ウナギが絶滅しそうだ。あちこちで話題になっているとおり。
→ 土用の丑の日に考える うなぎ絶滅危機が与える日本経済への影響
→ 危機:食卓からウナギが消える? 絶滅危惧種に指定されるかも
では、絶滅を避けるには、どうすればいいか? 次のような案がある。
・ 食べない
・ 輸入規制
・ シラス禁漁
・ 親ウナギ禁漁
・ 環境保護
これらの案があるが、どう評価するべきか? 以下では順に考察しよう。
(1) 食べない
ウナギが絶滅しそうならば、ウナギを食べなければいい……という発想がある。いかにも素人じみた発想だ。これは正しくない。なぜなら、あなたがウナギを食べるのをやめても、別の誰かがウナギを食べるからだ。たとえば、スーパーで売れ残りが出たら、値引きシールを貼られて、別の誰かが食べる。別の誰かが食べなければ、単に廃棄される。結局、すでに蒲焼きになったウナギを食べなくても、そのことはウナギの絶滅回避には役立たない。
では、売れ残りが続けば、スーパーは仕入れを削減するか? いや、しない。一つのスーパーが仕入れを削減しても、他のスーパーが仕入れを増やす。あちこちのスーパーが仕入れを減らせば、価格が下がるので、下がった価格のウナギを誰かが買う。
結局、需要をいくら減らしても、単に価格が下がるだけで、ウナギの消費量は変わらない。ウナギの消費量を減らすには、需要を減らすのではなくて、供給量(漁獲量)を減らす必要がある。……この件は、下記で詳しく説明した。
→ ウナギを食べると減るか?
というわけで、ウナギを食べるのをやめたところで、効果はない。ジョークで言えば、ウナギの蒲焼きを放流しても、蒲焼きは海を泳がないので、無効である。
(2) 輸入規制
「輸入規制をしろ」という主張もある。これはこれで有意義な方法だ。
ただ、たとえ輸入がゼロになっても、国内で規制しないのでは尻抜けだ。では、国内の分はどうするか? 禁漁するか?
(3) シラス禁漁
国内で禁漁するとしたら、シラスウナギの禁漁と親ウナギの禁漁を、区別するべきだ。ここが大事だ。
国内の主流は、シラスウナギの捕獲と養殖だ。この場合は、捕獲したシラスウナギがほぼ無駄なく消費されるので、かなり効率がいい。逆に言えば、国内消費量が同じだとすれば、シラスウナギを捕獲した方がいい。匹数が同じであれば、親ウナギを1匹食べるよりは、シラスウナギから養殖されたウナギを1匹食べてもらう方がいい。その方が絶滅回避に役立つ。
その意味で、規制するにしても、シラスの規制は最優先ではない。
(4) 親ウナギ禁漁
では、最優先は何か? もちろん、親ウナギ禁漁である。なぜか? 次の二つの理由による。
第1に、親ウナギは、シラスが成長したあとの生き残りであり、価値が高い。親ウナギが1匹生き残るためには、シラスウナギが何匹も犠牲になっている。親ウナギを1匹捕獲することは、シラスウナギを何匹も捕獲することに相当する。それほどにも貴重な親ウナギを捕獲するるべきではない。
第2に、親ウナギは、産卵する。産卵する親ウナギを捕獲してしまえば、あとで産卵ができなくなる。1匹の親ウナギを捕獲することは、その親ウナギが産卵するはずの莫大な数のシラスを消してしまうのと同じことだ。それゆえ、親ウナギの捕獲は、絶滅への影響が大きい。
……以上の二点ゆえ、親ウナギについては最優先で禁漁をするべきだと言える。この件は、下記項目でも述べた。
→ ウナギの減少と環境悪化
なお、次の関連情報もある。
専門家からは「ニホンウナギの資源は危機的な状況にある」として、親ウナギの禁漁とシラスウナギの漁獲量の大幅な削減などの資源保護策を求める意見も出ている。
( → 日経 2012/9/13 )
(5) 環境保護
では、親ウナギを禁漁にすれば、それで足りるか? いや、足りない。親ウナギを禁漁にしても、親ウナギが生き残れるとは限らないからだ。
この件は、次の形でも述べられる。
「河川の護岸工事が進むことで、ウナギの漁獲量が大幅に減る」
この件は、上記項目のコメント欄に記したように、次のリンク先で説明されている。
→ ダム一つできるごとに漁獲量が14.8%も減る (利根川系)
→ ダム撤去とウナギの増加
また、下記項目でも同趣旨を説明した。
→ ウナギ絶滅は政府の方針だ
