2015年10月06日

◆ TPP とバター

 TPP が妥結した。しかしバター不足は解消しそうにない。 ──

 TPP が妥結した。マスコミはあれこれと報道しているが、一番肝心のことがろくに報道されていない。バター不足がどうなるか、ということだ。
 春や夏にはバター不足が深刻化していた。そこで農水省は「バターを1万トン輸入するので、秋には解決の見込み」と釈明した。私もそれを期待していたが、全然ダメだ。いまだにバター不足が続く。というか、春ごろよりひどくなっている。店頭には馬鹿高いバターが少量あるだけで、バターを置く棚のほとんどは「バター風味のマーガリン」になっている。要するに、バターを1万トンぐらい輸入したところで、焼け石に水だ。バター不足は解消しない。

 これほどひどい状況なのだから、TPP ではバターの輸入量が増えるだろう、と期待した。
 日本国内はバター不足が続く。今年度は 10月までに1万トン緊急輸入する。TPP交渉では、NZなどから、この点を突かれているという。つまり、不足しているのに市場を開かないのはおかしい、という理屈だ。
( → 朝日新聞 2015年7月4日

 こういう記事を読んで期待したのだが、結果はたいしたことがなかった。
 輸入枠は、協定の発効当初には、生乳換算でバターと脱脂粉乳合わせて年間6万トンとしたうえで、段階的に増やし、6年目以降は7万トンまで増やすことになりました。
( → NHK 10月6日

 ここではまともな情報が出ていない。
  ・ 脱脂粉乳を含まないバター単体の量がわからない。
  ・ 現在の輸入量がわからない。

 このせいでうまく比較できない。マスコミの報道の貧困さよ。
( ※ 他のマスコミも当たったが、きちんとした報道は見出せなかった。)

 バターの輸入量なら、次の数値があった。
 政府が昨年度輸入したバター1万3千トンのうち、6割強がNZ産だ。
( → 朝日新聞 2015年7月4日

 この1万3千トンが6万トンに増えるのなら大したものだが、実際にはそうではないらしい。輸入する大部分は脱脂粉乳であるようだ。
 そこで、マスコミでなくネットで調べてみたところ、次の数値を得た。
 独立行政法人 農畜産業振興機構は2月中にバター2,800トン(生乳換算3.5万トン)、脱脂粉乳10,000トン(生乳換算6.5万トン)等の輸入入札を実施する予定です。
( → 農水省 プレスリリース 平成27年1月23日
 農林水産省は5月27日、平成27年度カレントアクセスに加え、バター1万トン、脱脂粉乳5000トンの追加輸入を実施すると発表した。輸入入札は機構で6月中に行われ、10月末までに順次輸入され、国内需要者へ供給されることとなる。
( → 独立行政法人農畜産業振興機構

 この数値によると、バターと脱脂粉乳は、現状では初期値が生乳換算 10万トン(= 3.5万トン + 6.5万トン)で、さらに追加で 生乳換算 15.8万トン(= 12.5万トン + 3.3万トン)があり、合計して 生乳換算 25.8万トン の輸入量があることになる。
 これに比べて、TPP の実施後には、生乳換算 6〜7万トンということだから、現状に比べて、一挙に4分の1に激減してしまうことになる!

 呆れる。TPP によって輸入量が激減してしまうのなら、まったく意味がない。
 マスコミはこういう問題をまったく報道しない。どうでもいい「国別の利害」なんていう話題ばかりを追っているから、「国民にとってどうなるか」という話題を無視してしまう。特に、「バター不足で困っている」という問題をまったくスルーしてしまう。せいぜい「ニュージーランドが問題を突いている」なんてことを報道するだけで、「1億3000万人の国民にどうなるか」という問題をスルーしてしまう。
 マスコミのひどさには、呆れるばかりだ。



 [ 付記1 ]
 TPP では、「関税撤廃」というふうに報道されるが、これは正しくない。正しくは「域内関税の撤廃」だ。
 当然ながら、域外国からの輸入には、今回の関税撤廃( or 低減)は適用されない。たとえば、欧州からのワインやチーズの輸入には、TPP とは無関係に、高率の関税がかかる。

 [ 付記2 ]
 欧州との関係はどうなるか? これは、FTA や EPA という形で関税撤廃の交渉が続いているが、今年になってからは開店休業状態だ。
 理由は、「TPPの交渉の行方を見守るため」であるそうだ。
  → メガFTA、交渉足踏み EU、TPPで日本を様子見

