労働者派遣法の改正案が話題になっている。
ここで、派遣の問題について考えよう。
政府(自民党)は、派遣社員をいっそう低賃金でこき使おうとして、法律改正を急いでいる。
一方、労働者の側は、身分の安定を図りたい。
両者の利害は一致しない。(逆である。)
そこで、まずは、どちらの利益を重視するかを決めよう。
私としては、企業ではなく、労働者の利益を優先したい。これが目標となる。
では、そのためには、どうすればいいか? 目的ははっきりしているとして、目的を達成するにはどうすればいいか?
ここでは、単に「企業にこうせよと強いる」という方策は成立しない。それでは自由主義経済に反するからだ。(国営企業ならばともかく。)
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本質的に考えれば、次のように言えるだろう。
「派遣社員は、身分が安定しないので、失業したときのために、失業保険を充実する」
「派遣社員は、失業保険を受け取る可能性が高いので、高額の保険料を企業に課する」
現状では、派遣社員が仕事をしていないとき(失業しているとき・派遣先がないとき)には、人材派遣業の会社(テンプスタッフなど)が、半額程度の給与を保証しているようだ。(ゼロである場合もあるようだが、私は詳しくは知らない。)
ここで、残りの半額の大部分を、失業保険でまかなえばいい。
また、失業保険がもらえる期間も、すごく長くするといい。
以上によって、正規の給与の9割ぐらいを、常に保証されることになる。
ただ、この場合は、失業保険が金を出しすぎて、パンクしてしまう。そこで、派遣社員に限っては、失業保険料をきわめて高額にするといい。
たとえば、時給 1000円を払う場合、時給換算 300円程度を失業保険料として徴収する。(派遣社員を派遣してもらう企業から。)
すると、企業としては、次の二者択一となる。
(1) 時間あたりで 1000円 と 300円 の合計 1300円を払う。
さらに、派遣会社に、手数料を 400円程度払う。合計 1700円。
(2) 直接雇用して、時給 1300円を払う。失業保険料などの
諸経費 100円を自分で払う。合計 1400円。
両者を比べると、(2) の直接雇用の方が効率がいい。それなら、労働者は 300円多くもらえるし、企業は 300円少なくもらえる。つまり、win-win の関係だ。
一方で、派遣会社は、ピンハネする金を失う。また、労働者は「失業して金をもらう」ことができなくなり、「働いて金をもらう」というふうになる。
社会全体としてみれば、国全体の経済効率が向上して、GDP が拡大する。
というわけで、「派遣社員の失業保険を充実させ、かつ、失業保険料を大幅にアップする」という方針は、社会を改善するわけだ。
【 解説 】
本質的には、企業は「解雇しやすい」という理由で、派遣社員を雇用したがる。それなら、そのメリットを享受する分、失業保険料の負担を増やしてもらう必要がある。メリットを受けるのであれば、メリットにかかるコストをきちんと負担してもらう必要がある。……それが本項の趣旨だ。
そして、そうするのは、当り前だろう。世の中に無料のサービスなどはないからだ。
なのに現状は、そうなっていない。企業は「解雇しやすい」というメリットを享受してながら、「派遣社員が解雇された場合の失業保険の支払い」をかなり免れている。
・ 派遣社員が失業保険の金を十分に給付されない。
・ 企業が保険料の負担を国民全体に転嫁している。
こうやって、払うべき保険料を払わずに、「解雇しやすい」というメリットを享受する。一種の泥棒のようなものだ。
そして、そういう泥棒のような企業活動をあえて推奨している(払うべき金を免除している)のが、現在の制度だ。
そこで、そういう歪んだ制度を是正して、払うべき金を払ってもらう、というのが、本項の提案だ。このように、あるべき姿に近づけるだけで、自然に「派遣社員から正社員へ」という形の移行が起こる。
[ 付記1 ]
次のようなことを併用してもいい。
「失業保険料は、派遣1年目の労働者には高くして、2年目以降では漸減する」
これによって、短期契約でちょいちょい首を切るような会社には、保険料を高くするわけだ。一方で、派遣社員でも長期雇用すれば、保険料を低くできる。その分、労働者の給与に反映することができるから、長期間働き続ける労働者の給与はアップする。仮にアップしなければ、労働者は逃げ出すから、そうなると、企業はまた1年目の派遣社員と契約しなければならなくなり、企業の負担が増えてしまう。(それは企業にとってまずい。)
[ 付記2 ]
本項が実現するかと言えば、実現するはずがない。なぜなら、自民党の目的は、労働者の待遇を良くすることではなくて、労働者の待遇を悪くすることだからだ。
