……ということをテーマに語る。
ただしこれは、私の個人的な感想だ。ウイスキーの専門家の見解なんかではない。あくまで一個人の感想だ。それでも読んでみたいという読者に限り、以下の話を読んでほしい。
※ 「生意気を言うな」と文句を付けたい人は、ここでお帰りください。 (^^);
──
私がこのテーマで語ることにしたのは、私なりに「ウイスキーの本質は何か?」というテーマに回答を得たと感じたからだ。ここで、いかにしてその回答を得たかというような持って回った話は省略して、まずは結論だけを述べるならば、次の2点だろう。
・ ウイスキーとは、木の味がする酒だ。
・ ウイスキーの特質は、香りである。
以下ではこの二点について、順に説明しよう。
(1) ウイスキーとは、木の味がする酒だ。
ウイスキーは醸造酒とは大きく異なる。葡萄酒ならば葡萄の味がするが、ウイスキーは蒸留酒であるので、原材料の味わいはとても薄い。ウイスキーには原材料の味わいはろくに残っていない。
では、ウイスキーの味わいとは何か? 飲めばすぐにわかるように、ウイスキーの味とは、樽の味である。つまり、樽という木の成分が酒に溶け込んでいる。
このことは、熟成したウイスキーだとはっきりしにくいが、若い酒ならばはっきりとする。また、フロム・ザ・バレルやもっと高級なウイスキーでも、木の味わいが強く出ている。
木の味というのは、普通の人にはちょっとわかりにくいかもしれないが、材木工場などで木の匂いがたっぷりと漂っている空間に身を置いた人ならば、「木の匂い」というものをよく知っているはずだから、そこから「木の匂い」「木の味わい」というものがわかるはずだ。
(2) ウイスキーの特質は、香りである。
すぐ上では「木の匂い」「木の味わい」と述べたが、この両者が渾然一体としている点がウイスキーの特質だ。
普通の酒ならば、匂いはそれほど大きな位置を占めない。葡萄酒の匂いが大事だとしても、あまり大きな位置を占めない。(匂いしだいでは、葡萄酒を飲んでもオレンジを飲んだと錯覚することもあるらしいが、そもそも匂いそのものが葡萄酒の範囲に定まっていて、その範囲はかなり狭い範囲だ。)
一方、ウイスキーは違う。安いウイスキーでは匂いもたいしたことがないが、高いウイスキーでは匂いがすばらしい匂いになることがある。特に、木の匂いだ。この匂いが、ウイスキーという酒の性格を大きく左右する。ウイスキーという酒の範囲内でも、匂いにはものすごく幅があるので、それぞれのウイスキーの価値を大きく左右してしまう。
( ※ 私がそう思っていたら、朝ドラでもマッサン(亀山政春)が、同趣旨のことを言っていた。「ウイスキーは香りだ」というような話。甥の悟に説明しているとき。)
──
さて。以上は、結論ふうの話だ。最初の問題提起に対する回答のような形。
しかし、いきなり回答だけを読んでも、「ふーん」と思うだけで、読者は「あ、そう」と思うだだろう。
実は、大事な話は、このあとにある。結論に至るまでの過程の話だ。
まず、匂いの件だ。
ウイスキーには、さまざまな匂いがある。しばしば言われるのは、木の香りのほかに、バニラの香りや、果実の香りがある。(リンゴの香りなど。)
これらの香りがしばしば指摘されるが、それはどうしてかというと、それらの香りがもともと足りないからだ。足りないから、バニラの香りや果物の香りがあると、ずっとよくなるのがわかる。
つまり、ウイスキーは木の味と香りを本質とするが、それゆえに、木の味と香りしかないので、他の大切なものが欠けている(不足している)のである。その意味で、ウイスキーというのは、本質的に未完成な酒だと言える。
とすれば、その不足している分を補うべきだ。つまり、バニラの香りや、果実の香りを、補充するべきだ。しかし、足りないものを補おうとして、混ぜ物をすれば、もはやウイスキーではなくなる。(混合酒みたいなものとなる。正当なウイスキーとは見なされなくなる。)