 [ 付記3 ]
 韓国は、欧州との間で、すでに FTA を結んでいる。このおかげで、欧州への自動車輸出が急増し、欧州では日本車の販売台数を上回ったそうだ。
  → 現代起亜自動車、上半期欧州販売43万台「史上最大」
 「へえ、うまいことやったな」と思いそうだが、この話には続きがある。
 実は、韓国では、欧州車の輸入が急増して、自動車の輸出入では、大幅黒字から大幅赤字に転じてしまったそうだ。欧州への輸出が増えた以上に、欧州からの輸入が増えた。これは、自動車に限らず、多くの産業でもそうだったらしい。結果として、韓国は欧州との FTA のせいで、貿易収支が大幅な赤字になってしまった。欧州の一人勝ち、韓国の一人負け。
 その一方で、韓国は TPP には不参加で、TPP のメリットを受けられない。「戦略的な誤り」と言われている。
  → 見送りの韓国に焦り 「戦略的判断の誤り」と批判噴出

 [ 付記4 ]
 バターとは関係ないが、ちょっと調べたところ、保存できない生野菜は別として、保存できる(船で運搬できる)農産物は、かなり高い関税がある。
 ジャガイモ・小麦・大豆などは、高い関税で守られている。ジャガイモ 67%、小麦 72%、大豆 60%、テンサイ 40%だ
( → nando ブログ : TPP とジャガイモ(北海道)

 これらの高い関税の農産物がどうなったのか、知りたいところだが、ろくに報道されていないようだ。

 ついでだが、サトウキビもひどい。
  農水省によると、サトウキビ1トン当たりの生産費は2万6864円(2012年産)。ただ、農家が製糖工場から受け取るのは、国際価格に近い 5000円ほど。輸入糖からの関税収入などを財源に、農家に支払われる交付金が、収支の大きな差を埋めている。
( → 日本農業新聞

 5000円の商品をつくるために、2万円以上の補助金を与えているわけだ。呆れる。まったくひどい。もはや産業の体をなしていない。

 テンサイであれ、サトウキビであれ、こんなものを作る必要はないのだから、こんな産業はさっさとつぶしてしまうべきだろう。そうして関税ゼロで自由に輸入できるようにするべきだ。そうすれば、国民は、制限なく食生活を豊かにできる。たとえば、これだ。
  → コーヒーにサトウキビ砂糖


 もちろん、高級チーズも同様だ。そんな産業は存在しないのも同然なのだから、全面的に輸入を自由化するべきだ。(関税ゼロ、または、少なめの定額。)そうすれば、高級チーズをたくさん食べることができて、日本人の食生活はかなり豊かになる。



 【 関連項目 】
 不足しているバターについては、大幅に関税を引き下げて、大量に輸入するべきだ……という趣旨の話は、少し前にも書いた。
  → バターとチーズの関税
 
 この項目の最後には、 [ 付記 ] として、高級チーズの話がある。高級チーズは、フランス産が多く、国産はほとんどない。なのにやたらと高関税だ。
 ここでは、「国内には産業がほとんどない」となっている。つまり、守るべきものがないのに、やたらと高関税になっている。そのせいで、国民は食べたいものも食べられない、というありさまだ。
 馬鹿げた状況だ。で、それが、今回の TPP でも改善しなかったわけだ。

 今回の TPP は、「農民を守る」というような立場の報道ばかりが目立ったが、「消費者を守る」という視点の報道はほとんどなかった。消費者はものすごくひどい目にあった、ということになりそうだ。



 【 関連サイト 】
 バター不足が起こることには、構造的な理由がある。それを指摘した連載記事3本。

 → バター不足の怪。牛乳やチーズは山ほど売ってるのに、なぜ?
  (バター補助金は北海道限定なので、本州でバター生産できない。)

 → バター不足は農水省による「チーズの作らせ過ぎ」が原因
  (チーズ補助金が過剰なので、牛乳はチーズ用に回り、バター用に回らない。)

 → バター不足の元凶。農水省バターマフィアのセコ過ぎる利権構造とは?
  (関税よりも、数量規制の影響が大きい。バター不足で価格が高騰すると、農畜産業振興機構が巨額の輸入差益を得る。この差益が関税よりもはるかに高い。)

 上の最後の記事からすると、バター不足の元凶は、バターの関税よりも数量規制だ、とわかる。数量規制によって、バター不足を起こすと、輸入を独占する農畜産業振興機構がガッポリ儲かる仕組みだ。
 だからこそ、TPP でも、バターの数量規制にあくまでこだわったわけだ。農水省の利権構造は崩されず、国民が農水省の食い物にされるわけだ。
 この最大の問題点がずっと残ったままだ。(数量規制は手つかずだ。というか、現状より悪化している。)
 マスコミはこの問題点を指摘しようともしない。
 


