広島の豪雨被害の実態がしだいに明らかになってきている。自治体の避難勧告が遅れたことが致命的であったようだ。読売の記事に詳しい。
広島市北部を襲った局地豪雨で、同市消防局の金山健三・危機管理部長は20日午後、記者団に対し、避難勧告の遅れを認めたうえで「今回は(雨量の)分析を誤った面があるのは間違いない」と語った。
19日午後4時3分、広島地方気象台が大雨洪水注意報を発令。同9時26分、大雨洪水警報に切り替わった。消防局は、気象台や気象情報会社から提供された情報をもとに対応を進めた。
日付が変わる頃には雨脚が弱まり、「収束してくれるかなという期待」(金山部長)もあったが、20日午前1時頃、状況は悪化した。消防局員が注視していた気象レーダーには、安佐北区付近に帯状の非常に強い雨雲が映り、一向に動かない。「雲がそこで湧いている」という状態だった。
警戒本部は同2時41分、市民ら約5万7000人が登録している防災情報メールで「危険を感じた場合には速やかに避難行動を」と知らせ、防災行政無線でも注意を呼びかけた。しかし、避難勧告を出したのは、それから1時間半たった4時15分だった。
( → 読売新聞 2014年08月21日 )
今回の豪雨災害では、広島市が20日午前4時15分に最初の避難勧告を出した時点で、すでに土石流などの被害が発生していた。
金山健三・市消防局危機管理部長は同日午後、記者団に対し、「避難勧告というのは人的被害を回避するため、災害が起きる前に出し、安全な場所に避難してもらうのが本来の目的。今回は(雨量の)分析を誤り、勧告を出すのが遅かったことは間違いない」と語った。
市は、災害発生の直前にメールや防災無線で住民らに注意を喚起していたが、金山部長は「勧告だったら違う結果もあったかもしれないという悔いはある」と述べた。
( → 読売新聞 2014年08月21日 )
広島市が住民に避難指示・勧告を出したのは、20日午前4時15分以降だった。既に、土砂災害が発生していたとみられる。市は「雨量の分析を誤った」と、発令の遅れを認めた。
( → 読売新聞 2014年08月21日 )
なぜ、3時の時点で勧告を出さなかったのか。金山部長は「雨がもう1時間続いた場合にどうだろうかと考えた」「1時間雨量というのは1時間後にわかるわけです」……想定を越える豪雨で、結果的に雨量予測を誤った可能性を示唆した。
( → 読売新聞 2014年08月21日[ネットにはない] )
これらの言葉を聞くと、「気象判断がまったくできていない素人集団だ」ということが、よくわかる。特に最後の「1時間雨量というのは1時間後にわかるわけです」という言葉に至っては笑止千万だ。これほどの素人が責任者となっていることに唖然とする。
しかも、これは、驚くには当たらない。これは先の事例の再現となっているからだ。そう。これだ。
→ 伊豆大島の台風災害
→ 豪雨対策は事前に取れ
→ 台風と事前準備
このときも同じように、自治体の担当者の判断ミスのせいで、多大な被害が生じた。
──
どうしてこうなるか? たぶん、自治体担当者には、共通する心理があるのだろう。
「真夜中にたたき起こして避難させたあとで、空振りに終わったりしたら、あとでどれほど非難されることか」
これを換言すれば、次のようにもなる。
「空振りすれば批判される。しかし死者を出したときには死者からは批判されない。死人に口なしだからだ。だったら、黙っていた方がいい」
とすれば、自治体担当者には「殺人の動機」が働くことになる。いくら被害が出ても、死なせたのは豪雨であり、自治体担当者ではない。だから、適当に頭を下げれば、あとはしらばっくれていられる。一方、空振りの場合には、直接の責任者として、批判の嵐にさらされる。それは厭だ。(選挙で落選するかもしれないし。)
かくて、自治体担当者に任せる限りは、「豪雨の被害を出す方が有利だ」という原理が働く。
──
では、どうする? 対策は、こうだ。
「空振りした場合も含めて、判断の責任をプロに任せる。自治体は単にプロの指示に従うだけにする」
ここで言うプロとは、民間気象会社だ。プロの場合、空振りをしてもたいして評判は落ちないが、万が一、豪雨で被害を出せば大批判にさらされる。「この役立たず! おまえのせいで死者が出たんだぞ!」と。