そこで、合法的脱税みたいな方法が取られる。他の酒を直接混ぜるのではなく、他の酒がしみついた樽(カスク)を使って、間接的に他の酒をしみこませるのだ。特に、シェリー酒の樽を使ったウイスキーは、シェリーカスクと呼ばれる。シェリー酒は、葡萄を使った白ワインをアルコールと混ぜてから樽で熟成したものだが、元の白ワインの味が樽にたっぷりとしみこんでいる。その樽を使ってウイスキーを作れば、木の樽とシェリー酒との双方が混じる。すると、足りなかったバニラの香りや、果実の香りが、補充される。すると、すばらしい味わいになる。
日本のウイスキー「山崎シングルモルト・シェリーカスク2013(The Yamazaki Single Malt Sherry Cask 2013)」が世界最高のウイスキーに初めて選出された。
( → AFPBB News 2014/11/04 )
昨年報道されて話題になった報道だが、このときは「サントリーの山崎」というふうに受け止められることが多かった。しかし、普通の山崎が受賞したのではない。シェリーカスクという特別な酒だけが受賞したのだ。
この酒は、今では Amazon で 368,000円だ。(ただし、発売したときの時点では、1万円前後だったようだ。参考: 山崎シェリーカスク 2012 の公式価格 )
ともあれ、ウイスキー単体ではこれほどの味わいにはならず、シェリー酒の助けを借りることで、これほどの味わいになる。この意味でも、ウイスキーはそれ自体で完成した酒だとは見なしにくい。
──
ただし、以上のことを逆用することもできる。
上のことを理解しておけば、足りないものを自分で足してしまえばいいのだ。そうすれば、普通のウイスキーが、シェリーカスクのように素晴らしい味わいのウイスキーになる。
その方法が、先に述べたことだ。再掲しよう。
フロム・ザ・バレルよりも、はるかに美味しいウイスキーを飲むブレンドがある。それは、こうだ。
「フロム・ザ・バレルに、アップルワイン(ニッカ)を、1割ぐらい混ぜる」
このブレンドで、フロム・ザ・バレルが滅茶苦茶に美味しくなる。「ウイスキーは苦手だ」という人でも、「こりゃうまい」と感嘆するような味になる。ウイスキー好きの人なら、1割でなく5%ぐらい混ぜるといい。それで、「これはシェリーカスクか? 価格は 5万円か?」と思うような味になる。
飲んだあとでは、「何て素晴らしいんだ! 感動する」という感じで、知らず知らず首を振ってしまう。
( → お薦めのウイスキー )
ここで述べたように、アップルワイン(ニッカ)を少し混ぜることで、シェリーカスクでも飲んだかのような素晴らしい味わいとなる。それはどうしてかというと、(前回は述べなかったが今回は明かしたように)足りなかったバニラの香りや果実の香りが足されるからだ。(香りだけでなく味も足される。)
こうして、「アップルワインを足すとどうして美味しくなるか」ということの意味がわかった。
つまり、フロム・ザ・バレルや、モルトクラブのように、「熟成した木の味と香りはあるが、香りが弱い」というタイプの酒には、アップルワインの味と香りを足すことで、素晴らしく上質な味わいが得られるのだ。
一方、バーボンとか、富士山麓とか、ボストンクラブ淡麗原酒とか、こういうふうにもともと香りが強い酒の場合には、アップルワインを足しても、ちっとも美味しくならない。むしろ、まずくなる。(体験済み。)
フロム・ザ・バレルの場合は、味わいはいいのだが、唯一の欠点として、香りが弱い。このことは Amazon UK のユーザー評にも書いてある。そして、この香りの弱さを補うものとして、アップルワインが適しているのだ。ここにはバニラの香りや果実の香りがたっぷりと含まれているからだ。
──
さて。ここでさらに重要な話をしよう。
実は、手元に 30年ほど前のサントリー・ローヤルの飲みかけの瓶があった。「そんなに古いものでは味も匂いも飛んでいるのだろう」と予想したが、あにはからんや。味も匂いも素晴らしいものであった。特に、匂いは、圧倒的なものがあった。バニラの香りや果実の香りではなくて、木の香りがものすごくあった。
あとで調べたところでは、次の情報を得た。
