2015年02月02日

◆ 自治体の古紙回収は無駄 2

 自治体の古紙回収は無駄だ、という話。続編。 ──

 自治体の古紙回収は無駄だ、ということは、すでに何度も述べた。要旨は、下記。
 民間業者がやれば……
  ・ 自宅まで取りに来てくれて、トイパーを残してくれるので、家庭は得。
  ・ 古紙回収のための莫大な行政コストがなくなるので、自治体は得。
  ・ 民間業者は、仕事をして所得を得るので、得。

 つまり、三方が得をする。

 自治体がやれば、その逆となる。つまり、……
  ・ 集積所まで古紙を運ぶ必要があり、トイパーももらえないので、家庭は損。
  ・ 古紙回収のための莫大な行政コストがかかるので、自治体は損。
  ・ 民間業者は、仕事がなくなり所得が消えるので、損。

 つまり、三方が損をする。
 
 だから、自治体が赤字を出してまで、わざわざやるようなことではないのだ。
 ところが、これを理解できない人がいる。たとえば、朝日の記事だ。集積所にある古紙を持ち去る民間業者がいて、それを避けるために、自治体は古紙に GPS を設置するが、GPS ごと盗まれてしまって、被害が出ている、という話。その最後に、次のことが記されている。
 古紙の約3割が持ち去られ、東京都内の被害額は年間15億円に及ぶ――。そんな推計……(中略)…… 持ち去りがなくなれば3千万円程度の収入増と見込む相模原市 ……(中略)……
( → 朝日新聞 2015年1月31日(井上恵一朗)

 これを鵜呑みにしているらしく、同意する見解もチラホラと見られる。はてなブックマークの人気コメント。
 横取り業者を肯定するブコメの理由が分からん。金になる分だけ横取りされたら、行政が回収した資源から得られる資金が減って、その分ゴミ回収のコストが回収できず、増税しなきゃならないのだけど、それでもいいの?
( → はてなブックマーク

 これによれば、「民間業者に任せると増税になる」ということになる。このことは、本項の冒頭で述べたこととは逆だ。では、どちらが正しいのか? 

 ──

 この問題は、次の二点で理解される。

 (1) 収益とコスト

 自治体のコスト回収には、巨額のコストがかかっている。おおむね、収入の 10倍のコストがかかっている。
 とすれば、たとえ収益が 1 だけ減ったとしても、コストが 10減るから、差し引きすれば、問題はないのだ。
 「収入が減るぞ、減るそ」と大騒ぎする人が多いが、実は、収入が減っても、コストがその 10倍も減るから、差し引きすれば大幅に得をするのだ。
 モデル的に言えば、100億円をかけて 10億円の売上げがある。毎年 90億円の赤字を出している。ここで、収益が1割減ったとしても、コストが1割減れば、差し引きして、大幅に赤字削減ができる。だから、収益の低下だけを見ても無意味なのだ。

 (2) 部分と全体

 単発的に見るなら、自治体のコスト回収費用は変わらないまま、民間業者の横取りの分の収益が減るだけだ。たとえば、1回で 100円の収益減があるが、コストは変わらないままだ。だから、収益減の分だけ、損をすることになる。それが、塵も積もれば山となって、数千万円の損失となる。……というのが、大方の発想だろう。
 しかし、それは物事を「部分」だけでとらえる見方だ。物事は、もっと大きく見る必要がある。全体を見る必要がある。そして、全体を見るというのは、本項の冒頭で述べたことだ。つまり、「自治体の事業は全体として巨額の赤字を出している」ということだ。
 したがって、選択肢は、次のことではない。
 「民間業者の横取りを見逃すかどうか」
 むしろ、次のことが選択肢となる。
 「古紙回収を、自治体がやるか、全面的に民間業者に任せるか」
 この場合、次のいずれかとなる。
  ・ 自治体がやって、巨額の赤字を垂れ流す。
  ・ 民間業者がやって、コストゼロで、トイパーを配る

 この選択肢が、冒頭で述べたことだ。

 物事を全体的に見れば、上のような見方ができる。ところが、物事を部分的にしか見られないと、目先の1回だけにとらわれて、「横取りを見逃すかどうか」というような議論になってしまう。そのせいで、物事の本質を見失う。そのあげく、次のように結論する。
 「巨額の赤字を垂れ流す自治体事業を続ければ、回収した古紙の売上げがあるので、得をする。一方、巨額の赤字を垂れ流す自治体事業をやめれば、回収した古紙の売上げがなくなるので、損をする」
 こういうふうに本末転倒な結論を出す。そして、その非論理性に、自分自身で気づかない。

