2015年06月12日

◆ 備蓄の大切さ(石油)

 集団的自衛権で、ホルムズ海峡封鎖による石油不足を懸念する声が多い。だが、機雷掃海よりも、備蓄の方が大切だ。

 ──

 集団的自衛権では、「ホルムズ海峡封鎖による石油不足によって、わが国の存立が根本的に脅かされる」と懸念する声が多い。だが、これは嘘っぱちだ。
 
 (1) 石油の割合

 そもそも石油に依存する割合が、近年では低くなっている。
  → 電源別の発電電力量とCO2排出量
 グラフからわかるように、2013年の発電のエネルギー源は、LNG が 43.2%で、石炭が 30.3%で、石油は 14.9% にすぎない。石油がなくなったとしても、大きく影響は受けない。
 特に、ピーク電力に達するとき以外には、石油発電をすべて止めても大丈夫だ。ピーク電力に達するのは、真夏の昼間だけ。このときだけは石油発電が必要だが、それ以外では、石油発電は止めておいて差し支えない。とすれば、石油が来なくなったとしても、電力にはほとんど影響しないのだ。
 つまり、「わが国の存立が根本的に脅かされる」というようなことは、まったくない。
( ※ なお、LNG はホルムズ海峡の影響をほとんど受けない。 → 日本の液化天然ガス(LNG)の主な輸入先

 (2) 他国の増産

 それでも「ガソリンや航空燃料や灯油などは、石油が不可欠だ。LNG では代替できない」という声も多いだろう。なるほど。その通り。
 しかし、である。その程度の石油不足ならば、石油の増産で対応できる。つまり、 ホルムズ海峡に影響されない他地域で増産できるから、世界レベルでは、石油不足は発生しないのだ。
 実際、前にホルムズ海峡が封鎖されたときには、サウジアラビアなどが増産したので、石油不足は発生しなかった。現在ではさらに状況が良くなっている。ロシアや米国が大幅に石油の生産を増しているからだ。今では石油はだぶつき気味である。特に、米国では、休止しているオシェールイルの業者がたくさんあるので、いざというときには、価格上昇にともなって、大幅に生産量を増やせるそうだ。
  → 産油、サウジ抜き米首位 シェールオイル生産拡大
 というわけで、石油不足なんて、起こるはずがない。「わが国の存立が根本的に脅かされる」というようなことは、まったくない。どうしても心配ならば、米国に「いざとなったら石油を増産してください」と頼めばいい。すると、米国はこう答えるだろう。
 「馬鹿な心配をするな。価格が上がれば自動的に生産を増やすに決まっているだろ。頼まれなくても、勝手にやるよ。下らない心配をいちいちするな」
 これでおしまいだ。

 (3) 機雷掃海

 そもそも、ホルムズ海峡の機雷掃海なんて、日本がやる必要はまったくないのだ。他国がさっさとやってくれるからだ。
 実際、前にホルムズ海峡が封鎖されたときには、2カ月程度で掃海がおおむね済んだ。それを前提とすると、次にまた機雷敷設があっても、1カ月程度で機雷掃海は済むだろうという。
 1991年と2003年のケースは、詳細な部分では相違があるものの、ホルムズ海峡を再啓開するのに略1か月を要するということを示唆している。
( → ホルムズ海峡における機雷戦の考察(第1回)

 現実には、それほどうまく行くほど条件がそろっているとは限らないので、もっと時間がかかりそうだ。一方で、米軍は前回の機雷敷設に懲りたので、機雷を敷設する前に、機雷を敷設しようとするイラン軍を破壊するだろう(だから機雷敷設そのものが起こりにくい)、と上記記事で指摘されている。
 ま、プラスマイナスのいずれの効果もある(封鎖期間がもっと長くなったり短くなったりする)ようだが、どっちみち、機雷敷設は、大きな影響を及ばさない。あくまで限定的なのだ。実際、過去の経験でも、市場はそのように反応した。
 1991年1月半ばに国連多国籍軍がイラク軍を攻撃したとき、わずか数時間で決着がつき、原油先物市場も1日のなかで原油価格が大きく上昇し、直後にそれ以上に値下がりした。
( → ホルムズ海峡封鎖を考える[PDF]

 ホルムズ海峡が封鎖されたとき、自衛隊が掃海するかどうかは、たいして影響しない。単に封鎖期間がちょっと短くなるというぐらいの影響だ。たとえば、封鎖期間が40日から 35日に短縮される、というふうな。……その程度の影響にすぎない。つまり、少々の影響はあるとしても、わが国の存立にはまったく影響しない。

 (4) 備蓄

 とはいえ、少々の影響はある。特に、封鎖期間が40日あるとすれば、他国での増産がすぐには追いつかないことから、何らかの影響はあるだろう。それは否めない。
 だが、そういうときのために、備蓄があるのだ。備蓄は、最低でも1〜2カ月は必要だ、とわかるだろう。(実際には、200日分の備蓄があるので、まったく問題ない。この件は、前に詳しく論じた。 → 機雷掃海と集団的自衛権

 ともあれ、機雷封鎖に対しては、何よりも大切なのは、備蓄だ。機雷掃海よりも、備蓄の方が大切なのだ。
 そしてまた、バックアップとなる供給源も大切だ。その意味で、輸入元を増やすことも大切だ。特に、米国の石油生産にともなって、米国の石油の輸入元で余った中南米で、石油が余っているので、ここから輸入することも大切だ。
 