・ サントリーローヤルは、香りを特質とする、最上級の酒だった。
・ 当時の販売価格は、すごく高額だった。
・ サントリーの商品は、同じ商品名でも、昔と今とでは異なる。
要するに、この 30年前のローヤルは、今売っている 3000円程度のローヤルとは似て非なるものであって、すごく上級な酒であったらしい。今売っているのを買っても、同じものにはならないらしい。
( ※ 30年前には「山崎」はまだ出ていなかったから、現在の山崎がローヤルに匹敵するのかもしれない。ただし、山崎はローヤルほど香りに特化してはいないようだ。)
ともあれ、この 30年前のローヤルは、木の香りがものすごくあるものだった。味の方は、普通に上級のウイスキーという感じだった。フロム・ザ・バレルのような甘さはなく、ブラックニッカクリアとか富士山麓みたいに、木の味ばかりがする感じ。それが上品になっている。
まあ、ここまでは、「高いだけはあるな」という感じで、美味しいウイスキーとして飲めた。
問題は、このあとだ。私はこう思った。
「フロム・ザ・バレルは、味は最高だが、香りがとても弱い。ならばフロム・ザ・バレルに、この年代物のローヤルを混ぜたら、最高の味と最高の香りが組み合わさって、最高の酒になるのでは?」
これは思いつきだ。思いついたら、試してみたくなる。そこで、とりあえずは軽い気持ちで、試してみた。フロム・ザ・バレルを入れたグラスに、アップルワインを1割ぐらい加えて、さらにそこに(香り付けとして)年代物のローヤルを3%混ぜてみる。
その結果は……
これは神の御業(みわざ)だ!
あまりにもめくるめく感覚に、感嘆するほかはなかった。もはや圧倒されるしかない。酒を飲んだときの恍惚たる感じとは違って、世界が急に広がったような感じがする。目の前に宇宙空間が広がったような感じ。感覚がものすごく深く大きくひろがっていく感じ。
これはもはや、味とか香りとかを越えている。ドラッグでもやったような感じだ。(ドラッグをやったことはないのでわからないが。)
とにかく、おいしいとか、いい気分とか、そういうものではない。今までに味わったことのない、ものすごい感覚の広がりを感じた。夢見心地というか。
これに一番似ているのは、次の二つかな。
・ ものすごい美人ちゃんと見つめあってドキドキする。
・ 好きな女の子と初めてエッチして恍惚とする。
こういうのとそっくりというわけではないのだが、こういうのと同種の、天にも昇るような心地がする。
しかも、恋やエッチとは違って、この酒を飲むたびに、毎度毎度、昇天するようなすごい感覚を味わえる。
この酒を飲んで初めて、ウイスキーというものの魔力(もしくは真髄)を初めてつかんだ、と思った。それは、他の酒や料理ではまったく味わえないようなものだった。
点数表で言うと、こういう感じ。
100 …… フロム・ザ・バレル + アップルワイン + ローヤル
85 …… フロム・ザ・バレル + アップルワイン
80 …… フロム・ザ・バレル
70〜75 … いわゆる高級ウイスキー
65 …… 淡麗原酒 + フロム・ザ・バレル少量
60 …… 普通の美味しいウイスキー
55 …… 安い割には美味しいウイスキー(富士山麓)
50 …… 並みのウイスキー (モルトクラブ)
40 …… 安物のウイスキー
30 …… 最低限のウイスキー (ブラックニッカクリア)
──── 越えられない壁 ────
名ばかりのウイスキー (凛,トップバリュー,トリス)
ただ、上の点数表は、格差を正確には記していない。
一番上は、 100点となっているが、正確には 130点ぐらいある。つまり、ブラックニッカクリアとフロム・ザ・バレルの差が 50点 だとすれば、フロム・ザ・バレルと一番上との差も 50点ぐらいある。つまり、80点に 50点を加えた 130点が妥当な数字となる。
一番上(フロム・ザ・バレル + アップルワイン + ローヤル)は、そのくらいものすごい味わいなのだ。
まさしく、神の御業(みわざ)というしかない。
ただし……
