2015年05月23日

◆ 軽減税率の愚

 自民、公明が軽減税率の導入をめざしている。この馬鹿馬鹿しさはすでに指摘されているのだが。 ──

 自民、公明が軽減税率の導入をめざしている。
  → 食品軽減税率 3案軸に議論 消費税 与党税制協が方針

 しかし、これはあまりにも馬鹿馬鹿しい。あちこちで指摘されている。

 第1に、区別が馬鹿馬鹿しい。
 財務省の試案は、食品表示法などの分類に基づいて対象品目を示した。食品表示法は生鮮食品を、加工食品や添加物と分けている。切断などで形が変わっただけの物は生鮮食品とみなされ、製造過程で味が変わったり、いくつかの生鮮食品が混ぜ合わされたりすると加工食品と扱われる。
 この分類に従って生鮮食品を軽減対象にすると、「1種類の生鮮魚の刺し身」は含まれるが、「複数種類の刺し身の盛り合わせ」は加工品となり、通常の税率が適用される。牛や豚の「ひき肉」は、それぞれ軽減されるが、合いびき肉は対象外だ。「カットレタス」と「ミックスサラダ」、「すじこ」と「いくらのしょうゆ漬け」も同じ関係となる。
 こうした分類を、財務省は「生活実感に合わず、消費者の納得を得るのは困難」と指摘した。
( → 読売新聞 2015-05-23

 第2に、関係者がみんな反対している。
スーパーマーケット協会 …… 反対です
経団連    …… 反対です
税理士会   …… 反対です
農業法人協会 …… 反対です
( → 僕が軽減税率には絶対反対な理由

 第3に、今回の方式では、効果がほとんどない。
 財務省が軽減税率の導入で家計の負担がどれだけ減るかを試算したところ、世帯年収が431円の場合、消費税率10%になると消費税負担は年間22万3002円だが、軽減税率が8%になれば、「種類を除く飲食品」なら1万4268円減、「生鮮食品」は3798円減、「精米の場合は467円減となる。
( → 読売・朝刊 2015-05-23 )

 つまり、さんざん手間暇をかけても、3798円〜1万4268円減でしかない。これっぽっちのために多大な手間暇を国中で掛けて、消費者も余計な面倒をこうむる。踏んだり蹴ったりだ。

 第4に、金持ちばかりが得をする。下記はひとつのモデル例。
 最も所得の低い第1分位の負担軽減が約1.9万円なのに対し、最も所得の高い第10分位の負担軽減は約5.3万円となる。
( → 日経ビジネスオンライン

 この点は特に重要だ。公明党は「軽減税率が弱者に有利」というふうに主張しているが、実は、軽減税率は、弱者には不利で、大金持ちに有利なのだ。
( ※ 所得との比率を見ると、弱者に有利に見えるが、絶対額を比較すれば、大金持ちの方が多額の減税となる。……比率だけを見て絶対額を見ない公明党は、頭が数値的でない。算数のお勉強でもした方がいいだろう。)

 ──

 以上のように、軽減税率はひどいことばかりだ。さんざん手間暇をかけて損をする、という感じ。損をするために多大な手間暇をかける。ほとんど自滅というか、自殺行為というか。

 では、どうすればいいか? そのための対案はすでにある。
 「国民一律に定額の減税をする」
 これを消費税と併用すれば、次のようになる。
 「支出に比例する増税と、定額の減税」
 差し引きすれば、(一次関数でわかるように)、金持ちほど増税になる。

 モデル的に示すと、こうだ。(消費税0%を基準に比較する。)

  所得  所得税  実質所得  消費税 10%  減税  差し引き
  100    0    100     10     30    +20
  300    50    250     25     30    + 5
  1000   300    700     70     30    -40


 あるいは、別のモデルも考えられる。

  所得  所得税  実質所得  消費税 10%  減税  差し引き  実質税率
  100    0    100     10     10     0     0%
  300    50    250     25     10    -15     5%
  1000   300    700     70     10    -60     6%


 消費税 10% と減税 10万円を組み合わせた場合、実質税率は、所得に応じて、可変的になる。
   所得が 100万円なら → 税率 0%
   所得が 1000万円なら → 税率 6%

 このように、成立が可変的になるのだ。これは「軽減税率」に変わる「可変税率」とも見なせる。
 こういう感じだから、定額の減税(または給付)にともなう「可変税率」の方が、軽減税率よりも、ずっといいのだ。

 ──

 なお、具体的な給付の仕方としては、次のようなものでもいい。
  ・ 年金料として納付する額を年額1万円下げる
  ・ 健康 保険 で 納付する額を年額1万円下げる

 こういう感じで、全国民に一律で定額を給付する方が、ずっといいのだ。特に、余計な事務手続きがないので、国全体で多大な手間の節約となる。

 こういうふうに「給付」「減税」の形の方がいいということは、私も前に述べた。
  → nandoブログ: 消費税と逆進性

 また、次のページでも説明されている。
  → 消費税増税に伴う低所得者対策のオプション検討

 こういうふうに、まともな対策はすでに知られているのだから、「労多くして益少なし」ならぬ「労多くして害ばかり」なんていう方策(軽減税率)は、やめるべきだ。

( ※ 軽減税率って、何か、「釣り」なんだよね。「得しますよ」と見せかけて、人々を釣って、実際には大損させる。詐欺師の手口。いかにも詐欺的な公明党。あるいはただの馬鹿か。)
 


 【 関連項目 】

 本項の続編
  → 消費税の軽減税率とピケティ
 
 ここには「可変税率」という語も出てくる。わかりやすい説明。
posted by 管理人 at 17:09 | Comment(3) | 一般(雑学)3 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
基礎控除38万と同じ理屈ですね
Posted by 先生 at 2015年05月24日 11:44
軽減税率が必要である唯一の合理的説明をtwitterで読みました。
精神発達遅滞、あるいは、軽度認知症患者は、行政手続きを自力で行うことがほとんど不可能なので、彼らへの生活支援は、軽減税率くらいしかないのだというのです。
認知症ではなくても、多くの人が、制度を知らないばかりに、福祉給付をもらえていないのです。生活保護はその典型です。
もっとも、軽減税率に費やされる行政コストを、軽度認知症あるいは精神発達遅滞者の介助に使うべきと反論してしまえばそれまでですが。
Posted by 井上晃宏 at 2015年05月29日 07:17
> 精神発達遅滞、あるいは、軽度認知症患者......彼らへの生活支援

 本項を読めばわかると思うけど、「彼らへの生活支援」になっていないですよ。どうせなら一律減税の方がずっと生活支援になります。
 軽減税率ではなくて、可変税率。
  → http://openblog.meblog.biz/article/25617578.html

 あと、論理的に言えば、病気と所得は無関係なので、低所得者への優遇が病気への優遇になるとは限りません。たとえば、金持ちの家族が軽度認知症だったとしたら、低所得者への優遇は、軽度認知症への優遇にはなりません。
 病気への対策は、所得への対策では、効果がありません。別の直接的な対策が必要です。
Posted by 管理人 at 2015年05月29日 07:59
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