2015年01月29日

◆ かんぽの宿の真相

 かんぽの宿の一括売却、という問題が話題になったことがあった。その真相は推測が付いていたが、このたび、当事者自身の証言が得られたことで、推測が裏付けられた。 ──

 この件について、朝日が当事者であるオリックスの宮内義彦・会長にインタビューをした。そこから一部抜粋しよう。
 《 ふんまんやるかたなかった 》
 ――小泉政権の退陣とともに規制改革・民間開放推進会議の議長を退き、2年あまりたった2009年1月6日。宮内さんは批判の渦に投げ込まれる。その前月、日本郵政の宿泊施設「かんぽの宿」がオリックス不動産に譲渡される契約が結ばれていた。これに対し、許認可権を持つ鳩山邦夫総務相が待ったをかけた。郵政民営化に賛成する宮内さんが率いるオリックスへの売却は「出来レース」だと批判したのだ。
 かんぽの宿は、年間40億円以上の赤字を出す不採算事業だった。売却しても雇用を維持することが求められていたことから、需要が高い施設と不採算施設とを抱き合わせで売る「一括売却」の手法がとられた。これが「たたき売り」だとの批判を呼ぶことになった。宮内さんが郵政民営化を利用して利益を得ようとしたとの印象が広がる結果になった。

宮内 わたしもそうですが、西川さんも心の中ではふんまんやるかたなかったはず。
 最初は法的手段をとることも考えました。社内で事実関係を調べさせ、こちらに瑕疵(かし)はないと判断していましたから。
( → 朝日新聞 2015年1月12日

 記事は全体として、「オリックスは妥当なことをしただけだ。なのに、妨害されて、巨額の損失をこうむった」という趣旨で書かれている。
 このように、オリックスを正当視する見解は、以前にもチラホラと見られた。いずれも「市場原理は万能である。市場原理に委ねれば配分は最適化される」という市場原理主義者による主張。たとえば、こうだ。
 かんぽの宿を一括売却せざるを得なかったのは従業員の雇用を優先したためで、売却価格が109億円なのはそれだけの価値しかない物件だったのであり、オリックス不動産に譲渡されることになったのは入札でもっとも高い価格を提示したからでした。鳩山総務大臣らの批判には、なんの根拠もなかったのです。
( → 橘玲 2012年11月5日

 仄聞した限りでは、かんぽの宿は一部はバラ売りされているが、「一施設について約10億円の追加投資が必要で、8割はどうやっても再建不能」というのが実態らしい。もしオリックスが本気で事業再生するなら、今後500億円規模の追加投資をしなければならず、それでも黒字にできるか分からない。 ( → 菊池雅志 2009年2月11日

 しかし、である。仮にこのような主張が正しいとしたら、オリックスはかんぽの宿を購入できなかったことで、何ら不利益をこうむっていないはずだ。109億円 の価値のあるものを、109億円で買ったとしたら、特に利益は出ないはずだし、また、買えなかったからといって、特に不利益は出ないはずだ。
 つまり、「オリックスへの売却価格は公正だった」という市場原理論者の見解は、まったくの間違いだったことになる。
 むしろ、オリックス会長がインタビューで述べているように、オリックスはこの売却に莫大な利益を得るはずだったのだ。ざっと見て、1000億円近くの利益を得るはずだった。つまり、本来は 1000億円ぐらいの価値のあるものを、たったの 109億円で購入できるはずだった。なのに、その契約を無効にされた。かくて、「濡れ手で粟」のような形で、 1000億円近くの利益を得るはずだったのが、一挙にパーになってしまった。1000億円近くの金が消えてしまったのだ。……これでは「ふんまんやるかたない」という気持ちになるのも、当然だろう。
 逆に言えば、「ふんまんやるかたない」という気持ちになったと告白したことで、オリックスはあの売却によって 1000億円近くの利益を「濡れ手で粟」で得るはずだったということが、はっきりと判明したわけだ。「思わず本音を漏らした」という形で。

