「橋下府知事が女子高生を論破して泣かせた」という事件があった。2008年。その動画がある。
一部抜粋すると、下記。
男子高生「僕は今、私立の大阪高校という高校に通っているんですけど、僕の家は母子家庭で決して裕福な家ではなくて、僕はそんな母をこれ以上苦しめたくなくて、だから私学の助成金とかを減らさないでください」
橋下市長「なぜ公立を選ばなかったんだろう?」
男子高生「公立に入ったとしても勉強についていけるかどうか分からないって(教師から)言われて」
橋下市長「追いつこうと思えば公立に入ってもね、自分自身で追いつく努力をやれる話ではあるよね。いいもの(私立)を選べば、いい値段がかかってくる」
女子高生「だから、そこ(私立)にしか行けないって(教師に)言われたんですよ」
( → Girls Channel - )
他にも文字起こししたページがある。
→ 「橋下徹市長(知事)、女子高生を論破」の動画を見て
→ 橋下知事、私学助成削減の意見交換会で高校生にもきちんと説明
→ 橋下知事、高校生相手にマジ反論。“自己責任”に女子高生号泣
2ちゃんねるなどの評判では、「橋下府知事が論破した」というふうに記してある。
しかし、よく読めばわかるように、これは橋下府知事の方が論破されている。
橋下府知事は、「いいもの(私立)を選べば、いい値段がかかってくる」と述べて、「わざわざ高額で高品質なものを選んだ自分の責任だ」というふうに述べている。「どうせなら安い公立で我慢するべきだった」という趣旨。
しかしこれを高校生が論破した。「私立は、高品質で高額なのではない。低品質で高額なのだ。わざわざ選んだのではなく、頭が悪いせいで、公立には入れなかったのだ」と。
こうして論破された橋下府知事は、論点そらしをする。
「じゃあそれはね、あなたが政治家になってそういう活動をやってください」
だって。呆れる。これじゃ、政治家の自己否定だろう。いったい何のために自分が政治家をやっているんだ?
あげく、「頭の悪い人は高校に行かなくてもいい」というような主張もしている。
橋下市長「皆さんが完全に保護されるのは義務教育まで。高校になったらもうそこから壁が始まってくる。……それが世の中の仕組み」
女子高生「その世の中の仕組みがおかしいんじゃないですか?」
橋下市長「僕はおかしいとは思わない。16(歳)からはそこにぶつかって、ぶつかって、失敗して…」
女子高生「倒れた子はどうなるんですか?」
橋下市長「最後の所は救うのが今の世の中。生活保護制度というのがちゃんとある」
橋下市長「今の日本は自己責任が原則ですよ。誰も救ってくれない
( → 女子高生を論破」の動画を見て )
まあ、ひどいものだ。高校進学率がほぼ 100%という状況で、母子家庭の子供もかろうじて公的補助を得ながら進学していた。ところがあるとき突然、「公的補助を出すのをやめる。高校をやめろ」と言い出す。それも、大阪だけで。
こんなことをやっていたら、貧富の格差はますます拡大する。今どき高校も出ていないような子供は、ろくに職業に就けないからだ。橋下府知事がほんのわずかの支出を拒むせいで、教育の機会損失が生じて、貧しい家庭の子供は生涯にわたって貧しくなる。で、そうなったら、「生活保護を受けろ」というのが橋下府知事だ。それまでは「生活保護を受けなくて済むように、貧しい子供にも教育機会を与える」と言っていたのに、今後は「貧しい子供の教育機会を奪う。かわりにいざとなったら生活保護を与える」というわけだ。滅茶苦茶である。(普段は「生活保護を受けるな」と言っていたのだし。自己矛盾。)
──
というふうに、橋下府知事の言っていることは滅茶苦茶だ。論破したつもりで、論破されている。
で、そのあと、橋下府知事はどうしたか? 「自分は論戦で勝利したから、公的補助を削減する」という方針を取ったか? いや、実は逆である。
彼は、論破されたことを理解したらしくて、口とは正反対のことを実行した。
大阪府の橋下徹知事は、高校無償化法案に上乗せして、私立高校の無償化を行なうことを宣言した。2010年度から一定所得以下の世帯に向けて無償化された。
