すでに述べた方法は、次の二つ。
・ コンクリで被覆する ( → 該当項目 )
・ 堤防をかさ上げする ( → 該当項目 )
いずれも大きな効果があると思うが、それでも、コストはかなりかかりそうだ。これだと、日本全国で堤防の補強工事をするのに、時間も金もかかりすぎる。長期的には良いとしても、短期的には間に合わない。では、もっとうまい方法はないか?
そこで、困ったときの Open ブログ。いろいろ考えてみたら、うまい名案が思いついた。下記の通りだ。
──
基本原理としては、こうだ。
「日本中の堤防を工事すると、金がかかる。しかし、堤防が決壊する場所だけを工事するなら、金はかからない。決壊する場所が、全体の2%だとしたら、2%だけを工事すれば足りる。だから、決壊する場所だけで工事すればいい」
どうです? うまいアイデアでしょう。
ただし、この方法は、このままでは実現可能ではない。次の問題が生じるからだ。
・ どこで決壊するかは、あらかじめわからない。
・ どこかを補強しても、別のどこかが今度は決壊する。
そうですね。当り前ですね。
しかし、ここで、ウルトラ級の発想の転換をすることで、上記の難点を回避することが可能となる。それは、こうだ。
「あらかじめ一部の箇所だけ、堤防を低くする。この部分から水が越水するようにする。その上で、この部分だけ、堤防をコンクリ護岸で補強する」
これで、先の問題は回避される。
・ 決壊するべき箇所は、これで指定される。
・ 他の場所は、最高水位よりも堤防が高くなるので、決壊しない。
順に説明しよう。
(1) 決壊するべき箇所は、これで指定される
この部分では、堤防が低くなっているのだから、越水する部分は、この部分に限られる。ゆえに、越水破堤をする場所は、ここに指定される。(他の場所は、堤防が高いので、越水が起こらないし、それゆえ越水破堤も起こらない。)
(2) 他の場所は、最高水位よりも堤防が高くなるので、決壊しない。
仮に、この部分が 50センチ低くなったとしたら、他の部分は、最高水位よりも 50センチぶんだけ堤防が上にある。それが重みになるので、水の浸透による決壊は起こらなくなる。これはつまり、他の場所全体で、「堤防に 50センチのかさ上げ」があったのと同様の効果がある。( → 前項 )いや、それ以上だとも言える。この方法なら、どれほど増水しても、かならず水位よりも 50センチ高く堤防があるのだ。換言すれば、水位は必ず堤防よりも 50センチ低くなるのだ。というわけで、堤防の決壊はまず起こらなくなる。
──
以上によって、きわめて低コストで(かつ短期間で)、堤防の決壊を防ぐことが可能となる。
ただし、小さな弊害が付随する。それは、こうだ。
「 50センチ低くなった分、越水が起こりやすい。したがって、床下浸水や床上浸水などは、起こりやすくなる」
この弊害は付随する。しかし、これはやむを得ない。一箇所で決壊が起こるのを防ぐために、広域で小さな床下浸水が起こるのはやむを得ない。
換言すれば、広域で小さな床下浸水が起こるのを代償として、一箇所で決壊が起こるのを防ぐわけだ。……これはこれで、十分に成立する政策だ。
今回の例で言えば、常総市の一箇所で決壊が起こったことで、常総市の広域で大量の水が氾濫した。
一方、本項の方法を取れば、常総市で氾濫した水の 100分の1程度の水が、鬼怒川の流域全体で広域に越水することになる。数百万人が被害に遭うことになりそうだ。
ただし、その被害とは、道路の冠水だけだと思う。道路が数センチほど冠水する。そうなると、道路と同じ高さの床面は床上浸水するが、道路よりも 10センチ以上高い床面のある建物ならば、床上浸水は無しで済むだろう。要するに、それぞれの建物が自力でまともな対策をしておけば、道路の冠水だけで済むわけだ。
こうして、「低コスト、かつ、短期間で、洪水の問題を解決する」という妙案が示された。
[ 付記1 ]
本項の方法では、次のことが大切だ。
「広域で越水するときにあふれた水量と、一部で決壊するときにあふれた水量とは、桁違いだ。決壊したときには、そこから莫大な水量が流れ込むので、ものすごい水量があふれる。一方、広域で越水するときにあふれた水量は、たいしたことがない。なぜなら、流れる水のほとんどは、川によって運ばれるからだ。あふれるのは、ほんの一部にすぎない」
この対比があるがゆえに、「人為的に越水を呼び起こす」という方法が有効なのだ。
比喩的に言えば、「肉を斬らせて骨を断つ」みたいな感じだ。小さなものを犠牲にして、大切な目的を達成する。
逆に、小さな犠牲を惜しむと、非常に大きな犠牲が発生する。
[ 付記2 ]
本項の方法は、次の方法とも原理は似ている。
→ 雨水を川に入れるな
この方法も、広い地域で道路の冠水を受け入れるかわりに、河川の氾濫や決壊を防ぐ、というものだった。
これが有効である原理は、すぐ上の説明と同様だ。
