宇宙で iPS細胞の組織を作る実験がなされるそうだ。
宇宙航空研究開発機構(JAXA(ジャクサ))が、iPS細胞などを立体的に培養する宇宙実験を、2017年度にも実施する。
無重力状態で培養することで、将来、移植用の臓器や組織を作る再生医療の研究につなげたいという。
iPS細胞は、様々な細胞に変化させることができるが、複雑な形をした立体の臓器にすることは難しい。実用化に向けた研究は、網膜や心筋細胞などシート状で培養できる組織や、血小板製剤などが先行している。
そこでJAXAは、無重力で細胞を浮遊させることができる国際宇宙ステーション(ISS)の環境を利用し、iPS細胞やES細胞(胚性幹細胞)を立体的に培養する研究を始めることを決めた。心臓や膵臓(すいぞう)などの臓器作製に向け、基礎的なデータを得たいという。
( → 読売新聞 2015年04月24日 )
無重力で細胞を浮遊させる……というのは、いかにもうまいアイデアのように見えるが、馬鹿げていると思う。理由は二つ。
(1) たとえそれが可能だとしても、コスト的に引き合わない。臓器作成は数日でできるわけではなく、何カ月もかかる。宇宙に何カ月も滞留するとなると、次から次へと交替で作るわけにも行かず、コストはとても高く付く。技術的な可能性よりも、コスト的に実用化が無理だ。
(2) そんなことをやらなくても、地上で同等のことはできる。それには、水中に臓器を浮かべるだけでいい。というか、臓器を作るときは、もともと培養液のなかに浮かべる形で作るのだから、それによって浮力を得るので、もともと無重力は必要ないのだ。
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そもそも、この分野の技術は、ES細胞の方が先行している。それは、笹井さんが研究した「自己組織化」だ。これによって、遺伝子から自動的に組織が作られていく。この分野の技術を開発することの方が重要だ。
宇宙実験のために莫大な金を投入するくらいなら、笹井さんの後継者となるような人に研究を投入する方がいい。その方がずっとまともだし、王道だ。
というか、笹井さんが生きていれば、彼がこの道を進んだはずなのだ。そしてその天才的な能力で、どんどん技術を開発していったはずなのだ。
笹井さんを死なせたあとで、それを補うために、見当違いの方向に巨額を投入するなんて、あまりにも馬鹿げている。この道は、成功しがたいし、成功しても、莫大な浪費となる。どのみち、どん詰まりの道だ。進むだけ、馬鹿げている。
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なお、笹井さんの「自己組織化」の研究については、別項で説明した。そちらを参照。
→ 眼の形成(自己組織化)
JAXA の人は、馬鹿げた初心者ふうの思いつきの実験をやるよりも、まずは上記項目を読んで、笹井さんのたどった道を見るべきだ。そうすれば、自己の無知さ加減に、顔を赤らめるだろう。
我々のたどるべき道は、笹井さんの切り開いた道を追うことだ。見当違いの方向に向かっても、どん詰まりになるだけだ。
[ 付記1 ]
そもそも、人々が狂気的に興奮して、STAP細胞事件で「捏造だ」なんて大騒ぎしたことがいけない。本当に捏造であったなら、笹井さんが死んだはずがない。捏造ではないものを「捏造だ」と大騒ぎしたから、笹井さんは死んでしまったのだ。
STAP細胞事件は、あくまで学術的な世界のなかの、過失的な事件にすぎない。科学の世界では、実験ミスや失敗は山のようにあるが、そのうちの一つであるにすぎない。だから学術世界の問題は、学術世界に閉じ込めておけば良かったのだ。
なのに人々は狂気的に騒いで、小保方さんを「捏造した」と大騒ぎした。そのせいで、再生臓器の分野で最高の人材を死なせることになってしまった。
人々はまずは、そのことを反省するべきなのだ。笹井さんを死なせて、自分を救う道を失うなんて、まさしく狂気の沙汰だ。