新しい記事から一部抜粋すると、下記。
湖沼でも、護岸率が97〜98%と自然の岸辺がほとんどなくなった茨城県の北浦や霞ケ浦、千葉県の手賀沼では、ウナギがほとんど取れなくなった。 霞ケ浦では、70年代半ばは護岸率が10%程度で漁獲量は年200トン近くあったが、護岸率が上がると漁獲は急激に減少。護岸率が95%を超えた90年代にはウナギはほとんど取れなくなり、護岸とウナギ減少の関係が明確に示された。
( → ウナギ、コンクリート護岸増えると漁獲減 東大調査 )
以上はすでに述べた話だが、次の問題が残る。
「河川の護岸工事が進むことで、ウナギの漁獲量が大幅に減るのは、どうしてか?」
これについて調べたところ、次の結論を得た。
親ウナギが太平洋の深海で産卵したあとで、孵化したシラスウナギが日本に来る。日本に来たあとは、淡水域または(淡水域に近い)汽水域で、生涯の大部分を過ごす。その間、普通の魚のように水中を泳ぎ回っているのではなく、水底や穴などにひそんでいることが多い。特に、日中は。
細長い体を隠すことができる砂の中や岩の割れ目などを好み、日中はそこに潜んでじっとしている。夜行性で、夜になると餌を求めて活発に動き出し、甲殻類や水生昆虫、カエル、小魚などいろいろな小動物を捕食する。雨の日には生息域を抜け出て他の離れた水場へ移動することもあり、路上に出現して人々を驚かせることもある。
泳ぎはさほど上手くなく、遊泳速度は遅い。他の魚と異なり、ヘビのように体を横にくねらせて波打たせることで推進力を得る。
( → Wikipedia )
このようなウナギの特徴からして、ウナギのためには、日中に休むための場所(砂の中や岩の割れ目など)が必要だ、とわかる。特に、穴は大切だ。長い穴があると、ウナギは好んでそこにもぐりこむ。それゆえ、ウナギには「穴釣り」というのが成立する。
簡単に言えば、ウナギには「住み処」(すみか)が必要なのである。
では、ウナギの住み処は、あるか? 次のような場所ならば、あるだろう。
→ 画像 (出典)
こういうところなら、淡水域でもあるし、住み処もありそうなので、ウナギは棲息できる。
一方、現実にはどうか? コンクリの護岸が多くなっている。そうなると、ウナギの住み処はなくなる。もちろん、ウナギは棲息できなくなる。
具体的には、次のような場所だ。(画像多数)
→ 多摩川低水護岸工事(防護ライン計画)の悲惨
ここでは、多摩川の定数護岸工事の例が示されている。では、「低水護岸」とは何か? 次の図からわかる。

出典:多摩川・低水護岸工事とは(説明あり)
つまり、河川の護岸には、次の二種類がある。
・ 洪水時の高い水位への護岸(高水護岸)
・ 通常の 低い水位への護岸(低水護岸)
前者(高水護岸)は、「堤防の護岸」であり、当然ながら、必要だ。(コンクリ護岸がないと、堤防が決壊しやすくなる。)
後者(低水護岸)は、ふだんの細い水流への護岸であり、上記の例となっている。このような護岸は、洪水防止の意味はほとんどない。ただの環境破壊であるにすぎない。建設会社の売上げ増加のために血税を浪費しているだけだ。
のみならず、ここ(低水護岸)では、ウナギの住み処をつぶしてしまっているのである。本来ならば、土の岸が水と接していて、そこでは水草や昆虫や小魚が棲息して、それらを食べるウナギも棲息できていたはずだ。ところが、コンクリ護岸(低水護岸)があるせいで、そこでは生物の棲息が不可能となっている。当然、ウナギも棲息できない。……かくて、「コンクリ護岸のせいでウナギが激減する」という構図が成立する。
結局、「環境破壊によってウナギの漁獲量が激減する」ということの意味は、上記で説明されたことになる。要約すれば、こうだ。
・ コンクリ護岸がある (特に 低水護岸)
・ ウナギが棲息できなくなる
・ 親ウナギが激減する
・ 親ウナギが海に戻って産卵することもなくなる
・ 海における産卵数が激減する
・ シラスウナギの誕生数も激減する
こういう過程を取るわけだ。
そしてまた、こう理解すれば、対策もわかる。こうだ。
「河川でコンクリ護岸をなくす。特に、低水護岸をなくす。洪水防止のために必要なのは、高水護岸だけである。それは残していい。一方、低水護岸は、洪水防止の効果はないくせに、環境破壊の効果がある。こんなものはさっさと廃止・撤去するべきだ」
