2014年09月12日

◆ 菅首相は怒鳴ったか?

 菅首相(当時)が「全面撤退するな」と怒鳴ったことのせいで、東電の活動を阻害してしまった……という報道があった。だが、真相が判明した。 ──

 菅首相(当時)が「全面撤退するな」と怒鳴った。しかし実際には、東電には全面撤退の予定などはなかった。菅首相が怒鳴ったことは何の効果もなかった。それどころか、原発停止のために働く東電の活動を阻害しただけだった……という報道が当時あった。

 この件に関連しては、私は前に述べたことがあった。
  → 怒鳴った菅首相

 一方、「吉田所長が菅直人の発言を否定している」との報道も、最近話題になった。(これについては本項末の [ 付記3 ] を参照。)

 さて。このたび、真相が判明した。(おおむね私が前に述べたとおり。)
 どういうことかと言うと、以下のことがあるからだ。

 ──

 今回の朝日の誤報騒動(吉田調書)の波及効果として、政府は関係者の調書をすべて公開することにした。
 政府は11日、東京電力福島第一原発事故の政府事故調査・検証委員会の調査を受けた約770人のうち、第1弾として計19人の証言を公開した。
  § 政府事故調査委員会ヒアリング記録の開示について

( → 朝日新聞 2014-09-12

 これに関連して、朝日新聞が要点を示すとともに、独自のインタビューをしている。一部抜粋しよう。
 《 政治家・専門家の調書概要〈1〉 福島第一原発事故 》
 ■菅直人・元首相 「視察、現場と話すため」
 武黒氏が官邸の了解を得ていないとの理由で福島第一原発の吉田昌郎元所長に海水注入を中止するよう求めた一件について「(海水注入で)塩が固まってくる。金属などに長期的に影響するという専門家の指摘はあった」としつつ、「緊急時だから、水がなくなれば海水しかない」と考えていたと断言した。
 また、武黒氏の指示を無視して海水注入を続けた吉田氏については「立派だったと思う」と評価した。
 撤退問題では、東電側の意向は全面撤退と受け止めていたと繰り返し強調した。3月15日未明、官邸で海江田万里元経産相と枝野幸男元官房長官から、東電が撤退の意向を打診してきているとの報告を受けたという。「経産大臣やほかのメンバーもそういう(全面撤退との)認識だった」といい、その場で「全部放棄することはできない」との意見で一致した。
 東電の清水正孝元社長を官邸に呼んで面会した際、菅氏が清水氏に撤退を認めない旨を伝えると反論はなく、「やはり(全面撤退と)思っていたんだなと思う」と当時の感想を述べている。
 <菅氏のコメント> 吉田調書と私の調書を重ね合わせれば、事実関係がはっきりする。撤退を最初に言い出したのは、清水社長であることが明らかだ。現場視察は住民避難を判断するため、現場と話す必要があった。所員の調書やテレビ会議の全面公開が必要だ。

 ■枝野幸男・元官房長官 「東電社長、全面撤退求めた」

 枝野氏は、東電側が「一部撤退」と主張し、官邸側と証言が食い違う11年3月14日夜から翌未明にかけての原発作業員の撤退問題について、東電の清水元社長から撤退の了承を求める電話があったことを認めたうえで「間違いなく全面撤退の趣旨だったと、これは自信があります」と証言した。「ほかの必要のない人は逃げますという話は、別に官房長官に上げるような話ではないですから。勘違いとかはあり得ないですね」と述べた。
 15日に、政府と東電の対策統合本部を設置した理由についても、枝野氏は「撤退問題が最後の決め手だと思います」と説明。「(菅直人元首相は)とにかく直接グリップしないと、どこまで行くのかがわからないということだったんだと思います」と述べ、「少なくとも実体としての東電に、当事者意識も能力もない」と強調した。
 <枝野氏のコメント>
 検証を国民的視点でやる上で、情報公開は大変喜ばしい。ただ、私の調書は私が求めた何倍もの黒塗りが政府によってされている。他の人も必要以上に黒塗りされている可能性がある。さらに情報公開が進むことを期待する。

