(1) NHK の番組
事前に大きく宣伝されていたわりには、たいした情報はなかった。誇大表示。この誇大な前宣伝そのものが「不正」と言ってもいいくらいの、ほとんど羊頭狗肉。
だいたいは、既存の情報を改めて再掲しただけで、新規の情報はほとんどない。(一部にはあるが、たいした情報ではない。)
全体として言えるのは、「 STAP 細胞とされたものは ES 細胞にすぎなかった」ということ。実験のどこかで、検体が ES細胞にすり替わった、と推定できる。ここまではいい。
とすれば、その後は、次の二つの可能性だ。
・ コンタミがあった。
・ 意図的な捏造があった。
では、そのどちらが正しいか? ここが一番肝心の点なのだが、番組はこの点について一切触れない。
話は一挙に、「笹井さんは論文執筆の天才だ」というふうに飛ぶ。ま、それはそうでしょ。しかし、「論部執筆の天才だ」ということは、「嘘つきだ」ということを意味しない。
また、「笹井さんがチェック不足だった」という指摘は妥当だが、それは単に「不十分」ということを意味するだけだ。(悪意の不正があったことを意味しない。むしろ「うっかり」や「注意不足」があったことを意味する。)
ところが、番組はこのあと一挙に結論に飛ぶ。
「これは不正だ」
と決めつけて、「論文の不正を防ぐにはどうすればいいか?」というふうに話が飛躍する。
何だこれは? 「不正だ」という理由を一切示さずに、「不正だ」と決めつけた上で、「不正を防ぐには」という話をする。
それはおかしいでしょう。そこまでの話は、「うっかり」「注意不足」が理由だったと推定されているのだから、「うっかり」「注意不足」をチェックするための制度の必要性に、話は移るべきだ。なのに、話は「不正の阻止」という方向に飛ぶ。
もう、これは論理の通らない、支離滅裂である。「被告は犯人だ」という証拠も示さないまま「有罪だ」と断罪するような、非論理的な結論。STAP細胞事件もびっくりのような、不正な捏造番組だと言える。ありもしない「不正」を「あった」と捏造する番組。
呆れてものが言えない、とはこのことだ。
──
仕方がないので、私が簡単に整理しておこう。
この番組の内容からわかることは、「うっかり」や「ずさんさ」や「チェック不足」や「能力不足」だ。そのせいで、馬鹿げた実験ミスがまかり通った。本来ならば通るはずのないデタラメな論文が、笹井さんの見事な論文能力のせいで、立派な論文に見えてしまった。つまり、「ゴミが黄金に見えた」。そして、それに Nature も引っかかってしまった。
要するに、ここにあったのは、ただのミスだったのである。ただし、小さなミスではなく、巨大なミスだった。そのせいで大騒動となってしまった。
そこが本質だ。
とすれば、対策もわかる。それは、「ミスを防ぐこと」だ。一方、「不正を防ぐこと」は、何ら対策となっていない。今回の事件は、不正(捏造)をしようとして生じたものではないからだ。
比喩的に言おう。
日本では原発事故が起こった。このような原発事故を防ぐには、どうすればいいか? もちろん、さまざまなミスをなくせばいい。「安全だ」と思い込んで対策をサボったりしたことを改めるとか、それまでのチェック不足を反省するとか、さまざまなミスを一つ一つつぶしていくことが必要だ。そうしてこそ、原発事故の再来を防げる。
一方、これを「不正だ」とか「邪悪な意図的なものだ」と見なしたら、どうか? その場合には、「原発へのテロをなくすためにテロ対策をしろ」ということになる。たとえば、警備員を増やすとか、警備員を重武装させるとか、原発基地のまわりに戦闘機を飛ばすとか、原発の周囲にお城の堀のような水濠を作るとか。……こういうふうにしてテロ対策をすることになる。では、そういうテロ対策を十分にしておけば、先の原発を防げたか? もちろん、否である。テロ対策を原発事故の予防のためにやるのは勘違いだ。
STAP細胞事件を「不正だ」「故意の犯罪的行為だ」と見なすことは、そういう勘違いをすることになる。だから、いくら不正を阻止する努力をしても、何の対策にもならない。そのような対策は、故意の不正を阻止することはできても、注意不足ゆえのミスや失敗を阻止することはできないからだ。
NHK はこの点を根本的に勘違いしている。かくてこの番組自体が「捏造」ふうの番組になってしまった。ひどいね。
( ※ ま、小保方さんに暴力行為を働くような番組なんだから、それも当然かな。科学的に調べるより、パパラッチをやっているだけだ。)
(2) 科学雑誌「ニュートン」
科学雑誌「ニュートンの九月号(26日発売)が、STAP細胞を特集している。
Newton 2014年 09月号
さすがにしっかりした内容だ。1200円はちょっと高額だが、金を払って買う価値はあると言える。NHK のクソ番組とは雲泥の差だ。
詳しい話がいろいろと書いてあるが、特に重要なのは、次の点だ。
「遠藤高穂研究員などの調べによると、STAP 細胞とされたものは、論文とともに公開された遺伝子データからして、ES細胞であるらしい。そのことは、複数の検査で判明した。ES細胞が9割で、TS細胞が1割ぐらいの混合物だったらしい」
( ※ この表現は、ちょっと簡略化しすぎた表現なので、正確さに欠ける。詳しくは「ニュートン」を読んでほしい。)
このことから、次のことがわかる。
「小保方さんは、STAP細胞のデータとして、ES細胞(など)のデータを示した」
つまり、虚偽のデータを正直に示しているのである。仮に、捏造をしたのであれば、「STAP細胞のデータです」と言いながら ES細胞のデータを出すはずがない。STAP細胞であるはずの捏造されたデータを出すはずだ。
現実には、捏造したデータのかわりに、ES細胞のデータを出した。ということは、ここでは次の二つを示している。
