「虚数とは何か?」という質問が話題になった。はてなブックマークではさまざまな個人的見解が出た。
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その多くは、「よくわからないが、使うと便利」というものだ。利用面では、電気関係の理論で使われることが多い。
また、数学的には、オイラーの公式や、ド・モアブルの定理 と絡めて表現されることもある。
ただ、いずれも How? に対する回答みたいなもので、What? に対する回答ではない。
そこであらためて、「虚数とは何か?」という質問に答えてみることにしよう。
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実は、これに対する「正解」というものは存在しないようだ。ググってみても、正解ふうの説明は見出されない。せいぜい「いかに使われてきたか」みたいな説明があるだけだ。つまり、 How? に対する回答があるだけだ。
そこで、本項では、私が独自に説明を試みよう。これは、私の独自の説明であるから、学界で公認されている一般的解釈ではない。そのことをわきまえた上で、以下を読んでほしい。
代数的理解
「虚数とは何か?」を考えるには、虚数が誕生した時点を考慮するといい。虚数が誕生した時点では、虚数単位 i は
x2= -1
を満たすような仮想的な数だった。それはあくまで想像されただけのものであるから、 imaginary number と呼ばれた。これが、虚数単位 i が誕生したときの定義だった。
ところがその後、研究が進むと、重大な事実がわかった。虚数単位 i を含む形で、複素数 x + y i を使うと、「複素数の範囲内であらゆる代数的な方程式が解ける」と判明したのだ。
つまり、最初は2次方程式を解くためだけに導入した数なので、それは2次方程式を解くことぐらいしかできないと見込まれていた。3次方程式、4次方程式、……というふうに次々と高次方程式を導入すると、そのたびに新たな仮想的な数が必要になるかもしれない。あるいは、10次方程式ぐらいならばともかく、もっとすごく大きな高次方程式になると、何らかの仮想的な数が新たに必要になるかもしれない。そういう予想もあった。
ところが、そうではない、と判明したのだ。3次方程式であろうと、100次方程式であろうと、どれほど高次の方程式であっても、仮想的な数は虚数単位 i があるだけで足りるのだ。つまり、
「複素数係数の任意の n 次多項式は、複素数の根を(重複度込みで考えれば)ちょうど n 個持つ」
ということが成立する。このことは、代数学の基本定理 と呼ばれる。
こうして、初めは2次方程式を解くためだけに導入された仮想的な数が、実は、途方もなく重要な数であると判明した。それは予想を大きく超えた重要性だった。それゆえ、その数は、もはやただの想像的な数ではなく、この世界の真実と結びついた、この世界の基幹的な数であると判明したのだ。
ここでは、「予想を超えた重要性をもつ」ということに、留意してほしい。
解析関数
複素数を導入したあとで、複素平面というものが導入された。そこでは、複素数 z は、次のように書かれる。
z = x + y i
ここで、複素平面の複素数 z を変数とした関数 f (z) を考える。これは写像である。
z ────→ f (z)
ここで、「微分可能」という概念を導入する。z が微小に変動したとき、f (z) の変動も微小な範囲に収まるわけだ。(無限大になったりしない。)
この「微分可能」という概念を導入すると、複素数の世界で「微分可能」である関数には、著しい特別な性質があるとわかった。それは(初心者にとっては難解であるので)、ここでは記さないが、とにかく、著しい特別な性質があるとわかった。
ここで、「微分可能」ということから、「解析関数」という概念が生じた。ここからは、非常に豊かな成果をもたらされた。
どのくらい豊かな成果か? 実は、「現代数学のほとんどすべて」と言ってもいいくらいだ。現代数学には、あれこれと難解な数学的概念がいっぱいあるが、そのほとんどは、解析関数と結びつく。