《 まとめ 》
ウナギの絶滅の回避策というと、「禁漁にせよ」「特にシラスウナギを禁漁にせよ」という声が多い。しかしそれはいささかピンぼけなのである。どうせ禁漁にするなら、シラスウナギでなく親ウナギを禁漁にするべきだ。また、禁漁よりもコンクリ護岸の撤去の方が重要だ。
シラスウナギの禁漁をすれば、ウナギ価格が高騰して、ウナギを食べにくくなる。「それでも我慢するべきだ」と人々は言う。しかし、「我慢すればウナギは増える」と思うのは早計だ。特に、「ウナギを食べるのをやめればウナギは増える」と思うのは完全な間違いだ。
ウナギを増やすには、人々がつらい思いをすればいいのではない。もっと科学的に考える必要がある。そうすれば、目に見える蒲焼きを我慢するかわりに、目に見えないところにいるウナギの生命を守ること(コンクリ護岸を撤去すること)こそが本質だ、とわかるはずだ。
真実は目に見えるところにあるとは限らない。
[ 付記 ]
上記では書き落とした点が一つある。それは、河川の途中に堰やダムがあるせいで、ウナギが遡上できなくなる、ということだ。このことのせいで、上流の淡水湖にたどりつけなくなる。
具体的な例としては、琵琶湖がある。琵琶湖は、ウナギの名産地であったが、天ヶ瀬ダムができたあとは、遡上ができなくなった。かくて琵琶湖のウナギは絶滅することになった。そこで、やむなく、他から購入したシラスウナギを放流して、琵琶湖で育てている。
→ 知恵袋
これで、めでたしめでたしか? いや、違う。ここで育ったウナギは、海に戻れない。したがって、海で産卵することもない。ここのウナギは、絶滅回避には何ら寄与していない。ただの一方通行があるだけだ。(循環はしない。)
この問題を回避するために、「ダムや堰を回避する魚道を設置する」という案もある。なるほど、この案が有効なこともある。鮭や鮎のように遡上能力が高い魚種がそうだ。しかしながら、ウナギは遊泳能力が高くないので、ダムや堰を回避する魚道があっても、遡上できないのが普通だ。ゆえに、「業どう設置」は、何ら対策となっていない。
では、どうするべきか? 私としては、次の提案をしたい。
「ダムや堰を破壊できればいいが、とうてい現実的ではない。そこで、上流の淡水湖に戻すかわりに、途中の下流域に人工の淡水湖を作ればいい」
具体的には、次の例だ。
・ 河川の三日月湖を利用して、淡水湖を作る。
・ 河川の遊水池や調整池を利用する。
(i) 三日月湖のある川の例は、下記にある。
→ Wikipedia
これらの三日月湖と、そばの川とを接続して、水流を常時流す。こうしてきれいな水のある淡水湖とすれば、そこでウナギが棲息できる。(現状では川とつながっていないので、川のウナギはそこに入れないが。)
なお、三日月湖のそばは、使い道のない土地が多いので、この土地を掘り下げて、三日月湖から半月湖や満月湖にしてもいい。(多額の費用がかかるので、費用と相談の上で。)
(ii)調節池の例は、下記にある。
→ Wikipedia
この例のうちのかなり多くは、コンクリ護岸があって、普段は水がほとんどないことも多い。その意味では、ウナギが棲息できる環境にはない。
しかし、これを大幅に改造して、コンクリ護岸を廃し、普段から流水を通しておけば、そこでウナギが棲息することも可能だろう。また、そこはビオトープのような意味もあるので、都会における環境改善の効果がある。特に、トンボや鳥が棲息できるようになると、好ましい。(ヒートアイランドの防止効果もある。)
調整池の事例は、下記にある。
→ Google 画像一覧
ビオトープのようになっているところもあるし、コンクリ護岸のところもある。これらをすべてビオトープのようにして、また、河川と直結すれば、ウナギも棲息できるようになるだろう。
( ※ 「河川と直結」と述べたが、通路は水門によって遮断可能にすることが必要だ。台風などで増水したら、水門を閉じる必要がある。そして、洪水があふれかけたときになったら、水門を開いて、調整池に水を流し込む。そのことで、堤防の決壊を防ぐ。)
なお、ビオトープのようにするなら、ついでに湿地も作るといい。そこでは貝類が棲息して、水の浄化をする。また、貝類があれば、それを食べる鳥も来る。いろいろと環境保護効果がある。
