新国立競技場については新たにやり直すことになった。その基本となるプランは、次のことだ。
・ 陸上競技場として建設する。
・ オリンピック後には、トラック上に仮設の観客席を置く。
そのことでサッカーのフィールドまでの距離を近づける。
・ 陸上競技として使うときには、仮設の観客席をはずす。
以上は、ロンドンのオリンピックスタジアムと同様である。では、ロンドンのオリンピックスタジアムでは、どうなったか? これについては、下記項目ですでに論じた。
→ 新国立競技場レポート 2
そこに詳しく説明されているが、下記に転載しよう。
これはどういうことかというと、完全なサッカー専用球場に改修するのではなくて、陸上競技場とサッカー球場とに、モードで切り替える、という方式だ。
陸上競技モードでは、1階席を後方に引っ込め、空いた場所にトラックを置く。
サッカーモードでは、トラックの上に1階席と設置する。ただし、平面状に並べた1階席ではなくて、斜面状に傾斜した1階席である。その分、サッカー専用球場っぽくなる。
出典:Sunday Express 、 参考記事
これはなかなかいいアイデアだと言える。
「五輪スタジアムを、あとでサッカー専用球場に作り替える」
というふうに言われているのは、この方式のことだ。
( ※ 実際には、サッカー専用ではなくて、陸上競技場と兼用である。ただし、サッカーの試合のときには、きちんとした1階席がある。)
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とはいえ、これは、最善ではない。なぜなら、2階席や3階席のスタンドは、陸上競技場のままだから、フィールドからはとても遠いのだ。これでは、臨場感がない。2階席や3階席は、サッカー球場の観客席としては用をなさない、とも言える。
ゆえに、これは、最善ではない。(2階席や3階席は役立たずだから。)
では、どうすればいいか? 2階席や3階席は、五輪終了後に、もっとフィールドに近づける方がいい。(スタンド全体を中央に移動させるわけだ。)
このことは、もともと恒久的な陸上競技場を設置した場合には不可能だが、最初からスタンドを移動可能な形で設計しておけば、あとでスタンド全体を移動させることは可能だろう。そうすれば、あとで真の意味でサッカー専用球場に作り替えることができる。(この場合には、陸上競技場はもはや開けないが。)
要するに、1階席だけはフィールドに近いが、2階席や3階席はフィールドから遠いので、サッカー専用球場に比べて、はるかに劣るのだ。
はっきり言って、この案だと、1階席だけはマシだが、2階席や3階席は日産スタジアムや味の素スタジアムの1階席や2階席と同様である。高さだけは高くなっているので見やすいが、距離そのものは日産スタジアムや味の素スタジアムと同様で、フィールドから遠い。これでは、改善されているのは、1階席の分だけだ。あまり効果はないとになる。
(常設席 68,000 はフィールドから遠く、仮設席 12,000 だけがフィールドに近い。近いのは限定的だ。)
ちなみに、ロンドンのオリンピックスタジアムは、こうだ。
→ ロンドンのオリンピックスタジアムの画像 (出典)
→ ロンドンのオリンピックスタジアムの画像 (1階席が引っ込んだ状態)
これらの画像を見てもわかるように、2階席はフィールドから遠い。( 埼玉スタジアム や ドルトムントのスタジアム とは大違いだ。)
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で、こんなふうにすることに、何かメリットがあるか? あることはある。
「仮設席を外すことで、トラックを使えるので、陸上競技場としても使える」
ということだ。こういうメリットはある。
ところが、である。今回のプランでは、同時に、次のことも含まれている。
・ 補助競技場は仮設にする。(常設なし)
これは重大だ。常設の補助競技場がないということは、今後はもう補助競技場なしが続くということだ。(オリンピック終了後、その土地は明治神宮に返還され、国が勝手に使うことはできなくなる。)
