これは発想の転換だ。
マイナスを減らすかわりに、プラスを増やせばいい。
食べる量を減らすかわりに、産卵する量を増やせばいい。
そのために、親ウナギを放流すればいいのだ。
──
ここで問題だ。いつどこで親ウナギを放流すればいいかは、わからないのだ。では、どうやって決めるか?
実は、それは簡単だ。こうだ。
「ウナギに決めてもらえばいい」
ただし、これは一般には難しい。河川のウナギでは、ウナギが好き勝手に放流時期を決めることはできないからだ。となると、可能な場所は、一つしかない。浜名湖だ。
ここは、汽水域なので、淡水領域と海洋とがつながっている。ウナギはいつでも好きなときに、浜名湖を出て、外洋に出て行ける。
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というわけで、浜名湖については、ここで養殖したウナギは、「食べずに放流する」ことにすればいい。「放流専門」みたいにするわけだ。
このことで、大量のウナギが外洋に出る。そして、それが戻るときには、圧倒的多数のシラスウナギとなって戻ってくる。
おおざっぱに言えば、親ウナギを1匹放流することは、シラスウナギを1千匹か1万匹ぐらい禁漁することに相当する。
だったら、シラスウナギを禁漁するよりは、親ウナギを放流する方が、利口だろう。
これをもって、私の提案とする。
[ 補足 ]
その費用は? 誰が放流の費用を負担する?
それはまあ、「ウナギ税」でも課せばいいだろう。ウナギ1匹 30円ぐらいの課税。それで、ウナギ価格が300円ぐらい安くなるだろうから、消費者としては「損して得取れ」となる。
ただ、1匹ずつ徴収するのは面倒だから、「ウナギ事業者税」みたいな形の方が、手間はかからないだろうね。
[ 付記 ]
あとで調べて気づいたが、「ウナギの放流」は、本サイトの独創ではない。すでにあちこちで実現済みだ。たとえば、下記。
福岡市のうなぎ料理店が、毎年恒例のうなぎ供養祭を開き、激減している稚魚が増えてほしいとの願いを込めて、100匹のうなぎを放流しました。
──
福岡県遠賀町で23日、親ウナギの放流が行われました。ウナギの放流には、地元の遠賀川保育園からもおよそ100人が参加しました。 400匹が子どもたちの手によって遠賀川河口へつながる西川へ放流されました。
( → 2ちゃんねるのコピペ[新聞記事の転載] )
では、それで済むか? いや、済まない。なぜなら、既存の放流は実効性がないからだ。
(1) 規模が小規模すぎる。せいぜい数百匹の放流であり、これでは焼け石に水である。やってもやらなくても、ほとんど影響ない。どうして規模が小さいかというと、ウナギが高価格であるからだ。ざっと見て、国産ウナギ(生きたもの)は、現在、1匹 1000円ぐらい。こんなに高価なものを放流するには、金がかかりすぎる。金をドブに捨てるようなものだ。いや、まさしく金を川に捨てている。以前ならばともかく、現時点では大規模な放流は無理だ。いくらやっても、焼け石に水。
(2) たとえ放流しても、それが外洋に出る可能性は余り大きくない。河川の途中で棲息しているうちに、食われたり死んだりして、外洋に到達できない可能性が十分にある。効率が悪い。特に、「安いから」といって成魚のかわりに幼魚を放流すれば、十分に育つ前に大部分が食われるか死んでしまう可能性が高い。
そこで、本サイトのアイデアが出る。「浜名湖」だ。これなら上記の問題がなくなる。
(1') 費用の点では、政府が放流の資金を出すことで、莫大な数の放流が可能となる。浜名湖のウナギ全体の放流であるから、途方もない数になる。資金も政府が負担するから、放流する量も十分な量を確保できる。
(2') 浜名湖ならば、外がすぐに外洋なので、途中で食われたり死んだりする可能性はない。河川に放流するのに比べて、圧倒的に効率が高い。
というわけで、本項の案は、単なる「放流」ではなくて、工夫された「放流」である。そこに本項の独自性がある。
【 追記1 】
コメント欄で指摘されたが、オス・メスの問題が残っていた。養殖ウナギは9割ぐらいがオスなので、そのまま放流するだけでは効率が悪い。これを解決することも必要だろう。( ※ ただし放流したあとで、オスがメスに性転換する可能性も、なくはない。)
解決策はないか? ヒントはある。
雌雄同体のうなぎは稚魚から川登りするときはオス、産卵のため海へ下るときのうなぎで体調50a以上のものはすべてメスともいわれている。
( → 出典ブログ )
これに従えば、次のようになるかもしれない。
「外洋に出るのはメスばかり。オスはその場に残る」
浜名湖でそうであるならば、出ていくメスは、そのまま出て行かせればいい。出ていかないオスは、食べてしまえばいい。
これなら、効率がいい。
《 オマケ 》
なぜ養殖ウナギは雄ばかりになるのか?