となれば、民間気象会社は、なるべく被害が出ないように、積極的に避難勧告を出すはずだ。……こうして、将来の被害を最小限にできるだろう。
結論。
豪雨の気象予測は、自治体が自分でやるのではなく、プロ(民間気象会社)に委託するべきだ。自治体はその判断に従って、住民に避難勧告を出せばいい。
《 注記 》
「民間気象会社でなく気象庁に任せればいい」
という見解もありそうだが、残念ながら、気象庁はそのようなサービスをしない。個別に通知しないだけでなく、警報すら出さない。
《 特別警報、「局地的」は対象外 》
今回の災害で、気象庁は「数十年に一度」の危険を伝える大雨特別警報を出さなかった。北海道や沖縄・奄美を除き都府県単位で判断するもので、今回のような局地的な雨は対象ではないためだ。
気象庁によると、大雨特別警報は「5キロ四方の3時間降水量などが10カ所以上で基準値を上回る」といった複数の観測点で大雨になった際に発せられる。局地的豪雨は観測精度などの点から対象にできず、....既に豪雨になっていることを知らせる記録的短時間大雨情報に注意してほしいという。
太田昭宏国土交通相は21日、「局所的なものでは特別警報で注意喚起できない」と述べ、情報提供により力を入れるよう指示した。
( → 朝日・夕刊 2014年8月21日 )
[ 付記1 ]
避難勧告はどういうふうにやるか? 深夜でも有効なように、巨大なスピーカーでたたき起こすのが有効だろう。
[ 付記2 ]
このようにたたき起こすと、住民からは文句が出そうだ。そこであらかじめ、「了承の文書」に署名捺印してもらえばいい。
なお、その署名捺印をしない人には、退去勧告を出して、地域から出ていってもらうのが妥当だ。何度も訪問して、是が非でも出ていってもらうべきだ。出ていかない場合には、何らかのペナルティを科すべきだろう。
ま、署名捺印すれば、問題はないが。
[ 付記3 ]
(前項で述べたが)最も危険な土地は、沢の下方の地域である。だから、この地域については、重点的に対処するべきだ。
避難勧告も、この地域については、比較的早い時期から勧告するべきだろう。
【 補説 】
現状の予想精度はどうか?
気象庁は、いろいろと最新機器を使ったりして、精確な予測に努めている。「これで正確な予想ができる」と威張っていた。しかし実際には、ゲリラ豪雨にはあまり有効ではなかった。
→ ゲリラ豪雨予測、8月7日から 気象庁、ネット上で提供
→ 高い精度で予測できなかった集中豪雨
→ 増加が予想されるゲリラ豪雨 予測し避ける方法と遭遇した時の対処法
結局、気象庁の予測には限界がある。
やはり、現地で豪雨を察したら、将来の予想がどうだこうだと思う前に、「今まさしく豪雨だから避難しよう」と思うべきだろう。
豪雨が発生してから、土砂崩れが起こるまでには、数十分の時間的な余裕がある。その時間を生かすべきだ。
思えば、これは、津波からの避難とも共通する。避難するための時間はある。その時間を生かせないから、大被害が生じるのだ。被害が生じるかどうかは、自然によって定まるというよりは、人間の側の慢心によって定まると言っていい。
先の大地震のときも、慢心のなかった地域では、被害は出なかったのだ。(津波てんでんこの地域。釜石など。)
──
上のことからもわかるが、被害を予防するために必要なデータは、「将来の予想値」ではなくて、「過去および現在の降雨量」なのである。将来の数値はあまり関係ない。したがって、「もうすぐやむかもしれない」というような楽観は無意味だ。
現時点は「決壊する直前」みたいなものかもしれない。もしそうだとすれば、たとえ小降りになったとしても、わずかな量が追加的に降るだけで、土砂崩れが起こる。土砂崩れの発生は、「突発的なもの」であるからだ。それは決して、「降雨量に比例するもの」ではない。
にもかかわらず、多くの人々は、「土砂崩れは降雨量に比例するもの」と考えがちだ。そしてまた、将来の数値予想に頼りがちだ。「コンピュータで正確な予想を出したから、この予想は当たるはずだ」と思いがちだ。( → 気象庁 )
だが、そうではない。将来の予想の正確さが被害を予防するのではない。現在までの降雨量についての正しい判断が被害を予防するのだ。