 政府は、憲法を無視して法律違反を犯してまで機雷掃海にこだわるよりは、まずは石油の輸入元を増やすことと、備蓄を十分にすることに、目的を定めるべきだろう。現状の政府は、単に戦争をしたがっているだけとしか見えない。彼らは本当に石油の輸入のことを考えているとは思えない。日本を愛しているというよりは、日本を戦争に巻き込みたがっているだけだ。非国民や売国奴に近い。
 本当に日本のためを思うのなら、備蓄や供給源を増やすことに専念した方がいい。



 [ 付記1 ]
 機雷封鎖なんていちいち考える必要もない、ということは、次の記事でも指摘されている。
 《 イランによるホルムズ海峡封鎖は困難=アナリスト 》
 湾岸地域からの原油輸送をホルムズ海峡に依存している西側諸国の間で、原油供給に対する不安が広がっている。だが、米国のアナリストは、実際の海峡封鎖は容易ではないとみている。
 しかし、近隣にはバーレーンに司令部を置く米国の第5艦隊があり、ホルムズ海峡におけるイランの動向に目を光らせている。第5艦隊の目を逃れて機雷の敷設やミサイル配備を行うことは困難で、察知されれば米国の対抗措置を誘うことになる。
 第5艦隊は28日、ホルムズ海峡の通行を阻止する行為は容認しないと表明した。
( →  Reuters

 機雷敷設そのものが、現実的にはほとんどあり得ないわけだ。
 
 [ 付記2 ]
 一方で、あくまで「怖い、怖い」と心配する人もいる。



 封鎖されても備蓄があるから問題ないし、1カ月かそこらで解決するから、原油は価格が上がることはない……という過去の例を見失っている。たぶん「他国が増産する」ということを理解できないのだろう。
 「ホルムズ海峡が封鎖されると、原油の8割が止まり」
 というのを、「世界全体で原油の8割が止まり」というふうに誤解しているんだろう。「日本に来る石油(現在の経路の分)がなくなるだけで、世界全体ではちっとも不足しない」ということを理解できていないわけだ。特に、日本が「他の経路から輸入できる」ということも理解できてない。

 比喩的に言おう。近所でいつも開いているスーパーに至る道が、道路工事のせいで封鎖された。もはやそのスーパーでは買い物ができない。普段からそこで買物の 8割以上をしていたので、夫は大騒ぎ。
 「大変だ! 買物ができなくなって、飢え死にする! わが家の存在基盤が根底的に覆される!」
 と夫はうろたえる。しかし奥さんは教えた。
 「その店で買わなくてもいいのよ。別の店でも売っているんだから、そっちで買えばいいの」

 下記記事を参照。
  → 産油、サウジ抜き米首位 シェールオイル生産拡大
 米国やロシアや中南米など、世界各地で石油はたっぷりと増産できるのだ。価格が上がれば、供給は増える。それが市場原理だ。池田信夫は、市場原理というものを、もっとよく理解した方がいい。


( ※ それにしても、「原発も再稼働しないと日本経済がもたなくなる」とか、ずっと嘘八百ばかり言っているね、この人[池田信夫]は。)



 【 関連項目 】

 → 機雷掃海と集団的自衛権



 【 後日記 】
 本項を書いたずっと後で、イラン自身が「ホルムズ海峡の封鎖なんかしない」と公式に声明した。
 理由は、「それは自分で自分の首を絞めることになるから、そんな馬鹿げたことはしない」ということ。
 なるほど。ごもっとも。ホルムズ海峡の封鎖をすれば、イランへの輸出入がすべて途絶える。それで外国は少しは困るかもしれないが、何よりイラン自身が困ってしまう。イランに対する経済封鎖も同然だからだ。自分で自分に経済封鎖をするはずがない。(比喩的に言えば、日本近海を機雷で封鎖すれば、他国よりも日本自身が困ってしまう。日本が自分でそんなことをするはずがない。)
 ホルムズ海峡の封鎖をするとしたら、イランではなく、外国(米国など)だろう。これをやると、海路については経済封鎖をすることになるので、イランが悲鳴を上げそうだ。特に、石油の輸出ができなくなると、国家の歳入のほとんどを失うので、国民生活が成り立たなくなる。今の北朝鮮みたいに、食糧もままならなくなって、餓死者が続出するかもしれない。
 というわけで、ホルムズ海峡の封鎖というのは、(日本のタカ派の頭だけにある)妄想であるにすぎない。現実にはそんなことはあり得ないのだ。杞憂と言える。
posted by 管理人 at 22:41| Comment(2) |  戦争・軍備 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
今やリアリストを標榜してた保守系論壇が安倍政権になってからお花畑状態なのはいかんともしがたい。
彼らはほんとにわかってないみたいですよ。
Posted by hibari_sun at 2015年06月15日 18:38
各国の石油の生産量のグラフ。
  → http://www.asahi.com/articles/photo/AS20150612000287.html

 近年は米国の石油生産量が急増しており、現在、世界1位。
 本文中の記事と同趣旨だが、グラフがある。
Posted by 管理人 at 2015年06月15日 19:40
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