鬼怒川の堤防決壊の原因は何か? 報道では、理由が推測されていた。
《 鬼怒川 「弱い堤防の裏側が削られ決壊か」 》
「堤防を越えた水が構造的に弱い堤防の裏側を削ったことで決壊につながったと考えられる」と指摘しています。
( → NHKニュース 2015-09-13 )
(3)川の水があふれて堤防を越え、住宅地側から土手が崩れる ──
というもので、 今回の鬼怒川のケースでは(3)の可能性が専門家から示されています。堤防を越えた水が住宅地側に流れ落ちる勢いで、堤防の側面や地面が削られたとの見方です。
( → 47NEWS 2015-09-13 )
決壊の前後、鬼怒川は計3カ所で水が堤防を越えた。
あふれた川の水で堤防が削られる「越水破堤」が起こった可能性もある。名古屋大学大学院の戸田祐嗣教授(河川工学)は「堤防の構造や土砂の質などの要因があるので一概に言えないが、非常に大きな雨量によって、あふれた川の水で堤防が崩れることもある」と説明した。
( → 産経ニュース 2015-09-13 )
つまり、堤防を越えた水が、堤防の裏側を削って、堤防を崩壊させた……というわけだ。
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以上が事実であるならば、この原因に対する対策は簡単だ。
「堤防の裏側を、浸水しないように、コンクリートの護岸で被覆する」
これで済むはずだ。そこで、現場の状況を確認しよう。ストリートビューで見る。
左が川側で、右が陸側だ。中央の堤防は白っぽくなっている。
これを見ると、まさしく現場では、堤防の裏側がコンクリートで被覆されていない、とわかる。
では、これで問題と対策は判明したか? いや、そうではない。さらに調べると、実に意外な真相が判明した。
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堤防の裏側だけでなく、表側も見よう。こうだ。
見ればわかるように、堤防の一部しかコンクリートで被覆されていない! 下半分はコンクリートで被覆されているが、上半分は土が剥き出しだ!
さらに、同じ地点で後ろを振り返って、上流側を見ると、下半分さえもコンクリートで被覆されていないとわかる。
以上は、決壊地点よりも少し上流のストリートビューだった。
決壊地点も同様だ。画像検索すると、いろいろと画像が見つかるが、たとえば、これだ。
→ http://news.ameba.jp/image/20150912-209/
堤防の表側も裏側も、ともにコンクリートの被覆がない、とわかる。(他の画像を見ても同様だ。)
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結局、鬼怒川の決壊の理由は、「堤防工事がほとんどなされていなかったこと」(コンクリートの被覆がなかったこと)による。堤防の裏側にコンクリートの被覆がなかっただけでなく、堤防の表側にもコンクリートの被覆がろくになかったのである。
要するに、もともと「大量の降雨があれば決壊が起こる」というようになっていたのだ。何か特別の理由があったのではなくて、もともと洪水対策をしていなかったから、大型の洪水が来たら、起こるべきことが起こっただけのことだ。
つまり、すべては人災だったのである。
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では、どうして工事をしなかったのか? それは、先にも述べたとおり。
→ 鬼怒川の氾濫はなぜ?
つまり、八ツ場ダムなんていう無意味な工事に、巨額の金(4000億円)をかけるから、肝心の下流域の工事費用がなくなってしまうのだ。
また、東日本大震災で、無駄に巨額をかけている、という問題もある。2000億円の無駄工事。
→ 陸前高田の盛り土
2000億円どころか、19兆円も無駄にしている。
→ 復興予算19兆円の無駄遣い
東日本大震災の二の舞を避けようとして、無駄な工事に 19兆円もかけるから、肝心の箇所の工事費用がなくなる。そのせいで、こういう被害が生じるわけだ。
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なお、このように堤防改修が放置されているのは、鬼怒川だけではない。全国各地で同じ状況にある。
茨城県常総市の鬼怒川で10日に発生した堤防決壊は、鬼怒川としては栃木県内で起こった昭和24年以来となった。決壊した堤防付近は「10年に1度程度の大きい水害には対応できない」として国土交通省が改修を計画していた。全国の河川のうち、治水工事が整備目標に達している事例は「ほぼない」(国交省)といい、整備の優先順位に頭を悩ませている。
国交省は平成24年7月、九州地方の福岡県柳川市の矢部川で発生した決壊を受け、全国の河川を緊急調査。その際、今回の発生場所は補強対象にならなかった。
( → 産経ニュース 2015.9.11 )
こういう状況であれば、今後もあちこちで、洪水被害で多数の死者が発生することになりそうだ。
( ※ 次項を参照。)
[ 付記 ]
すぐ上の記事には、次の話もある。
ただ、26年10月の調査で「10年に1回レベル」への備えが必要な区域とされ、高さをかさ上げして幅を広げる工事を7年以内に行う計画を決めた。しかし、用地買収の段階で工事は未着手だったという。
( → 産経ニュース 2015.9.11 )
