2014年11月23日

◆ 大統領は決断する

 フランクリン・ローズヴェルト大統領の夫人の言葉。
 「大統領は決して考えたりしない。決断するのです」 ──

 朝日の書評欄からの引用。
 フランクリン・ローズヴェルト元大統領とエレノア夫人は、アメリカの苦難の時期を乗り越えた同志であり、戦友といった関係のようだ。
 ジャーナリストのジョン・ガンサーがエレノアに「大統領は何を考えているのか」と問うと、「大統領は決して考えたりしない。決断するのです」と答えたというエピソードが紹介されているが、〈考えているのは私のほうです〉との思いがあったのかもしれない。
( → (書評)『フランクリン・ローズヴェルト』(上・下) ドリス・カーンズ・グッドウィン〈著〉 2014年11月23日



 ──

 ここで解説しておこう。
 「大統領は決して考えたりしない。決断するのです」
 というのは、意味がわかりにくいかもしれない。しかしこれは、「経営のトップ」では原則的なことだ。
  ・ 部下の仕事は、選択肢を示すことである。(提案)
  ・ ボスの仕事は、選択肢のなかから選択することである。(決断)


 通常、次の形を取る。
 「会議の場で、さまざまな意見が提案される。A案、B案、C案……など。各人が自説を主張する。普通は、多数決みたいに、評決がなされる。ただしこれは参考の扱いだ。その後、その意見や評決を踏まえた上で、トップが決断する。その決断に対して、再度評決が取られて、承認されれば、組織の決断となる」
 たとえば、重役会議の意見では、A案が優勢で、次いでB案が優勢で、C案が三番目だったとする。ここで社長が「C案を取る」と決断する。その理由も述べる。
 「C案は最もリスクが高くて、成功の可能性も低い。しかし、ここで打って出なければ、大成功はつかめない。失敗のリスクがあっても、十分に耐えられる。失敗を覚悟した上で、ここは当面、可能性を信じて、新規分野に進出するべきだ」
 例示的に言えば、こうだ。
 「国産ウイスキーの市場なんてものは存在しないし、売上げもまったく見込めないし、リスクはすごく高い。しかし、今後の日本ではウイスキー市場が開けるはずだ。だから何としても、ここではウイスキー市場に進出するべきだ。幸い、技術者としては、マッサンという好人物がいる。ここではリスクを覚悟で、ウイスキー分野に進出するべきだ」
 こうして、重役たちの猛反対があるにもかかわらず、C案を選択する。重役に残されているのは、次のいずれかでしかない。
  ・ ボスの意見に従う。
  ・ あくまで反対して首を切られる。
  ・ 重役の多数でクーデターを起こしてボスを解任する。

 通常は、「ボスの意見に従う」しかない。かくて、ボスの決断が通る。
 ボスとしては、自分の決断に責任を持つしかない。仮に失敗すれば、あとでクーデターによって寝首を掻かれる。逆に、成功すれば、「さすがだ」と称賛される。

 ──

 大統領や首相も同様である。
 いくつかの選択肢を出すのは、部下である。たとえば、諮問会議など。諮問会議は、選択肢を出し、かつ、最も有力な意見を推奨する。
 ただし、最終的に決断するのは、トップ(首相・大統領)である。
 トップは、決断だけをする。考えるのは、部下(諮問会議・重役会議など)である。

 ──

 実は、これは、人間の脳の仕組みに似ている。
  ・ 考えるのは、側頭葉(特に左脳の言語野)である。
  ・ 決断するのは、前頭葉である。

 左脳は、さまざまな思考をなす。特に、論理的思考など。そこでは多くの思考がなされるが、候補となる案は出ても、決断はなされない。
 決断を下すのは、前頭葉(前頭前野)である。

 例。
 「A案、B案、C案がある。このうちC案が最も好ましい、と側頭葉が決断する。ところがこのとき、別の思いが浮かぶ。C案は黒猫の呪いがあるので、縁起が悪い。何だか気持ち悪い。論理的にはC案にするべきだと思うのだが、何だか感情的に気持ち悪いので、やーめた。A案にしよう」
 行為ふうに、側頭葉の論理的判断を超越して、別の脳の感情的判断に従ってしまう。そのあげく、たいていは、失敗することになる。

 例。
 「8月25日発売の『週刊現代』(講談社)で、サントリーから角ハイボールに関する2ページのカラー広告の出稿があった。しかし、この広告の次ページから、『我が社に伝わる秘宝』とのカラー企画を掲載したのだが、この中でニッカを大きく2ページにわたって取り上げ、写真も大きく掲載した。事実上、ニッカのPRと受け取られても仕方のない構成だったのだが、これがサントリーの逆鱗に触れてしまった」
 サントリーにしてみれば、到底容認できる内容ではない」(広告業界関係者)。しかも自社が出稿した広告の隣に面当てのようにニッカのPR記事が並べられ、サントリーは黙っていなかった。
 講談社筋によると、サントリー側は直ちに「今回の広告費は払わない。御社の媒体には今後、一切広告を出稿しないことも検討する」と講談社に激しく抗議したという。
( → サントリー、講談社に激怒で広告料不払い ビジネスジャーナル

 「マッサン効果」で、ウイスキー市場が拡大している。 サントリーは、ニッカとともに、ウイスキーの売上げが伸びている。理屈で言えば、大喜びのはずだ。
 ところが、自社よりもニッカの方が大きく扱われたということで、感情的になって、喧嘩を始めてしまった。
 「おれは 1 だけ得したのに、あいつは 3 も得した。不公平だ! こんなことは我慢がならない!」
 これを見た世間は、こう思う。
 「自分だって得をしているくせに、何をみみっちいことを言っているんだ。マッサン効果が出ている癖に、何を欲張っているんだ。ケチな会社だな。こんなケチな会社の製品もまた、ケチくさいだろう。喧嘩している会社の製品を買うのはやめよう」
 サントリーは、論理よりも感情を先に立てて、喧嘩を始めた。こうしてわざわざ馬鹿げた決断をするようになったのだ。

 実を言うと、テレビの「マッサン」では、ニッカの創業者はとんでもない「ダメ男」「クズ」と描写されている。視聴者からは見下げられている。一方、サントリーの創業者は「カッコいいダンディ」「素敵」と大好評だ。どう見ても、サントリーの創業者の方が大人気だし、サントリーの方が分がよさそうだ。(人物評に関する限りは。)
 とすれば、少なくともサントリーが腹を立てる理由はない。むしろニッカともども、「マッサン効果が出て万歳」と喜んでいればいい。なのに、愚かな感情に駆られて、まともな損得勘定ができなくなっている。愚の骨頂。(他人との比較ばかりしていて、絶対的な損得を考えられない。)
 こういう馬鹿は、イソップに出てきそうですね。「あいつよりも利益が劣るのならば、利益のすべてを失ってしまった方がいい」と言い出して、宝を捨ててしまう馬鹿。

 人間というのはこういうふうに、論理を越えて感情で動かされることがある。
 だからこそ、正しい決断が必要となるのだ。そして、そういうことが正しくできる人は、多くはない。
posted by 管理人 at 09:32| Comment(0) | 一般(雑学)2 | 更新情報をチェックする
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