たとえば、先日、「フェルマーの定理が証明された」と報道された。これは、解析関数の成果である。(フェルマーの定理の根幹をなす 谷山志村予想 には、モジュラー形式という概念が使われるが、これは、解析関数で説明されるものだ。)
また先日、「リーマン予想が難しい」ということが話題になった。これもまた、解析関数の問題である。そこでは、ゼータ関数という関数が使われるが、これは解析関数なのだ。リーマン予想というのは、素数の問題だが、素数の問題を解くためにも、解析関数が根本的な道具として使われるわけだ。
また、情報分野でも、暗号として RSA暗号というものが有名だが、近年はコンピュータの能力が向上しているので、これではもはや足りなくなってきている。そこで、「楕円曲線暗号」というものが有力な候補として出てきたが、ここでも、楕円曲線というのは、楕円関数という複素関数に基づいている。
また、物理学の世界でも、「超ヒモ理論」という理論が(実証されないまま数学的な理論として)話題になっているが、ここでも解析関数が基本的なものとして使われている。
要するに、最初は「複素数について微分可能性を考える」というふうにだけ考えていたのが、実際には、当初の予想を大幅に超えて、解析関数の成果が爆発的に増えてしまったのだ。ただの幾何学的理論ぐらいに思っていたら、あまりにも豊かな成果が出てきて、「現代数学の世界のほとんどすべてがこの分野だ」と言えるほどにも、圧倒的に多大な成果が出ることになったのだ。
ここでは、「予想を超えた重要性をもつ」ということに、留意してほしい。
謎
いずれにせよ、虚数というものを導入したあとで、当初は思いもしなかったほど多大な成果が出るようになった。その意味で、虚数というものがどれほど重要なものであるかはわかった。
ただし、どうしてそれほど重要なものであるかが、わからない。そんなに重要なものであるのなら、この世界で何らかの形で見えていいはずなのだが、「あるとはわかるが姿は見えず」というありさまで、どうにもつかみようがないのだ。虚数は、抽象世界ではその世界の基幹とも言えるほど重要性をもつのに、我々の住んでいるこの世界では姿が見えないのだ。
いったいこれはどういうことなのだろう?
ここで、ヒントがある。量子力学(特にその一部としての電磁気学)では、虚数というものが絶対的に重要性を帯びる。特に、電気の性質を示すときには、虚数の性質が絶対的に必要だ。電気の性質のひとつ(位相)は、虚数によって描写されるからだ。
このことからして、量子の世界には虚数というものが本質的に組み込まれている、と推定される。そこでは、虚数とは、単に計算で便利な数学的な数ではなくて、実際に量子のふるまいに関与する実在的な数なのだ。
ただ、ここまではわかっているが、その先がわからない。
超球理論
そこで登場したのが、超球理論だ。超球理論は、次のことを主張する。
「量子の世界には、虚数というものが実在する。虚数次元という形で、虚数の次元が実在するのだ。ただしそれは、微小な次元である。普通の三次元空間ほどの大きさはなくて、目に見えないぐらいの大きさの微小な次元であるにすぎない。それが虚数の次元をもつ。と同時に、実数の次元ももつ。この次元は、虚数の次元と同じぐらいのサイズである」
このことは、モデル的には、次のようにまとめることができる。
マクロ的な次元 x , y , z
微小な 実次元 u , v , w
微小な 虚次元 u i , v i , w i
通常の3次元空間は、x , y , z で示される。これに対する虚数次元 x i , y i , z i というものは存在しない。
量子に関与する微小なサイズでは、微小な実次元( u , v , w )と、微小な虚次元 (u i , v i , w i )とがある。
かくて、この世界は、計9個の次元をもつことになる。
※ 時間の実次元も含めれば、計10次元。
※ 時間の虚次元も含めれば、計11次元。
以上が、超球理論のモデルだ。
このモデルを取る限り、虚数がこれほど重要性をもつことの理由がわかる。それは、この世界が虚数の構造をもつからだ。その構造は、量子のサイズであり、あまりにも小さいサイズであるがゆえに、目で見ることはできない。また、虚数の次元は、もともとこの世界からは はみ出しているので、どっちみち目で見ることができるはずがない。