この組み合わせが再現できるかどうかは、定かでない。30年前のローヤルでは何度も再現できたが、今売っているローヤルでは再現できるかどうかわからない。たぶん、できないと思う。
サントリーの角瓶であれ、ローヤルであれ、発売当初のものと比べると、価格は大幅に安くなっているし、味も大きく変わっているそうだ。(当時の味を覚えている人が、味が変わっていると証言している。)
ニッカにしても、スーパーニッカは、現在のものは当初のものと比べて、大幅に安物になっている。そこで、当初のものを再現して、「復刻版」と銘打って、高額で販売したところ、「素晴らしい」という好評を得ている。
ニッカ 初号スーパーニッカ 復刻版
スーパーニッカだけでなく、ブラックニッカも同様だ。
→ 初号ブラックニッカ復刻版
いずれも「素晴らしい」という好評である。(ブラックニッカ復刻版の評価は、スーパーニッカ復刻版のページに記載されている。ゴッチャになっているので、注意。購入者の購入商品を見れば、違いがわかる。)
逆に言えば、こうだ。現在のスーパーニッカやブラックニッカは、当初のものと比べて大幅に劣化しており、かつ、安くなっているのだ。
とすれば、サントリー・ローヤルも同様の事情にある、と推定できる。
今さら 30年前のローヤルと同等のものを手に入れたければ、山崎か何かで、木の香りが強い、というものを探し当てるしかないが、どうも、そういうのは、なかなか見つからないようだ。
となると、上記の 130点(100点)の酒を再現することは、もはや不可能に近いのかもしれない。
……と思ったが、そんなことはない。よく考えてみれば、初めの方で述べたように、山崎のシェリーカスクというものがある。世界で1番の酒だ。こういう酒であれば、私が堪能したのと、同様の体験を味わえそうだ。たぶん。
だから、金さえ払えば、同様の体験は味わえるだろう。(たぶん。)
そのためには、37万円ぐらい払う必要があるようだが、逆に言えば、この体験のためには 30万円以上を払っても惜しくはない、という人がいるわけだ。それだけの体験を味わえる酒があるのだ。
そして、それがどういう体験であるかは、私が本項で記したことからも、窺い知ることができるだろう。
( ※ ただし、37万円を払っても、130点には足らず、100点ぐらいである可能性もある。山崎のシェリーカスクの講評を読んだ限りでは、単に「最上級のウイスキー」という感じで評されているだけであり、「宇宙が広がるような体験」というような表現はまったく出てこない。……となると、130点となる体験は、やはり得がたいものなのかもしれない。)
( ※ なお、サントリーの 響 12年 は、「香りがとても良い」という評判だ。ただ、果実系の香りらしいので、木の香りが強いローヤルとは違うらしい。)
( ※ サントリーの山崎 12年は、木の香りが強いそうだ。[ → 出典 ]。とすると、昔のローヤルに相当するものは、今の山崎なのかもしれない。とすれば、本項で述べたことを、山崎で実行すれば、神の御業というような感覚を味わえるのかもしれない。……私は確認していないが。)
[ 付記 ]
Amazon の サントリーウイスキー 角瓶復刻版
オールドやローヤルも同様らしい。次のページに「オールドやローヤルも復刻版を出してほしい」という声がある。
→ 「 サントリーローヤル」のコメント
[ 余談 ]
先の点数表だが、ワインで言うと、次のような感じ。
80 …… 2000円クラスで最高レベルのワイン
(チリ産のカベルネ・ソーヴィニヨン)
30 …… 一番安いワイン。
(ライトボディで水っぽいやつ)

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さて、17年物と12年物では長期熟成ほど舌触りが円やかに(舌への刺激が減る)なります。これはアルコール水和物のクラスターが徐々に小さくなるためで、超音波などの揺動が効くとされています。
超音波振動子は入手困難でしょうから、音声用スピーカーでモーツァルトでもかけていると良いかもしれません。、