 ──

 実を言うと、このことは、今回新たに判明した事実ではない。あの当時にすでに判明してことだ。私がそうであると推測していたし、そのことはのちに証明されていた。

 (1) 私の推測

 私はこれがオリックスの詐欺的行為であることを推測していた。
 なお、「赤字事業の継続が条件だから、安値にするのは仕方ない」という見解もあるが、これは嘘である。
 オリックスへの売却条件は、「事業継続」ではない。「1年間の雇用継続と、2年間の事業継続」だけだ。たったの1〜2年だけ、維持していればいい。そのあとはすべて事業をつぶして、従業員を解雇していいのだ。そして、リゾート・マンションか老人ホームかなんかに仕立て直して、あっさり転売する。こうすれば、たったの2年間で、巨額の利益が手に入る。かんぽの宿はすべて消滅して、従業員も解雇され、オリックスだけが濡れ手で粟でボロ儲け。これが予定計画だ。
 「オリックスは赤字事業をずっと継続してくれます」
 という趣旨で報道するマスコミは、オリックスへの売却条件をちゃんと読むべきだ。それも知らずに嘘を報道をするのは、やめてもらいたいものだ。マスコミもオリックスとグルになっている。共犯関係。 ( → 泉の波立ち 2009年 2月01日b


 (2) 事実の判明

 上記の推測は、次の新聞報道で裏付けられた。
 《 かんぽの宿評価額、不適正鑑定で大幅減額か 最大95% 》
 日本郵政グループが宿泊施設「かんぽの宿」を安く売ろうとした問題で、2007年の不動産鑑定評価が国の基準に違反していた可能性が出てきた。基準では経営改善の努力をした想定で評価しなければならないのに、安く売るために「赤字」と断定し、積算した価格から最大95%も減額していた。
 かんぽの宿は05年に民間売却が決まった後、07年の不動産鑑定評価で突然、評価額が前年のほぼ3分の1の計約98億円に下がった。これは、評価額を出す際、土地・建物の価格を示す「積算価格」から大幅に減額したためだ。
 07年の鑑定評価書では、鑑定した3社のうち、38施設を担当した東京の不動産鑑定会社が24施設を積算価格から80〜95%も減額していた。関係者によると、07年8月に当時の日本郵政公社から「経営改善を見込む必要はない」「この価格では受け入れられない」と指摘され、一部を80〜95%減額した。だが、さらに公社から「億を超える施設は売れない」「もう少し厳しくみてほしい」と言われ、減額の施設を増やしたという。
( → 朝日新聞・朝刊・1面 2010-11-21 )[リンク切れ,魚拓


 この新聞記事を引用したあとで、私は次のように論評した。
 国の財産を売却するなら、適正な市場価格で売却するべきだろう。ところが、国の側が鑑定士に圧力をかけて、鑑定価格を操作して、優良物件を不良物件のように見せかけた。そのことで、インチキを知らない他社は「不良物件」だと思って手を出さなかった。一方、インチキを知っているオリックスだけが低価格で取得できた。
 ま、詐欺ですね。だまして金儲けをしようとしたのだから。ただし、ただの詐欺ではない。オリックスの会長は、経済財政諮問会議の議長を勤めていたから、彼はその権力を使って、総務相に圧力をかけて、国の財産を盗み取ろうとしたことになる。詐欺師が国家権力を握ると、詐欺師が国家の財産を盗めるわけだ。千億円単位で。
( → 泉の波立ち 2010年 11月22日b

 ──

 結局、どういうことか? 
 簡単に言えば、これは、「だまして金を奪う」という形の「詐欺」である。それも 1000億円にいたろうという巨額の詐欺であり、国家財産を盗もうという詐欺だ。
 では、どういう形の詐欺か? 

 見せかけたのは、次のことだった。
 「これは市場経済における公正な取引です。最も高値を出した社が購入するというだけのことです。それより安値を出した社は、採算に合わないから安値を出しただけです。ここには何ら不正なことはありません」
 このように見せかけた。いかにも公正な市場経済における取引だと見せかけた。

 現実にあったのは、次のことだった。
 「最初は購入しようという社が多数あったが、それらの社はすべて途中で申込みをやめた。購入を申し出たのはオリックスだけだった」
 つまり、ライバルがすべて手を引くように、工作したのである。
 では、誰が工作したか? オリックスだ。オリックスは、自らが購入者でありながら、小泉政権に食い込む政商として、かんぽの宿の払い下げ条件を勝手に決めた。それまでは多数の社が購入しようとしたので、他の社がすべて手を引くように、条件を変えた。
 その条件とは? こうだ。
 「全施設を一括して売却すること」
 「従業員の雇用を守ること」