ウナギを救うことは、多くの生物にとっての環境改善効果がある。
【 関連サイト 】
次の記事もある。
宮崎県は、県内の3河川の一部で、ウナギなど川に生息する全ての動植物を約3年間禁漁にした。
また、それぞれの河川に幅約1メートルの石倉を3〜4基設置することで、ウナギや魚が生息しやすい環境をつくる。生活排水などの影響で、ウナギの餌となる小魚や小エビが減少しているからだ。
宮崎では、漁協などがほとんどの河川で毎年10月から翌年3月まで親ウナギの捕獲を禁止しているが、全生物を対象にするのは初めて。
( → 産経 2014年06月05日 )
ここでは、「親ウナギの禁漁」のほか、「環境改善のための人工物の設置」がなされている。かなり積極的な方針だ。好ましいことだし、高く評価できる。
低水護岸と高水護岸の間を一部削り、ビオトープ化するのはいいと思います。
しかし、マネー主義の世の中なので、いかに環境の方へ金を配分できるか?という問題があります。直近の金のため生活のために、あの諫早湾を破壊できるのが人間です。
例えば、私が票にがめつい政治家ならこう判断すると思います。
「治水事業のみなら500億で済むところを、環境に本気で配慮するなら調査だのなんだのでプラス500億かかる。治水をすれば洪水から地域を守れるし利用できる土地が増えるから地域の住民から票が集まる。一方、環境は効果がすぐにわからないし、治水機能も落ちるし有効活用できる土地も狭まる。誰が得するかもよくわからない。だから、いまは環境に配慮しないで、500億を地域福祉に回そう、そうすれば票がとれる。さすがに環境対策ゼロは心象悪いから、河川敷にちょろっと2,30メートルのビオトープつくって誤魔化しておけばええやろ・・」と。
環境問題は突き詰めると人間の社会性の問題であり、それゆえ環境破壊へ向かわざるとえない気がするのです。科学や技術は、いかにその速度を遅めるか、ということになるのでしょうか?
何の心配もなくウナギを食べれる日がくるといいです。
すべての低水護岸をなくさなくても、一部なくすとか、コンクリ護岸を石積み護岸に換えるとかでも効果がありそうに思います。
また、低水護岸の役割には、高水護岸が普段は水に接しないようにして、高水護岸が長持ちするようにすることもあるらしいので、防災上コンクリ護岸が必要なところは残した方がよいのではないかと思います。
現実には、浸食よりも、堆積の方が多い。洪水時の浸食よりも、普段のときの堆積の方が多い。放置すると、川底がどんどん高くなっていきます。
そこで、ときどき浚渫(= 川底掘り下げ)する必要があります。負担は、そのくらいですね。
→ http://bmc.dreamblog.jp/blog/2515.html
以下、引用。
──
「サイエンスZERO」(NHKEテレ東京)でウナギをテーマに取り上げていましたのでご紹介します。
ウナギの価格高騰の裏には、以下のような背景があります。
ウナギの生まれ故郷は日本からはるか2500km離れたグアム島沖で、生まれた稚魚は海流に乗ってはるばる日本にやってきます。
ところが最近、ウナギの産卵場所がわずかに南にずれていたことが分かってきました。
その理由は雨です。
雨が降ると、海水の塩分濃度が下がり、淵の部分に塩分フロントと呼ばれる塩分濃度の境目ができます。
親ウナギは塩分フロント独特の匂いに引き寄せられて集まり、産卵すると考えられています。
ところが、雨の降る場所は年によって大きく変化することがあるのです。
その理由は、まだはっきりしていませんが、地球温暖化やエルニーニョ現象などの地球規模の環境変化と考えられています。
こうした理由により水温の高い部分が東へ移ること、この時雨の降る場所も一緒に東へとずれます。
すると、塩分フロントまでつられて動き、産卵場所が移動してしまうのです。
このことは、地球環境からみれば非常にわずかなのですが、ウナギの生き残り戦略上重大な影響を及ぼすのです。
こうして、稚魚は日本に向かう黒潮にうまく乗り換えられず、ミンダナオ海流に取り込まれてしまい、「死滅回遊」と呼ばれる流れに乗って多くが死んでしまうのです。
なので、日本にたどり着くのはわずかな数のウナギなのです。