 ■細野豪志・元首相補佐官 「班目氏、もう手はないと言った」

 首相補佐官として首相官邸で事故対応にあたり、政府と東電本店の統合本部に入った細野豪志衆院議員。
 翌15日未明、官邸では福島第一原発からの「撤退」が議論された。東電の清水元社長から電話を受けた海江田元経産相の理解は「完全に撤退すると解釈していた」と説明した。電話を受けた枝野元官房長官も同じ認識だったという。
 「(東電元フェローの)武黒さんがしょんぼりして、もう何もできませんみたいな話をしたから、『あんた、責任者だろ。しょんぼりしていないで何か考えろ』と言った覚えがある」
 さらに「あのとき班目(春樹・元原子力安全委員長)さんが、もう手はありませんから撤退やむなしと言った。一番の専門家だと思っていたから、本当に愕然(がくぜん)として」。しかし、菅氏を交えた会議で「瞬時に、撤退はあり得ないだろうという話になった」。

 ■海江田万里・元経産相 「事業者任せでいいのかと反省」

 当時、経済産業相だった海江田万里・民主党代表は事故直後、首相官邸に詰めて、菅氏らと対応にあたっていたが、東京電力本店などとのやりとりには混乱が生じていた。
 14日夜から15日未明にかけ、東電が全員撤退を申し出たかどうかをめぐる清水元社長とのやりとりも詳細に語っている。当時、清水社長から受けた電話の内容について、「僕が覚えているのは『撤退』という言葉ではない。『退避』という言葉。第一発電所から第二発電所へ退避させたい」と語った。
 海江田氏は、東電が退避を考えていることを、すぐに菅氏と枝野氏に伝えた。その時の退避の認識について「僕は全員だと思った」という。吉田氏が現場から離れるつもりはなかったことについては、官邸に「伝わっていないですね」としている。実際、この後、東電への不信感から、菅氏らと東電本店に乗り込んだ。
( → 朝日新聞 2014-09-12

 以上のようにして、「調書の公開」という形で、真相が判明したことになる。
 結局、「怒鳴った」というよりは、「鼓舞した」という方が正しい。正しい行動を阻害したのではなく、ぐずついていた東電の尻をたたいたことになる。
( ※ 吉田所長は「真面目に収束しようとしていた」と主張するが、それを阻害する動きが東電経営者にあったわけだ。吉田所長はそれを知らなかったが。)

 ──

 ここで問題となるのは、当時の読売・産経の報道だ。この二紙は、次のように主張した。
 「菅首相(当時)は当時、『全面撤退するな』と怒鳴った。しかし実際には、東電には全面撤退の予定などはなかった。菅首相が怒鳴ったことは何の効果もなかった。それどころか、原発停止のために働く東電の活動を阻害しただけだった」
 このようにして「菅直人は無能だ」というキャンペーンを大々的に展開した。
  → Google 検索

 なお、この件は、本サイトでも扱った。
  → 菅直人は無能か 1
  → 「菅直人は無能だ」=「原発推進」
  → 菅直人は無能か 2(原発再稼働)
  → もし菅直人がドラッカーの「マネジメント」を読んだら
  → 菅直人は無能か 3(補足)    
  → 菅直人へのお勧め(東電処理)

 つまり、読売・産経は、次のようなことをした。
 「菅直人は無能だ、というキャンペーンをして、菅直人をその夏に辞任させた。結果的に、震災の復興は遅れに遅れ、翌年の3月に復興庁が設立させるまで復興作業が始まらなかった」
( ※ なぜなら自民党と公明党がタッグを組んで、「菅直人の辞任と復興庁の設立を担保せよ。さもなくば予算を通さない」と恫喝したからだ。)

