2015年05月28日

◆ アリとキリギリス

 アリとキリギリスというイソップ寓話は、子供にでもわかる簡単な話だと思っていたが、理解できない大人が多すぎる。 ──

 アリとキリギリスというイソップ寓話は、誰でも知っているはずだ。一応、Wikipedia から引用しよう。
 夏の間、アリたちは冬の食料を蓄えるために働き続け、キリギリスはバイオリンを弾き、歌を歌って過ごす。やがて冬が来て、キリギリスは食べ物を探すが見つからず、最後にアリたちに乞い、食べ物を分けてもらおうとするが、アリは「夏には歌っていたんだから、冬には踊ったらどうだい?」と食べ物を分けることを拒否し、キリギリスは飢え死んでしまう。
( → Wikipedia

 アリは夏の間にしっかりと貯め込んだから、冬になっても貯めた食物にありつけたわけだ。
 ここまでは、誰でも知っている話だろう。

 ──

 ここで、上記の話にまったく反する見解が出た。
 高齢者世帯の1世帯あたり資産額は2,400万円ほどあるわけです。40歳未満だと保有資産は平均600万円もないのにね。
 金融資産が高齢者に偏在して、若者に資産がまわらないので世代間格差があり、貧富の格差が拡大する...
 富をうまく若者に移転し.... 仕組みを考えることが必要だ。
( → Yahooニュース 山本一郎

 これは驚くべき見解だ。ここでは「夏の間にせっせと貯め込んだアリ」(若いときにせっせと貯金した高齢者)が批判されている。「そんなにたくさん貯め込んでいるなら、おれに寄越せ」とキリギリスが要求している。
 では、アリは間違っていたのか? アリもまたキリギリスのように、貯め込まないで、夏の間は遊びほうけていれば良かったのか? いや、そうしたら、貯め込んだものが何もなくなる。そうすれば、キリギリスは、「おれにも寄越せ」と要求することもできなくなる。もともと何も貯まっていないからだ。

 現実に戻そう。
 上記見解では「高齢者には資産がいっぱいあるから、高齢者は金持ちだ。だから高齢者は若者に金を移転せよ」と主張する。
 しかし、よく考えてみよう。若者には固定収入があるが、高齢者は(年金を除けば)固定収入はない。貯蓄を取り崩すことしかできない。とすれば、高齢者に資産がいっぱいあるのは、当たり前のことなのだ。
 仮に、資産がなければ、どうなるか? 貧困老人となるしかない。
 スーパーマーケットでは、見切り品の惣菜や食品を中心にしか買えずに、その商品を数点だけ持って、レジに並ぶ老人。
 そのスーパーマーケットで、生活の苦しさから万引きをしてしまい、店員や警察官に叱責されている老人。
 夏場に暑い中、電気代を気にして、室内でエアコンもつけずに熱中症を起こしてしまう人。
( → Yahooニュース 井上伸

 貯金がなければ、こうなる。多大な貯金があって初めて、老人は人並みの生活ができる。
 たとえば、60歳で退職して、余命が 24年あって、資産が 2400万円あったとする。金利はゼロ同然だから、2400万円を 24年間で取り崩せば、毎年 100万円しか使えない。これは若者で言えば年収 100万円に相当する。ま、実際には、年金があるから、もうちょっとはマシだが、年収 200万円ぐらいに相当することも多いだろう。(あるいは 年収 300万円で、病院に 100万円かけるとか。)
 ともあれ、資産が 2400万円あるとしても、それは年収 100万円〜 200万円ぐらいのことしか意味しない。高齢者にとっての資産というのは、そういうものなのだ。生きるための最後の「よすが」なのだ。それは決して「娯楽のために取っておく資金」なんかではない。

 アリとキリギリスの話を読めば、「将来のために貯蓄する」ということがいかに大切であるかがわかる。貯蓄をしなかったキリギリスのような高齢者は、貧困に喘いで、生活保護などに頼るしかない。(例。基礎年金 6万円。生活保護 基準額との差額である 5万円が生活保護で支給される。)
 一方、ちょっとはまともな高齢者は、それまでの人生をかけて 2400万円を貯蓄して、毎年 100万円ずつ取り崩す。これならば、フロム・ザ・バレルを購入することはできなくても、トリスぐらいは購入できるだろう。