「高密度だとオスになる」という仮説があったが、実験してみたところ、低密度でもオスばかりだったという。(上記リンクのブログによる。)
そこで私が推定すると、こうだ。
「ウナギは栄養状態が悪いと、種の保存のためにメスばかりになる。その逆で、栄養状態がいいと、オスばかりになる」
この仮説が正しければ、養殖ウナギの栄養状態を悪くすると、メスばかりになりそうだ。おいしいウナギはできないとしても、産卵という目的のためには、これでいいことになる。
食用ウナギと、産卵用ウナギで、別の養育をすることになるわけだ。
ただし……
「オスへの性転換が起こるのは幼魚の段階である」
というのが事実かもしれない。もしそうだとすれば、幼魚の段階でひもじくさせてメスにしておき、その段階を越えたあとで肥育させれば、肥育したメスがいっぱいできることになる。これなら、万事OK。
【 追記2 】
「養殖ウナギはオスばかり」
というのは、どうも誤りであるようだ。正しくは、
「出荷時に調べた養殖ウナギはオスばかり」
であるようだ。ここで、「出荷時」というのは、1匹が 200グラムに達した時点のこと。この時点では、オスの方が成長が早いので、オスばかりになる。しかし、メスもたくさんいて、それらは 200グラムに達していない。(だから出荷されるものとして取り上げられない。)
取り上げられなかったメスは、そのまま残っていると、どんどん生長していく。時間がたつにつれて、オスとメスの比率は変化して、オスの比率は、9割以上から、7割程度まで減っていく。(オスばかりではない。)
一方、メスはどんどん巨大化する。オスは 200グラムぐらいで頭打ちだが、メスは 500グラムを越えて、ものすごく大きくなる。(これは私の想像では、外洋を長く泳いで産卵場に向かうためだ。)
以上の話は、下記で。
→ 静岡県/水産技術研究所/浜名湖分場
結局、「養殖ウナギはオスばかり」というのは、誤りだ。成長の早いものはオスばかりだが、ゆっくり育って大型化するものはメスばかりになる。とすれば、次のように選別すればいい。
・ 200グラムになったもの(オス)は、現状通り、食べてしまう。
・ そこで取り残されたもの(メス)は、大型化してから、放流する。
これでOKだろう。(断定はできないが、たぶんそうだ。)
メスのウナギを増やす方法を考えてからでないと、放流は効果が少ないかもしれません。
オスウナギを放流したら、勝手にメスに性転換してくれるのだったらよいのですが。まだ、分っていないのだったと思います。
出典 静岡県 水産技術研究所 浜名湖分場
http://fish-exp.pref.shizuoka.jp/hamanako/6_pro/unagi_3-12.html
ウナギのメスは成長が遅いらしい。成長が遅く、食用に出荷できなかったウナギを処分せずにそのまま育て続けるとたくさんメスが残る訳です。
栄養不足が繁殖のシグナルになるというのは、普通に考えたらあり得ないと思います。
出産のタイミングを栄養価の高い食物が得られる時期に合わせる動物もいるくらいですし。
もちろんこれまで分かっていない以上、そういう常識からは外れた可能性も考慮する必要はあるかもしれませんが。
ワニとかトカゲとかカメとかの爬虫類だと、温度によって性が決まる(性転換する)ことが知られています。不思議でしょ?