それでも、この世界が虚数の次元をもつがゆえに、この世界のふるまいは虚数に影響される。電気が流れるときに虚数で示される形で電気が変化するのは、電気が虚数の世界(量子の世界)の存在物であるからだ。虚数の世界のものを描写するためには、虚数が必要なのは、当然のことだ。虚数の世界のものを、実数だけで描写しようというのが、根本的に狂っていると言えよう。
( ※ すぐ上では、虚数というのは、「虚数単位を含む複素数」という意味で使っている。)
結論
かくて「虚数とは何か」という質問への回答は与えられた。
ここで簡単にまとめれば、こう言える。
「虚数は、最初は、代数的に想像されるだけの数だった。しかし、それは代数世界全体に影響を及ぼした。のみならず、微分可能という概念を通じて、解析関数という概念をもたらし、数学の世界を圧倒的に豊かにした。特に、量子力学の分野では、世界の真実を示すのに多大な成果をもたらした。そして、その理由は、この世界そのものが、量子のレベルでは、虚数の次元をもつからなのだ。現実のこの宇宙が、量子のレベルでは、虚数によって構築されている。だからこそ、虚数の理論は、この世界の真実を示すために圧倒的に有効なのだ」
初めと最後を結びつければ、次のように言える。
「虚数は、最初は、方程式を解くための便利な道具ぐらいに思われているだけだった。しかし実は、それはただの道具ではなくて、この世界の構造の一部だったのだ。初めに垣間見たときには、『小さな穴から覗かれた小さな真実』ぐらいに見なされていた。しかし実は、小さな穴の向こうにあるのは、この世界の全体だったのだ。換言すれば、虚数(複素数)とは、この世界の全体なのである。つまり、この世界そのものなのである」
※ ここで言う「世界」とは「量子論的な世界」と言ってもよい。
( ※ なお、それが目に見えないのは、その次元のサイズがあまりにも小さいからだ。それは、顕微鏡でも見えないし、電子顕微鏡でも見えない。ただし、それが現実にふるまう影響は、はっきりと大きく見て取れる。たとえば、電気の流れや位相は、機械によって大きな値として測定される。……比喩的に言えば、空気の分子は目に見えないが、空気の圧力は風として感じられる。目には見えなくても、空気は存在する。)
[ 付記1 ]
初めにお断りしたとおり、これは、私の個人的な解釈です。
話をわかりやすくするために、極端に簡略化して示しています。ゆえに、重箱の隅を突つくような形で、「いや、ここに例外があるぞ」なんていう指摘はしないで下さい。そういうアラ探しは、時間の無駄。
本項は、直感的にわかりやすくするため、一種の比喩のような形で表現しています。
[ 付記2 ]
微小な次元が存在するということについては、次のことが大切だ。
不確定性原理では、位置と運動量のどちらか一方しか定まらない、と言われる。この際、一方がきちんと定まると、他方は不確定さが無限大になる、と言われる。
しかし、本項の話を読めば、そうではないとわかる。不確定さが生じるのは、微小な次元の範囲内でのことだけだ。この範囲内で、位置と運動量はどちらも常に微小に揺らいでいる。それにともなって、マクロ次元( x , y , z )でも常に微小に揺らいでいる。
ここでは、揺らぐ量(変動量)は、常にいくらかあるのであって、揺らぐ量がゼロになるということはない。したがって、「一方がゼロになるので他方が無限大になる」というようなことはない。同様に、「一方がゼロ近辺になるので他方がマクロ的なサイズになる」というようなこともない。たとえば、一つの量子の位置がメートル単位やキロメートル単位の大きさで不確実になるということはない。揺らぐ量(変動量)は、常にミクロのサイズに収まっている。不確定さが無限大になるというようなことはないのだ。
( ※ 従来の説では、そこをきちんと理解できていない。)
【 関連項目 】
→ 超球理論の数式 5 (振動と確率)
※ 虚数次元というものの性質を説明している。
楽しいお話ありがとうございました。
当時 世界が複素数に満ちていること教えてもらえていたら(15歳ですが) 全世界獲得の夢 もたなかったかも
管理人さんの説明 分かったような気が します
電磁気力 なじむのは分かるんですが なんとなく
世界の構造の支柱であるのは なぜなんでしょう