2015年09月20日

◆ 東京水没のシナリオ

 東京水没のシナリオがある。政府が5年前に報告したものだが、迫真性がある。 ──

 東京水没のシナリオというと、私が勝手に推測したものだと思う人もいるかもしれないが、そうではない。れっきとした政府の報告書だ。内閣府の審議会が5年前に報告したもの。
 その内容の要旨は、次のページで読める。
  → 荒川東側決壊で3500人・利根川決壊で2600人死亡と内閣府試算

 似た話は、下記でも読める。
  → 国土交通省 関東地方整備局 江戸川河川事務所
  → 読売新聞・朝刊 2015-09-20 (ネットになし)

 肝心の本体である政府報告書は、もちろん政府のページにある。
  → 大規模水害対策に関する専門調査会

 ここにリンクが記してあるが、具体的には、次の二つのリンクだ。
  → 資料1 首都圏水没〜被害軽減のために取るべき対策とは〜 概要版(PDF:1.59MB)
  → 資料2 首都圏水没〜被害軽減のために取るべき対策とは〜(PDF:4.04MB)

 ここからうまく話をまとめてあるのが、読売の記事だ。ポイントはこうだ。
 「利根川と渡良瀬川の合流点の西側にある加須市の堤防が決壊した場合に、被害は最大化する。利根川から江戸川に続く堤防の西側がすべて水浸しになる。加須市、春日部市、三郷市、足立区などがすべて水没する。230万人が住む530万平方キロメートルが浸水する」

 なお、そのうち北部を除いた地域(江戸川流域)の浸水予想については、次の図がある。
  → 江戸川流域の浸水予想 (PDF)
  ( 出典ページは → 江戸川河川事務所





 では、その重要な地点(加須市)の堤防はどうなっているかというと、こうだ。





 見ればわかるように、下半分がコンクリ護岸になっているだけで、上半分はそうではない。この非常に重要な地点が、コンクリ護岸なしなのだ。

 では、この堤防の強度は、どのくらいか? これについては、週刊文春に解説記事があった。
  → 週刊文春2015年9月24日号

 そこには、次の趣旨の話があった。
 「堤防の強度は、一般に、その地域の過去最大の水量を基準にして、それに耐えられるようにしている。したがって、過去最大の水量を上回る水量が押し寄せれば、決壊するのが当然である。鬼怒川はそれに該当する。首都圏でも、過去最大の水量を上回る水量が押し寄せれば、決壊するのが当然である」

 これは大変なことだ。というのは、近年では、地球温暖化にともなって、豪雨がしばしば発生しており、その地域の過去最大を上回る豪雨などは毎年のようにあるからだ。
 これまで首都圏ではそうならなかったのは、運が良かったからにすぎない。そのうち、首都圏のどこかで、その地域の過去最大を上回る豪雨があれば、鬼怒川と同様に欠陥することは十分に考えられる。
 これを免れるのは、コンクリ護岸のある一部河川(鶴見川や荒川の一部)だけだろう。大多数の河川は、コンクリ護岸がないがゆえに、過去最大を上回る豪雨があれば、容易に決壊する。
 
 ──

 コンクリ護岸の重要性は、下記項目で述べた。
  → 堤防決壊の原因と対策

 コンクリ護岸がないがゆえに日本中の河川が危険だということは、下記項目で述べた。
  → 日本中の堤防が危険だ
 ここでは、江戸川や荒川の危険性を述べたが、それが私の誇大な妄想ではなく、まさしく現実にある危険だということが、政府の報告からも判明したわけだ。

 なお、週刊文春では、次の重大な指摘も記されてある。
 「荒川の氾濫で、水深が2メートルの洪水が起こる。そうなると、地下鉄の防水壁(高さ 80cm ぐらい)は無効となる。




 高さ 40cm ぐらいの防水壁を二つつなげて、高さ 80cm ぐらいにしているが、これでは、深さ 2メートルの水を防ぐことはできない。当然、地下鉄には水がガバガバ入る。その水は、有楽町線などを経て、銀座などにも回り込み、東京の地下鉄全体が水没して、使い物にならなくなり、復旧の見込みも立ちそうにない。……そういう話だ。
 
 この話と同様のことは、私も前に述べた。
  → 地下鉄の水害
  → 東京に津波が来たら?

