「人間 対 コンピュータ」というテーマになると、まるで「日本 対 敵国」みたいな感じで血眼になる人が多い。電王戦でも、「何とかして人間に勝たせたい。そのためにソフトの側にあれこれとハンディを付けて、さらにはカンニングも許容して、何としても人間に勝たせたい」と思う人が多い。そのあげく、「公平な戦いを」と望んだ開発者に、罵倒を浴びせる人も多い。下記に罵倒の声がいっぱいある。
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しかし、今回の電王戦の開発者の履歴を見ると、興味深いことがわかる。
《 元奨励会員(プロ棋士志望者)が開発 最強将棋ソフト「AWAKE」 》
11月1〜3日に開催された最強の将棋ソフトを決める「第2回将棋電王トーナメント」で、元奨励会員の巨瀬亮一さんが開発した「AWAKE(アウェイク)」が優勝し、“電王”の称号を獲得した。
「AWAKE」の電王戦出場は初めて。昨年は決勝トーナメントで不具合が生じた(参考)影響もあり、「やねうら王」と「習甦」に敗れ出場を逃したが、それから1年で500点ほどレーティングが上昇。コンピュータ将棋対局場「floodgate」の最新成績ではトップに躍り出ていた。決勝戦は、初代電王で過去2回プロ棋士を破ったponanzaを終盤で大逆転。凄まじい激闘となり、視聴者に衝撃を与えた。
開発者の巨瀬亮一さんは15歳で奨励会(プロ棋士養成機関)に入会。その後、プログラマーとなり、来春は“将棋ソフト開発者”としてトップ棋士と対峙する。
( → ねとらぼ )
この人は元奨励会員だということだから、プログラムの開発歴は浅い。現在は 27歳 で、プロには 21歳ごろまで在籍したということだから、プログラマーに専念した期間は、長くても6年で、実際には5年ぐらいだろう。この分野では、きわめて経験が浅いと言える。それでいて、現在でトップにまで上り詰めた。特に、それまでの1年間に大幅にソフトの棋力が上昇したということだから、成長ぶりが著しいことがわかる。
──
ここから、次のことが結論できるだろう。
「ソフトの能力に強く影響するのは、プログラムの開発力ではなくて、ソフトの開発者の棋力である」
つまり、プログラムの開発力の高い人が強いソフトを作れるのではなくて、将棋の能力の高い人が強いソフトを作れるのだ。
これは、考えてみれば、当たり前のことだ。物事の本質をつかんでいるのは、その分野の専門家なのだから、そういう人が作ったソフトが強いのは当り前だ。
ゲームだって同様だ。プログラムの開発力の高い人が、売れるソフトを作れるのではない。ゲームの魅力を知り尽くしている人が、売れるソフトを作れる。たとえば、次のような点だ。
・ ゲームの操作感がいい
・ ゲームのストーリーが楽しい
・ キャラの絵が上手だ
このようなことを知り尽くしている人の作ったゲームが、よく売れる。プログラムの能力なんか、二の次なのだ。
将棋ソフトもまた同じ。
これまでの将棋ソフトは、将棋のアマチュアが作ったソフトばかりだった。しかるに AWAKE だけは、元奨励会員という、将棋のプロ同然の人がつくったソフトだ。だからこそ、プログラム歴の浅い人でも、短期間で最強のソフトを作ることができたわけだ。
──
以上のことを一般化すれば、「人間 対 コンピュータ」というテーマについても、結論を出せるだろう。こうだ。
「人間 対 コンピュータ」というが、この両者が単独で戦うわけではない。「コンピュータ、ソフトなければ、ただの箱」であるにすぎない。コンピュータの能力とは、ソフトの能力である。そして、ソフトの能力は、開発者の能力次第だ。
つまり、
人間 v.s. コンピュータ
という図式が成立しているように見えるが、実際には、
人間 v.s. コンピュータ+開発者
という形になっているのだ。人間が闘う相手は、コンピュータ単独ではなくて、コンピュータと開発者のセットなのである。
そして、コンピュータと開発者のセットというのは、あくまで開発者という人間の能力に依存するのだ。
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これは、次のような対戦に似ている
人間 v.s. ガンダム
ここでは、人間とガンダムが戦うように見える。しかし、実際には、
人間 v.s. ガンダム+操縦者
という形になる。人間が闘う相手は、ガンダム単独ではなくて、ガンダムと操縦者のセットなのである。操縦者しだいで、ガンダムの能力は大きく変わる。仮に、操縦者がいなければ、「ガンダムは、操縦者がなければ、ただのガラクタ」であるにすぎない。
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ともあれ、人間の闘う相手は、コンピュータ単体ではなくて、コンピュータと開発者のセットである。
したがって「コンピュータが人間を上回る」というようなことは、絶対にあり得ない。なぜなら、コンピュータがコンピュータを生み出すことはないからだ。コンピュータを生み出したのはあくまで人間であるからだ。
その意味で、コンピュータを「人間の敵」と見なすような認識は、正しくない。また、今回の電王戦の開発者を「人間の敵」と見なすような認識も、正しくない。正しくは、こうだ。
「運動の分野で人間の手足となるような機械が開発されたように、知力の分野でも人間の能力を代行するソフトが開発されつつある。そういう形で、人類全体の能力を高めるようなソフトを上手に開発したのが、今回の開発者だ」
