文部科学省が大学入試に TOEFL などの資格・検定試験の活用を検討している。ここで、リエゾン(発音の連結)を重視するべきだ、という見解がある。
英検や、英検協会と上智大学が共同開発した TEAP などもあるが、世界に通用する汎用(はんよう)性という点では、TOEFL に代表される英語圏で開発された問題の方が役に立つように思う。
例えば、TOEFL のリスニングには、ネイティブスピーカーの会話に見られる「音の連結」が含まれている。映画「アナと雪の女王」にも出てくる gotta や wanna などだ。センター試験や英検の過去問題、英検協会が公開している TEAP の見本問題の音声を聞くと、こうした自然な会話で見られる音の変化は用いられていない。外国人の AET(英語指導助手)が教室で話す英語は聞き取れるが、同じ先生が他のネイティブスピーカーと話す会話は理解できない――。そんな事態が生じる一因でもある。
( → 朝日新聞・投稿コラム 2014-10-12 )
リエゾンというのはどういうものかというと、たとえば、こうだ。
open it → オープニッ
not sure → ナッシュアー
get up → ゲラッ(プ)
about it → アバウリッ
but I → バライ
what a → ホワラ
give me → ギンミ
come here → カミアー
love him → ラビン
out of → アウタ(ダ)
want to → ウォナ
got to → ガタ/ガラ
take to → テイカ
have to → ハフタ
( → 英語空間 - ネイティブ発音 )
上では、一部抜粋したが、さらにいろいろな例があるので、ぜひ読んでほしい。
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では、こういうリエゾンを、大学入試に導入するべきか?
「導入するべきだ」というのが、上記筆者の見解である。「大学入試に取り入れれば、受験者はその能力を獲得するようになるから」というのが、理由だ。
しかしこれには疑問符が付く。「試験に導入すればその能力が付く」ということは、成立しないからだ。
たとえば、外国人が、日本語を学ぶとして、基本的な活用語尾(五段活用など)を学ばないまま、口語のリエゾンを学んだとする。次のような。
・ そんなこった、知ったこっちゃねえよ。
・ そりゃ、わかんねえよ。
・ 聞き取れりゃいいのかよ。
・ あたしゃ、何とも言えんね。
こんなリエゾン(みたいなもの)ばかりを学んで、基本をおろそかにしていて、きちんと日本語力が付くのか? 基礎がわからないまま、応用力ばかりを学んで、まともな力が付くのか? とてもそうは思えない。
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一般に、次のように、根源的なことがある。
「基礎を学ばずに応用力ばかりを学べば、基礎がおろそかであるせいで、基礎も応用力もどちらも獲得できなくなる。あぶはち取らずになる」ということだ。
また、次のこともある。
「入試で採用すれば能力が付くのだとすれば、全員が高得点を取ることになり、入試の意味がない」
そもそも、大学入試でヒアリング力を取り入れようというのは、受験生にヒアリングがないからだ。比喩的に言えば、「25メートルの水泳力」というテストがなされるのは、その水泳力をもたない人がたくさんいるからだ。こういう状況で、「遠泳1万メートル」という高度な能力のテストをすれば、全員が1万メートルを泳げるようになるか? いや、むしろ、溺れてしまうばかりだろう。そのせいで、「25メートルの水泳力」さえ身につかない、という人が続出するだろう。
何事であれ、勉強の分野では、「高望み」というのは、有害無益なのである。自分の実力に即して、少しずつステップアップするべきなのだ。
