2015年07月03日

◆ 新幹線の換気装置

 火災が起こったときに煙が充満するので、換気したい。ところが新幹線には換気装置がろくにない。どうする? ──

 新幹線で焼身自殺があった。煙が充満して、被害は、死者1名、負傷者も多数。(重傷者は2人、軽傷者などは重傷者は2人、軽傷者などは24人)
  → 産経ニュース
 死因は、熱風による喉の火傷のせいで窒息死。
 林崎容疑者が油のようなものをかぶって火を付けた後には、新幹線ということで、狭い通路が後ろの車両に逃げようとする人であふれ、密閉性が非常に高いため黒煙が車内に充満していたということです。こうしたなか、桑原さんは、勢いよく吹き出した熱風で喉をやけどして、窒息して亡くなったとみられます。
( → テレ朝 news

 「何だ、火傷か」
 と思うかもしれないが、私は、これは、「即死ではない」という点が重要だと思う。新幹線は換気が不十分なので、事件発生後しばらく車内は煙だらけだったはずだ。そういう酸素不足の環境(一酸化炭素も多かった環境)で、窒息死となったのだろう。仮に、換気が十分であったなら、酸素をたくさん吸えたので、この人は死なずに済んだと思う。

 ……と思って調べたら、乗客の証言もあった。
 「男が油のようなものをまいていた。しばらくして男が火をつけると、熱風と黒煙が充満した。みんなが後ろの車両に必死で逃げたが、だんだん息苦しくなり、3両目まで逃げるとようやく呼吸ができるようになった」と話していました。
( → NHKニュース 6月30日

 他にも推測の裏付けがある。


yakesi.gif
出典:朝日新聞


 図を見ても、被害者の位置は、犯人の位置からは最も遠い。つまり、火の出た現場で窒息したのではなくて、ここまではちゃんと歩いてきたのだ。窒息した場は、火の出た場ではなく、ずっと離れた場(黒煙が溜まっている場)だったのだ。

 新幹線は、密閉性が前提となっていて、機密性が高く、換気能力は低い。そのせいで、いざ黒煙がいっぱい充満したときには、なかなか換気されない。このような構造的な欠陥が死者をもたらした、と言えるだろう。

 ──

 では、換気設備を充実させればいいか? いや、話はそう簡単ではない。
 亡くなった桑原さんは煙を吸ったことが死因とみられ、密閉性の高い新幹線は火災時の排煙が難しいという課題が浮かんだ。
 国土交通省やJR各社によると、新幹線は高速で走っても気圧が変化しないよう、車両の気密性を高くしている。換気装置はあるが、火災を想定した排煙設備はなく、煙が大量だと一気に車外へ排出できない。
 国交省は「バッテリーを増強すれば、より強力な換気能力を持たせることは技術的に可能」としているが、その場合は車体が重くなるなどして走行性能が低下するという。
( → 読売新聞 2015年07月01日
 国交省やJR東海によると、新幹線には、トンネルなどを高速で走る際に車内の気圧を一定に保つための空調換気装置はある。しかし、火災時の大量の煙を想定した排煙設備はない。
 さらに今回、火災発生後に新幹線を緊急停止して停電させたため、換気装置もとまり、密閉性の高い車内に大量の煙が充満した。
 金沢工業大の永瀬和彦客員教授(鉄道システム工学)は「大量の煙を換気するには大がかりな設備が必要。客室のスペースや高速性を保つ観点から現実的ではない」と指摘する。
( → 朝日新聞 2015-07-02

 たかが換気ぐらい、換気扇を付ければよさそうなものだが、そうではない。新幹線の場合、かなり大がかりな換気装置となっている。
 新幹線は、一般的な鉄道車両とは違い、1台300kg以上もある換気装置を、床下に配置している。
 これは、車体の重心を下げて、安定した走行を実現するため。
この換気方法だと、空気は座席の下から排出され、座席上部から取り込まれるため、火災などで発生した煙は、床付近に吸い寄せられ、身をかがめると、逆効果になってしまう可能性があるという。
( → www.fnn-news 2015-07-01

 図もある。
  → 新幹線用連続換気装置 ( 図 )
 
 ファンも、普通のプロペラ型のファンではなくて、トンネルなどの気圧差に耐えるために、機密性の高いルーツファンを使用している。
  → 新幹線300km/hをめざした新技術

 こうしたことで、大がかりで高価でありながら効率の低い換気装置となっている。これをいっそう大型化することは、事実上、不可能だ。
 では、解決策はないのか? 金沢工業大の永瀬和彦客員教授(上記)は、「ない」という趣旨で述べているが。