 ──

 どうしてこういうことが起こるのか? それは、人々が、物事を全体的に見ることが困難であるからだ。
 このことは、「部分最適化と全体最適化」という概念で、一般的に理解される。
 つまり、人々は、目先の小部分で最適化することばかりに熱中して、全体における最適化をすることを見失ってしまうのだ。
  → 局所最適化と全体最適化
 
 このことは、次の書籍で詳しく説明されている。

    


 具体的な例としては、面白い例がある。次の話だ。(要旨)
 「朝のスーパーで、人件費削減のために、レジの店員を3人から1人へ減らした。その結果、レジで待たされる人の行列が長く延びた。しかし夕方ならともかく、朝の時間は客にとって時間が惜しい。レジで何分も待たされては、待ちきれない。結果的に、客はコンビニに流れた。スーパーは、客が来なくなって、売上げが大幅に減少した」
  → はてな匿名ダイアリー
 
 ここでは、「人件費を削減する」という部分最適化を狙ったせいで、「売上げが減少する」という形で全体最適化に失敗した。
 ここでは、「レジ」という部分にボトルネックが生じたせいで、その他の部門は遊休しているのと同様となった。かくて、レジ以外の人件費とか、店舗の固定費とか、物流費とか、さまざまな部門で一挙に巨額の赤字が発生した。(売上げの減少とは、これらの部門の全体的な赤字化を意味するからだ。)
 これこそ、「ボトルネックによって、全体最適化の失敗」という典型的な例だろう。
 逆に言えば、朝のスーパーのような例では、たとえ人件費がかなりかかったとしても、レジで並ばせないようにするべきなのだ。部分的にはコストが平均以上にアップしたとしても、そのことによって売上げが増加するならば、「部分最適化を捨てることで全体最適化を得る」という結果になるからだ。

 ──

 古紙回収の場合も、似た発想が適用できる。
 「古紙の横取りを認めるかどうか」というのは、あくまでも部分だけにこだわった見方だ。
 「自治体の赤字事業を続けるかどうか」というのは、全体を眺める見方だ。
 前者の見方にこだわれば、横取りを防ぐことで、100円ぐらいの収益アップを果たせる。塵も積もれば山となり、数千万円の収益アップも果たせるだろう。しかしながら、何十億または何百億という巨額の赤字は残るのである。
 後者の見方をすれば、「自治体の赤字事業をやめる」という決断を出すことで、何十億または何百億という巨額の赤字を一挙に解消できる。そこでは、十分の1程度の古紙の売上げがどうなるかは、どうでもいいことなのだ。そんな些細な売上げのことはどうでもいい。巨額の赤字事業をなくすことだけが大切なのだ。

( ※ あらゆる地域で自治体の古紙回収をやめていいかというと、そうではない。過疎地では、民間業者が来ないので、自治体がやる必要があるだろう。しかしその場合には、「民間業者に持ち去られる」という問題も生じない。逆に言えば、「民間業者に持ち去られる」という地域では、自治体がやる必要はないのだ。)
( ※ なお、一般の民間業者が来ない地域でも、新聞社の販売店が特定の民間業者と提携していることもある。下記参照。)



 [ 付記1 ]
 実を言うと、朝日新聞がこんなふうに民間業者の古紙回収を批判するのは、おかしい。なぜなら、朝日新聞自身が、民間業者の古紙回収を推進しているからだ。
 「朝日新聞社と提携した古紙回収業者が、読者の家庭を回って、古紙を回収して、トイパーを残します」
 ということを、推進している。
 東京本社管内では、環境問題への取り組みが一般化する追い風のなかで、CS推進の一環としての取り組みが浸透し、実施地域も拡大しました。2010年6月に販売局が専売ASAを対象に実施した古紙回収実態調査では、何らかの形で古紙を回収しているASAは、1,264店(91.4%)
( → 朝日新聞社インフォメーション