今回の開発者は、人間に敵対するソフトを開発したのではない。「人間+コンピュータ」という組み合わせを取ることで、人類全体の能力を高めるソフトを開発してくれたのだ。
その意味で、今回の結果によって、人間の能力がどんどん衰えるようなことはない。逆に、人類全体の能力が高まっていったのだ。
この分野は、広い意味では、人口知能(AI)の一分野である。このような分野の水準が高まることで、いろいろと人類に貢献してくれる。たとえば、原子炉の内部を探索するロボットには、現状ではまともな知力がないが、やがて人口知能(AI)の能力が高まれば、ロボットが自律的にいろいろと探索することもできるようになるだろう。
そういう形で、人類の科学水準を高める効果があるのだ。人口知能(AI)の開発者は、人類の敵ではなくて、人類の味方なのだ。AWAKE の開発者もまた同じ。
[ 付記 ]
「ランダム性を取り入れない開発者が怠慢だ」
という批判が寄せられたが、それが見当違いだということもわかるだろう。
この人は生粋のプログラマではない。プログラムの開発経験も浅いし、まして今回のプログラムの開発期間はかなり短い。まさかトップに上り詰めるとは思ってもいなかっただろう。当然ながら、機械相手に勝つための「棋力アップ」だけを考えており、人間相手に勝つための「ランダム性」なんかの搭載は念頭に入っていなかっただろう。つまり、怠慢だというよりは、経験が浅い(開発期間が短い)だけだったのだ。
だから、電王戦に出場を決めたあとで、「ランダム性」の搭載をすれば良かったのだが、いかんせん、大会の規定で、手直しが禁止されてしまった。要するに、「ランダム性」の搭載を認めなかったのは、大会の方なのだ。
それゆえ、「手直しを認めよ」と私は前項で述べたわけだ。手直しを認めれば、ランダム性は搭載されたはずなのだから。というか、ランダム性がなくても、「既知の穴をふさぐ」ということだけでも、手直しによって可能だったはずだ。こんなことも認めない大会の規定が、いかにインチキであるか、よくわかる。勝手に手枷足枷を付けており、ほとんど八百長に近い。
【 追記 】
前項のコメント欄に、次の話を書いたので、転載する。
コンピュータに「知力」があると思うのは勘違い。コンピュータには「知力」なんか、ない。たとえば、将棋ソフトは、普通の知識では、赤ん坊レベルの知識すらない。ミツバチレベルの知力すら持たない。
コンピュータにあるのは、単に、ある特定の方面での情報処理能力だけです。それは知力とはまったく別です。
人間が知力によってなすことを、コンピュータは情報処理能力でなすが、それは、コンピュータが知力を持つというのとは別のことです。

自分の非に気づかないでやってしまったことで
あたかも低脳な悪人扱いをされた
会見の態度も視聴者が満足できるものではなく
外野の誤解と思い込みとバイアスが拍車をかけ
業界を巻き込む大バッシングに発展した
あれ?どっかで聞いた話ですね(笑)
(将棋の)経験が深く技能も知識も充分。
制度の非に気づいていたが権限外でどうにもならない。
でしょう。なお「あたかも」以下はその通り。
自分。というかよくある話だという一般論というか
世間話ですよ
→ http://nikkan-spa.jp/743432
→ http://www.nicovideo.jp/watch/sm24844012
→ http://ameblo.jp/syougichan/entry-11948093970.html
何らかのハンディを付けないと、人間とソフトではまともな戦いにならないようだ。とすれば、次の二点を提案したい。
(1) 継ぎ盤(手持ちのミニ将棋盤)の使用を認める。これは、それが必要だからというよりは、時間を節約するためだ。プロは、継ぎ盤がなくても大丈夫だろうが、継ぎ盤を使った方が時間を節約できる場合もあるはずだ。特に、深く読むときはそうだ。だから、好みによって、継ぎ盤の使用を認めるといい。
※ 森下卓九段がこの件は提案済み。
※ その後、実際に継ぎ盤使用で、森下の勝利。
→ http://ex.nicovideo.jp/denou/revenge2014/
→ http://matome.naver.jp/odai/2142034229002175101
(2) ソフトの側だけに時間制限を導入して、1分将棋にする。つまり、1手につき最大で1分間を認めるだけで、現状のように5時間という長時間を与えない。人間の側だけに5時間を与え、ソフトの側には1手につき1分間しか与えない。
※ できれば1分将棋でなく 10秒将棋にするといい。実際、ソフト同士の戦いでは、10秒将棋だった。
→ http://ex.nicovideo.jp/denou/tournament2014/rule.html
なお、このように時間制限を導入することは、ソフトの進歩をもたらす、という効果がある。
特に最近は「次元下げ」という方式が取り入れられたので、時間短縮と棋力向上とが同時に大幅に達成されつつある。
「次元下げ」については
→ http://nikkan-spa.jp/743433
→ http://toro.2ch.sc/test/read.cgi/bgame/1413036315/629
「要するに無駄なパラメータまで学習させることは害にしかならないということ。」
やたらと大量に計算するという従来の方針をやめて、無駄なパラメータを切り捨てるようにしたら、時間が短縮するだけでなく、棋力が大幅に向上した、という結果が得られたわけだ。
そりゃ当然強いんでしょうけど、1級じゃアマ高段者と変わらない、もしくは弱いのでは??