 ──

 ここで困ったときの Open ブログ。さっそく名案を出そう。こうだ。
 「通常時の換気装置と、火災時の換気装置を、兼用にするから、対策が不可能となる。だから、兼用にしないで、別々に用意すればいい。それなら、対策は可能だ」
 具体的には、次の二通りにする。
  ・ 通常 の換気システム (現状通り)
  ・ 火災時の換気システム (新規導入)


 このうち、後者については、次のようなものにする。
 「換気用のファンは一切、設けない。単に吸気口と排気口だけを設置する。吸気口は前方に向けて開き、排気口は後方に向けて開く。吸気口には正の圧力がかかり、排気口には負の圧力がかかる」


 これはまあ、自動車の換気システムと同じだ。単に空気の圧力だけで換気をする。新幹線であれ、自動車であれ、走行している限りは、この方法で換気ができる。

( ※ ただの煙の出た火災ぐらいならば、緊急停止する必要はない。今回も、乗務員が消火器で消火したのだから、そのころには緊急停止の必要はないとわかっていたはずだ。……隣の車両まで延焼したような場合は別だが。)

 ──

 結論。

 新幹線に換気装置を設置することは可能である。自動車と同様に、吸気口と排気口を設けるだけでいい。あとは、いざというときに、吸気口と排気口を同時に開くだけだ。これでOK。問題解決。
 
( ※ この方法を取れば、今後、同じような死者は出ないだろうし、負傷者もこれほど多くは出ないだろう。今回の被害の原因は、火ではなくて、換気不十分による煙のせいだ、と理解することが大切だ。)



 [ 付記 ]
 新鮮な空気が入ったせいで、火事がいっそうひどくなる、という説もある。
 JR東日本の車両技術者は「車内から空気を出せば、その分送り込む必要があり、酸素が供給されて火がおさまらなくなる可能性もある」という。
( → 朝日新聞 2015-07-02

 そうかもしれない。しかし、室内が難燃性である限りは、新鮮な空気を入れた方がいい。座席などが燃えるわけではないからだ。
 むしろ、新鮮な空気が入らなければ、不完全燃焼により、一酸化炭素発生する。これはごく小量であってもヘモグロビンと結びついて人を窒息死させる。
  一酸化炭素は、無色、無臭の可燃性ガスであるが、体内に吸引されると、肺胞で血液中のヘモグロビン(Hb)と結合し、一酸化炭素ヘモグロビン(CO-Hb)となる。その結合力は、酸素(O2)との結合力より 200 〜 300 倍も強く、そのため血液と酸素との結合力が低下し、体内の酸素が欠乏することになる。そして、大脳は、酸素欠乏に最も敏感であり、血液中の一酸化炭素ヘモグロビン(CO-Hb)量が 10%を超えると急性一酸化炭素中毒の症状が現れ、その量が増大するほど症状も重くなる
( → 防災基礎講座[PDF]

 一酸化炭素のせいで窒息死するくらいなら、体に火傷を負う方がずっとマシなのだ。難燃性の室内である限りは、新鮮な空気を入れた方がいいだろう。
posted by 管理人 at 22:24| Comment(7) | 安全・事故 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
建築物には規模や状況に応じて『排煙設備』が設けられますが、乗り物には無いんですね。

出火した場合、駆動系、制動系、通信制御系、その他どこに影響があるかわからないので「緊急停止」したほうが良いかと思います。

停止した場合でも、『排煙窓』のような煙排出口を上部に設けることによって(ついでに空気取り入れ用に下部にも開口を設けることによって)それなりの排煙効果を期待できるのではないでしょうか。ボタンを押すorレバーを引くとパカっと開くようなやつで。
Posted by けろ at 2015年07月04日 13:16
緊急停止しちゃうと、駅に止まれないので、乗客が長時間、閉じ込められちゃうんですよね。私としては、次の駅までは時速 10〜20キロぐらいで走行するのがベストだと思うが。この速度だと、風はある一方で、重大事故の危険はない。

 先の事件ではどうだったかというと……
  午前11時半に事件発生。
  午後2時9分に現場から動き始め、
  午後2時53分ごろ小田原に到着しました。
  乗客は全員、小田原駅で降りました。
     http://j.mp/1RaEHIZ
 3時間20分も閉じ込められた。うんざり。
 時速 10〜20キロぐらいで走行すれば、もっと早く外に出られたのに。(消火したあとなら時速60キロ。)……それなら、午後1時半ごろには到着できたと思うが。