 自社の方針で「民間業者による古紙回収」を推進しているのだ。なのに、それを否定して、「民間業者をやめて自治体に任せろ。そうやって自治体に巨額の赤字を発生させよ」というふうに主張する記事を書くなんて、朝日の記者はどうかしているね。

 [ 付記2 ]
 そもそも、朝日がどうしてこういう制度を取ったのか、その理由を考えるべきだ。
 朝日がそういうことをやったのは、環境(エコ)のためではない。そうしないと、読者が減るからだ。
 「自治体の集積所までいちいち重たい古紙を運ぶのは、老人家庭には大変だ。このままでは老人家庭は朝日の購読をやめてしまう。一方、家庭の入口まで古紙回収に来てくれるのであれば、古紙を出す手間がかからないので、朝日の購読をやめない」
 つまり、朝日が民間業者による古紙回収を推進するのは、朝日の購読を減らさないためなのだ。
 なのに、「自治体による古紙回収を推進しよう」という趣旨の記事は、「家庭が重たい古紙を集積所まで運べ」ということだから、「だったら朝日の購読をやめる」という方向に追い込むことになる。
 今回の朝日の記事は、朝日の購読を減らそうとしているのだ。自分で自分の首を絞めている。自殺行為。愚の骨頂。



 【 関連項目 】

 本項で述べたことは、すでに述べたことと同趣旨である。過去の項目をざっと紹介しよう。

 → 自治体の古紙回収は無駄
  ※ 自治体の古紙回収は無駄だらけだ、ということの全般的な説明。

 → 古紙回収はエコでない 2
  ※ 自治体の回収には巨額のコストがかかる、ということの詳細な説明。

 → 古紙リサイクルと利権
  ※ 自治体があえて赤字事業にこだわるのは、業界との癒着があるからだろう、という推定。



 [ 余談 ]
 上の最後の件(利権の件)は、今回の朝日の記事でも裏付けられる。古紙につける GPS には、かなり多額の費用がかかるのだが、それを、自治体が出すのではなく、古紙の業界団体が支出している。
 何だって自治体でなく業界団体が、自治体のための経費を負担するんだ? 筋が通らない。
 ここから、推定が付く。業界団体は、自治体と癒着しており、自治体から安値で大量に古紙を引き受けることで、莫大な利益を得ているのだ。だからこそ、自治体には巨額の赤字が発生して、その分、業界団体には巨額の収益が入る。
 おそらく、業界団体は、政治家の団体(自民党のことです)に巨額の寄付をしているのだろう。その寄付を受けた政治家の圧力で、自治体は常識外の低価格で、業界に古紙を渡しているのだろう。だからこそ、自治体による古紙回収には、莫大な赤字が発生するわけだ。
 そして、その赤字を負担するのは、自治体の市民である。
 その赤字の負担を正当化するのが、「エコ信者」である朝日新聞だ。「エコのためであればすべて正しい」と信じて、巨額の赤字を垂れ流すのを正当化する。
 で、その真相を明かすのが、本サイトだ。とはいえ、たいていの人は、本サイトの意見を理解できない。はてなブックマークでも、本サイトの意見を理解できない人がほとんどだ。
 なぜか? 「部分最適化と全体最適化」という概念がないからだ。つまりは、「木を見て森を見ず」である。
 凡人というのは、そういうものなのだ。
posted by 管理人 at 23:25| Comment(6) | エネルギー・環境2 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
そもそもわざわざ回収して回る民間業者が存在する事業で、自治体がやる場合にはこれだけ赤字が出るのは何でなのでしょう?
民間業者が横入りする=黒字事業っていう発想が、朝日の記事に賛同する人の根底にある気がするんですが。
Posted by met at 2015年02月03日 06:45
> 赤字が出るのは何でなのでしょう?

 古紙の買い取りの値段も違うし、無駄な人員の配置もあるし、職員の年収も大違い。民間なら年収 200万円程度だろうが、公務員なら年収 500万円ぐらいかな。
 ただ、人件費だけでは説明が付かないので、古紙の買い取り価格が極端に低いとしか思えません。やはり、癒着と利権があるようだ。
Posted by 管理人 at 2015年02月03日 07:27
全く同意!