 そこへ山本一郎が出てきて叫ぶ。
 「 2400万円も資産があるのは、大金持ちだ! 若者は、年収は 400万円でも、資産は 600万円しかない。すごく割を食っている。だから高齢者の資産をおれたちに寄越せ!」
 こうして、年収 100〜 200万円の高齢者から金を奪い、年収 400万円のある若者に渡そうとする。トリスしか買えない高齢者から金を奪い、フロム・ザ・バレルを買える若者に金を与えようとする。(サントリーの山崎か響でも買えるように、という趣旨だろう。)

 ──

 経済用語で言えば、ストックとフローとはまったく別のものだ。比較する次元が異なる。
  ・ ストックが大きくてフローが小さい例。
  ・ ストックが小さくてフローが大きい例。

 この二つはまったく次元が異なるので、比較の対象にはならない。
 なのに、ストックの大小だけを見て、フローを無視して、「ストックの大小だけで金持ちかどうかを決める」なんて、およそナンセンスだ。
 こんな馬鹿げた議論をするよりは、「アリとキリギリス」の話でも理解した方がいい。

 ──

 ちなみに、資産をなくした老人がどうなるかについて、次の話がある。
 《 自宅をこどもの名義にしてはいけない。 》
「どんなことがあっても、自分の家を子供名義にしちゃだめですよー。どんなに仲が良くても、財産があっても、絶対にそれだけはだめです。ハワイでも仲良く暮らしてたと思ったら、家を取られて捨てられた親達がたくさんいます。家をあげたら子供は裏切ります。これは世界共通です」
( → はてな匿名ダイアリー

 これに対するコメントで、「リア王にもそう書いてある」というのがあった。まさしくそうですね。
 国の領土のすべてをもっていたリア王は、三人の娘に領土を与えようとしたが、末娘を除いた二人に領土を与えた。そのあとで、娘の双方から追い出されて、荒野にさまよい、発狂した。
 つまり、資産のすべてを譲り渡した老人というものは、もはや生きるすべがないのである。そして、そういうふうに老人から資産を奪い取ろう、という意見がある。

 実は、これは、山本一郎に限った話ではない。池田信夫を含めて、右派に多く見られる見解だ。彼らは老人を虐待することが趣味であるようだ。それはいわば、リア王の二人の娘に似ている。老人の資産を奪い、自分のものにして、老人を荒野に放り出し、死なせようとする。
 リア王は決して架空の物語ではない。それは今まさしく現実になされているのだ。リア王の二人の娘は、ここにも、そこにも、至るところにいるのである。
 「老人の金をあたしたちにちょうだい! あたしたちに金を寄越せば、有効に使ってあげるわ! その方がずっと正当だわ! さあ、金を寄越しなさい!」
  






 [ 付記1 ]
 金持ちかどうかを調べるには、資産や所得でなく、支出を調べるといい。
 たとえば、年間支出が200万円ならば、貧困だ。
 年間支出が 400万円ならば、並みだ。
 どれほど資産があるとしても、毎年 200万円ぐらいしか支出していないのであれば、そのような老人は裕福ではなく貧困であるというしかない。
 ま、2400万円あったとき、それを1〜2年で使い果たして、あとは自殺する、という生き方もあるかもしれない。しかしそうするつもりであるのならともかく、まともに生き続けようとするのであれば、2400万円あるということは、決して裕福を意味しない、とわかるだろう。
 こんなこともわからない人は、キリギリスも同然だ。60歳までに 2400万円を貯め込む必要すら理解していないことになる。頭があまりにもキリギリスなので、そういう人は注意した方がいい。

 [ 付記2 ]
 ま、世の中には、キリギリスみたいな人が多いですね。
 昔の人はアリみたいで、せっせと倹約して、貯蓄に励んだ。しかし今の若い人は、「貧乏だ」と言いながら、すごくぜいたくな暮らしをしている。インスタントコーヒーのかわりにスタバだし、粉末ジュース(果汁なし)のかわりにオランジーナだし、子供に与える衣服だってブランド品だ。昔(高齢者が若かったころ)と比べれば、圧倒的に金持ちの生活をしている。
 ぜいたくをしながら、「貧しい、貧しい」と言って、貯蓄をしない。まさしくキリギリス。