 ともあれ、結果的には煙が充満したせいで死者1名、負傷者多数なのだから、これほどの犠牲者を出してまで換気をやめておく必要があるとは思えない。

 ──

 ただ、それとは別に、「プロペラ式の強制式換気扇を設置する」というのは、「あり」かも。これは 20ワットぐらいで10分間動くだけだから、小さなバッテリーでも足りる。

 ただし、走っているうちに換気することも大切だろう。車内をカメラでモニターして、黒煙が充満したら、換気するべき。
Posted by 管理人 at 2015年07月04日 14:51
気道熱傷による窒息は換気不足のせいではなく、火傷による浮腫で気道閉塞することによります。

一酸化炭素中毒防止には役に立つので、本論を否定するものではありません。
Posted by 通りかかり at 2015年07月04日 22:44
> 気道熱傷による窒息

 記事は、そうだとは読み取れません。
 「熱風で喉をやけどして、窒息して亡くなった」

 なので、やけどは、原因であるか、併発した症状であるか、この記事だけでは何とも言えません。
 私は、「併発した症状」の方だと思います。顔や手足がひどく火傷していないのに、喉だけが猛烈にひどく火傷する、というのは考えにくい。
 火傷による浮腫は、できていなかったと思います。あったとしても、ごくわずかでしょう。
Posted by 管理人 at 2015年07月04日 22:57
死因については見当が付いた。

 (1) もし一酸化炭素中毒だとすれば、肌がピンク色になり、血液が鮮紅色になるので、見逃すはずがない。ゆえに、一酸化炭素中毒ではない。

 (2) 気道閉塞というのは、すぐ上のコメントに記した理由で、ありえそうにない。

 (3) 高熱空気による肺の機能低下は、考えられるが、この人だけに特に起こったとは考えにくい。(他の人は症状がひどくない。)

 (4) 最も強く推定できるのは、黒煙があふれたことからして、不完全燃焼である。要するに、酸素不足。密室で大量のガソリンを燃やしたら、あっという間に酸素不足になる。同時に、大量の黒煙が発生する。(一酸化炭素はあまり発生しない。一酸化炭素はエンジンのような高熱燃焼が必要だが、火事では温度が低すぎる。)
 こうして酸素不足による窒息が起こる。

 ただし、他の人は、呼吸困難になりながらも、次の車両に移って、窒息を免れた。ところがこの被害者は、途中で力尽きて、倒れた。この時点ではまだ死んでいなかった。誰かがこの被害者を運んで上げれば、この人は助かっただろう。しかし、誰も助けてあげなかった。かくて、低酸素状態の密室に長く置かれた。その結果、5〜10分後に、酸素不足で心肺停止になったと思える。

 ──

 対策としては、車室の外のデッキ部で、何らかの換気が可能であったなら、そこで新鮮な空気を吸えたので、この人は助かっただろう。(電車が停止したあとでは窓を開くことができる、というようなシステムであれば、問題はなかったはずだ。)
 現実には、酸素不足の密室で、呼吸困難のまま、放置された。これが直接の死因だったと思える。つまり、犯人と、新幹線システムの不備が、同時に起こったせいで、この人は死んでしまった、と言えるだろう。
 逆に言えば、JR が何らかの対策をすれば、今後は同様の事故を防げる。……これが、本項の意図だ。
Posted by 管理人 at 2015年07月05日 23:35
本件の場合がどうなのか分かりませんが、気道熱傷は受動的に熱風を叩きつけられるのではなく、能動的に(つまり呼吸によって)吸入してしまう事によって起こります。
したがって、顔の表面に火傷が無くても可能性は十分に考えられますよ。
外観的には鼻毛が焼けているだけ、という場合もあるようです。
Posted by KOON at 2015年07月06日 08:39
気道熱傷の可能性ぐらいならばありますが、たったの数分間で呼吸不可能になるほどの浮腫ができるはずがありません。1車両を歩いただけの時間内で急激に浮腫ができる、なんてありえない。リンパ液はそんなに急激には溜まらない。
 窒息の原因はあくまで酸素不足でしょう。それを証言している人がいっぱいいるんだし。まあ、気道の火傷もいくらか影響しただろうけど。どちらかと言えば(それほど猛烈な高温なら)肺機能低下の方が大きいはず。ここでは、「ほんの数分間で起こった急性症状だ」という点に注目してください。
Posted by 管理人 at 2015年07月09日 00:05
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