カエルはサソリを背負って泳いで渡り始める。
しかしサソリはカエルを刺した。
瀕死のカエルがサソリに訊いた
「一緒に死ぬのが判ってるのになぜ刺した?」
サソリが悲しそうに答えて言うには
「どうしようもない。これが僕の性(さが)なんだ」
( → 出典,参考 )
こうやって笹井さんを死なせた。愚かなサソリ。
[ 付記2 ]
そもそも、画像の処理ミスぐらいのことにすぎない小事件で「改ざんだ」「捏造だ」と騒ぐのが、根本的な間違いだったと言える。
本質を示せば、次のように言える。
STAP細胞の TCR 画像の加工は、加工したこと自体が悪かったのではなくて、加工したことを明示しなかったことが悪いのだ。
比喩的に言えば、スッピンでなく化粧した女性がいるとして、化粧したこと自体が悪いのではなくて、化粧した顔を「スッピンだ」と偽ったことが悪いのだ。化粧した上で「化粧しました」と明示すれば、別に悪いことではない。
小保方さんの場合も同様だ。小保方さんの発言によると、「挿入した画像を枠で囲んで区別すれば、問題はなかった」とNature に言われたそうだ。つまり、「合成画像である」と明示しておけば、問題はなかった、ということだ。
ここでは、画像の合成それ自体が悪いことだったのではなく、「画像は合成画像である」と明示しなかったことが悪いことだったのだ。
この区別を、はっきりとしよう。多くの人はこの両者を混同しているが。
( → 画像は加工してもいい )
ES細胞の混入については、さらに馬鹿げている。
ここまで、「 STAP細胞を ES細胞にすり替えたのだろう」という推測があった。そして、その根拠として、「悪意の捏造」とか、「計画的な捏造」とか、「人格障害」とか、さまざまな理由が想定された。しかし、そのような特別な想定は不要なのだ。
・ 単に「ずさんさ」のせいで、コンタミが起こりうる。(上記)
・ コンタミがあれば、ES細胞は急激に増殖する。( → 別項[ 付記2 ])
こんな単純な二つのことで、「 STAP細胞が ES細胞にすり替わった」ということが説明される。そして、この説明は、さまざまな状況証拠に整合的である。
( → ずさんさ/愚かさ )
ES細胞は急激に増殖する能力がある。ここでは、わずかなミスだけでコンタミが発生する。なのに、「これは意図的になされたものだ」と思い込んだ人々が、ありもしない犯人を求めて、「犯人がいるに決まっている。それはこいつだ」というふうに決めつけた。
これはもう、中世の魔女狩りと同じである。
STAP細胞事件では、どうか? 真実の究明に向かっているか? いや、原因を明かそうという努力はなされず、責任者の追求ばかりに熱中している。いけにえとしての女性を火あぶりにすればいい、とだけ思い込んでいる。
これは、ファインマンのやったような科学的な方法ではない。現代の魔女狩りだ。中世のような呪術的な社会のやることだ。「魔女を火あぶりにすれば、社会全体が改善する。疫病も飢饉も解決する」と思い込んで、責任者の処分ばかりにとらわれる。その一方で、真相を科学的に明かそうとする努力は、見捨てられる。
「小保方さんは STAP細胞が存在していると信じている。妄想を信じている」
と人々は批判する。しかし、
「すべては小保方さん一人がやったことだ。彼女は魔女だ。魔女を火あぶりにすれば、問題はすべて解決する。似たような事件は起こらなくなる」
というような主張をする人々もまた、自分自身が妄想をもっているのである。
組織的な事故というものは、事故の直接の原因者を処分することでは解決しない。このことを理解しない限り、人々は、巨大な妄想にとらわれたままなのである。
( → STAP事件の真相は 2[原因] )
こういう非科学的な態度を保ち続けたから、人々は真実を見る目が曇ってしまうのである。あげく、巨額の金を無駄にして、自分で自分の首を絞める。
STAPのようです。
ttp://www.nature.com/articles/srep17355