となれば、ここではもはや国際級の競技会は開けない、ということになる。国際級の競技会を開くときには、味の素スタジアムや横浜スタジアムが使われ、新国立競技場はもはや二度と使われないのだ。
では、国内競技のためには、使われるか? それも無理だろう。国内の地方競技(県大会レベル)で使うなら、駒沢競技場や等々力競技場が使われる。こちらの方が利用料金が圧倒的に低いからだ。(建設費も低いし、仮設スタンドの移動費用もかからない。コストは大幅に低くなる。)……陸上競技の地方大会レベルであれば、金の問題から、新国立競技場を使うはずがない。
要するに、新国立競技場は、国際大会レベルでも、地方大会レベルでも、どちらでも使われない。にもかかわらず、「陸上競技場として使うための機能」を備える。これは、大きな難点だ。矛盾と言ってもいいくらいだ。
( ※ 決して使われることのない機能を維持するために、あれこれと無駄なことをするから。)
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では、どうすればいいか? 簡単だ。
陸上競技場として使われることはもう二度とないのだから、陸上競技場としての機能はそぎ落とせばいい。つまり、サッカー専用球場とすればいい。
具体的には、こうだ。
「初めから8万人規模の観客席を想定する。そのうち、トラック部分にかかる観客席だけは、設置しないでおく。そして、オリンピック終了後に、その部分に観客席を設置して、サッカー専用球場として完成させる」
これで問題はないはずだ。次のようになる。
・ 五輪終了後は、8万人規模のサッカー専用球場となる。
(トラックがつぶされる。)
・ 五輪の最中は、観客席の一部が不足するが、その箇所に、 トラックが敷設されている。
これで原理的にはうまく行くはずだ。ただし、難点もある。次のことだ。
「五輪の最中は、2階席から見たとき、トラックが近すぎて、トラックが見えなくなる」
下図のような感じになる。

2階席がトラックが近すぎて、トラックが見えなくなるのだ。(普通ならば、2階席はもっとトラックから遠いので、トラックが見えなくなることはない。)
というわけで、この方式を使った場合、次の難点が生じる。
「五輪開催中には、2階席からは陸上競技を観戦できなくなる」
これでは本末転倒になってしまう、と思えるだろう。
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では、うまい解決策はあるか? ある。こうだ。
「五輪開催中には、陸上競技のフィールド競技だけを、新国立競技場で行なう」
この場合には、フィールド部分だけを使うから、2階席から見えなくなるという問題はない。
一方、トラック部分は見えなくなるので、トラック部分だけを他の競技場で実施すればいい。たとえば、味の素スタジアムや、日産スタジアム。
ただし、もっとうまい方法もある。
「トラック競技については、2階席を販売しないで、1階席だけを販売する」
トラック競技のチケットなんて、どうせろくに売れるはずがないのだから、6万人分もの席は必要ないのだ。6万人分もの席が必要なのは、開会式・閉会式だけだ。トラック競技のために必要な席は、ずっと少なくて済む。ゆえに、2階席を販売しなければいいのだ。
ただ、例外的に、100メートル走とマラソンだけは、観客が多くなりそうだから、この二つは考慮を要する。
一応、次の案でいいだろう。
(1) 100メートル走については、2階席の片側だけを販売する。これなら、手前のトラックは見えないが、遠方側のトラックは見えるから、2階席の片側を使える。(および前側と後ろ側の円弧部分も使える。)……この方法なら、4万人ぐらいの席が使えるから、十分だ。
(2) マラソンについては、走者が一周するので、手前のトラックは見えなくとも、遠方側のトラックは見えるから、少なくとも半分は見える。ゴールが見えにくなりそうだが、ゴールを円弧部分に置くことにすれば、大半の席で見ることができるだろう。……この方法なら、5万人ぐらいの席が使えるから、十分だ。(円弧部分の1万人にはゴールが見えなくなるが、その分、チケットを安くすれば十分だ。)