[ 付記3 ]
今回の決壊した箇所では、堤防のかさ上げ工事が予定されていたという。
国土交通省によりますと、今回、決壊した鬼怒川の堤防は高さが4メートルほど、最も高いところの幅が4メートルあり、改修工事では堤防の高さをかさ上げしたうえで幅を広げ、より多くの雨が降っても耐えられるようにする計画でした。
現場の下流ではすでに改修工事が始まっている場所もありますが、決壊した現場付近は昨年度から用地買収を始めたところで、工事はまだ行われていませんでした。
( → NHK 9月10日 )
ここには奇妙なことが書いてある。「用地買収」だって。しかし、鬼怒川の川幅はすごく広い。衛星写真を見ても、ストリートビューを見ても、川幅の広さは明らかだ。(通常時の水流の幅ではなくて、増水時の水流の幅。つまり、両側の堤防同士の距離。)
だとすれば、用地の買収などはまったく必要ないはずだ。単に堤防の内側に、土盛りをするだけでいい。川幅は少しだけ狭くなるが、その土は河川敷から持ってくるのだから、川の内部空間の大きさは変わらないはずだ。単に堤防が高くなるだけだ。
こういうふうに、「用地買収」なんていう馬鹿げたことをやっているから、やたらと高コストになって、工期もかかる。ほとんど馬鹿げているとしか言いようがない。
こういう馬鹿げた方針のせいで、工事がなされないでいた。だから決壊が起こった。……今回の氾濫は、人災だな。
[ 余談 ]
道路の冠水ぐらいは、受け入れてもらうしかない。それでも一部の家では、床が低いせいで、床上浸水となるだろう。
たとえば、次の話がある。
→ 板橋区の浸水
今回、常総市などの被害が大きく報道されたが、同時に、都内でも浸水被害があった。板橋区の東坂下のあたりだ。このへんは、低地だということもあって、浸水が起こりやすい。
ただし、道路の冠水は一帯にあったのだが、床上浸水があったのは一部区画だけだ。これを見て私が思ったのは、こうだ。
「どうせその家の床が低いだけだろ」
そう思って、Google マップで確認したら、案の定だった。
こんなに床が低いのでは、ちょっとした道路の冠水で床上浸水が起こるのもやむを得ない。
まあ、民家でなく、商店だと、床を低くするのが普通だから、床上浸水は起こりやすいものかもしれない。しかし、その程度は、諦めてもらうしかない。
というか、本当は、こういうときのために、「防水壁」みたいなのを、入口に臨時で設置するべきなのだ。そうすれば、深さ 30センチぐらいまでの浸水を阻止できる。
前にも紹介したが、次の動画が参考になる。(地下鉄の出入口の浸水を防ぐ。)
こういうのを、各商店でも用意すれば、店舗への浸水を防ぐことができる。
ともあれ、こういうふうに床上浸水への対処は可能なのだから、道路の冠水ぐらいは我慢してもらうしかない。
( ※ そもそも、住宅地なら、たいていの家の床は、地面よりかなり高くなっているはずだ。少なくとも、縁側がある家ならば、床の高さは膝ぐらいの高さになっているはずだ。したがって、道路の冠水では、床上浸水が起こりようがない。)
【 後日記 】
本項で述べた提案は、(発想や目的は異なるが)実質的に同じものがすでに実現している、と判明した。
→ 洪水対策の越流堤 (2016年01月09日)
詳しくは、上記項目を読んでほしい。
それは、下水道の掃除を減らすだけです。
堤防の決壊を起しにくくなるため一部地域に大災害が発生しなくなる。
道路の浸水程度なら災害処理で国民を黙らせる事も可能。
下水道費用が下がるので消費増税分を国民に還元できる。
追加の税金は不要。
一石四鳥。
これはあくまで「この記事へのコメント」です。私はいかなる責任を負いません。
やるとしたら、家庭の内部(台所から下水管までの間)だけだと思います。下水管は、いちいち掃除なんかしていないと思います。そもそも、詰まるとも思えません。
→ http://www.jswa.jp/suisuiland/3-1.html
雨水の(川への)排出を抑えるのならば、雨水ポンプ所で抑止するのが本道です。
→ http://openblog.meblog.biz/article/26233777.html
堤防の一部をあえて低くし、ここから溢水させて遊水地に流すのならいいと思います。しかし、遊水地がない、あったけどその遊水地が埋め立てられて市街地になっている現状で、市街地のこの部分は床下浸水が発生する可能性が高いですよとするわけですね。
土地の価格が下がる、資産が減る、なんで私の住むところだけ?というわけで、そのような工事は反対が大きくてできないのではないでしょうか。農地なら、浸水したら補償するで可能でしょうね。50年に1回の補償なら自治体・国に負担にならないでしょう。
総論賛成、各論反対になると思います。
他に金のかからない良い案があるわけではないですけど。
から、もう一つ進んで道路を排水路としては使えないでしょうか?