「労働者の賃金をなるべく引き下げて、企業の利益を拡大して、資本家の利益を拡大する」
というのが自民党の目的である。(今回の改正案もそうだ。例の残業手当ゼロ制度もそうだ。)
こういう自民党が続いている限りは、本項の提案は実現しない。ま、あと何十年かたったら、国民のための政党が政権を取るかもしれないから、そのときのために、ここに書いておこう。
私の寿命が来る方が先になりそうだ……という気もするが。
自民党政権はずいぶん長く続いているなあ。
[ 付記3 ]
こういうふうに労働者を食い物にする自民党政権を支持しておきながら、「貧しい、貧しい」と文句を言う若者というのは、頭の論理構造が不思議だね。
で、自分の賃金を上げようとするかわりに、自分よりももっと貧しい高齢者の金を奪おうとする。もう、滅茶苦茶だ。
自民党を支持する資本家の人々が高笑いするばかり。
[ 補説 ]
一国経済を強化するためには、企業の体力を強化することが大切だ……という説がある。
それは、供給不足であるとき[= インフレであるとき]には、成立する。しかし、需要不足であるとき[= デフレ・不況であるとき]には、成立しない。
ここを理解しないで、デフレのときにインフレ対策として供給力を拡大しようとする阿呆が、古典派だ。例。池田信夫・竹中平助・黒田東彦。
ま、体温が下がっている患者に解熱剤を処方するような対処。
【 追記 】
「失業保険料(会社負担)が上がれば、その分、天引きされるので、給与が下がってしまう」
という見解がある。これに答えよう。
たしかにそうだ。その分、給与は下がる。しかし、それは当然だ。失業しているとき(仕事がないとき)にもらえる金が増えるのだから、失業していないとき(仕事があるとき)にもらえる金が減るのは、当然だ。どこかでプラスがあれば、どこかでマイナスがあるのは、当然だ。金は天から降ってくることはない。
では、全体では? 失業保険の制度がきっちりとしていれば、損得はない。失業しているときにもらえる金のプラスと、失業していないときにもらえなくなる金のマイナスとは、相殺する。損も得もない。
では、損も得もないのなら、なぜ、そのようなことをするのか? これは、損得を生み出すことを目的としていないからだ。会社と労働者のどちらかが損をしてどちらかが得をする、ということを目的としていない。
では、何を目的としているか? 労働者の身分を変更することだ。今の制度では、会社が失業保険料の負担を免れているので、その分、派遣労働者を利用する会社に補助金が出ているのも同然だ。だから企業はせっせと正社員を減らして、派遣労働者を雇用する。(そうすれば、失業保険料を免れる分、補助金をもらえるのと同じことだからだ。)
一方、本項の制度では、派遣労働者を利用する会社に補助金が出ない。となると、補助金をもらえなくなる分、派遣労働者がもらえる給与は減る(天引きのせいで)。しかしそうなったら、労働者は派遣労働者になるのを厭がる。今までは、
「派遣で時給 1400円。正社員で時給 1000円。だったら派遣の方がいいわ」
と思っていたのだが、今後は、
「派遣で時給 1000円。正社員で時給 1000円。だったら社保完備でボーナスもある正社員の方がいいわ」
と思って、時給の安い正社員の方に応募する。
こうして、派遣労働者として登録する人々がいなくなり、派遣会社はもぬけのカラとなる。つまり、制度によって、「派遣 → 正社員」という移行が生じる。これが、本項の目的だ。
ここでは、労働者も企業も、特に損得はない。労働者は企業から多くの金をもらえるようになるわけではないし、企業は労働者を安価で雇用できるわけでもない。双方とも、損得はない。ただし、中間過程で派遣会社がピンハネをしなくなるので、その分、効率が良くなる。だから、労働者も企業も、そのピンハネがなくなった分だけ、少し得をする。
なお、その得をする分は、全体から見れば、かなり小さい。大切なのは、労働者の身分が派遣社員から正社員に転換するということだ。
そのことで、労働者は高度な仕事を任されるようになり、技能が向上して、どんどん高給を取れる(昇進する)ようになる。つまり、生産性が向上する。こうして一国全体の生産性が向上するので、労働者も企業もともに利益を得る。
一方、現状は、労働者も企業もともに利益を得ない。なぜなら、派遣労働者という、生産性の低い雇用形態を取っているからだ。この状態では、一国全体の生産性は低下しっぱなしだ。愚行。
【 関連項目 】
→ 派遣会社のマージン率 (前項)
※ 派遣会社のマージン率(ピンハネ率)は、どのくらいか? その調査結果。
【 関連サイト 】
→ 派遣労働者の労災は正社員の2倍、世界の派遣事業所数7割占める日本、
