2015年09月10日

◆ 五輪エンブレムと著作権

 五輪エンブレムと著作権の関係について、「著作権侵害を問うには、類似性だけでなく依拠性も要件だ」と語る人が多いので、解説する。 ──

 ベルギーの劇場は、例の五輪エンブレムについて、「類似性があるから著作権法違反で訴える」と言っている。
 これに対して、「著作権法違反を問うには、類似性だけでなく依拠性も必要だ」という反論がある。
 これについては、Wikipedia の解説がある。
 著作物を利用しているとされるには、現に利用されている著作物(利用著作物)が、対象となる既存の著作物(既存著作物)に依拠して作出されたものであって(依拠性)、利用著作物と既存著作物における表現が類似していること(類似性)が必要であると解する。いずれかの要件を欠く場合は、既存の著作物を利用していることにはならず、著作権侵害は成立しない。
( → Wikipedia

 これをもって、「類似性があっても依拠性がないから、佐野デザインはベルギーの劇場ロゴの著作権侵害ではない」と主張する人が多い。

 しかしながら、ベルギーの劇場の弁護士は、国際的な超一流の弁護士だ。
 まず、週刊新潮の記事がある。
 代理人に超大物弁護士がついたため、佐野氏側の苦戦が予想されるというのである。その人はアラン・ベレンブーム氏だ。ベルギーのブリュッセル在住のジャーナリストは週刊新潮で、アラン氏はベルギーを代表する有名弁護士で、ベルギー王の顧問弁護士も勤めていると話している。
 大阪芸術大学の純丘曜彰教授はアラン氏の辣腕ぶりをこう評価している。
<「何しろ、彼はヨーロッパにおける芸術分野の著作権法制を作り上げた人物ですからね。今回のような裁判では抜群の強さと影響力を持っています」>
( → j-cast 2015/8/28

 さらに、Wikipedia の記事もある。
 アラン・ベレンブーム(Alain Berenboom 1947年1月8日-)は、ベルギー王国の弁護士、作家である。ベルギー王国で著作権関連法案の整備に携わったことで有名である。ベルギー経済省知的財産・著作権会議の元メンバーであり、法律家著作権ABDA(現在ABA)ベルギー協会会長。ベルギーの国民的キャラクター『タンタン』の知的財産管理を任せられているほか、ルネ・マグリットの作品管理団体「ルネ・マグリット財団」の法務関係の仕事を手掛ける。第6代ベルギー王国の国王、アルベール2世の弁護を担当したこともある。
 知的財産権の専門家として国際的に認知されている。

 1994年には著作権法の専門家として、議会とともにベルギーの著作権法の起草に参加。同年に『新しいベルギー著作権と隣接権』を上梓。さらにルクセンブルクの著作権法を起草。
( → Wikipedia

 ベルギーの著作権法を作った当人が、弁護士となって、「著作権法違反だ」と訴えているのである。法律を作った人自身が「有罪だ」と述べているのである。戦って、勝てるか? 勝てるはずがない。

 にもかかわらず、日本では多くの人が、「類似性はあっても依拠性はない」などと述べて、勝てるつもりでいる。これはどういうことか? 

 ──

 ここでは論理的に推察が付く。
 「依拠性を述べているのは、日本の著作権法だけを考えているからだ。一方、ベルギー側は、ベルギーおよび欧州という国際標準の著作権法を考えているからだ。日本がガラパゴス基準で無罪だと思っても、相手は国際基準で有罪を主張する。そして、判決の場は、国際基準である。とすれば、日本が勝てるはずがない」

 要するに、依拠性を述べている人々は、ガラパゴス基準で国内のことばかり考えているからだ。その視野の狭さに気づかないわけだ。

 ──

 以上のことは、私は前から推察していたが、そのことがはっきりと裏付けられた。新たに、下記の報道が出た。
  → 腐り切った東京五輪組織委という病巣 | ニコニコニュース
 ここから一部抜粋しよう。
 実は本事件は、日本の著作権に対する認識が世界から大いに遅れて孤立状態であることをグローバルに晒してしまった。
 日本とは異なり海外は、著作権保護に関して極めて厳しい。
 国際的には「似てれば侵害」であり、故意か偶然かは関係ない。
 ──
 (日本では)著作権とはそもそもどんな権利なのかよく理解されないまま、「まったく同一か、著名な作品以外はパクり放題」という独自の状態を長い間続けてしまっていたツケが、今回まわってきたともいえる。
 ベルギー側の主張を単なる「横槍」としてしかとらえないのは、いかにも日本的な考え方であり、世界ではベルギー側の主張がスタンダードである。

