( ※ 本項の実際の掲載日は 2014-12-20 です。)
STAP細胞事件では、ただの実験ミスが大騒動となって、世間で大非難が起こったあげく、死者まで出た。しかし、実験ミスというものは、科学の世界ではありふれたものだ。
例として、「室温超伝導」(常温超伝導)というものがある。
このほど独ライプツィヒ大学のP. Esquinazi教授らの研究グループは、グラファイト(黒鉛)の粒子を使って室温超伝導を実現したと、Advanced Materials誌で報告しました。
Esquinazi教授らのグループが用いた方法は、高純度のグラファイト微粒子を蒸留水の中で22時間撹拌し、その後一晩かけて乾燥するという極めて単純なものです。水による処理前のグラファイトが超伝導性を示さなかったのに対し、水処理後は300Kの室温で粒状超伝導と見られる現象が観察され、実験を繰り返しても再現しました。グラファイトが水中での撹拌によって室温超伝導体に変わるメカニズムは明らかにされていませんが、グラファイト粒子に水素プラズマを照射することによっても同じ結果が得られたことから、同グループではグラファイトの表面に水素が何らかの作用を及ぼしている可能性が高いと考えています。
( → ワイリー・サイエンスカフェ )
これはデタラメな報告ではない。ワイリー・サイエンスカフェは、青色 LED の論文を公開したことでも有名で、私も別項で紹介した。
→ 青色 LED 論文・無償公開
また、元の論文も、ちゃんとした学会誌に掲載されたものだ。
ただし、この記事は、 2012年10月18日 という日付である。その後、2年たっても、現状では公認されていない。
室温超伝導は、超伝導になる転移温度が室温(およそ300K(ケルビン))程度であること。
室温超伝導を示す物質を探索する研究は盛んに行われているが、2014年1月現在でも未だ発見されていない。
( → Wikipedia )
つまり、冒頭の論文は、実験ミスだったことになる。
では、どうしてか? そのことは、実ははるか昔の「室温状伝導」の騒動のときに、判明している。日本の北澤宏一が指摘した。
当時の高温超伝導物質の開発競争の凄さは、レースに参加した研究者たちが、「科学誌に論文を投稿して成果を発表する従来のやり方では競争相手に先を越されてしまう」といって、発表を新聞やテレビで行い始めたことでした。掟破りともいえる行動でした。
彼らの視野には「夢の室温超伝導物質」も入っていました。そしてあろうことか実際に「私たちは室温で超伝導になる物質を開発した」と主張する研究グループがいくつも現れました。室温で電気抵抗を測定するとゼロになったというのです。
こんなブームの過熱ぶりに自制を促す研究成果を出したもの北沢さんでした。電気抵抗の測定の際に水分が悪さをして見かけ上、電気抵抗がゼロと測定されるケースが生じることを彼は実験結果に基づき指摘したのでした。
多くの研究者はこれで悪い夢から目をさましました。
( → 科学と現実のはざまから : 北沢宏一 )
ここでは、「水分が悪さをして見かけ上、電気抵抗がゼロと測定される」というふうに示されている。このことはとっくの昔に判明しているのだ。
そして、冒頭の実験は、「水による処理」があった。とすれば、ここでは、「水分が悪さをして見かけ上、電気抵抗がゼロと測定される」ということがあっても、当然なのである。
──
科学の世界では、このように、実験ミスというのは日常茶飯である。
なのに、実験ミスが起こったからといって、「捏造だ」というふうに大騒ぎをしているのは、あまりにも馬鹿げている。
エジソンは言った。
「天才とは1%のヒラメキと、99%の努力である」
ここでいう 99%の努力とは、多様な試行錯誤のことだ。そして、そのほとんどすべては、失敗に終わるのである。
「研究とは何か?」
ということを知っている人であれば、「研究のほとんどは失敗の試行錯誤である」と知っている。そして、多大な試行錯誤のはてに、ごくわずかな成功が生じる。
ところが、多くの人々は、「研究のほとんどは失敗である」ということを理解できない。そこで、実験ミスによる勘違いをした人を見ては、「捏造だ」と騒いだり、「無駄な実験に国費を投入するな」と騒ぎ立てる。
しかし、失敗や無駄を避けるのであれば、研究というもの自体が成立しなくなる。
かくて、日本は、研究というものを破壊しつつある。実際、神戸の理研の研究体制も研究予算も半減してしまった。( → 前々項 )
STAP細胞事件で大騒ぎをした人々は、小保方さんを攻撃するつもりで、日本の研究体制そのものを破壊してしまったのだ。それというのも、「研究というのは失敗や実験ミスが日常茶飯だ」ということを理解できないからである。
素人が研究に口を出すと、こういう結果になるものだ。
( ※ その最たる例が、「研究者になれずに研究者の落ちこぼれとなったあげく、サイエンスライターとなった」という、どこかの女性だろう。彼女の業績はたった一つ、笹井さんを死なせたことだけだ。半可通の愚か者というものは、これほどにも研究世界において有害なのである。こういう連中は、何かを発見するかわりに、何かを破壊しようとする。それを「善だ」と信じて。たいていは「トンデモ!」という言葉を発しながら。)
【 関連項目 】
→ 片瀬久美子の発言の検証(STAP)
『研究不正は法律違反となりませんので、不正を行った人は法的な犯罪者ではありません。
しかし、アカデミアでは科学のルールを破り信頼を裏切った者として扱われます。
不正を犯した者をどう処遇するかは、法律とは別にアカデミアのルールによって対処されます。』
https://twitter.com/kumikokatase/status/546147383331934208
少なくとも、この場合は公開された条件で行えば同様の結果が再現されるわけですよね?
STAP細胞問題で言うと、せいぜい自家蛍光をGFP発光と誤認したところまでの話じゃないですか?
実験ミスではなく実験データの解釈の間違いであると思います。
STAP細胞問題の実験ミス(あるいは不正行為)は、その後の細胞の取り違えの部分だと思うんですが。