コンピュータ任せにすれば科学的だ、と思うのは妥当ではない。むしろむしろ現実を見て正しい判断を出すことが大切なのだ。そして、それは、素人には難しいことなのだ。にもかかわらず、素人に任せるがゆえに、被害は相も変わらず発生してしまう。
──
《 参考 》 降雨計
現実の降雨量を調べる降雨計もある。これならば役立つだろう。
各地の降雨計から電子的に数値を得て、データを集中管理すれば、どの地点で危険が迫っているかを自動的に判定できる。この程度のデータ処理をするだけで、かなり効果的な危険回避ができそうだ。
例。「広島県の八木地区で、1時間雨量が 50ミリを越えました。降雨は弱まっていません。今の状況が続けば、土砂崩れの危険が高まります。早急に避難警告を発してください」
ワイヤーセパレート雨量計
次の情報もある。
広島市北部で土砂災害が多発した地域は、20日未明の数時間に100ミリを超す雨が降った地点とぴったり重なっていた。局地的な豪雨が災害の引き金になったことが、データで裏付けられた。
災害が集中した安佐北、安佐南両区には、気象庁や国土交通省、広島県、広島市が、気象観測や河川監視のため、計24か所に雨量計を設置している。
これらの記録から、災害が多発した20日午前0時〜6時のデータを見ると、総雨量が100ミリを超えたのは10か所で、その領域は北東―南西方向の帯状に、長さ約15キロにわたって広がっていた。これは大規模な土砂災害が起きた地域と重なっていた。(図あり)
( → 読売・夕刊 2014年08月21日 )
【 関連情報 】
「土砂崩れの前兆現象がある」という話。
大きな被害をもたらした広島市の土砂災害が起きる前、地元住民らは、異常な音や強い土の臭いなど、普段とは異なる前兆を感じていた。
20日未明に近くの山が崩れ、自宅に岩や木が流れ込んだ安佐南区の八木地区に住む主婦(67)は「土砂崩れの前に、家の外で石がゴロゴロ転がる音がし、下水管から水があふれる時のようなボコボコという音が聞こえた」と振り返る。
( → 読売・夕刊 2014年08月21日 )
次のような前兆もあるらしい。
・崖から小石がパラパラと落ちてくる
・普段出ないところから水が湧いてくる、普段湧いている水が止まる
・湧き水が異常に濁っている
・石がボロボロと落ちてくる
・木の根が切れるような音がする
・斜面に亀裂が入っている
( → 知恵袋 )
室内で音を鳴らすのがよく、緊急速報メールが現状ベスト、と思っているのですが、いかんせん、高齢者の携帯電話普及率が低い。
スピーカーを建てると「自治体はやりました」と言えるけど、携帯電話の普及を図っても「自治体はやりました」と言えないので予算や人手がつかない。
そうかもしれませんね。だとしたら、2種類のサイレンを鳴らすといいでしょう。
・ 危険を示すための高周波。500〜 1000ヘルツぐらいの高音。2000ヘルツ以上の高音だと、お年寄りには聞こえないことがあるので、このくらいが妥当。ともあれ、サイレンの高音だと、明らかに人工音だとわかる。
・ 20〜30ヘルツぐらいの超低周波。よく聞こえなくても、体に振動が届く。寝ていても体が震えて目覚める。
> 室内で音を鳴らすのがよく
すでに防災ラジオというものが配られていますが、私は期待していません。1軒に1台ったら、音が届かない部屋がたくさん出てくる。かといって、何台も配れば、コスト高。
私としては、巨大スピーカーをたくさん配置するのがいいと思います。1台の巨大スピーカーを4軒に1台の割りで設置すればいい。 田 の字の中央に配置すれば、十分に音は届くはずです。すぐそばにあるんだから。
もともと人口密集地なんだから、これで十分でしょう。
なお、ときどき訓練して、音が届かない部屋(寝室)があったら、そこには防災ラジオを置くことにすればいい。
《 機械の案内 》
中・高音はこれ。
→ http://openblog.meblog.biz/article/18951117.html
低音はこれ。20〜30ヘルツもOK。
→ http://j.mp/1pofxrk , http://j.mp/1p2jJIc
中・高音だけなら、1万円。低音も、5万円。4軒に1セットずつ配置しても、たいしした金額にはならない。
──
> 緊急速報メール