大阪府の松井一郎知事は、2016年度以降も私学無償化を継続することを明らかにした。子供が多い世帯に配慮し、子供が3人以上いる世帯を優遇する見直しが行われた。松井知事は「家庭の事情で夢をあきらめることがないように続けたい」と述べたという。私学進学者の割合は、制度導入前の2010年度の 27.4%から、導入後の2010年度以降は 32〜34%台に増加した。
( → Wikipedia )
つまり、口にしたこととは正反対のことをやった。他の県を上回る形で私学無償化を実行して、貧しい家庭の進学率を大幅に高めた。
他の県ではどうかというと、国の制度(高校授業料無償化・就学支援金支給制度)だけがあったが、それでも効果はかなり大きくあった。
本制度の導入後、埼玉県などでは高校進学率が過去最高を記録し、全国でも経済的理由による私立高校を中退する者が過去最小を記録した。
( → Wikipedia )
ソースとなる報道もある。
→ 経済的理由による中退が最少に 私立高、無償化で改善
→ 私立高校中退 経済的理由 最少に
──
結局、橋下府知事の言ったことは、まったくの間違いだったのだが、女子高生に論破されたあとは、自分の立場を 180度転換して、私学補助を削減するかわりに拡大した。そのおかげで、大阪の高校生は進学率が大幅に向上した。
つまり、間違いを認めたあとでは、態度を正反対に変えたわけだ。君子豹変。潔い。……この点では立派であると褒めておこう。
一般に、府知事時代の橋下は、いろいろと物議をかもしたが、政治家としてはずいぶんよくやったと思う。
ただ、市長になってからは、駄目だった。この件は、前項の [ 付記5 ]で記したとおり。

ここで言う「いいもの」っていうのは「学力レベルが高い」ではなく「馬鹿でも入れる」って意味じゃないですか?
そう考えないと論破されたされない以前に、最初から発言内で矛盾してますが。
> 「馬鹿でも入れる」って意味
それはないでしょう。馬鹿だらけの底辺校が「いいもの」で、最優秀のエリートが集まった国立大学付属校が「悪いもの」となり、普通の序列と正反対になります。
いわば、「ポンコツのボロ車」を「誰でも買える安値だから」という理由で「いいもの」と見なし、「最高級のロールスロイス」を「とても買えない高値だから」という理由で「悪いもの」と見なすことになる。これでは反対です。
つまり、「馬鹿でも入れる」というのは悪い学校。「とても入れない超難関校」というのは良い学校。それが常識です。
>「私立は、高品質で高額なのではない。低品質で高額なのだ。わざわざ選んだのではなく、頭が悪いせいで、公立には入れなかったのだ」と。
と引用してますが。
関西では一部の難関私立を除くとこれが常識らしいですよ。
まあ橋本氏も橋本氏ですし、別に支持はそれほどしていませんが、
リンク先の書き込みにも同意できるところがあります。
特に、公立はもともと全体の定員上限が決められているので、
どの公立にも行けない程学力が足りない人まで
わざわざ私立(全日制)で無償化の為の投資をする必要がないというところです。
レベルの高い公立高に落ちて併願の私立に通う人などの場合は無償にしてもいいと思いますが。
底レベル校の生徒ほど中退率が高いというリスクもあるそうですしね。
そういう人で高い学費払えないのなら、通信制・定時制の高校に通ったり、奨学金制度を利用する手もあります。
そんなのロクなことにならんと言われるかもしれませんが、そういう高校でもきちんと頑張る人は大学進学できることも少なくないそうです。
ちなみに公立に入れる学力といっても、大阪府の場合はかなり低い偏差値(37〜40程度)で
入れる全日制公立(しかも大阪市内・近郊にもある)もいくつかあります。
(「大阪府公立高校 偏差値ランキング」などで検索すればわかります)
さすがにそれほどの学力もない人まで全日制で無償化させろというのも何か贅沢な話ですし、
それなら最初から公立高校の全定員を希望者がほぼ全員通えるように変えたほうがマシだと思いますが。
というわけですが、話がかなり長くなったのは申し訳ないところです。