エンブレムの決定は、専門家によって密室でなされる。これを問題視して、「公開して国民投票で決める」という案もある。しかしながら、これには次の問題がある。
「公開中の案を見て、誰かが先に商標登録してしまうと、それを使えなくなる」
これを解決するには、あらかじめ候補作についてすべて商標登録をしてしまえばいい。しかしそれにはコストがかかる、という難点がある。
大会組織委員会は4日、そのエンブレムに関する国際商標調査や商標登録申請などの経費が、約5700万円だったことを明らかにした。空費した費用はすべて組織委員会が負担した。改めて公募する予定の新しいエンブレムについても、同様の商標調査が必要と考えられ、少なくとも5千万円程度の経費が見込まれるという。
組織委によると、今月1日に取り下げを決めたエンブレムは、佐野氏のデザインの採用を決めてから、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)、組織委が共同で、弁理士などに国際商標調査・登録申請を依頼。この費用に約4700万円がかかった。
( → 朝日新聞 2015年9月5日 )
直接的な費用は、約 5000万円かかったようだ。ここで、広報作が 10個あると、費用も 10倍になるので、5億円。無駄ですね。だったら、公開投票はやめた方がいいか?
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ここで、困ったときの Openブログ。うまい方法を示そう。こうだ。
「候補作を5個程度に絞る。それらについて一括して商標登録する。類似したものがあるかどうかについては、投票の上位のものから順に調べる」
これで大丈夫だ。理由は下記。
(1) 登録費用
登録費用は、一括して申請すれば、たいして増えない。1個でなく5個になったからといって、手間が5倍になるわけではないから、費用は5倍にはならない。また、登録費用そのものは、個人でもできるレベルのことなので、たいして費用はかからないはずだ。1000万円をはるかに下回る額になるだろう。
(2) 調査費用
似たものがあるかどうかを調べる調査費用は、かなりかかる。これがコストの大部分を占める。しかし、これについては、「投票の上位のものから順に調べる」という方法で、節約できる。
・ 最上位のものが独自であるなら、それで決まり。
・ 最上位のものに類似デザインがあったら、第2位のものについて調査する。
・ 第2位のものに類似デザインがあったら、第3位のものについて調査する。
・ 以下、同様。
以上のようにすれば、調査の数は、必要最小限で済む。特に、最上位のものが独自であるなら、調査は1回で済む。
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というわけで、本項の方法をとれば、コストアップは最小限で済む。
したがって、公開投票の形でエンブレムを決めることは可能だ。
( ※ ただし、あらかじめ5個ぐらいに絞っておく必要がある。)
[ 付記 ]
あらかじめ5個ぐらいに絞っておく段階では、次のことが必要だ。
「エンブレムを決めるに当たっては、エンブレムとして優れているものを選ぶ」
こういう方針を取れば、まともなデザインが選ばれるはずだ。これまでの選考では、いずれもそうだった。(64年東京、札幌、長野、いずれもこの方針だった。)
一方、今回の選考では、次の方針が取られた。
「エンブレムを決めるに当たっては、エンブレムとしての出来映えを無視して、展開力の優れているものを選ぶ。つまり、他の何物かの背景となるようなデザインを選ぶ」
こういう方針が取られたので、柄物の一部のような単純な図形が選ばれた。前項で述べたとおり。
→ 五輪エンブレム、二つの謎
これが今回の失敗の理由だ。だから、この失敗の轍を踏んではならない。
もし上記のように正しい方針を取らないと、ひょっとして、次のような案が出てくるかもしれない。

しかし、グレンチェック(の一部)みたいなエンブレムなんて、まっぴらごめんだろう。
なのに、そういうものを選んだのが、今回の審査委員だ。呆れるしかないね。
よくよく考えれば100個も200個も候補あっても選びようがないですね。
まあでも5個じゃなくて10個は欲しいかなぁ。
調査費用について、委員会が「非公開だから大変だった」的な言い訳?をしていたので
公開になれば費用も軽減されるかもしれないですね。
「中国、日本ブラン ドを勝手に商標登録、日本企業の被害深刻化」
http://biz-journal.jp/2013/08/post_2806.html