 で、こういう危険があるのだが、政府の方は、危険性を指摘することはあっても、対策は取らない。
 では、どう対策を取るべきか? それは、私がここ数日に述べた通りだ。
  → 堤防決壊の原因と対策 (コンクリ護岸)
  → 雨水を川に入れるな
  → コンクリ護岸の対案 (堤防のかさ上げ)
  → 洪水防止の画期的な方法 (一部を低くする)
  → 堤防工事の機械化 (かさ上げの機械化)

 これらを読めば、なすべきことはわかる。と同時に、何もなしていないという無為無策の現状もわかる。



 [ 付記1 ]
 なぜ何もしていないかというと、対策として「スーパー堤防」(高規格堤防)というものを予定しているからだ。これは、堤防の幅を百メートル規模(200〜300メートル)にしてしまう、というもの。
  → 「400年かかる公共事業」の現場をみる
  → 高規格堤防整備事業

 こんなに幅広い堤防なら、もちろん決壊はしない。しかし、土地の買収や、住居の移転などで、天文学的な巨額が必要だとわかっている。だから、実現の見込みはほとんどない。狂気の沙汰というしかない。
 とはいえ、この狂気の沙汰が、現実には実行されており、ごく一部ではすでに実現している。
  → 高規格堤防整備地区

 100メートルぐらいの区間工事が完了した箇所が何カ所かある。数百メートルも区間工事が完了した箇所も少しある。とはいえ、これほど短い距離でスーパー堤防を作るために、途轍もない巨額をかけているのだから、肝心の加須市のあたりでコンクリ護岸を付ける金がなくなるのも当然だ。
 まったく、呆れる。コンクリ護岸にすれば簡単に済むところを、土で 100メートルの堤防を作ろうというのだから、狂気の沙汰というしかない。今の政府がやっている対策は、こういう狂気の沙汰だ。

 [ 付記2 ]
 この馬鹿げた「スーパー堤防」というものは、民主党政権下では止められた。しかしその後、自民党政権のもとで、復活したようだ。
 ところが、この違いを理解できないのが、馬鹿なネット民だ。彼らはこう主張した。
 「鬼怒川の堤防が決壊したのは、民主党が堤防予算を削ったからだ」
 民主党が削ったのは、スーパー堤防の予算だ。一般の堤防の予算ではない。スーパー堤防の予算を削れば、むしろ、翌年以降では、普通の堤防の予算を増やせるのだ。
 逆に、自民党政権みたいに、スーパー堤防の予算を付けていれば、東京の一部で 100メートル単位の短い区間でスーパー堤防をちょっとだけ作れるが、そのせいで超巨額の政府予算が奪われるので、肝心の箇所でコンクリ護岸にする金がなくなる。

 どっちが正しいかも理解できないまま、民主党を批判することしか能がないのが、馬鹿なネット民だ。民主党を攻撃することばかりに熱中しているから、自民党のブラック労働政策などで首を絞められるのだが。オマケに、そのうち、東京も水没するかもね。
 
 [ 付記3 ]
 冒頭のあたりで紹介した要旨の記事には、次の文章がある。
 コンクリートで補強された巨大な堤防が決壊するとは、にわかには信じられないかもしれない。
( → 荒川東側決壊で3500人・利根川決壊で2600人死亡と内閣府試算

 この人は何か勘違いしているようだ。コンクリートで補強された巨大な堤防なんてものは、ほとんどない。荒川の下流部はともかく、荒川の中流部と、江戸川のほとんどすべては、コンクリ護岸がない。土のままだ。先に述べたとおり。
  → 日本中の堤防が危険だ