・ STAP細胞というものは存在しないと自分自身で証明している。
・ 「STAP細胞というものは存在しないと自分自身で証明している」ということに気づいていない。(馬鹿丸出し)
ここからわかることは、こうだ。
「この実験は、捏造された実験ではなくて、あくまで実験ミスという形の実験である」
このことがはっきりと証明された、と言えるだろう。科学雑誌「ニュートン」には、そういう真実を示す証拠を、きちんと示しているわけだ。
( ※ 結論部は、名探偵の説明が必要なので、ニュートンにはなくて、本項にあるだけだが。)
[ 付記 ]
ダメダメだらけの NHK の番組だが、有益な情報もあった。
(1) 理研 CDB は、神戸のポートアイランドにあるが、ここは、理研 CDB を中心とするバイオ研究拠点となっているそうだ。これは、前に私が述べたことに重なる。
→ 日本版 NIH とバイオクラスター
この項目では、「日本版 NIH を中心として、バイオクラスター(バイオ研究の特別地域)をつくれ」と提案した。ただ、それと同様のものは、すでに神戸のポートアイランドにあるわけだ。(ものすごく大規模というわけではないようだが。)
(2) この神戸のポートアイランドにあるバイオクラスター(ふうのもの)は、理研 CDB が中心となっているが、そこを統率しているのが笹井さんらしい。というのは、マネジメントの能力がものすごく高くて、ただの研究者には収まらないスーパーマンであるからだ。彼は、研究者として一流であるだけでなく、論文執筆にもすごい才能があるし、組織のマネジメントにもすごい才能がある。傑出した人材であるようだ。まわりの人が、「彼こそは天才的」と言うのも、むべなるかな。
──
で、そういう事情があるのであれば、ここで「笹井さんは不正に関与した」と嘘情報を垂れ流して、日本のバイオ研究拠点を弱体化させることは、日本のバイオ研究にとって非常に困った結果をもたらすだろう。
換言すれば、今、「STAPは不正だ」と大騒ぎしている人々は、日本のバイオ研究へのテロ活動をしているようなものだ、とわかる。
NHK 自体もその輪に加わっているんですけどね。
【 追記 】
NHK の番組でも、一つ、興味深いことがあった。それは、竹市センター長がいまだに STAP細胞について肯定的であることだ。番組ではインタビューに答えて、
「 99%はダメでも、1%はある可能性があるのなら、その可能性を検証してみるべきだ」
と主張していた。これが再現実験の意図だという。
呆れた。いまだに STAP細胞の可能性を信じているとはね。可能性は1%ではなくて限りなく0%に近いはずだ。そして、そのことをわかっている相沢さんは、「0%であると確定するために再現実験をする」という趣旨で述べている。前出記事を再掲しよう。
「ないというには本人が参加して、どうしても再現できませんでしたねというまでやることが最善」。理研発生・再生科学総合研究センター(CDB、神戸市)の相沢慎一・実験総括責任者は2日の会見で、「論文を撤回するのに検証実験をする意味があるのか」との問いにこう答えた。
( → 朝日新聞 )
これは、前出項目 で掲載したことだ。ここで示しているように、「ない」と確定するために、小保方さんの参加が必要がある。(小保方さんがやってもできなければ「ない」と確定できる。「ないことを証明する」という悪魔の証明が、実質的に可能となる。)
これが再現実験の目的なのだが、竹市センター長はそれを逆の方向でとらえている。…… 呆れた話だが、NHK の番組は、その呆れた話を明白に示したという点では、功績がある。
そもそも、竹市センター長は、STAP細胞の研究の推進の当事者だ。この人が検証実験に関与するというのは、裁判で言えば、被告が裁判長になるようなものだ。ここに本質的な問題がある。
この本質的な問題を、NHK の番組が指摘すれば良かったのだが、そうはしなかった。画竜点睛を欠くというか、肝心の点を抜かした間抜け or ピンぼけというか。……
なお、理研 CDB は職員に対して箝口令を敷いて、「無駄口を利くと、秘密守秘義務違反で解雇するぞ」と言って、職員を脅迫しているそうだ。ふむ。いかにも後ろめたいことを隠そうとする体質だな。……この点の指摘は NHK も良かった。
( ※ この番組は、科学的な認識はひどかったが、組織腐敗の指摘は良かった。文系丸出しという感じかな。)
その件はすでに言及済みです。下記。
→ http://openblog.meblog.biz/article/22770670.html
「ミスではあり得ない」ではなくて、「ミスだとは考えにくい」と遠藤さんが言っているだけです。
そこでいう「ミス」とは、「単純なミス」のことです。
一方、私は「単純なミス」ではなくて、「大規模なミス」つまり「笹井さんの指示した方向への意図的なミス」を唱えています。
→ 上記
→ http://openblog.meblog.biz/article/22813112.html (重要)
→ http://openblog.meblog.biz/article/22831351.html
→ http://openblog.meblog.biz/article/22960084.html
TS+ESの混合は、「単純なミス」ではなくて、「意図的なミス」なのです。ここで、「意図的なミス」と「意図的な捏造」との区別ができない人が多いので、「意図的ならば捏造に決まっている」と思い込んでしまうのです。
詳しくは上記各項をお読みください。
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