「寄付をしてください」といって金を集める詐欺がある。金を出した人は、どっちみち、利益を得られない。ただし金を出した人は、社会的な効用があると信じて金を出したのに、実際には社会的な効用はなかった、というふうになる。
その例が、前項の「火星移住」を名目とした詐欺だ。これは、「火星移住を実現します」と社会的効用を名目として寄付金を募る。ところが実際には、火星移住は実現しない。
もうちょっと説明しよう。なぜ実現しないかといえば、
「 60億ドルという費用が極端に少なすぎて足りない」
という点を、前項で指摘した。それとは別に、
「 60億ドルもの金が集まる」
というのもホラである。
──ミッションのコストはどのくらいですか。
第1回ミッションの4人のチームを火星に送るのに必要なのは、約60億ドルです。しかし、段階を追って進めていくため、すぐにこれだけの巨額な資金がいるわけではありません。
──そしていったんミッションが開始すれば、放映権収入が見込まれるということですね。
そうです。ちょうど国際オリンピックのようなしくみです。ロンドン・オリンピックは約40億ドルの放映権やスポンサー企業からの収入を上げていましたが、開催期間はたった3週間です。他方、火星に人間が居住するということになれば、これは人類史最大のイベントになります。誰もがテレビを見るはずです。インターネットも現在の2倍以上、40億人に普及している。文字通り、万人がその様子を観たいと思うはずです。もちろん2年ほども経てば視聴率は落ちてくるかもしれませんが、その頃には火星へのミッションのコストも下がっている。2回目からは40億ドルほどでまかなえるはずです。
( → 提唱者へのインタビュー )
ここでは、提唱者(バス・ランスドルプ)へのインタビューがあるが、あまりにも過大な楽観がある。
「誰もがテレビを見るはずです」
というが、馬鹿を言ってはいけない。見るのは見るにしても、ニュースで1分間見るだけでおしまいだ。「誰もが1分間見る」だけのことであって、「誰もが何十時間も見る」ということはない。だいたい、宇宙線の内部や、居住室の内部で、宇宙服を着た人が座っているだけの画像なんて、10秒見れば飽きる。
当然ながら、わくわくとした興奮がたくさんあるオリンピックとは比べものにならない。売上げ高はせいぜい数十億円だろう。映画1本ぐらいの価値しかない。
つまり、提唱者は、あまりにも過大な楽観を口に出している。これは、嘘八百で金を集める寄付型の詐欺だ。……ただ、自分自身がそれを信じていて、自分自身が自分にだまされている。その意味で、悪意はない。とはいえ、被害が生じるのは、同様である。
ま、現実には、その夢想の馬鹿らしさが、すでにバレてしまっている。だから、当初は「 60億ドルを出します」と言っていた番組会社が、すでに撤退してしまった。つまり、計画は破綻している。(よかったね。)
Mars Oneが必要資金として試算していた60億ドル(約7,200億円)の大半を提供するはずのテレビ制作会社、Endemolも手を引いたことが発覚しました。
( → ギズモード・ジャパン )
──
さて。こういうふうに「寄付型の詐欺」をやるというのは、一般化すると、「うまい詐欺商売だ」と言えるだろう。何しろ、もともと利益を与えるとは確約していないのだから、利益を与えないからといって、契約違反にはならない。また、夢が実現しないとしても、「やる意思はあったんだけど、どうしても実現不可能だったんです」と釈明が可能だ。かくて、寄付金を集めて、トンズラしてしまえば、寄付金詐欺が完遂する。
では、これと似たタイプの詐欺はないか? 考えてみたら、似たタイプの詐欺はある。
・ エコキャップの詐欺
・ フェアトレードの詐欺
前者は、たいして儲かっているわけではないが、多大な損失を社会に与えるという点で、ひどい詐欺だ。
→ リサイクル詐欺(エコキャップ)
後者は、けっこう盛んになっているが、多額の売上げに対して、実際に途上国の生産者に渡る額は微々たる額でしかない。1%程度だと見込まれる。つまり、フェアトレードで 1000円のチョコレートやコーヒーを買っても、実際に途上国の農民に渡る金は 10円程度だと見込まれる。(もともとカカオ豆やコーヒー豆の一般的な相場が、その程度だからだ。調査した数値では、0.9%である。出典は下記項目。 )
→ フェアトレード (詐欺・問題)
つまり、「途上国の農民のためにフェアトレードの商品を買ってください」というのを信じて金を出しても、現実に途上国の農民に渡る金は1%程度でしかない。これこそ、寄付型の詐欺と言えるだろう。
ちなみに、フェアトレードの業者・団体が、どのくらいの額を生産者に渡しているかを知ろうとして、収支報告を調べてみようとしたが、ネット上には、一つも見つからなかった。
ま、そうですよね。収支報告を見て、「どのくらいの額を生産者に渡しているか」を調べれば、「実際には1%程度の金しか農民に渡していない」こと、つまり、「寄付型の詐欺である」ことが、バレバレとなる。だから、収支報告を出さないわけだ。
まったく。寄付型の詐欺というのは、あくどいものである。火星移住だけじゃないのだ。
[ 付記 ]
1%程度という数字に、疑問を持つ人もいるかもしれない。
「フェアトレードでは、農民に多めの金を払っているはずだから、1%よりも多いはずだ」
というふうに。
しかしながら、フェアトレードの商品の価格は高い。ざっと2倍ぐらいの価格である。とすれば、仮に生産者に相場の2倍の金を払っても、商品の価格が2倍であれば、比率はやはり1%のままで、変わりはないことになる。
さらに、たとえ 5割増し(1.5倍)の金を払っても、フェアトレードの商品の価格が倍であれば、比率は 0.75% に落ちてしまう。払う額は多額でも、比率だけを見れば、比率はかえって下がってしまうのだ。
こういうのを見れば、詐欺性は明らかになるだろう。
ちなみに、普通の商品を2倍の価格で売って、差額の全額を途上国に送れば、何と 50%もの比率で途上国援助ができる。1%のフェアトレードに比べて、 50倍もの効果がある。