深さは数センチから10センチくらいに抑えても、面積で稼げば相当の水量を処理できると思います。
越水させる場所と排水に使う道路との位置関係を上手くとれるかによると思います。
ただ、未だに水が引いていないところから、雨水管の設置が不十分なのかもしれない。
そうじゃないです。特定の箇所だけ堤防を低くするなら、その地域で反対されるでしょう。しかし、そうではなくて、すべての堤防が対象となります。だいたい、50メートルおきぐらい。
したがって、非常に広域であふれるので、各地であふれる量はわずかです。現実に起こるのは、道路の冠水だけです。それも数センチ程度。床下浸水が発生する可能性はほとんどありません。あるとしたら、敷地が道路よりも高くなっていない家だけです。
ただ、降水量が 100ミリを越えるような豪雨だと、床下浸水も生じるかも。それはまあ、我慢してもらうしかない。お天気のせいなんだから。
なお、文句を言う人がいたら、「じゃ、堤防が決壊して、常総市みたいに氾濫して、家が流されてもいいのか?」と問い返せばいい。
> 道路を排水路としては使えないでしょうか?
通常、自動的にそうなります。
越水した箇所は、堤防脇の道路です。(個人の敷地ではありません。)
道路に水が入るので、そのまま道路を伝って、水が広がっていって、道路がどんどん冠水します。道路が、越水した水の排水路となります。
なお、堤防の脇が個人の敷地になることは、あまりないはず……と思ったが、ところによっては、そういう場所もあるようですね。そういうところでは、もちろん、堤防を低くすることはあり得ない。
堤防が低いと越水や浸透を起こしやすく弱い堤防になってしまいますが、わざと低くした部分はお金をかけて浸透が起こりにくく越水があっても崩れない丈夫な堤防にしておけばいいわけですね。
大洪水を防ぐためには小洪水はやむなしという考えは、非常事態に対処する考え方として優れていると思い、感心しました。
日本のどこか、あるいは世界のどこかでこういう例はあるのでしょうか?
聞いたことはありませんが、調べたらアルかもとも思いました。
雨水ポンプ所を止めてしまえば、陸地から川に流入する水の量はゼロとなり、川で増えるのは川面に直接降った雨水の量だけだ。その比率は、平野における川面の面積の比率なので、5%にもならない。この程度は、無視できるぐらいの量だ。
道路に冠水する水の大部分は、川から越水した水ではなくて、陸地に降った雨の水です。それが、雨水ポンプ所を止めたせいで、道路に冠水する。冠水するのは、この分(陸地に降った分)がほとんどであって、川から越水する水の量はほとんど無視できる。だから、越水したからといって、大騒ぎするようなことじゃない。
平野に貯まるのは95% X 0.6m=57
川に貯まるのは5% X 0.6m=3
雨水ポンプを動作させて、平野の水を川に注いで川面を6mまで許す
川5% X 6m=30 平野の水は57−(30−3)=30と減少する
雨水ポンプを制御して、管理さんのいう低い堤防部分から水を平野にもどしてやる。
平成18年の豪雨で西枇杷島町の全域が浸水したのも、名古屋城を守るため新川右岸の堤防の一部を低くしてあったからです。(新川洗堰)
https://ja.wikipedia.org/wiki/洗堰緑地
情報をありがとうございました。発想は似ていますが、実態は本項とはだいぶ違いますね。
(1) 堤防を低くする箇所は、その一箇所だけ。
(2) 越水した水の先は、市街地ではなくて、新川という特定の新しい放水路。
(3) 元の川は決壊しなかったが、その新しい放水路の方で、決壊が起こってしまった。
→ http://j.mp/1MfjqIB
> 全域が浸水したのも、名古屋城を守るため新川右岸の堤防の一部を低くしてあったから
そうではなくて、(3) です。つまり、新川で決壊があったから。
頭隠して尻隠さず、ふう。
新川で堤防の一部を低くしてあれば、越水はあっても、決壊はなかったはずなので、大洪水はならなかったでしょう。その意味で、本項の話とは、全然違うようです。
○庄内川の堤防
でした。
東海豪雨では庄内川が決壊すれば、名古屋駅付近の地下街は全滅だったということですから、「堤防を低くして、庄内川の決壊を防ぐ」という目的は果たされた訳です。