それに、古紙に付けるGPSとやらも相当にあやしいですね。


ついでですが、ごみの分別もいい加減やめるべき。

何でもかんでもどんどん燃やして熱を回収すればよい。

有害物質を出さない性能の焼却施設は十分にあるでしょう。
Posted by たろう at 2015年02月04日 01:28
「部分より全体を」はそのとおりで、一般廃棄物の収集に利権があるのも事実ですが、古紙回収の民間移管は非常にリスクが高いと思います。理由は二つ。


《安定した回収が保証されない》

古紙の相場は不安定であり、逆有償引き取りとなる事態も頻繁に起きています。民間移管すると相場次第で引き取り手がいなくなり、家庭に山積みとなる危険が常につきまといます。

↓古紙相場安定化に関する調査報告書
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2011fy/E001257.pdf


《古紙回収は、廃棄物処理のごく一部にすぎない》

家庭ごみに占める紙類の比率は1/4程度にすぎず、残りは厨芥類など再生不可能なもので占められ、清掃工場もほとんどそのためにあります。したがって、古紙回収だけ民間移管しても自治体のコストダウンは期待できません。

↓家庭ごみの組成(グラフ)
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/img/210/fb1.3.1.21.gif


家庭ごみに限らず、発生量が調節できないので、廃棄物価格は一般に不安定です。また、家庭ごみは水分が多く発熱量が低いため、副収入にはなっても全体としてはペイしません。比較的安定した産業廃棄物ですら、原油の乱高下もあいまってエネルギー回収事業は失敗の連続です。

生活に不可欠な一般廃棄物回収はやはり行政が担いつつ、長期的なごみ削減に努めていくのが全体最適と考えます。
Posted by 深海誠 at 2015年02月04日 14:46
> 《安定した回収が保証されない》
 
 過疎地では回収が高コストなので、その危険があります。だが、人口密集地では低コストで回収ができるので、人口密集地に限っては大丈夫。古紙は、中国における需要が安定的にあるので、相場が下がったら輸出すればいいだけ。
 なお、輸出の相場が下がった場合も、大丈夫。単に市場に介入して、買い取り価格を上げるだけでいい。すでに回収システムが存在して、そこでコスト割れになるなら、そのコスト割れの分だけを負担すればいい。たとえば、10のコストで赤字が2出るなら、その2の分だけを負担すればいい。10という全部について自治体が高コスト(20)で代替するのは、完全な無駄です。
 だいたい、「供給の安定のために、国営化して、高コストで維持して、バカ高値で安定させる」というのは、すでに一度通った愚行です。

> 《古紙回収は、廃棄物処理のごく一部にすぎない》

 紙類の比率は1/4程度であるなら、「ごく一部」ということはありません。たとえ1割であっても、無駄を削減する効果は十分にあります。日本全体で何百億〜何千億円かの削減効果。比率では小さくとも、額では巨額です。

> 生活に不可欠な一般廃棄物回収はやはり行政が担いつつ、

 それは当然ですが、本項は家庭ゴミの話じゃなくて、古紙回収に限った話です。そもそも、古紙回収と家庭ゴミとは、収集日も異なっており、別の問題です。
 また、古紙回収は普通の貨物トラックに平積みしますが、これを家庭ゴミの回収のトラックで行なうと、ものすごく効率が下がって、無駄です。かといって、専用で貨物トラックを別途用意しても、やはり無駄です。

> 長期的なごみ削減に努めていくのが全体最適と考えます。

 それは、古紙回収に関しては、「新聞購読をやめましょう」ということですから、朝日にとっては、自分の首を絞めることになる。そもそも、「ゴミ削減のために新聞購読をやめましょう」なんて、本末転倒だと思うが。
Posted by 管理人 at 2015年02月04日 19:20
回収後の再生ルートは大差ないはずですから、要は収集コストの効率・安定化の問題ですね。ただ、これ以上議論すると

・自治体の古紙回収は委託?直営?委託なら透明入札だけの問題では?
・相場介入で支えきれるか? 一種の補助金なので別の癒着にならないか?

という微妙かつ不明点が多い話になりそうなので、今回は論点整理に止めた方がよいと思います。ただ、そう簡単に言い切れる問題ではないのかなと。

なお、「新聞購読をやめましょう」なんて私は言ってない(笑)。紙の新聞はそりゃ重要ですよ。なくなったら困るw 量的に増えてるのは段ボールでしょうから、それも含めた課題でしょうね。

本日はこのへんで(^^)
Posted by 深海誠 at 2015年02月04日 20:12
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