読売新聞・夕刊 2015-04-11 (紙の新聞)の1面で大々的に報道された。一部抜粋しよう。
《 土砂災害 40分前に警告 》
NECは、地中の水分量から土砂崩れを 10〜40分前に予測できる新技術を開発した。水分量を計測するセンサーを、山の斜面などの深さ 50センチの地中に埋める。水分量から周囲の土砂の重量なども推計し、数値の変化を、アンテナを通じて伝送する。
このデータから土砂崩れの危険度をはじき出し、システムに転送。危険度が規定の水準に達すれば、住民に避難を促す。
これまでの実験では 100%に近い精度を得られたという。今年度中に実用化する方針。
これが実用化するとすれば、技術的には大したものだと思う。
ただし、私の考えを言うと、「何か大事なものが抜けている」となる。
(1) 遅すぎる
10〜40分前というのでは、遅すぎる。(被害に対して手遅れとなる。) なぜなら、システムに情報が届いたあとで、次のように時間がかかるからだ。
・ 情報を扱う役人が、警報を発するまでの、遅延。
(自動化されていない限り、遅延が発生する。)
・ 情報を受け取った住民が、着替えや支度をする時間。
( 10分ぐらいはかかりそうだ。)
・ 自宅から安全地帯へ移るまでの歩行時間。
(500メートル歩くとして、年寄りならば 10分ぐらいかかる。)
あれやこれやと、30分ぐらいはかかりそうだ。で、その 30分の間に、土砂崩れが発生したら、避難中の人々は、道路で土砂崩れに遭って、死んでしまう。これだったら、家の二階で待っていた方が、まだ安全かもしれない。つまり、この警報のせいで、被害を減らすどころか、被害を増やしてしまう。
(2) 水量計で十分
予想をするのなら、水量計で降水量を計測するだけでも、十分だろう。たとえば、「1時間で100ミリ」というような水量を計測すれば、それで十分だ。事前に「この地域の土壌では、このくらいの水量で危険になる」というデータを整備しておけば、「これこれの降水量があったから、あと1時間で危険水準に達しそうだ」とわかる。
とにかく、地面に水が降ってから、水が地中 50センチに達するまでには、かなりの時間がかかるが、その時間の分、(1) の方法よりも早く予報ができる。精度の点では、いくらか劣るかもしれないが、精度なんかはどうでもいい。だいたいの範囲で当たっていればいいのだ。
──
結論。
NEC の装置は、技術的には興味深いが、実用的には、水量計にはるかに劣る。速度が遅いのが致命的だ。さらに、コストもかかる。
この装置は、技術者の自己満足になっているようなものだ。どうせなら、「水量計とソフト」という形の方が、よほど低コストで大きな効果が見込める。
【 追記 】
「これまでの実験では 100%に近い精度を得られた」
ということだが、実験における精度がどれほど高くても、それが実際の制度にも当てはまるという保証はない。なぜなら、現地の状況は千差万別だからだ。土質もさまざまだし、傾斜角もさまざまだし、植物の根の貼り方もさまざまだし、降った水の溜まり方もさまざまだ。土壌の表面の状態(植生)だって季節ごとに大きく変わる。
これほど条件が多様になるので、いくら実験で高精度が得られたとしても、その精度が現場に当てはまる保証はまったくない。要するに、実験では精度が高くても、現場では精度が低い。どうせ精度が低いのであれば、降水量と土壌調査だけで判定しても、差は大きくないはずだ。いちいち高額なセンサーなどを導入する必要はない。それよりは事前の土壌調査の方がずっと重要だろう。(水の浸透度などを事前調査しておけばいい。)
[ 付記 ]
NEC は、どうせやるなら、火山の事前予報のための計測装置を開発するべきだろう。その方がずっと重要だし、かつ、商売にもなる。(高額商品なので。)
詳細は下記項目。
→ 噴火は予知できる
→ 将来の噴火への対策は?
【 関連サイト 】
→ 土の水分量から土砂災害の危険性を解析する技術を開発 NEC
→ 日本電気株式会社 プレスリリース