 ところが、読売・産経のキャンペーンは、真っ赤な嘘(または大誤報)であった、とこのたび判明したのだ。なぜなら、東電の経営陣はまさしく官邸に向けて「全面撤退」の意向を伝えたからだ。
( ※ 海江田の言葉では「撤退」でなく「退避」となる。言葉は違うが、意味は同じだ。なお、このような言葉の微小な違いが出ることからして、意味自体は同一であったと考えられる。)
( ※ なお、撤退と退避のどちらが正しいかと言えば、たぶんどちらも正しいのだのだろう。何回も言葉を出せば、違う言葉が出たとしても不思議ではないからだ。言葉は一回だけとは限らない。)

 ──

 結論。

 読売と産経は、世紀の大誤報をして、日本の首相を辞任させ、また、緊急時における復興活動を大幅に阻害した。国難の大事にあって、政府の行動に協力するどころか、政府の行動を徹底的に阻害した。そのことで復興活動を邪魔し、国家を危機的状況から救うのを徹底的に阻害した。何から何まで「民主党政権をつぶせ」という党利党略に与(くみ)して、国益を大幅に損なった。

 これほどの国益損害に比べれば、朝日が「吉田調書で国益を損なったこと」など、スズメの涙か、九牛の一毛にすぎない。そこでは、日本(または吉田所長などの東電社員)の名誉はいくらか傷ついただろうが、実質的な損害は皆無だからだ。国益だってほとんど関係ない。(せいぜい名目的なものだ。)
 一方、読売と産経は、日本という国家そのものを転覆させるほどの大損害を日本にもたらしたのだ。特に、「復興庁の設立」という方針は、有害極まりないものだった。このせいで、復興活動は翌年3月までストップした。さらに、寄り合い所帯である復興庁が正常に活動したのは、それから何カ月もたってからだった。
 最も緊急性が必要なときに、最も阻害活動をした。読売と産経の誤報は、それほどにもひどいものなのだ。その罪は万死に値するだろう。
 読売と産経が朝日の誤報をあげつらうなんて、馬鹿馬鹿しいにもほどがある。
 また、その尻馬に乗って大騒ぎするネット民の馬鹿さ加減も、呆れるほかない。



 [ 付記1 ]
 朝日の記事(上記引用部)には、いろいろと有益な情報がある。特に、「政府の調書には黒塗りがたくさんあった」というコメントを引き出したのは有益だ。さすがに朝日だ。
 とはいえ、こういう情報を読むこともなく、単に「朝日は間違っている!」とだけ叫んでいるのが、愚民たちだ。彼らが好きなのは、政府による「黒塗りの事実」だけである。朝日の誤報は叩くが、黒塗りの事実には異を立てない。それが今のネット民だ。
 
 [ 付記2 ]
 吉田調書を見ると、所長は、「われわれが全面撤退をするなどということはありえない」と述べて、「全面撤退を否定した」と述べた菅直人・元首相の発言を否定した。
 これをもって、「菅直人は嘘つきだ」と産経新聞は大騒ぎした。
 しかし実際は、「全面撤退」という話はあったのである。ただ、それは東電本社と官邸との間にあっただけだったから、吉田所長は知らなかっただけだ。つまり、吉田所長は関与外だったから、その発言には何の意味もなかったわけだ。
 この点からして、「菅直人は嘘つきだ」と大騒ぎした産経新聞は、誤報をしたことになる。しかしながら、産経新聞はそれを謝罪することはないし、ネット民たちもそれについて「誤報だ」と騒ぐこともない。

 [ 付記3 ]
 実を言うと、今でもなお、「菅首相は怒鳴って阻害した」と騒ぐ人々がいる。その根拠は、「吉田調書に書いてあったから」ということだ。
 しかし、今回の調書を見ればわかるように、「全面撤退」を唱えたのは、吉田所長ではなくて、東電経営陣である。東電経営陣と官邸との間の連絡を、吉田所長が知っているはずがない。ゆえに、吉田所長の見解は、何の根拠にもならない。(ただの部外者による、犬の遠吠えにすぎない。無関係。)
 こんなものを理由に、「菅直人は怒鳴って阻害した」なんて主張する人々がいるんだから、こういう連中の誤報をこそ、問題視するべきだろう。
 なのに、そうしないのだから、愚民というのは度しがたい。

