産しても、どうってことはないが、VW が倒産したら、ものすごい影響が生じる。そっちの方が大問題だ。
 実際には、懲罰的補償金によって VW が倒産するということはないだろう。逆に言えば、VW の事件のおかげで、タカタが懲罰的補償金を請求される危険性が減った。VW 様々、だろう。
 タカタは悪質が良かったと言える。ツイているね。
 
 [ 付記3 ]
 「硝酸アンモニウムを使ったのは、コストが安いからではないか? コストダウンを狙ったのが、事故の原因では?」
 という指摘がある。(誰もが考えることだが。)
 これに対して、「硝酸アンモニウムは安いが、安定剤は安くないから、コストダウンにならない」という解説がある。
  → タカタがエアバッグに使う火薬は安全なのか
 しかしながら、先に述べたように、事故の原因は、硝酸アンモニウムではなくて、気密性が不足したことだ。そして、気密性が不足したことの理由は、器具(容器)をいい加減な安物にしたことだろう。つまり、硝酸アンモニウムでなく器具のコストダウンが、事故の原因だったと言える。
 その意味で、「事故の原因は、コストダウンを狙った経営判断だ」と言える。ただし、それを「硝酸アンモニウムを使ったことによるコストダウンだ」と見なすと、誤る。「気密性をいい加減にしたことによるコストダウンだ」と見なせば、正しい。

 [ 付記4 ]
 今回、破裂して飛び散った器具(金属ケース)の写真がある。
  → 廃車ドットコム
 どう見ても安物ですね。絶対に破裂しないように、厚くて頑丈な金属を使うべきだったのに、ごく薄っぺらな金属だけだ。小型・コンパクトを狙うばかりで、気密性をないがしろにして、頑丈さのない薄っぺらな金属を使った。おかげでコストは下がり、重量も減ったが、爆発をもたらすようになった。
 こんな設計をするような会社は、危険な火薬を扱う資格はない、とも言える。ほとんど「気違いに刃物」という状況だ。最低限、社長はさっさと退陣するべきだろう。
 
 [ 付記5 ]
 硝酸アンモニウムは、爆薬としては、黒色火薬(硝酸カリウム)と並んで、最も有名なものである。
 ただ、実用的に使われているものは、黒色火薬の方が多いようだ。というのは、硝酸アンモニウムは、湿気をひどく吸いやすいからだ。
  → 硝酸アンモニウムは非常に吸湿性(潮解性)が強く....
 それでも、産業用には、硝酸アンモニウムが使われることもあるし、大量に溜めておかれる例もある。その一例が、天津の大爆発だ。大量の硝酸アンモニウムが爆発した例。
 → 天津大爆発の動画
posted by 管理人 at 23:22| Comment(3) | 安全・事故 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
最後に <STRONG>[ 付記3 ]</STRONG> を加筆しました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2015年11月06日 01:16
経済的には放置して構わないと思いますが、自動車の持ち主としては無視できない状況にあります。
というのも、たとえば私のクルマは殺人エアバッグの件で9月にエアバッグが作動しないようにする暫定対応(たぶんエアバッグのコネクタを抜いて、車体側に騙しを入れてエアバッグの異常警告が出ないようにしたのだと思います)が行なわれたのですが、インフレータの交換は年明け以降になるなんて言われました。それまではエアバッグ無しの状態です。
Posted by クルマ好き at 2015年11月06日 06:01
管理人さんの詳細な分析で、タカタのエアバック問題の本質が明快に浮き彫りにされていますね。
 関連する話ですが、ホンダで16年かかってエアバックを開発し実用化を進めた小林三郎氏は、エアバック開発の実体験を
核にして、ホンダのイノベーション気質を支える企業風土・仕組みを熱く語った「ホンダ イノベーションの真髄」
(日経BP社 2112年)を発刊されています。

 同書で、エアバック開発と実用化に対して、ホンダの役員は全員反対した(1/3は大反対、2/3は実質反対)。久米是志社長
のみが賛同し決断したことが述べられている。大反対の理由は、暴発と不発のリスクを危惧したからで、事故が起きれば、
会社の信用が一瞬にして失われる。
 小林三郎氏は、そのため、故障率を100万分の1以下にすることに心血を注いだ(それは、100万台の車が平均寿命年数の
15.6年走らせたとき、暴発・不発が併せて1件以下という意味)。また、万一故障が起きても、不具合の起きた状況を調べ、
バーコードをつけた主要部品をトレースすれば、同様の故障の起きる車体番号が確定でき部品交換できるシステムを作った。
 当時、エアバック搭載車が今日ほど普及するとは考えられなかったので、故障率100万分の1以下の目標設定は偉大だった。
しかし今日ではほとんど全ての車がエアバックを搭載し、トヨタだけでも年間1000万台の車を生産する。故障率を1億分の1
以下とするくらいに目標設定を向上させて然るべき。

 ホンダがエアバックの量産化するとき、タカタに懇願した理由は、タカタがパラシュート生地を扱っており、生地を織る、
ゴムをコーティングする、立体裁縫する、小さく折りたたむ、の4つの基本技術を持っていた唯一の会社だったからという。
条件面で有利になるように、ハンドルカバーの生産、後にはインフレータやセンサーの設計・製造まで薦めたという。
 タカタは、もともとはパラシュート生地からシートベルトを作っていた会社だったので、厳格な安全思想の企業風土は
なかったのだろう。故障率をさらに小さくする方向に関心を払わ、利便性とコストダウンによる売り上げ・収益向上の方に
進んでいったのは成り行きだろう。福島原子力発電所の立地が標高30mあったのに、わざわざ、海面すれすれまで掘り下げ
建設したため2011年に津波で爆発事故が起きた。「大丈夫だ。海面に近い方が定常コストが安くなる」と主張した安直発想
の役員諸氏が多かったためだろう。

 小林氏が同書で述べられているように、社会のためユーザーのために新しい価値を生み出すことを追求する企業理念こそ、
日本のあるべき姿ですね。
Posted by 思いやり at 2015年11月07日 11:18
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