 この二点によって、他の社はすべて手を引くことになった。理由は、こうだ。

 (A)一括して売却

 一括して売却すれば、初期に莫大な金を用意することが必要となる。そのためには、多額の資金を操作できる金融業であることが圧倒的に有利だ。オリックスのような金融業が圧倒的に有利となり、実際にホテルや観光などの業務をしている会社はほとんどが排除されることとなった。
( ※ 仮に、「一括して売却」という方針をやめて、「地域ごとに数カ所で売却」という方針にしたならば、小規模の会社も入札できたはずであり、その場合には、総額ではるかに多額で売却できただろう。)

 (B)従業員の雇用

 従業員の雇用という条件が付けば、普通の会社はその条件を正直に守ろうとする。とすれば、「従業員の雇用を続けることは大変だ」と思うので、尻込みすることになる。これが決定的な条件となり、オリックス以外のすべての会社が脱落することとなった。(決定的な要因。)
 しかしオリックスだけは、この条件を無視することができた。なぜなら、但し書きを見ればわかるように、次のことがかのだからだ。(前出)
 「1年間の雇用継続と、2年間の事業継続」だけだ。たったの1〜2年だけ、維持していればいい。そのあとはすべて事業をつぶして、従業員を解雇していいのだ。

 オリックスはこの但し書きを利用して、1〜2年後に全従業員を解雇するつもりだった。だからこそ、オリックスだけが入札したのだ。
 一方、他社は、そうではなかった。「1〜2年後に全従業員を解雇する」なんてことをすれば、世間の圧倒的な批判にさらされるとわかっていた。だから簡単には従業員を解雇することはできないと思っていたし、それゆえ、入札する気になれなかった。
 オリックスはそうではなかった。この会社は、世間からどれほど批判を浴びても、とにかく金をやたらと稼ぐという会社だ。近鉄バッファローズという球団を勝手につぶして、オリックスに吸収したことで、世間の批判を浴びたときも、「蛙の顔にションベン」という感じで、世間の批判を無視した。こういうふうに、世評を無視して金稼ぎに邁進するというブラックなことをできるのは、オリックスだけだ。だからこそオリックスは、政商としての立場を利用して、政府の方針を操作して、自社に有利になるように政府の方針を改めた。
  
 たとえば、「1〜2年後に施設を他社に売却していい」という条件は、オリックスだけに認められていた密約であったらしい。
 日本郵政とオリックス不動産との譲渡契約の中に「2年間は日本郵政の承諾なく、かんぽの宿を第三者に譲渡できない」とする譲渡条件に「合理的な根拠に基づく場合はこの限りではない」との但し書き条項が含まれていた
( → かんぽの宿 - Wikipedia

 こういうふうに、あれやこれやと政府の方針を操作して、ライバルをすべて脱落させた。さらに、実際の鑑定価格よりも大幅に低い価格になるように、鑑定価格を引き下げた。(買い手が勝手に値札を付け替えるようなものだ。スーパーで言えば客が勝手に「9割引」というシールを貼るようなものだ。)
 かくて、実際には 1000億円ぐらいの価値のあるものを、たったの 109億円で購入できるようになった。
 で、それを1〜2年でバラバラにして売却すれば、たったの1〜2年で 1000億円近い金が「濡れ手で粟」で入手できるはずだったのだ。単にバラ売りするだけで、超巨額の金が懐に入るはずだったのだ。
 ところが、それが夢と消えてしまった。オリックス会長としては、まったく「ふんまんやるかたない」気持ちになっただろう。その気持ちは、わからなくもない。(悪党ほど、欲張りだからだ。)

 ──

 ただ、オリックスのやったことは、手練手管を用いた、非常に巧妙な方針だ。その巧妙な詐欺に、たいていの人はだまされてしまう。
 「オリックスは市場原理にのっとって、公正に購入しようとしただけだ。その価格は市場原理で決まる額だから、公正な額である」
 というふうに。
 しかし、見えないところでは、ライバルとなる競争相手はすべて脱落するように、裏工作がなされていたのである。

 これはまあ、ヤクザがいつもやる方法だ。競売物件などで、他人が高値を付けようとすると、恐喝して、誰も入札しないようにする。そうして極端に安い値段でヤクザが落札する。……よくある話ですよね。それと同じことを、オリックスはやったわけだ。で、その詐欺行為にだまされて、間抜けな市場原理主義者が、「これは公正な商取引だ」と主張するわけだ。……おめでたいというのは、こういう人のことだ。
( ※ 詐欺師にとっては「いいカモ」みたいなものだ。おめでたい人々は、自分で提灯を持つだけでなく、そのうち自分自身が詐欺師にだまされるかもね。)