 [ 付記4 ]
 今のネット民のレベルが知れる。彼らは単に騒ぎたいから騒いでいるだけだし、朝日をたたきたいから朝日をたたいているだけだ。「自分たちは真実を求めて虚偽を否定する」という顔をするが、その舌が二枚舌なのである。
 例の東大教授もまた同じ。朝日に限って、やたらと叩く。二重基準で、二枚舌。それでいて、善人ヅラをする。
 「オレって正義の味方だ、カッコいいなあ!」
 これを自己陶酔という。
 「おれってハンサムだ、カッコいいなあ」
 というのと同じ。鏡を見ることのできない人の特徴だ。

 今のネット民たちは、真実を知ることよりも、朝日をたたくのが大好き。(どこかの東大教授もそうだが。)
 たぶん、三度の飯よりも、朝日をたたくのが大好きなんだろう。朝酒と同じぐらいに。









 【 関連項目 】

 全面撤退については、本ブログで、かなり前にも論じたことがある。
  → 怒鳴った菅首相 (2011年04月30日)
  → 原発事故調の報告に欠けているもの (2012年07月26日)
 
 この時点では、いろいろと推測まじりに書いているが、このたびようやく肝心の調書が公開されるに至ったわけだ。
 これも、朝日の誤報騒動のおかげだ。こっちの効果にこそ着目するべきだろう。また、隠蔽していた政府こそ、咎められるべきだろう。
 人々は責めるべき相手を間違えている。
 
  ──

 《 オマケ 》

 吉田調書と菅直人については、後日、別項でも論じた。
     → 吉田調書は信頼できるか?

 ここではいっそう詳しい話がある。「恐るべき真相」「意外な真相」みたいな話もある。
posted by 管理人 at 20:55| Comment(5) |  震災(東北・熊本) | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
内容としては同意見ですが、付記3を書いてから他を書くべきではないでしょうか。
Posted by 通りすがり at 2014年09月15日 17:13
> 付記3を書いてから他を書くべき

 それは、「吉田調書が先にある」という立場の人の認識ですね。そっちを先に信じている人にとっては、その方がわかりやすいでしょう。

 ただ、本サイトははるか以前から
  → 怒鳴った菅首相 (2011年04月30日)
 という記事を書いていたので、こちらを基本線にして、述べています。本サイト内での既出の項目との関連で、すでに述べたこととの整合性を重視しています。
 本項だけを初めて読んだ人向けというよりは、他の項目との関連で、多くの項目の一部として書いています。
 「菅直人のしたことは正しかった」という趣旨の話はすでに何度も書いており、そのうちの一環として、新たな情報を付加しています。
 要するに、固定読者向けです。
 一方、通りすがりの読者にとっては、本項目だけを読んでも、わかりにくく感じるでしょう。その場合は、リンクで示した関連項目も見てください。そうすれば、膨大な情報を得て、すごく詳しくなれますよ。
Posted by 管理人 at 2014年09月15日 17:32
> 「菅直人のしたことは正しかった」という趣旨の話はすでに何度も書いており、そのうちの一環として、新たな情報を付加しています。

ならば、こちらの関連記事であることをはじめに記載したほうがわかりやすくなるのではないでしょう
か。
ちなみに、吉田調書のニュースを読んだときから吉田所長の発言≠東電本社の発言ではないと思っていましたので、管直人が悪かったことには成らないとの認識でしたので、内容に関しては同意ですよ。
Posted by 通りすがり at 2014年09月15日 20:22
上のご指摘を受けて、冒頭に注釈文を少し加筆しました。
Posted by 管理人 at 2014年09月15日 21:22
こんばんは。通りすがりで失礼いたします。
 記事を拝読しました。とても分かりやすかったです。
 ありがとうございました。
Posted by ふたりめの通りすがり at 2014年09月25日 18:48
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