 [ 付記3 ]
 ちなみに、今ではスーパーの2階で売っているような服を子供に買い与える親はいないらしい。どの親も高級ブランド品を買い与えているようだ。もしスーパーの2階で売っているような服を子供に買い与えると、特別に貧しいという扱いとなり、ひどくみじめになるそうだ。
  → 2ちゃんねるコピペ
 似た例もある。
  → Google 検索(しまむらの服をプレゼントする)

 高齢者が過ごしてきた生き方は、今では極貧の生活である。逆に言えば、そう見えるほどにもぜいたくな暮らしをしているのが、今の若者たちだ。
 そして、彼らが「ぜいたくをする金が足りない」と言って、年収 200万円ぐらいの老人から金をむしり取ろうとする。現代版のリア王だね。
 


 【 関連項目 】

 本項は次項に続きます。
  → 高齢者は資産家か? (次項)
posted by 管理人 at 22:22 | Comment(17) | 一般(雑学)3 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
なんか正論のようだが納得いかない。
なぜだろう。。。
Posted by glg at 2015年05月28日 22:56
↑ それは、この話を信じると、あなたは損するから。
 逆に、山本一郎の話を信じると、あなたは得をする(ことになりそう)。なぜなら、老人の金を奪えるから。
 あなたは潜在的には、「老人の金を奪いたい」と思っている。だからそれを否定されると、腹立たしくなる。
 リア王の娘と同じ心は、多くの人の心にひそんでいる。あの二人の娘は、すごく残酷に見えるが、その残酷さは、多くの人の心にひそんでいる。
 末娘みたいに優しい心の持主は、ほとんどいない。非現実的とも言える。
 だけど物語を見ている間は、人は「自分は末娘みたいに善良なんだ。姉娘みたいに強欲じゃないんだ」と錯覚する。
Posted by 管理人 at 2015年05月28日 23:23
平均額で議論しているから、現実と乖離しているように感じるのでは?
実際は、何億何十億を持っている老人と、全然持っていない老人の2極化しているのではないか?
Posted by wawa at 2015年05月29日 09:34
老人を含めた現役世代が自分たちに都合のいいようにルールをつくり、その負担と責任を将来世代に転嫁している、してきたということでしょう。

それは民主主義の本質の一つかもしれませんが、自律ある是正は必要ではないでしょうか。
Posted by 作業員 at 2015年05月29日 10:01
サービスの代替としての所得移動以外は為すべきではないですね。日経に相続税対策の生前贈与や名義変更による窮乏化が記載されていました。

紹介された方々は市場万能主義で、マッドマックスの世界、乱世を望むのでしょう。

右派というよりもアナーキーかもしれません。
Posted by 京都の人 at 2015年05月29日 10:08
池田信夫氏は、もはや老人の範疇であられる方と思います。

氏は遠からず、率先して若者に資産を提供されるおつもりなのかも知れません。
Posted by けろ at 2015年05月30日 00:06
真実の一面を突いているようで,今までになかった視点でした.参考になりました.
Posted by SM at 2015年05月30日 07:06
派遣法が改悪されようとしてますが
そんな状況で働いてる人がキリギリス?
バブルでならその批判もあたりでしょうが、就職してからデフレしか経験してないんですが
Posted by tomo at 2015年06月02日 20:27
キリギリスというのは貯蓄しない人のことなんだから、豊かで金持ちの人というのとは違います。
 あと、おおざっぱに世代差を見ているだけなので、個別のことまで扱っていません。若い人だって、せっせと貯蓄している蟻さんはいるでしょ。

 ただ、老人の方が消費しないことは、次の統計でわかります。
 → http://blogos.com/article/113926/
Posted by 管理人 at 2015年06月02日 20:36
バブルの頃は消費してたからインフレでしたけどね。
若者に貯蓄を進めるんですか?デフレ促進なのに?

