ふるさと納税については、これまでも論じてきた。
→ ふるさと納税は合法的な脱税
→ ふるさと納税でエロ動画
→ ふるさと納税のポータルサイト
問題はあるのだが、政府は制度を解消するどころか、逆に、拡充しようとしている。
→ 地方創生、税で後押し ふるさと納税の限度額2倍に
→ 「ふるさと納税」の拡充
これを見て、「金が儲かるぞ」と喜ぶ人が多い。「たとえ1万円でも金をもらえる方がいい」と。
しかし、よく考えてみるがいい。この制度では、金持ちほど大幅に得をするようになっているのだ。
まずは、政府の示した表を見よう。
→ 全額控除される寄附額の目安 (PDF)
ここから表を抜粋すると、こうだ。

低所得層に比べて、高所得層の方が、大幅に得をすることがわかる。右上と右下の数字を比べると、百倍以上になる。
右端の列について、数字をグラフにすると、こうなる。

高所得者ほど圧倒的に得をすることがわかるだろう。
( ※ 1000万円以下は、ほとんど無に等しいような少額にすぎない。1500万円以上から、急激に増える。)
これはどういうことか? こうだ。
「低所得層は、数万円程度の得をするといって大喜びをしているが、高所得層ははるかに大幅な得をしている」
その意味は、こうだ。
「低所得層は、数万円程度の得をするといって大喜びをしているが、その裏で、高所得層からの税収が減るので、国全体のサービスが低下する。目先では少額の得をするが、全体的に見れば大損をする」
これが、ふるさと納税の真相だ。
──
上の話を聞くと、反論も出るだろう。
「高所得層は、もともと多くの納税をしているのだから、多くの減税を受けるのは当り前だ」
しかしこれには、反論を出せる。
(1) 所得と税率
高所得層ほど納税額が多いのは、確かにそうだ。ただし、税額では多いが、税率では多くない。税率を見ると、高所得層ほど税率が下がっている、という現実がある。
次にグラフがあるので、見るといい。(いずれも同様。)
→ http://j.mp/1F9e8uP
→ http://j.mp/1HWDkYY
→ http://j.mp/19zVHUC
(2) 一律減税
低所得層も高所得層も一律に同額の減税額になる、という制度も可能だ。具体的に言えば、民主党の提案した「子供手当」がそうだ。(自民と公明のせいで つぶされてしまったが。)
これは、「減税」という名前は付いていないが、所得に関係なく一律の手当てになるので、「一律減税」と見なすことができる。(子供の数に依存するが、それはそれで構わない。)
こういう方法もあるのだから、「高所得層ほど減税額が多くなるのは当然だ」ということはないのだ。
( ※ 減税は、「所得税減税」という形にする必要はない。)
──
一律減税でなく所得税減税の形を取ることには、社会的な公正さの点では大いに問題が出る。(金持ちばかりが圧倒的に得をする、という問題。)
ただし、それでも「所得税減税」という形にこだわる。それは、次のことが理由だろう。
「一律減税だと、何もしないでもらうという形になり、納税意識に支障がある。その点、所得税減税ならば、きちんと納税した人ほど多くの減税になるので、納税意識を向上させることができる」
なるほど、もっともらしい理屈だ。
しかしながら、「ふるさと納税」という制度は、納税意識を歪めてしまうのだ。なぜなら、ふるさと納税には、次の効果があるからだ。
・ 「嘘をつく」ことを推奨する。
(「ふるさと」と語りながら、ふるさとでないところに金を出す。)
・ あの手この手でうまく工夫することを推奨する。
(ふるさと納税の還元額・率などを調べて有利なものを取る。)
・ 国の金をかすめ取ることを推奨する。
(本来払うべき税金を払うなと推奨する。)
・ 正直者が馬鹿を見るという奇妙な罰則がある。
(ふるさと納税を取らないでいれば無駄にたくさん税を取られる。)
結局、ふるさと納税というのは、次の効果がある。
「嘘をついて、あの手この手で工夫して、払うべき税金を払わないようにしよう。そうすれば得をするが、逆に、真面目な正直者は、余分に税金を取られて、損をする」
これは要するに、「国民はズルをして脱税しろ」と推奨しているも同然だ。「真面目に税金を払うな。うまく工夫して国の金をかすめ取れ」と推奨しているわけだ。
これは、健全な納税意識を、著しく損なう。国民全員に、「脱税しよう」と推奨しているのも同然だ。
──
ふるさと納税には、以上のように、大きな問題がたくさんある。ほとんど「狂気の制度」と言ってもいい。
この制度を見て、「得ですよ」「得をしましょう」と紹介しているサイトはたくさんあるが、それよりも、国が狂気の制度を取っている、という点に留意するべきだろう。
( ※ ついでに言えば、これで「得をした」と喜んでいる人々はおめでたすぎる。なるほど、1500万円以上の高所得層ならば、「得をした」と喜んでもいい。しかし、1000万円以下の中・低所得層ならば、もらえる金額よりは、国のサービス低下による損失の方が、ずっと大きくなるだろう。たとえば、保育所や医療費に回すべきはずの金がなくなる。その分、国のサービス低下や値上げという形で、損を被る。たとえば、5万円の得をして、10万円の損をする。こんなのを喜ぶのは、阿呆だけだ。)
[ 付記 ]
それにしても、どうせやるなら、普通の「所得税減税」にすれば良かった。それなら、公平だし、手間もかからないし、現金をもらえる。ずっとマシだ。
なのに、ふるさと納税では、次の難点がある。
・ ズルをした人だけが得をする。
・ 得な品目を探す手間や、手続きなどがかかる。
・ 特定商品がもらえるだけで、現金はもらえない。
(必要度の高い医療費や学費に回すことは不可能。)
愚の骨頂、という制度だね。

確かにもらえます。竹鶴ピュアモルトをもらえる。
しめしめ……と思って、よく読んだら、愕然。お一人様1本限り。最低でも1万円以上の寄付が必要だ。1万円以上を出して、2000円のウイスキーを1本もらえるだけ。
余市はケチだ。……というか、これが当たり前なのかもね。
今回も貴重な分析お疲れさんでした。政権(官僚)の姑息な政策が暴かれました。
ばらまき政策の一つですか?
日頃より、政府主導による地方創生は働かないことを危惧していましたので、その裏付けがとれました。そもそも、特典付き制度自体が市場機能をゆがめ、かつ不平等を生させるものですよね。
厳密に言うと、プレゼントを貰う分得する代わりに、還付されない2000円と翌年付加される地方税を前払いする金利負担分を損するという構図ですね。