しかし、本項ですでに記したように、「高さをかさ上げして幅を広げる工事」は特に急ぐ必要はない。急ぐ必要があるのは、コンクリートによる被覆だ。
なのに、その真実を隠して、「莫大な金のかかる工事をやるつもりでしたが、用地買収の問題で、できませんでした」と嘘の言い訳をする。マスコミはそれにころっとだまされる。
コンクリートによる被覆さえもしなかったのが理由だ、という真相は、覆い隠される。
官僚は、コンクリートによる被覆はしないが、嘘による被覆は上手だ。
【 関連サイト 】
越水破堤のメカニズムについては、次の文書が詳しい。わかりやすくて、お薦め。
→ 鬼怒川氾濫「越水破堤」のメカニズム【図説】
→ 破堤現象 その1
下記は、学術的に、専門的な話が書いてある。
→ 越水破堤をとりまく状況(PDF形式2MB) - 北海道開発局
【 追記1 】
重大な事実が判明した。「越水破堤」はなかったのだ。
2015-09-14 のテレビ放送で、現場を目撃していた人の話によると、越水は起こらなかったそうだ。「水が満杯になって、水が堤防を越えて、チョロチョロ流れるだろうな」(越水が起こるだろうな)と思いながら、堤防の上で見ていた。すると突然、堤防が決壊して、一挙に巨大な堤防が崩壊したそうだ。
このことから、「越水破堤」はなかった、とわかる。堤防を越えた水が少しずつ堤防を崩したのではなかった。では、何があったか? 堤防の正面から押し寄せた水が、堤防を一挙に崩したのだ。
川が満杯になり、水が少しずつ堤防の土にしみこんで、堤防の土の全体を軟弱化させる。水を含んだ土は今にも崩壊しそうになる。そこへ正面から水の圧力がかかる。それでも持ちこたえているが、持ちこたえられなくなったとき、全体が一挙に崩壊する。
このようなことは、堤防の川側にコンクリの護岸がないときに起こる。コンクリの護岸がないと、水が土手の土にしみこむからだ。
( ※ コンクリの護岸の有無については、本項ですでに述べたとおり。)
なお、専門家は、現場を調べたあとで、「地盤がしっかりしているから、越水破堤ではないか」という見方をしている。
→ テレ朝 ニュース
しかし、現場を見ただけじゃ駄目なんだよ。目撃者の証言が最優先だ。殺人現場と同様で、現場をいくら見ても真犯人はわからない。しかし犯行現場を見た目撃者がいれば、真犯人はわかる。現場の調査よりも、目撃者の証言が優先される。専門家はそこを理解していない。
なお、専門家がアホばかりだから、コンクリ護岸のない堤防が全国各地で放置される。
今回の堤防もそうだ。現場を見たら、「川側にコンクリ護岸がないから、水が正面から堤防にしみこんで、堤防が決壊したのだ」と推測が付くはずだ。なのに、コンクリの護岸がないことをまったく軽視している。
専門家がアホやから、対策がでけへん。( → 元ネタ )
──
なお、正しい知見は、すでに得られている。

出典( PDF )
【 追記2 】
次の記事が出た。堤防の決壊の瞬間の目撃者の証言。
10日朝、自宅から約100メートルの堤防に上がり、刻一刻と増す水位を見守っていた。ほどなく濁流は堤防を越える。30分ほどすると「ドン!」という音とともに、十数メートル先で堤防のアスファルトがめくれ上がった。濁流があふれ出す。「決壊だ!」
( → 朝日新聞 2015年9月17日 )
この目撃では、越水はあったことになる。とはいえ、堤防の反対側を削るほどの水流があったわけではない。そのまま 30分ほどしたとき、堤防が外側から削られたのではなく、内側から破裂した。
ここでは堤防内部に高い圧力がかかっていたことになる。したがって、これは「越水破堤」ではなくて、すぐ上に記したような「浸透による決壊」であることになる。
なお、これを防ぐには、アスファルトの上に重みを付けておくことが大切だろう。たとえば、土嚢を置くとか。
現在は600mしかなく、バックウォーター現象(利根川の水位の上昇が鬼怒川の水の流入を妨げた現象)を防げなかった。入間川と荒川の背割堤は4.6km、中川と荒川の背割堤は7.4kmあるので、3〜5kmは欲しいですね。
あと、利根川と江戸川の分流点から、利根川と鬼怒川の合流点までの河川敷の幅は狭いです。ここを拡げるのも、利根川の水位を下げる効果があると愚考するしだいです。
日本中の堤防を二重にするのは、およそ不可能だが、日本中の堤防をコンクリで被覆するのは、可能だし、必要です。というか、コンクリで被覆しない堤防なんて、堤防の価値がない。時間がたてば決壊するのは当然。
どうしてかというと、決壊したあとの流れ込む水は、決壊箇所から離れると、水深が浅くなる。その状態で、田んぼの方に水を流してしまえばいい。
そうすれば、比較的低い堤でも、市街地を守ることは可能です。(田んぼは水浸しになるが。)
Wikipedia によると、輪中は、交通に不便なので、しだいにすたれたそうだが、今でも水門つきの輪中はところによっては存在するそうです。低地などでは、それなりに効果があるようです。
ただ、時間がたつと、決壊した箇所から入る水が多くなりすぎるので、あたりが水浸しになる前に、河川の水量が減ってくれないと困る。
水害と戦ってきた歴史に学ぶのも良いかもしれません。
> 重大な事実が判明した。「越水破堤」はなかったのだ。
を、最後に加筆しました。
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