それはそれで、別途やるといいでしょう。スピーカーに比べると、普及率(届く率)がかなり下がるし、また,時間的にも5分ぐらい遅れそうですが、それで助かる人も、5%ぐらいはいると見込めます。ま、何もしないよりはマシだ。
まさしく、その通りだと思います。
将来の気象の予想から災害を予測できるのであれば理想的ですが、なかなか困難でしょう。
ある程度の物的被害が出たとき、それ以上の物的被害、人的被害が出ないように避難することが現実的だと思います。
すると、予想すべきは、将来の気象ではなく、これまでの気象による災害の予想なので、「民間気象会社」というのも専門から少しズレるように思います。
民間気象会社も、気象庁等の観測データに加え、独自の観測データを取れますから、
そこから、災害を予見する専門家組織が望ましいと思います。
それが、防災担当者のお仕事じゃないの?ともなりますが、「空振りすれば批判される。しかし死者を出したときには死者からは批判されない。死人に口なしだからだ。だったら、黙っていた方がいい」となってしまっているのですね。
気象予報士の要件に災害予測を加えるか、災害予報士なんかを新設するのがいいのでしょうか。
防災士も、災害が発生してからの役割なようです。
その所属先は、民間気象会社しかないでしょ? 民間気象会社はすでに自治体と契約して、地区の気象情報を提供しているので、その追加サービスの形にすればいい。
一方、他の独自会社は、成立しないでしょう。
> 防災担当者
普段は別の仕事をしている、ただの素人ですよ。まるきりの素人。これまでの結果から見ると、常に最悪の判断をしています。
> 気象予報士の要件に災害予測を加えるか、災害予報士なんかを新設するのがいいのでしょうか。
資格を与えるはずの気象庁に、その能力がないので、無理です。気象庁は防災のことなんか考えたことはありません。気象庁もまた、まるきりの素人に近い。空のことはわかるが、地上のことはまったく理解していないので。(だから津波のときもリアス式海岸を無視して、高い津波高を警告しなかった。いかに地形に無知であるか、よくわかる。)
> 災害予報士なんかを新設する
その場合には、防災庁を設置することが先決です。
→ http://openblog.meblog.biz/article/5444512.html
しかしそれは、百年河清を待つようなもの。実現するまでに、莫大な死者が出ます。
一方、自治体がさっさと民間会社と契約すれば、速攻で実現可能。
契約には至らないかもしれませんが、一度相談はしてみようか、と思います。
契約するとなると、過去の雨量や災害や河川水位などのデータを渡したうえで、年間経費30万円+大雨・洪水警報1回につき10万円くらいのイメージかな。年間の警報の回数が10〜15回なので(うちの自治体の場合)、年130万円〜180万円。
問題は、地方気象台から情報提供だと0円なので、「(自分たちが捌けない)情報じゃなくて(自分たちがすぐに動くための)助言が必要なんです」という説明が通るかどうか。
現状では全然理解していないでしょう。これから勉強して頑張ってもらうしかないですね。
とりあえずは契約して、それが事業として成立することを確認した上で、担当者が猛勉強することにないます。勉強しなければ、会社が「避難の判断失敗」という汚名を帯びて、大量の死者の責任を負うので、社会的信用をなくした末に、契約解除が続出して倒産となります。
現状のように、公務員が何の責任も取らないよりは、ずっとマシになります。
> 地方気象台から情報提供だと0円
それは気象予報だけ(避難の判断なし)だし、しかも、地域予報はなしです。
現状では、地域予報のある気象会社と契約して地域予報を得ている自治体はたくさんあります。今回の自治体もそうです。(報道されていました。)
> 大雨・洪水警報1回につき10万円
それはないでしょう。それだと警報を出すほど儲かるので、警報が出すぎてしまう。
あくまで年間契約だけの固定料金です。それ以外は「保険」みたいな感じで、不運な自治体だけが特別にサービスをもらえるだけです。逆に、豪雨のない自治体は、サービスなしでも高めの料金を払います。
ただし広島みたいに危険地域の多い自治体は、危険地域の多さに比例して、加算料金を請求されます。該当地域を居住禁止にして、危険地域をなくせば、加算料金は請求されません。