あと、マラソンの場合、トラックの一番内側のコースだけがゴールで使われる。だから、もしかしたら、特に憂慮することなく、ゴールはどの席からも見えるかもしれない。
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さらに、うまい方法も考えられる。
「五輪の期間中だけは、トラックの床面を上げる。トラックの下に埋設物を埋めて、その上にトラックを建設する」

この方法でトラックの床面を4メートルぐらい上げれば、「2階席から見えなくなる」という問題はなくなるだろう。また、コスト的にも、それほど多額にはならないで済むだろう。(たぶん数億円にもならないはずだ。)
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まとめ。
・ 現在のプランは、トラックの上に仮設の観客席を置く方式。
・ それだと、サッカー観戦に有利になる、という狙い。
・ しかしそれが有効なのは、1階席だけ。
・ 2階席は、フィールドから遠すぎる。(サッカーに不適。)
・ 補助競技場がないので、陸上競技場には使えないのに、
陸上競技場として使えることを狙っている。無駄、矛盾。
・ そこで対案。2階席をフィールドに近づけるといい。
・ 2階席の一部を欠落させて建設し、五輪終了後に追加する。
・ 五輪の最中は、トラックの上の部分が存在しない。
・ 五輪の最中は、2階席からは、トラックが見えない。
(しかし、フィールド競技は見える。)
・ 対策はいくつかある。
・ フィールド競技だけ実施する。(トラック競技は別会場)
・ 不人気な競技では、2階席を販売しない。
・ 100メートル走とマラソンでは特殊な対応をする。
以上のようにして、五輪終了後は、サッカー専用球場とすることができる。このことで、多数の観客が望めるので、スタジアムの貸出料金を高くすることができて、建設費の回収が大幅に進む。
( ※ サッカー専用球場にしない場合は、観客が少なくなるので、スタジアムの貸出料金を低くするしかないせいで、建設費の回収が進まない。)
そんなんなら、新国立競技場なんぞ要らんだろ。
まあ作ること前提にしての案だから仕方ないんだろうが。
陸上競技の扱いが酷い。
トラック競技も一緒に見れなきゃ、それこそ観客いなくなりそう。
一番優遇されていますよ。すでに味の素スタジアムもあるし、日産スタジアムもある。他に、駒沢や等々力もある。
一方、(プロレベルで使える)サッカー専用球場は、東京や神奈川には一つもなく、埼玉に一つあるぐらいです。これほどサッカーが冷遇されているのは、日本だけ。
サッカーは、観客が多数でいっぱい納税しているのに対し、陸上競技は、ほとんど納税せず、逆に、国体やらインターハイやらで、多額の援助を受けている。その一環として、陸上競技場もたくさん作ってもらっている。これほど優遇されている競技はない。
> トラック競技も一緒に見れなきゃ、それこそ観客いなくなりそう。
二つの競技を同時に見るのは大変でしょ。どっちを見たらいいのかわからなくなる。
また、同時に実施するのも大変だ。たとえば、やり投げ、円盤投げ、砲丸投げなどを、トラック競技と同時実施することはできない。
むしろ、別の競技場で実施すれば、収容人員が2倍に増えるので、たくさんの観客が出席できる。観客はいなくなるどころか、2倍ぐらいに増える。その分、チケットも半額ぐらいまで安くなる。
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なお、陸上競技が開けなくなるのは、私の案の特徴ではなく、元のプランがそうなっています。補助競技場がないのだから。
補助競技場がなくて、もともと国際大会や全国大会は開けないのに、「陸上競技場があるから大丈夫だ、ちゃんと大会を開けるんだ」と錯覚している人が多すぎる。……その錯覚を、本項は指摘しているんだが、いまだに錯覚に気づかない人もいる。
なお、「補助競技場がなくても、地方大会が開けるから、それでいい」と思う人もいるかもしれないが、地方大会なんて、観客も少ないのだから、駒沢や等々力があれば十分だ。6万人規模の観客席は、地方大会には不要だ。