2014年11月13日

◆ 癌と免疫療法 3

 癌の新しい免疫療法が出た。これについての解説。 ──

 解説といっても、私が医学記事を解説するわけじゃない。読売新聞・夕刊 2014-11-13 に特集記事があったので、その要約を記す。

  ・ 癌の新しい免疫療法の薬が承認された。
  ・ 本の「オプジーボ」(7月)と、米国の「キートルーダ」(9月)
  ・ どちらもメラノーマの患者の3割前後で、数カ月程度の延命効果あり。
  ・ これらの薬は従来にはない新しい原理を取る。
  ・ 免疫細胞は、癌細胞を攻撃する。
  ・ 癌細胞は、免疫細胞のスイッチをOFFにして、免疫細胞を休眠させる。
  ・ 新薬は、そのスイッチOFFを阻害することで、免疫細胞を活動させる。
  ・ 従来の免疫療法の薬はアクセル。新薬はブレーキ解除。原理が違う。


 記事の内容は以上の通り。私としては特に語るような情報はない。

 ──

 以下は、ただの感想ふうの話。

 癌の免疫療法については、前にも話題にしたことがある。
  → 癌と免疫療法 (2010年11月16日)
 ここでは、「癌の免疫療法というものが知られているが、これは詐欺同然だ」と述べて、批判した。
 この内容は、本項とは矛盾するが、別に、間違ったことを書いたわけではない。2010年の当時は、癌の免疫療法というのは、上記で言う「アクセル」のようなものだった。(丸山ワクチンとか何とか。)……そのいずれも効果はなくて、一方、数百万円を患者から巻き上げるという、悪徳医療。これはまさしく詐欺だと言える。

 一方、今回の免疫療法は、名前は同じだが、内容はまったく異なる。大分類ではどちらも「免疫療法」に分類されるが、その内容は「アクセル/ブレーキ解除」というふうに、まったく別の原理を取る。似て非なるものだ。

 とすれば、一般人としては、次のことに留意するべきだ。
 「免疫療法と聞いたら、良いとか悪いとか判断する前に、まずは、その内容を知るべきだ。アクセルタイプなのか、ブレーキ解除タイプなのか。その区別をした上で、良し悪しを判断するべきだ」
 比喩的に言えば、「女」と聞いただけで喜んでホイホイ付いていくべきではない。「良い女」と「悪い女」とがいるのだから、きちんと区別するべきだ。「良い女」は信じていいが、「悪い女」は信じてはいけない。
 癌の免疫療法も同様だ。一概に良し悪しを決めず、どちらかのタイプであるかをはっきりと見極めることが先決だ。



 [ 付記 ]
 では、「良い女」つまり「新しい方の免疫療法(ブレーキ解除タイプ)」ならば、信じていいか? いや、そうも言えない。
 私の過去記事がある。
  → 癌と免疫療法 2
 米国の科学雑誌「サイエンス」が 2013年の「科学10大ニュース」の1位に挙げたぐらいだから、ものすごくいいものだ……と評価する人が多い。だが、上記記事を見ればわかるように、この新薬は、普通の抗ガン剤と大差ない。羊頭狗肉とまでは言わないが、「超高級の松阪牛に見せかけて、実は普通の平凡な肉」という程度だ。
 サイエンスが高く評価したのは、「全く新しい原理で、将来性に期待できる」という「青田買い」の評価だ。あくまでも期待値だ。それは現実の薬としては、まだ未知数である。本項の冒頭でも記したように、メラノーマの治療薬として、そこそこ有効ではあるが、画期的な大効果があるというほどではない。(7割の人には効果がないし、効果がある3割にとってもたったの数カ月の延命効果しかない。)

 結局、現時点での評価としては、上の過去記事と同様だ。つまり、現時点では、まだたいしたことはない。将来的には期待がもてるが、そのような新薬が開発されてから騒げばいいだけのことであって、現時点では一般国民が大騒ぎするようなことではない。まして、現在の癌患者にとっては、ほとんど意味がない。将来の新薬が出るころまで長生きできるとは、とうてい思えないからだ。

 結局、癌の免疫療法の新薬というのは、「将来に期待のもてる大型の新人選手」という程度のことにすぎない。現時点では、他の現役選手に比べて、特に優れているというほどではない。研究者にとっては興味深いが、普通の人にとってはあまり重要ではなさそうだ。

 最後に一つ。癌の治療薬がどれほど発達したところで、人間の寿命は 90歳ぐらいという限度がある。「素晴らしい癌治療薬ができれば誰もが 130歳まで生きられる」というようなことは、ありえそうにない。癌で死ななければ、他の病気か老衰で死ぬだけだ。癌は治療可能かもしれないが、「老い」は決して治療できないのだ。