 【 追記 】
 農水省の言い分。
 農水省牛乳乳製品課の担当者は、バターは国の管理貿易品であり、その基本を変える意向はないと説明した。
 「バターは酪農にとって需給の調整弁の役割を果たしている。外国産が大量に入ってくれば、生産者は生乳を余らせることができないので、捨てなくていい最低水準の生産量に抑えてしまうといった問題が生じる。そうなると、バターよりもずっと需要がある牛乳が不足する事態にもなりかねない」
( → nippon.com

 これは明らかに、嘘(論理破綻)である。
 「外国産が大量に入ってくれば、生産者は生乳を余らせることができない」というが、そんなことはない。生乳を余らせることはできる。余った分を、バターにしてしまえばいいのだ。
 生乳は、生乳のままでは余らせることはできないが、生乳をバターに加工すれば余らせることはできる。バターは生産量の調整弁となるのだ。
 要するに、外国産のバターが大量に輸入されたとき、「国産の生乳が捨てられる」ということはありえない。バターが過剰になれば、バターを倉庫で貯蔵しておけばいいだけだ。生乳と違ってバターは貯蔵できるからだ。
 農水省は、「生乳は貯蔵できない」ということにこだわるあまり、「生乳をバターに加工すれば貯蔵できる」という点を見失っている。要するに、「生乳からバターへの加工が可能だ」という点を見失っている。それで生乳の過剰ばかりを心配している。
 「生乳からバターへの加工が可能だ」というのは、子供でも知っている初歩知識だ。これを見失って、「生乳からバターへの加工は不可能だから、生乳が余ったら、生乳を捨ているしかない」と主張する農水省は、嘘をついていることになる。この嘘八百の理屈で、自分たちの利権を守ろうとするのだから、まったく悪質だ。
 というか、こういうデタラメ論理を放置するマスコミも罪深い。嘘にだまされて、真実を隠蔽する。子供でもわかる真実を示さず、嘘ばかりを垂れ流す。
 「裸の王様」みたいだ。子供にも「嘘だ」とわかる嘘を、大人がみんな信じている。
 


 【 後日記 】
 TPP の全容は、のちに発表された。
  → TPP の全容(交渉結果)

 特に、乳製品と小麦については、下記にある。( PDF の HTML 版)
  → http://j.mp/1NvZLCi

 要するに、輸入枠は少しだけ拡大したが、ほとんど影響がないレベル。バターも、チーズも、小麦も、大幅に制限がかかるまま。バター不足は解消しそうにないし、チーズや小麦は外国よりも大幅に高価格なままだ。
 
 詳しくは、別項。
  → バター不足の理由
posted by 管理人 at 23:42| Comment(5) | 一般(雑学)3 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
よりによってスイッチせざるを得ない方向が
トランス脂肪酸入りコピー食品という状況も
まったく困ったもんです。
Posted by 先生 at 2015年10月07日 06:46
最後に 【 関連サイト 】 を加筆しました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2015年10月07日 07:28
バター不足はなぜ続くのか?乳製品と酪農をとりまく問題

https://www.youtube.com/watch?v=oSgWndAIX1o
Posted by P助 at 2015年10月07日 08:28
まさか21世紀にもなって「大砲よりバターを」と叫ぶハメになろうとは。
Posted by はちのへ at 2015年10月07日 20:53
本日7日の読売・朝刊 に、バターの輸入量の話がある。一部はネットにもある。引用すると、

> バター
> 輸入枠を設定。当初3188トン。その後段階的に増やし、6年目以降3719トンに。
  → http://www.yomiuri.co.jp/matome/archive/20151007-OYT8T50084.html

 とのことだ。
 
  ̄ ̄
 ともあれ、本項の本文で示した数値は、おおむね正しい。つまり、TPP の合意後のバターの輸入枠は、昨年や本年の実際の輸入量よりもはるかに少ない。
 ただ、輸入枠は、これまではゼロだったらしい。ゼロだった輸入枠が、上記の数字に増える。
 一方、需給を見て政府が恣意的に輸入する量は、輸入枠よりもはるかに大きくて、万トンのレベルになる。

 要するに、固定的な輸入枠は小さめに設定され、恣意的に変動する輸入量だけがいっぱいある。
 これはまあ、管理貿易ですね。とんでもない制度だ。
 かくて、バター不足が起こり、関税を大幅に上回る差益が発生して、バターは馬鹿高い値段になる。その一方、機構は、濡れ手で粟で、莫大な差益を手にする。国民を食い物にする制度。
 国民は、バターを食うのではなく、自分が食い物にされてしまう。
Posted by 管理人 at 2015年10月07日 21:35
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