※ 【 追記 】 あり。
──
前項 では、次の表を示した。
○○とヒトの遺伝子シンクロ率
ヒト同士 99.9%
ネズミ 97%
サカナ 85%
ウニ 70%
ハエ 60%
( → 各種の動物との一致率 )
この数値の典拠を求めてググったところ、次の結果を得た。
→ マウス 人間 遺伝子 - Google 検索
いずれにしても結果は同じで、次の結論である。
「人間とマウスは遺伝子の 99% が同じである」
記事を一つだけ取り上げれば、これだ。
国際研究チームがマウスのゲノム解読をほぼ完了し、その成果を発表した。人間と共通する遺伝子は全体の99%にのぼり、疾病に関わる遺伝子だけを見ても90%が同じという。
( → マウスゲノム解読:「99%までヒトと同じ」の意味 ? WIRED.jp )
完全一致とまではいかなくて、一塩基変異みたいなのは多数あるのだろうが、それでも、 99% では対応する遺伝子が見つかったようだ。
しかしながら、英文情報を検索すると、また違った結果が得られる。
→ mouse human genome - Google 検索
ここから一つ取り上げると、こうだ。
On average, the protein-coding regions of the mouse and human genomes are 85 percent identical; some genes are 99 percent identical while others are only 60 percent identical. These regions are evolutionarily conserved because they are required for function. In contrast, the non-coding regions are much less similar (only 50 percent or less).
( → Importance of Mouse Genome )
つまり、一致率は平均して 85%にすぎない。あるものは 60%で、あるものは 99% というふうに、変動があって、平均して 85%である。(ここで「もの」というのは、領域 regions のことだろう。各領域の平均が 85% だ、ということ。)
なお、詳細な学術データもも見つかった。
→ Compar ing Mouse vs Human Genomes [PDF]
ここには、次の記述がある。
Star t with a multiple alignment of the genome. Siepel et al.
used MULTIZ program, which builds a multiple alignment
through progressive local pairwise alignments of a
designated reference genome. The multiple alignments
consisted of blocks covering:
・ 40% of human genome.
・ 86.9% of fly genome.
・ 43.8 % of wor mgenome.
・ 96.6% of yeast genome
これからすると、40% という数値になるが、これはちょっと変だ。これは一致率とは違うのかもしれない。英文を読んでも、意味がちょっとよく理解できない。
──
結論ふうに言うと:
・ 日本語文献では 99%という数値。
・ 英語文献では、99% や 85% や 40% という数値。
どれが正しいのかは、私としてはよくわからない。調べる根気が尽きた。
私はこの分野の専門家ではないので、誰か調べてみてください。
( ※ コメント欄に記すか、自分で調べて情報公開してから、リンクを記してください。)
[ 付記 ]
人間とマウスの一致率が 99% ほどあるとしても、疾病の遺伝子の部分ではかなり大幅に異なるので、マウスで実験してもあまり有効でない、という見解もある。
→ チンパンジー相違点と類似点
→ マウスを人間の代用にした医学実験の一部は時間の無駄、と研究者が警告
たしかにそうかもしれない。
ただしこの点は、改善されそうだ。というのは、近年では、人の iPS 細胞を使って実験する研究が大幅に進展しているからだ。
今後は、マウスではなくて、人の iPS 細胞を使って実験することが増えるだろう。実際、すでに部分的には実用化されている。心臓の筋肉の iPS細胞を実験に使って、心臓病の治療薬が開発された、という記事が報道されたことがある。
( ※ ググればわかりそうだ。ここでは省略。)
【 追記 】
マウスというより「げっ歯類」という用語を使うと、次の情報を得た。