 [ 余談 ]
 本日発売の漫画雑誌「モーニング」で、三田紀房が変なことを書いていた。「不老不死をめざすベンチャービジネス」という話題で、「ベニクラゲは不老不死だ」という話。
 しかし、これはインチキだ。「ベニクラゲは不老不死だ」ということはない。そこでは、個体が若返るということはなくて、「同一の遺伝子をもつ個体が何度も誕生する」というだけのことだ。これはどちらかと言えば、クローンの誕生に近い。(当然ながら、新たに誕生した個体は、遺伝子は同一であっても、過去の記憶を維持することはない。むしろ赤ん坊のようにまっさらな状態で誕生するだけだ。)
 この件は、下記で解説した。
  → 不老不死のベニクラゲ

 まあ、漫画なんだから嘘も仕方ないとはいえ、「ベニクラゲは不老不死だ」という虚偽が出回るのは、困ったことだ。だから、ここで注記しておく。

 ※ ただ、三田紀房が嘘つきだ、ということにはならない。無知なだけだ。
   同様に無知な人は、いっぱいいる。世間のほとんどがそうだ。
    → Google 検索
posted by 管理人 at 20:08| Comment(5) | 医学・薬学 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
一概に四試合を決めず

一概に良し悪しを決めず

メラノーマは初期だと切除が可能なので治癒可能ですが、ステージが大きくなって全身に広がっている場合は、化学療法を行うことになります、しかしメラノーマへの効果的な化学療法があまりないので、この新しい免疫療法が、たとえ3割でも有効なら意義があると思われます。
参考:日本皮膚科学会のページ https://www.dermatol.or.jp/qa/qa12/q06.html
というわけで「超高級の松阪牛に見せかけて、実は普通の平凡な肉」とする比喩はあまり適切ではないですね。新聞社は評価を過大にしないとニュースとしての価値がないからですね。青田買いで数ヶ月の延命効果しかなくても、意義はあると思えます。
「将来に期待のもてる大型の新人選手」という、ブログ主様の意見は正しいかもしれませんが、意見の別れるところで、将来を楽しみにするくらいのコメントでいいのではないでしょうか。
Posted by べにくらげ at 2014年11月14日 06:57
> 「素晴らしい癌治療薬ができれば誰もが 130歳まで生きられる」というようなことは、ありえそうにない。癌で死ななければ、他の病気か老衰で死ぬだけだ。癌は治療可能かもしれないが、「老い」は決して治療できないのだ。
  「ベニクラゲは不老不死だ」ということはない。そこでは、個体が若返るということはなくて、「同一の遺伝子をもつ個体が何度も誕生する」というだけのことだ。これはどちらかと言えば、クローンの誕生に近い。

管理人さんの上記の意見に対して

 将来、iPS細胞などから作成した新しい細胞を少しずつ体に入れて元の古い細胞と入れ替えることによって、記憶をある程度保持したまま体全体を若い状態を保つことが可能になるのではないかと考えています。
 脳の神経細胞も入れ替えることになると、記憶や性格なども変わっていくでしょうが、徐々に変わるのであれば、個体の連続性は維持できると思います。
 あと50年くらい後には、脳の神経細胞も含めて体の大部分の細胞が置き換え可能になりそうに思います。脳の神経細胞の移植は、認知症や脳梗塞の治療法として、今後さらに研究が進むと考えています。

管理人さんは、どのように予想されますか?
Posted by ishi at 2014年11月14日 08:15
割込み失礼します。
興味深い考えですね。哲学的な何かを感じます。
Posted by 京都の人 at 2014年11月14日 19:04
> 比喩はあまり適切ではないですね。

 まあ、私の比喩はいつも誇大表現になりがち。論点をわかりやすくするのが狙いだから、正確さは二の次。正確さは、本文の表現に従ってください。

> 管理人さんは、どのように予想されますか?

 それはまあ、SF作家に任せます。とりあえずは、脳だけ自分のものであるサイボーグが先でしょう。
 その時点で、「頭がボケ老人で、体は 009 や 005 だ」というサイボーグが出てきて、ボケた頭で世界をぶちこわして、人類滅亡……となりかけたところへ、正義のサイボーグが出現して、サイボーグ戦争が起こる……というような SF ができるんじゃないの? 

 脳細胞が置き換え可能になるなら、人工脳細胞が出現して、世界の人類を支配する「超脳細胞」に人類は従う。そこへジオン帝国にある超脳細胞が開発したザクという兵器が……というような SF もできそうだ。

 私の出る幕じゃないですね。
Posted by 管理人 at 2014年11月14日 22:44
数日前日テレで丸山ワクチンが紹介され、話題になりました。私も見ましたが、理屈的に納得できる製薬で一部の人に効果ありというのも、うなづける内容でした。薬として国から認可されなかったのは、認可基準が不明確で何度効果が有効とするデータを出してもデータ不十分とされていたようです。
抗ガン剤に比べれば副作用がなく、圧倒的に安価で、かつステージ4にすら効く場合があるとの事から、ガン放置の近藤理論よりよほど有益と思います。
中々医者が処方してくれないようですが、治療の一つの選択肢でもいいと思いました。
Posted by gunts at 2018年01月13日 07:39
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