爬虫類よりも低レベルの魚類だと、もっと不思議なことがあってもおかしくはない。
> 栄養不足が繁殖のシグナルになる
それは違いますよ。繁殖のシグナルじゃなくて、性転換のシグナル。
それもたぶん、稚魚の時期において、性転換のシグナルになるだけ。成魚になってからシグナルになるわけじゃないと思う。
タイムスタンプは 下記 ↓
ベラ、チヌ、他にもあるみたいです。ナメクジの様に両性具有ではなく、大きくなってから転換するみたいです。
不思議だけど不思議なだけで、理屈の付けようはあると思う。
そもそも温度と性転換に対して常識といえるだけの知見が存在しません(少なくとも私には)。
>ウナギは栄養状態が悪いと、種の保存のためにメスばかりになる。
ひるがえって、これは一般的な生物学の理屈(と私の考える常識)に合わないんじゃないかなと。
栄養状態が悪い場合は、普通生き物は個体数を減少させる方向に向かうものなんじゃないかと(それが結果的には種の保存につながる)。
減少させようとしなくても、どんどん死者が出る状況です。減少させようとする必要はない。ああえて減少させようとする種族は単に滅びるだけです。
一方、減少しそうな状況で増えようとする種族は、滅びずに存続します。
ちなみに、飢餓状態では出生率が上昇します。アフリカでは飢餓状態で餓死者や病死者が多数出ましたが、そういう状況では出生率が非常に高くなり、「貧乏人の子だくさん」状態になります。ただし親になるまで生き延びる子は多くない。
逆に、豊かになると、出生率はどんどん下がります。
あと、先の9・11テロの直後(翌年)には、出生率が急激に上昇しました。危険意識に苛まれると、出生率が上昇するようです。日本でも戦争中はそうでした。
人間でさえ、環境の変化に応じて、出生率は変化します。ホルモンのバランスが変わるようです。
一般的には、親の栄養状態が悪いと、子の数を減らし、子の栄養状態をよくして、子が生き残りやすくする、という傾向はあると思います。
> ちなみに、飢餓状態では出生率が上昇します。
個人の栄養状態と集団全体の栄養状態を一緒にしてはいけないと思います。
個人として栄養状態が悪すぎると、女性(メス)は排卵しなくなって、栄養状態の悪い個体の出生率は低くなります。
集団全体の栄養状態が悪かったり、あるいは集団が危険な状態になっていても、その個人(個体)が繁殖可能な状態であれば、子供を産むと思います。
飢餓状態のときに出生率が上昇するのではなくて、飢餓状態を経験したのちにある程度栄養状態が改善してから出生率が上昇するのだと思います。ただし、また飢餓状態に戻ることも多いので、その場合死亡率が高くなります。
飢餓にしろ9・11テロにしろ、戦争にしろ、ストレスがかかったのち、そのストレスがましになったり解消した後に、出生率が上昇したという事だと思います。ストレスがずっと高い状態のままで出生率が上昇することは考えにくいです。
30年以上前ですが、植物(オナモミ)の種子に負荷をかける実験をしたことがあるのですが、休眠状態で水を与えても発芽しなかった種子を高温にさらしてから適温に戻すとか、しばらく無酸素状態にしたのちに普通の空気に戻すとかすると、休眠が打破されて発芽率がかなり上昇しました。
危機を経験したのち、繁殖や発芽など生き急ぐ活動を、危機以前よりも活発にさせることは、生物には普通に見られることと思います。また危機が来るかもしれないので、危機が来る前の今のうちに何とかしておこうというわけです。
それは、死亡するほどの極端な飢餓状態でしょ? 餓死するような超・飢餓状態。
一方、私が言っている「飢餓状態」は、「肥満ではなくなる」という程度の話です。ダイエット程度。具体的には、「養鰻場の肥育ウナギに対して、栄養状態を少し悪化させる」という程度。……そうすると、オスばかりではなくなるのでは、という話。
天然ウナギと同程度の栄養状態にすれば、天然ウナギと同程度のオスメス比になるのでは、という話。
餓死するような飢餓状態は本項とは関係ありません。