AWAKEはソース公開済みの強豪ソフトBonanzaベースですからねぇ。
プログラミング技術より棋力が大事なんですかねぇ??
仕事しながらの開発じゃないようですし、他の方よりは余裕が有るようには思われますが。
ランダム性は、今回4回目の電王戦ですよ??
長年やってる方とは別の、電王戦トーナメントなので、人間相手になるのはわかってるはず。
完璧とは言わなくとも、対策するのが当たり前でしょう。
ちなみに今回の穴は、有名な手筋のようですし、元々手抜いたソフトだったってことですよ。
なお、長手数を読めないコンピュータの穴なので、他にも罠を用意することは可能です。
人間相手だって、罠を用意することはあるでしょう。
別に卑怯でもないし、弱いから罠をはる事ばかりでもありません。
まあ、レギュレーションについては、やり過ぎだとは思いますが、
それでも昨年は人間が負けた以上、(コンピュータは弱くなることはない(弱くなったら以前のものを使えば少なくとも弱くはならない)ので)、レギュレーションを甘くする事はできないでしょう。
(やっと勝ったので、次回は変えた方がよいでしょう)
たった一人の事例でそう結論づけるのは、随分と乱暴です。将棋の棋力で言えば長い間、森田将棋の開発者森田和郎がトップでした。奨励会1級よりも富山の県代表の方が強いでしょう。その森田和郎がコンピュータ将棋選手権で1度優勝しただけだった、またそれ以降将棋の強豪が優勝者ではなかった点、ボナンザの出現により強い将棋ソフトを作成することが容易となったと言われていることも考慮する必要があると思います。
開発者でアマ高段者って、ほとんどいないですよね。せいぜいアマ2〜3段ぐらい。
→ http://matome.naver.jp/odai/2142552118107901501
一方、「アマ3〜4段で奨励会6級です」とのこと。
→ http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1064817745
あるいは、「奨励会1級=アマ4段」とのこと。
→ http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1450314859
> 将棋の棋力で言えば長い間、森田将棋の開発者森田和郎がトップでした。
それは Bonanza 出現以前だから、プログラムの能力が左右した。Bonanza 出現以後は、プログラムの基盤はほぼ共通で、チューニングの能力が左右するようになった。1から開発するプログラム力はあまり必要とされていない。
全国大会の県代表になると四段か五段の免状を貰えるからその意味では五段とも言えるけど、普通の意味でのアマ五段とは大きく違います。
十段ぐらいの実力の人が免状の段位で五段や六段(全国優勝)を名乗っているので将棋を知らない人は混同する事があります。
>これまでの将棋ソフトは、将棋のアマチュアが作ったソフトばかりだった。しかるに AWAKE だけは、元奨励会員という、将棋のプロ同然の人がつくったソフトだ。だからこそ、プログラム歴の浅い人でも、短期間で最強のソフトを作ることができたわけだ。
と書きながら
>チューニングの能力が左右するようになった。1から開発するプログラム力はあまり必要とされていない
とした場合、結局本稿はボナンザ以降の将棋ソフトに対してのみの記述となります。
うん。そうです。
あと、実を言うと、ボナンザ以降の将棋ソフトに対して全面的に成立するわけでもない。ここでは物事の真理を示しているわけではなくて、「こんな見方もあるよ。考えるヒント」ぐらいの意味です。「こんな見方をすると面白いんじゃないの」というぐらいの話。エッセーふうであって、学術的な話ではありません。
なお、Ponanza の開発者も、将棋がすごく強い。
→ http://shogikisho.blog54.fc2.com/blog-entry-904.html
ここでも本人の棋力がものを言っている。コンピュータソフトの2強の開発者だけが抜群の棋力を持つということは、やはり、偶然では片付けられないだろう。
ここに着目することには意義があるはずだ……という話。
だいたい、「人間 対 コンピュータ」というテーマは、きわめて大きなテーマなんだから、簡単に答えが出るわけがない。ちょっとした示唆を示すことができれば、それで十分。