 ならば、
 「コンクリートで補強された巨大な堤防が決壊する」
 なんていうことを妄想するよりは、
 「土のままの(コンクリートで補強されていない)もろい堤防が決壊する」
 という現実的なシナリオを直視するべきだ。
 ありもしないコンクリ護岸を、あると思うようでは、現実認識がまるでできていない。
posted by 管理人 at 23:09| Comment(6) |  地震・自然災害 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ここは凍結防水壁を堤防にw
Posted by 京都の人 at 2015年09月21日 00:24
岩淵水門で調整するので、カスリーンを繰り返すことはない。。は嘘なのだな。
Posted by 読者 at 2015年09月21日 01:28
↑ カスリーン台風は、岩淵水門の場所での過去最高水位。
  ゆえに……

(1) 過去最高を上回る水位なら、駄目。(たとえばその地域への集中豪雨。今回の鬼怒川ふう。)

(2) 岩淵水門とは別の場所なら、駄目。(たとえば本項で述べた、加須市での決壊。)
Posted by 管理人 at 2015年09月21日 07:49
カスリーン台風で荒川の堤防が決壊したのは、埼玉県行田市清水町(行田駅近く)というところで、「決壊の碑」が立ってます。水は元荒川に沿って流れ、加須で決壊した利根川の水と合流して、江戸川区にまで達しました。

岩淵水門で最高水位とありますが、その水門は旧水門(通称・赤水門)で、今は新水門(同・青水門)になっています。旧水門は、役目を終えた後も保存されているので、見ることができます。よくこれで東京を水害から守れたなという高さです。

スーパー堤防っていうのは、決壊しないけど越水する堤防なので、川の水位が上がれば、低地は水没します。決壊による激流で家が破壊されないだけマシかもしれませんが…。w

荒川では、冬になると、毎年、ちょっとずつスーパー堤防工事が行われ、その間、散歩やサイクリングをしている人は遠まわりを余儀なくされます。スーパー堤防と言っても、フル規格ではなく、河川敷側のみ(人家を退かせられない)なので、越水決壊する危険性はなくなりません。orz

フル規格のスーパー堤防が近くにあります。もともと荒川と隅田川の間の工場跡地なのですが、そこに土を盛って台地のようになっています。上にはマンションが建ち並んでますね。あそこで越水したら、隅田川に流れ込むので、わが家も水没します。(泣)

スーパー堤防を考えた人は、かなり頭の良い人で、100年経っても完成しないでしょう。その間、ずっと公共事業を行えるので、官僚も土建屋も大喜びです。w
Posted by 王子のきつね at 2015年09月21日 21:46
> 荒川と隅田川の間

 こんな孤島みたいな地域があるんですね。
 こんな狭い領域を守るために堤防を作るのは、ただの無駄でしょう。
 一般の建物については建設禁止にして、ピロティ(1階駐車場)のある高層ビルだけを許容するべきです。これなら、コストゼロで、水位5メートルの洪水に耐えられる。
 住民は、利用の際は、エスカレーターで地上5メートルの位置の2階から上を利用する。1階部分は駐車場と倉庫だけ。
 学校やオフィスやマンションなら、これで十分。
 巨額の堤防建設費がなしで済む。(普通の堤防だけでいい。いざとなったら鬼怒川みたいになるが、それでも、1階がピロティなら、自動車が水没するぐらいで済む。)
Posted by 管理人 at 2015年09月21日 22:12
1階部分に住んでいる人には、「水没保険」に入ってもらうのが一番いいだろう。「いざとなったら補償金をもらえる」という保険。
 その保険料の方が、スーパー堤防のコストよりも、ずっと安い。国が2割ぐらい負担してもいい。
Posted by 管理人 at 2015年09月22日 08:11
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