 [ 付記 ]
 競売物件にヤクザが介入して、他人の入札を妨害する……というのは、しばしば見られることだ。ネットでも同様の情報がたくさん見つかる。
  → 競売物件 ヤクザ - Google 検索
  → 競売 入札 妨害 暴力団 - Google 検索

 ただ、これらの事例は、せいぜい数百万円〜数億円規模の入札だ。一方、1000億円規模の入札で、同様のことをやったのが、かんぽの宿だ。その規模は途轍もないものだ。
 逆に言えば、それだけのボロ儲けの手段を一挙に失った会社としては、「ふんまんやるかたない」という思いになって当然だろう。
  
 ──

 ついでだが、ロシアでも中国でも、圧倒的に巨額の金を得ている富豪は、政府と結託して、国家の財産を私物化している連中である。
 で、日本でも同様のことをしようとした人がいたわけだ。……残念ながら失敗して、「ふんまんやるかたない」という思いになったようだが。
 


 【 関連サイト 】

 → 国家財産の略奪である民営化の本質が露呈!
 一部抜粋。
 報道によれば「かんぽの宿指宿」は、東京の不動産会社が2007年3月に評価額1万円で購入し、これを4ヵ月後に指宿土地開発公社に約1500万円で転売されていた。
 鳥取県岩美町の「かんぽの宿」は同じく1万円の評価額で不動産会社が購入し、6ヵ月後に6000万円で鳥取市の社会福祉法人に転売されている。

 テレビ報道によれば、大阪の不動産会社が「かんぽの宿」79施設に対し400億円で入札に参加したが落札できず、オリックスに109億円での売却が決まったのである。


 [ 補足 ]
 「じゃ、どうすればいいんだ?」
 という疑問には、こう答える。
 「バラ売りすればいい」
 全部一括だから、入札する会社がなくなる。また、入札した会社があっても排除される。
 そういうことがないように、多数の入札者が出るように、バラ売りすればいいのである。
( ※ 逆に言えば、そうしなかったからこそ、不正があったと認定されるわけだ。)
 
 ──

 なお、「バラ売りしないで一括売却にするのは、従業員の雇用を守るため」と説明されることもある。しかし、この両者は別々のことだ。従業員の雇用を守るかどうかは、契約条件で指定される。バラ売りするかどうかは、まったく別のことだ。
 こんな理屈にもならない嘘をあっさり信じる人は、頭のネジが狂っているとしか思えない。

 本文中で引用したブログ記事にも、次の文句がある。
 かんぽの宿を一括売却せざるを得なかったのは従業員の雇用を優先したため

 まったく、どういう頭をしているんだか。(滅茶苦茶な嘘をあっさり信じるようだから、詐欺師にだまされるのか。……)
 
 また、もう一つのブログ記事もある。
  → kikulog: かんぽの宿のオリックス一括売却は「問題」か?
 これは、「一括売却」についての問題点を扱う、というタイトルだが、実は、「一括売却」については何も論じていない。単に価格の妥当性を示しているだけだ。「一括売却にしたせいで入札者がいなくなった」という点については何も論じていない。
 タイトルとはまったく別のことを論じているのだから、このブログ記事そのものが詐欺みたいなものだ。タイトル詐欺。……詐欺師仲間で つるんでいるようなものか。
posted by 管理人 at 22:50| Comment(1) | 一般(雑学)2 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
非常におもしろいお話ですね。
<政府は会社>詐欺の延長にあった詐取事件といったところですか。
http://insidejobjp.blogspot.com/2012/12/blog-post.html

しかし、何故 鳩山邦夫は止めたのかな?
小泉・竹中路線に反発したのか??

彼を、同じエレベーターに乗って至近で見たことが
あるのですが、ドラマ等に出る悪役そのものの顔をしていました。
顔色も、お酒のせい? でドス黒くてね。

でも こうしたことと、彼が 所謂ビッグな政治家のなかで
(私が気がついた限りですが)
最初に死んだことと、関係があるのかな?
Posted by 千早 at 2016年11月04日 14:56
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