これまでに、一見、ヒトと大きく異なっているように見える生物が、実は驚くほど似ていることが、ゲノム配列情報によって数多く明らかにされてきた。控えめに見積もっても、ヒトとげっ歯類の遺伝子は約88%が共通で、ニワトリの遺伝子とは60%が共通している。
「類似性」という言葉をより緩やかに使えば、ホヤの遺伝子の最大80%は、なんらかの形態でヒトの遺伝子にもみられる。
ヒトとチンパンジーのDNAは98%以上共通しており、遺伝子はほとんど共通である。
( → チンパンジーゲノムの概要配列が完成! ,PDF )
これは Nature という確実なサイトによる情報だ。この数値で、まず間違いないと見ていいだろう。(ただし日付は 2005.05 だ。最新データではない。)
なお、げっ歯類と人間との一致率が高いことから、ただちに次のことが結論される。
げっ歯類が霊長類の姉妹グループに位置することが支持される。
( → Google 検索 )
ただし、この件に関して、文献はうまく見つけられなかった。
学術書にあるものであって、ネットなんかを探るべきではないのかも。
2.アミノ酸配列(タンパク質、遺伝子)レベルの相同性
3.遺伝子のリストの一致度(全遺伝子中に同じ祖先を持つ遺伝子が見つかる割合)
以上がミックスになってしまっているので混乱が生じているようですね。
ヒトとマウスを比較した場合(遺伝子ごとに違いますしゲノム平均を計算するのはいろいろ問題があり難しいので、1,2は一遺伝子の例を示します、目安に考えて下さい)
1.50%程度
2.75%程度
3.90%以上
DNAには4塩基(GATC)しか無いので、ランダムな配列同士の一致度は25%です。従ってこれより低い値はありません。DNAレベルで95%以上も一致するのは、ヒトとマカクサル(ニホンザルの仲間)よりも近縁な場合だけです。
ちなみに、ある代表的な遺伝子の場合(アミノ酸一致度)
ヒト対チンパンジー 99%
ヒト対ニホンザル 98%
ヒト対ウシ 77%
ヒト対マウス 75%
ヒト対ゼブラフィッシュ 48%
ヒト対サメ 46%
このように系統が離れるにつれて一致度が下がっていきます。
今の場合ヒト対サメで同じ遺伝子同士を比較しているので、この遺伝子がどちらの種にも存在しているから「同じ」と判定するのが3.の「遺伝子リストの一致度」です。
一般的な常識として、遺伝子がゲノムに占める割合は1〜2%しかありません。従って残り98%は自由にランダムに進化する配列が多くを占めます。その結果、余りにも変化が多すぎて、遺伝子以外の領域は、例えば脊椎動物(ヒトとか)と無脊椎動物(ハエとか)との間ではどの領域が元々相同な領域だったのかが完全にわからない状態になっています(無理矢理並べればランダム配列同士で25%前後になります)。そのくらいゲノムのDNAレベルでは激しく違っています。
二つの小説から単語だけを抜き出し、その一致度を比較しても、その内容の類似性を論じることは難しいです。単語の一致度が高ければその内容にも似た点があるかもしれませんが、Aで正しければBでも正しい、といった論法を展開するには無理があります。助詞の使い方一つで文脈は全く逆になっているかも知れません。薬の効き方などがちょうどこれに当たりますね。ほぼ同じゲノムをもつヒト同士であっても個人差で薬の効き具合には違いがあります。チンパンジーではもっと大きな違いが出てくるでしょう。
「遺伝子が何%同じ」や 「DNAが何%同じ」という言葉で表されていることを、厳密に定義しておかないと話がかみ合わないことがあると思います。
「1.DNA配列レベルの相同性」
2個体の生物の同じ種類と考えられる遺伝子同士の塩基配列の一致している割合を調べる。
同じ種類の遺伝子同士を比べても、遺伝子の種類によって何%一致するのかかなり違うことがある。
「2.アミノ酸配列(タンパク質、遺伝子)レベルの相同性」
2個体の生物の同じ種類と考えられるタンパク質同士のアミノ酸配列の一致している割合を調べる
同じ種類のタンパク質同士を比べても、タンパク質の種類によって何%一致するのかかなり違うことがある。
「3.遺伝子のリストの一致度」
2個体の生物がもつ遺伝子を調べ、同じ種類と考えられる遺伝子が何個あるか数え、全遺伝子(ヒトの場合2万余りと考えられている)で割って、何%か求める。
同じ種類と考えられる遺伝子には同じ名前がつくと考えられますが、元は同じ遺伝子だと考えられても違いが多くなっていると、別の名前がつけられたままのことも多いはずです。
タンパク質の場合でも、元は同じタンパク質だと考えられても違いが多くなっていて、今では別の働きをしているものも多いはずです。
別の研究者が別のやり方で求めた数値を、そのまま比較するのはあまり意味がないと思います。