 赤字部分が重要だ。とにかく類似性があれば侵害であり、故意である(依拠性がある)かは関係ないのだ。それが国際基準だ。この違いがあるがゆえに、日本では著作権法違反がやり放題であるが、諸外国では著作権法違反にすこぶる厳しい。

 その典型的な例を示そう。それは、ミッキーマウスだ。これと似たデザインを作ると、たいていはディズニーに訴えられる。この手のデザインは、いくらか似ているとしても、依拠性なんてものがあることを証明することなど、もともと不可能に近い。
 なのに、日本では不可能なことを求めるから、「そんなことは証明できません」となってから、「証明できないなら無罪だ」と判決が出て、たいていは無罪となる。
 一方、諸外国では不可能なことなど、もともと求めない。単に「似ている」ということだけで、有罪となる。

 というわけで、依拠性なんかを持ち出すのは、てんでお門違いであるわけだ。日本国内でなら、依拠性を持ち出せばパクリのし放題だが、ベルギーでは、国際基準が適用されるので、依拠性なんてものを持ち出しても門前払いされるだけだ。
 「依拠性」というガラパゴス基準は、世界には通用しないのである。

( ※ 少なくとも、ロゴのような簡単なデザインについては、そう言える。文章や音楽などの複雑な著作物については、また別の話となるが。)
 


 【 関連サイト 】
 日本が著作権法違反に甘いことの証拠。
  → 衝撃!50年前に日本も中国のような「山寨」(パクリ)大国だった

 これほどにもパクリ放題だったのだ。こんな国の著作権法の基準が、世界で通用するはずがないのだ。

  ※ ただし、上記サイトの例のうち、一部はパクリではない。解説は下記。
    → はてなブックマーク
posted by 管理人 at 21:35| Comment(3) |  東京五輪・豊洲 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
今回の騒動は著作権や意匠権という知的財産をおざなりにしてきたツケが一気に噴き出したと言えます。
ある先駆的な製品がヒットした後、類似製品を安価に大量に上市して市場を乗っ取る商法は最近ではタブレット、スマホ、そして少し前ならGUIのWindowsが該当します。
こちらはあまり責められないようです。
Posted by 京都の人 at 2015年09月10日 22:53
もしもおばけの太郎がディズニーのキャラクターだったら、ふなっしーの大活躍もなかったかも知れませんね。と云いますのもわたしにはおばQ一族に見えるからなのですが。でもまぁふなっしーはまだ独自の意匠に昇華してるとも云え悪意も感じません。ガラパゴス日本もかつては著作権無法地帯だったようですね。ぺこちゃんおまえもかっ!という感じです。でも例えば映画『スター・ウォーズ』シリーズは古今東西の物語・意匠のちゃんこ鍋の如くでその出典を紐解くのも楽しみでもあるのですが、2作目の四つ足と二本足のメカに於いては裁判沙汰になっているようです。判決の如何に関わらず出典元のイラストを見るならば流用は明らかな事例でした。デザインにしろ何にしろ人間の紡ぎ出すものはイメージの連鎖の作業なのでどこかしらは似ている、似てしまうものなのでしょう。結局制作者の心の在り方がその後の明暗を分けてもいくようです。

オリンピックエンブレムの問題は諸々の問題点を世間に周知させ浮き彫りにしてくれました。個人の問題&仕組み組織の構造的な問題。こういう事でもなければ知られる事もなかっただろう美味しい利権がこんな処にもっ!
明るみになってよかったとも云えそうです。
Posted by 小平の義太郎 at 2015年09月11日 12:59
これでよくわかった。
デザイナー業界人が「類似性はあるがコンセプト(設計思想)が違うから似てない」とかおおよそ日本語の体をなさないことを平気で言い募る理由がよくわかりました。彼らは「似ている」は禁句であることを知っているのでは無いでしょうか?
彼らが「似ている」と発言すると事によってベルギーデザイナーを利することを。
Posted by hibari_sun at 2015年09月11日 14:24
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