なんで老人から奪え論が支持されるのか?
割りを食ってると考えてる人が一定数いるからでしょう
年金も払えない、貯蓄も出来ない人たちが

若い方が金は使いますよ。子供に金かかるしローンもあるし。当然じゃないですか。
Posted by tomo at 2015年06月02日 21:12
失礼、隣の記事を読んでませんでした
隣の記事だけなら同意するだけです。

そういや私の新築住宅は欠陥住宅でしたけど、資産価値はあるんですかね
Posted by tomo at 2015年06月02日 21:19
> 欠陥住宅

 家屋はどっちみち資産価値はゼロです。中古なら欠陥でも何でも価値はゼロ。(新築ならば少しだけ価値はある。)
 不動産の価値のほとんどは、土地の価値です。個人住宅の建物はほとんど価値なし。
 どうしてかというと、通常、取り壊して建て替えるからです。
Posted by 管理人 at 2015年06月02日 21:32
今まじめに年金を払っている若者蟻は、老人になった時払った金額以下しか貰えず、現在の老人より貧乏ぐらしがほぼ確定と思いますが、何か良い解決方法は無いですかね。
Posted by glg at 2015年06月03日 23:13
年金財政の問題は、年金制度にあるのではなく、少子化にあります。今の老人が浪費しているのではなくて、今の若者が子供を産まないから、将来的に金をもらえなくなる。だから少子化を是正することが大切。
 → http://nando.seesaa.net/article/275736942.html

 少子化を是正するには、今の高齢者と同じ方針を若者たちが取ればいい。つまり、すごく貧しい生活をしながらも結婚して子供を産む。(逆にぜいたくをしながら独身生活を続けているのが現状だ。)
  → http://nando.seesaa.net/article/291160944.html
  → http://nando.seesaa.net/article/292827193.html

 若者が結婚しないのはなぜか? アニメとエロビデオのせいかな。ゲームのせいかも。

> 現在の老人より貧乏ぐらしがほぼ確定

 絶対にあり得ないので、心配する必要はない。金額だけなら、その可能性はあるが、その場合、デフレが続いて、物価は今の4分の1になっているはず。肉も果物も機械も、今の4分の1以下の価格。
 実際、今の物価は 1960年代に比べてそのくらいの水準だ。肉も果物ジュースも3分の1ぐらいの値段。その一方で、収入は 10倍ぐらいに増えている。老人たちが若いころに比べて 30倍ぐらい豊かな生活ができている。これで文句を言ったらバチが当たる。
 ま、50年後の年金が毎月夫婦で 15万円ということは十分に考えられるが、そのころ、物価は今の5分の1になっているはずだから、何も心配は要らない。
 物価がそれほど下がらないとしたら、年金は 50万円ぐらいもらえそうだ。ただし、そのころ、すごく貧しいと感じるはずだ。なぜなら、そのころの若者はもっとずっと豊かだからだ。
 「若者たちはメイド・ロボットを買えるのに、自分たち老人はメイド・ロボットを買えない! 自分たちはすごく貧しい生活をしている! 悲しい!」と大いに嘆くだろう。今の基準で見れば、さんざんぜいたくをしながら。
Posted by 管理人 at 2015年06月03日 23:32
>今の若い人は、「貧乏だ」と言いながら、すごくぜいたくな暮らしをしている。

その一方でマスコミ等では若者の○○離れとかで騒いでいますが、それはバブル時代の日本の若者は相当贅沢な生活をしていただけだと思いますね。
バブル世代の暮らしぶりがあまりにも贅沢すぎて、特に今の景気状態ではするものではないと今の若者たちが漠然と感じているのかもしれません。
とすれば、今の若者たちの○○(特に消費もの)離れは「それでも今の若者は贅沢だ」という考えからして、むしろ好ましいことになるのでしょうか。
(といっても、バブル時代よりマシだという程度ですが)

>若者が結婚しないのはなぜか? アニメとエロビデオのせいかな。ゲームのせいかも。

それとゲームとどう関係があるの?と思いきや、そういえば最近のソシャゲやネトゲはアイテム課金ものが多くて、重課金者はよくそれに金つぎ込めるもんだなと思ったりしてます。
といっても重課金者は全体ユーザーの一部にすぎませんが。
Posted by 亜留守 at 2015年06月07日 21:11
ここで言うゲームは、RPG や シューティングじゃなくて、萌えゲームのことだと思ってください。アイマスとか、ラブ*** (名前忘れた)。
Posted by 管理人 at 2015年06月07日 22:26
>亜留守さん

昭和30〜40年代は貧乏な人が多かったですよ、衣類は実用品で穴が開いたらパッチワークやかけはぎです。
バブルの頃の若者は現在50代の現役世代です。
翻って現代、衣類はファッションで、携帯に1万円かける人も貧乏人みたいな世界ですね。
Posted by wood at 2015年06月08日 16:20
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